「あちらを立てれば、こちらが立たず」の解決方法  アイデア広場 その1615

 現代のビジネスは、問題解決能力が重視されます。課題達成のコツは、最終的にどういう問題を解ければ良いか知ることで、努力の方向性が決まります。問題が解決に成功した事例では、次のような要素があったようです。1つに、目的が明確に決まっていたこと。2つに、しっかり準備された検討課題が事前に共有されていたこと。3つ目は、必要な人たちが参加していることなどでした。ここで、トレードオフ構造を見つけたら、ラッキーとなります。トレードオフ構造というのは「あちらを立てればこちらが立たず」という関係です。たとえば、苦しみや悲しみは、避けたいことです。一方、その苦しみが、子孫を増やすことにプラスに働くとすれば、人類に繁栄をもたらします。個人としては嫌ですが、全体としては幸福になる構造を捉えることができれば、大きな成果になります。幸福になる構造が把握できれば、次は、個人の苦しみや悲しみを軽減する方法を開発すれば良いのです。それが、社会の繁栄をもたらすことになるわけです。問題解決には、一定の時間がかかります。努力の方向性が決まっても、試行錯誤の時間は続くわけです。問題解決には、「新しさ」と「質」という要素がでてきます。今回は、「あちらを立てれば、こちらが立たず」という関係について考えてみました。

 トランプ大統領は、5月下旬に、合法的な滞在資格のない人をすべて摘発する強化策を打ち出しました。この看板政策を実施する過程で、不法移民の国外強制送還と農業における人手不足の問題が起きているのです。トランプ政権は、年間100万人の摘発と外国への強制送還を目標にしていました。その目標を達成すべく、4カ月で年間強制送還をおよそ20万人送還したのです。カリフォルニア州のロサンゼルスの農地では、果物や野菜の収穫が最盛期を迎えています。この地方の農地では、これまで不法移民の人達が収穫を担ってきました。こうした人々が米当局に捕まるのを恐れ、農場や職場に行くのを控えるようになったのです。取り締まりを強化してきた影響を受け、農業で人手不足に陥り、収穫できない状況が起きたのです。ロサンゼルスの農地では、作物が収穫されずに畑で腐り始めている状況が生まれています。米ゴールドマンサックスは、国の農作物生産就業者の2割弱が不法移民と推計しています。その労働力が、使えない現象が起きています。農業が盛んな州は、与党の共和党と野党の民主党が競り合っています。米国は、2026年11月に米連邦議会上下両院選を控えています。不法移民の摘発が続くと食料の生産や加工、食料品店への供給がますます困難になります。農場主や業界の悲鳴を受けて、連邦議会議員や産業界の有力者はトランプ氏の説得に動いてきました。この要請を受けて、トランプ氏は農業が盛んな中西部アイオワ州で演説しました。この演説の時、不法移民でも米国人農家が働き手として身元を保証する場合には、取り締まる対象から外すとしました。働き手と身元を保証する場合には、不法滞在として取り締まる対象から外すと表明したのです。強硬路線を軌道修正しようとしているのは、経済への悪影響の懸念が高まっているためです。労働集約型の産業で多くの不法移民が現場を支えている現実があります。ここにも、あちらを立てれば、こちらが立たず」の問題があるようです。

 一方、強硬な不法移民対策は、2024年大統領選でトランプ氏が勝利した一因となりました。この対策を強烈に指示した集団が、MAGA ( Make America Great Again=米国を再び偉大に)派と呼ばれる人たちでした。彼らは、法的な許可なく国内に大量に流入した外国人によって米国人の職が奪われ、賃金水準が低下しているととらえる集団です。不法移民の国外強制送還路線を修正しようとするトランプ氏に、MAGA派と呼ばれる支持層は反発しています。農家などの雇用主の陳情を優先するか、岩盤支持層の声を重視するか。農家の意向を取れば、MAGA派の票を失い、MAGA派を取れば、農民票を失うというトレードオフの葛藤に陥っています。今回の演説は、産業界の要望を聞き入れたことになります。一方で、移民排斥を訴える支持層は反発し、板挟みになっているのです。与党の共和党と野党の民主党が競る州では、選挙戦全体を左右することになります。

 日本でも、法の厳守と経済合理性のトレードオフの問題が起きています。警視庁交通捜査課は、運送会社「軽急便」(名古屋市)の営業所長らを逮捕しました。警視庁は、この営業所を管轄する東京支店長や依頼した荷主ら計10人と法人としての「軽急便」社を書類送検したのです。貨物運送事業者による無許可の「貨客混載」を巡る摘発は、全国で初めてになります。この違法の混載は5年以上続けられ、1億円超の収入を得たとみられています。「軽急便」の東京営業所は、テレビの修理や設置やオフイス空調の保守点検を担う企業から依頼を受けていました。この輸送の時に、荷物だけでなく設置や修理をする作業員も同じ車両で運んでいたことが違法とされました。荷主側は、荷物と一緒に作業員も運送させることで移動費を削減できます。経済的には、非常に合理的な輸送形態になります。でも、法的に問題があります。自動車運送業を営む際、運ぶ対象が荷物であれば貨物自動車運送事業法に基づく許可を必要とします。そして、人の場合は道路運送法に基づく許可をそれぞれ得る必要があるのです。もちろん、2つの許可を取得している場合、荷物と人を同時に運ぶ貨客混載が認められます。地域や業種によっては、荷物人を同時に運ぶ貨客混載が認められるようになりました。この法の主旨は、人命の安全という面が強調されているようです。

