4000万人の訪日客から利益を上げる仕組み アイデア広場 その1727

 大阪の万国博覧会効果もあり、日本を訪れた人数が過去最高になりました。日本政府観光局(JNTO) は、2025年の訪日客は4268万3600人だったと発表しました。その内訳は、韓国が945万9600人で最多になりました。続いて、中国が909万6300人、台湾が676万3400人と続います。特徴は、多くの国からの観光客があることです。観光庁によると、消費額が過去最大の9兆4559億円になっています。この数字に力を得たのか、政府は

 2030年までには、訪日客数6000万人、消費額15兆円という目標を掲げています。この目標達成には、課題もあるようです。訪日客が4000万人と過去最高にもかかわらず、観光業の客単価が上がらず、従業員の賃金は低迷しているのです。政府の目標を達成するには、引き上げた宿泊料の引き上げ、原資を増やし、その原資を賃上げや設備投資に使うこといなります。特に、観光業に従事する人たちの待遇改善が、喫緊の課題になるようです。その上で、人手不足の解消や設備投資による生産性向上、客単価の引き上げなどの対策が急がれることになります。

 観光庁が、厚生労働省の賃金構造基本統計調査などか分析した結果があります。この「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)は、日本の賃金実態を詳細に把握するための基幹統計になります。そこには、厳しい現実がありました。宿泊業の売上高営業利益率は、2024年度に6.6%になり、サービス業全体の8.1%を下回るものでした。新型コロナウイルス禍前の2017年度の7.2%を、回復していない状況が浮かび上がります。宿泊業の平均賃金の390万円は、全産業平均の527万円より2割以上低い現状です。企業規模別に見ていくと、従業員10~99人では337万円、100~999人では390万円になり、1000人以上では457万円と企業規模が大きくなるにつれて、賃金は高くなっています。訪日客が増えても観光業の業績は低迷しており、宿泊業の賃金水準はまだまだ低い状況にあります。さらに、2024年6月末の宿泊・飲食サービス業の欠員率は4.4%で、全産業平均の2.9%より高くなっています。訪日客が急増しているにも関わらず、人手不足は深刻化し、さらに賃金が上がらない不思議な現象が宿泊業において起きています。

 宿泊業において、人手不足と所得向上の2つの課題を上手に解決している人や企業もあります。近年は企業がマルチな才能を育成する土壌を用意するようになってきました。新潟県南魚沼市の古民家ホテルに勤める関さんは、朝食、民謡披露、郷土料理講師の3役をこなしています。ホテルで働く関アツ子さん(76)は、夜に民謡披露した翌朝、朝食会場の厨房で宿泊客に、ご飯をよそう姿を見せていました。彼女は、郷土料理のクッキング体験の講師も担っており「1人3役」でホテルを支えています。この系列のホテルには、もっとすごい方もいます。吉越春香さん(29)は、「1人6役」をこなしています。フロントと予約管理をし、館内のレストランとカフェでの接客をし、売店での物販と自ら考案した観光ルートのSNSでの発信と多忙を極めています。このマルチタスクの従業員のおかげで、売上高は20年間で8倍に増えました。この系列従業員は、ほぼすべての年齢層で県内の全産業平均を上回る給与をもらっています。「株式会社いせん」を継いだ取締役は、将来の人手不足も見越して従業員の多能工化に踏み切ったと言います。マルチタスクで、宿泊業だけでなく、地域の文化発信を担う人材の育成も、これからは求められるのかもしれません。

 とは言え、サービス業は、離職率が高く、人手不足に悩んでいます。就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(新規大学卒就職者は34.9%)となっています。でも、職種によっては、もっと高い離職率の職場もあります。「宿泊業や飲食サービス業」は、業種別でも最も人材の出入りが激しい職種になります。「宿泊業、飲食サービス業」は、入社3年以内に高卒の65.1%が辞めています。問題があれば、それを解決する人や企業があります。従業員をつなぎとめようと、賃上げの動きが強まっています。藤田観光は、2025年4月、ベースアップを含め平均6.3% (1万7036円)引き上げました。社員の組合員約1300人の賃金を上げた上に、グループ全体で年間休日数を1日増やしました。さらに、有給休暇を半日単位で取得できる優遇ぶりです。一方で、省人化を進めるホテルもあります。霞ケ関キャピタルは、「FAV」などのホテルブランドを展開しています。この「FAV(ファブ)ホテル」は、家族や友人とのグループステイに特化し、広々とした客室(キッチン・洗濯機完備など)と手頃な価格で「自宅のようにくつろげる」快適な滞在を提供するホテルになります。霞ケ関キャピタルは、ホテル基幹システムを独自で開発し、決済やチェックインなどをオンラインで完結させる仕組みにしています。オンラインで完結させる仕組みにし、人員コストを最小限に抑えています。また、施設によっては、地元の飲食店に入居してもらい、フロント機能を委託しているホテルもあるようです。