 時代の流れに伴いドライバーの方に、神風が吹いています。国土交通省は、宅配用の荷物と旅客を同時に運べるようにするための規制を緩和しています。国は、バスやタクシーを旅客に限定し、貨物はトラックの運送に特化してきました。でも、旅客運送や物流の担い手不足の深刻さへの対応を迫られていました。そこで、バスやタクシー、そしてトラックが旅客と貨物の運送を兼ねることができる試案を発表しました。導入された当初、一部の過疎地にのみ許容されていた貨客混載ですが、2023年4月には全国で解禁されています。 ただし、貨客混載が可能となるのは、「貨物自動車運送事業」「旅客自動車運送事業」両方の許可を取得している事業者のみになります。さらに国は、ライドシェアの導入も検討し始めています。これらの解禁により、多くの代替輸送のアイデアや工夫の中に、給料アップの仕掛けが見え隠れしています。貨客混載やライドシェアに関しては、アメリカや中国、そして東南アジアの先進国の事例が参考になります。アメリカや中国では、乗用車の保有する個人が空いた時間に配車サービスを提供するケースが多かった。ここにきて各国のライドシェア成長戦略は、自家用車やタクシーの代替だけではなくなってきました。プラットフォームを使いながら、料理宅配や貨物運送トラックの配車サービスなど新しい市場を作り出しています。この新しい市場に適応できる質の高い運転手を、いかに確保するのかという局面になってきています。

 余談ですが、 問題は、公共交通機関の縮小で高齢者の移動手段の確保が難しくなっていることがあります。市町村が交通会社に補助金を交付して交通網を維持している現状があります。でも、バス会社は、運転手の高齢化や運転手不足の問題を抱えています。いつまでも、不採算路線を維持することはできないでしょう。このような問題を解決しようとする会社もあらわれてきました。三井物産は、必要なときに、相乗りタクシーサービスを始めるようです。乗車や降車場所、人数や時間を指定すれば、タクシーが迎えに来る仕組みです。スマホのアプリなどを通じて受け付けるほか、電話の対応も可能です。乗客の依頼に応じで、タクシーが指定場所に行き、複数の乗客を乗せて最適なルートで送迎相乗りをするタクシーの仕組みを開発したわけです。利用先が病院や市役所、食品スーパーに限られているようですが、収益化は可能だと計算をしています。乗車価格は、タクシーの半額以下に抑えて利便性を高めるとしています。日本では、自家用車を使って有償で客を運ぶライドシェアは認められていません。でも、病院もなく、タクシーもない過疎地域で、どのように生活を確保していけば良いのでしょうか。ライドシェアが認められれば、過疎地から病院やスーパーに行く車に同乗させて貰えば良いのです。ライドシェアを過疎地域において、認める法規制を制定することが求められています。警視庁交通捜査課の逮捕劇は、時代の流れに棹差す行為の様にも見えます。

 最後になりますが、アメリカでは富裕層と経済弱者の二極分化が続く状況が起きています。分配の不条理により、所得格差がこれまで以上に拡大しているわけです。ジニ係数は、社会における所得の不平等さを測る指標になります。ジニ係数が、0.5~0.6になると慢性的暴動が起こるとされます。日本は0.38ぐらいで、何とか安定を保っているようです。このままアメリカの二極化が進んでいくならば、アメリカは不安定な社会になってしまいます。富裕層の富を、経済弱者に分配する仕組みが求められるわけです。人は、人のためになる行動を取ると幸福感が高まると言われます。富を持つ人が弱者(MAGA)に富を与えることによって、幸福感を高める仕掛けを作れれば、不法移民排斥の勢いが弱まるかもしれません。もっとも、弱者も富を分けてもらうだけでは、満足しないでしょう。弱者も社会的に自立し、社会に貢献できる仕組みを作りたいものです。勝者と敗者の間の所得格差の拡大を、弱者の自立という経済行動を通して解決していくわけです。

 日本の場合、自動運転の普及が解決策になります。自動運転には、『加速』、『ハンドル』、『ブレーキ』の自動化が必要です。この3つを全て自動化したレベルが、レベル3です。2014年当時は、この3つを全て自動化できた企業がありませんでした。レベル4は、運転手が運転操作に関与せずに、全て自動で運転する『完全自動運転』の状態を指します。自動運転の技術がレベル4になれば、人手のかからない走行が実現します。自動運転の向上した電気自動車(トラック)は、車の形は自由です。運転席を、特に設ける必要がありません。トラック自体が、工場にも事務所にもなる設計が可能になります。トラックの中で、小ロットに小分けする作業などを行うことも可能です。IoTを使えば、走行中に消費者と供給者の最適配達の手順と小ロットの小分け作業が済むことになります。「貨物自動車運送事業」と「旅客自動車運送事業」で求める安全性は、十分に確保されます。警視庁が求める安全性は確保され、ハッピーな社会が生まれるかもしれません。

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