 宿泊業は、コロナ禍で客数の激減という打撃を受けました。そのために宿泊の需要が増加したにも関わらず、値上げに踏み切れず、賃上げが遅い業種になっていました。物価の高騰もあり、賃上げが進まなければ、サービスの低下に繋がります。もちろん、ホテルや旅行会社など労働組合では、賃上げを要請し、それなりの成果を勝ち取っています。2025年の賃上げの実績は、過去最高の5.32%でした。でも、「他産業との差は縮まってしいない」のです。労働組合は、2026年の春季労使交渉でベアと定期昇給分を合わせた賃上げ率で6%を求めることになるようです。訪日客は増えているのですが、客単価や宿泊日数には、有利な状況が見えないようです。1人あたりの客単価は、2025年10~12月は23.4万円でした。これは、2024年同期の23.6万円をわずかに下回った数字になります。また、訪日客の平均宿泊日数は2025年10~12月に8.3日で、2024年同期の8.7日より減っているのです。政府は、2030年に1人あたりの単価を25万円にする目標も掲げています。この目標を達成するには、地方部も含めて受け皿を整備し、国内の周遊を促す必要があるようです。

 余談ですが、外国人観光客の急増には、メリットとデメリットがあるようです。外国人観光客の増加に伴う問題点も、徐々に鮮明になってきています。彼らは自然を愛し、自然と接することを好みます。富士山が好きなのです。でも、富士山での遭難事故も多くなっています。北海道で人気のある観光地は、ニセコになります。スノウパウダーでのスキーやスノウボードによる滑降は、遊び心を満足させています。でも、スキーによる遭難は、外国人の事故の4割を超えているのです。年々外国人観光客の事故が、増加しています。ご存じのように雪山や登山における事故には、多くの捜索費用がかかります。外国人観光客の事故がこのペースで増加すれば、多くの税金が投入されることになります。地方によっては、外国人観光客の受け入れをセーブしたほうが、良い状況も生まれるようです。許容範囲以上の外国人観光客を受け入れることは、「おもてなしの低下」に繋がり、外国人観光客の満足度を低下させます。重要なことは、地域が外国人観光客の受け入れにお金をかけることではなく、利益を上げることなのです。日本人の旅行や観光に使うお金は、25兆円です一方、訪日外国人は、4000万人で9兆円強になります。どちらも、ウインウインになる仕組みを構築したいものです。

 最後は、観光客に満足感を与え、地元が利益を得る工夫になります。前者には、イタリアの観光都市ベネチアがあります。このベネチアは、クルマが一台も走っていない都市として有名です。水路の街であることを、街づくりの基本に置いているのです。タクシーでなく、舟での移動が基本になります。昔ながらの地域文化に接することは、旅行好きな人にとって素敵な仕掛けになっています。ゴンドラを操ることで、観光客を楽しませ、収入を得る住民がいます。利便性でもなく、効率性でもなく、歴史や文化、自然などの価値を重視しているわけです。この町は、観光客のオーバーシュートで悩まされてきました。でも、今回のコロナショックで、観光客が激減しました。すると、運河の水が澄んで、魚の泳ぐ姿が見られるようになったそうです。今回の騒動にも関わらず、自然が戻ったことを喜ぶ市民もいるようです。もう一つの利益を得るヒントは、ディズニーランドになります。ディズニーは1人100ドルの入園料で100人を入れて1万ドルの収益を得ることができます。さらに進めると、1人120ドルで90人の入場者を受け入れれば、1万800ドルを稼ぐことができます。ディズニーは、収入が上位40%の米国人世帯を対象に価格設定やマーケティングを行っていたと言われていました。でも実際には、上位20%に重点を置いているともいわれています。上位20%の人々が毎年旅行に費やす金額は、下位80%の合計とほぼ同じことになります。節約する下位の80%の人達よりも、上位20%の人達を対象にしたほうが、ビジネスとしては有利という計算になります。これは、来場者数よりも収益を優先する戦略になります。オーバーツーリズムの状況が生まれた場合、このような手法も現実的な対応になるのかもしれません。

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