ここ十数年の日本では、うつ病患者の数が増えていると言われています。厚生労働省によれば、日本の気分障害患者数は1996年が43.3万人です。この後の数年は、43万人で推移しています。でも、2002年は71.1万人、 2005年92.4万人、2008年 104,1万人、2014年は111.6万人と増加をつけています。そして、2022年のうつ病などの気分障害の患者数は、約150万人と推定されるようになりました。厚生労働省の患者調査によると精神疾患を有する総患者数は、258 万人(2002 年)から 419 万人(2017 年)に急増している実態が浮かび上がりました。 実際のうつ患者数は、医療機関を対象にしたこの調査で得た数字よりも多くなっていると見られています。また、うつ病は、一般的に女性、若年者に多いとされます。でも、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病に対する社会経済的影響が大きいことが日本の特徴になるようです。1990年代は40万人で推移していたうつ病などの患者が、2002年頃から70万人に急増しています。あまり関係はないとは思いますが、この時の政権は、国民に人気のあった小泉政権でした。小泉政権は、2001年4月に就任し、2006年9月に、惜しまれて退陣しました。この期間にうつ病などの患者が、急増しているのです。このとも、事実として記憶していくことも「あり」かもしれません。
蛇足ですが、この原稿を書いている時、小泉元総理のお子さんが、総裁選で発言した雇用解雇について、企業よりの発言をしました。これに対して、ある県の知事が親子2代で、働く人を苦しめるのかという発言をしました。小泉政権の時から、非正規雇用が急増し、日本の個人所得が増えない20年間が続いた事実もあります。知事の発言は、このことを踏まえた苦言だったのかもしれません。
「うつ病」とは 、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状を指します。具体的には、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じていることになります。このような具体的な症状が現れた場合、うつ病の可能性があるということになります。 うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態ということです。脳への脅威が高まると、急性ストレス反応が起きます。これが長く続くと、心身にさまざまな負の影響が表れるのです。眠れない、食欲がない、胸の痛み、頭痛、不眠、免疫不全など影響が表れるようになります。ストレスや緊張が続くと、交感神経だけが働き続け、自律神経のバランスが乱れるのです。自律神経の乱れは、精神面だけではなく、内臓や骨格、筋肉などにも影響します。脳が脅威を感じると、視床下部から分泌されるホルモンが副腎を刺激するようになります。ホルモンが副腎を刺激すると、コルチゾールが放出されます。このホルモンは緊急時には良い方向に働くのですが、長く働いていると人体に悪影響を及ぼします。うつ病の人たちは、あの時ああしておけばよかったというマイナス思考を反復するケースが多いようです。マイナス思考の反復は、脳を疲労させる要因になります。それは、うつ病の症状をさらに進行させることに繋がっていくわけです。今回は、増加していると言われているうつ病に焦点を当てて、その対策について考えてみました。
深刻な悩みや苦しみに耐えられない場合、人間は押しつぶされてしまいます。現代社会は、うつ病などの精神疾患が増えています。この増加は、押しつぶされる人が増えていることを意味しているかもしれません。ある人に大きな苦しみが生じたとき、コルチゾールが分泌されます。コルチゾールは、ストレスホルモンともいわれ、苦しみに対抗し、体内の環境を非常事態に備える働きをします。軽い苦しみならば、すぐに正常に戻ります。でも、苦しみが続くと、コルチゾールが分泌され続けることになります。このストレスによる非常事態が続くと、脳や体内の組織が弱体化していきます。この事態になると人間の体は、次の適応行動を取ります。副腎皮質からデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、脳の視床下部からニューロペプチドY (NPY)が分泌され始めるのです。DHEAやNPYはコルチゾールの作用を抑制し、苦しみの感覚を低下させる効果をもっています。脳には、苦しみや悩みに打ちひしがれた心理状態を切れ目なしに続くことを防ぐ仕組みも備わっているのです。でも、この最後の守りの武器を使った場合、心身の破壊というリスクを覚悟しなければならないとも言われています。
一般に、うつ病や操うつ病は、気分が落ち込んだり喜びの感情がなくなる症状が出てきます。さらに、無気力になったり、疲れやすくなったりします。現在、病院の医師が診断を行なうときのうつ病の基準には世界保健機関によるものがあります。・集中力や注意力が低下すること、・自信がなくなり自己評価か低下すること、・将来に対して悲観的な見方もするようになること、・罪責感を持ったり、何事にも価値が認められなくなったりすること、・自傷や自殺の観念が生じた実際に行なったりすることがあること、・睡眠障害や食欲不振がでることなど。これらの症状が約2週間にわたって続くときに、うつ病と診断されます。
それでは、これらの症状がでないようにするにどのようにすれば良いのでしょうか。セロトニンの働きが弱まると、不安や抑うつ症状を引き起こすと言われます。そうであれば、適度なセロトニンの分泌を行えば良いことになります。そのためには、適度な運動と適度な睡眠、そして朝起きた時に太陽光を浴びれば、セロトニンの分泌は確保できます。また、不安を払しょくするには、ノルアドレナリンが有効です。ノルアドレナリンの放出は、意欲を高揚させます。さらに、集中力を高め、積極的な行動を起こすことにも役立ちます。反対に、ノルアドレナリンが不足すやる気や集中力が低下してしまいます。人間は、進化の中で活動を活発にする仕組みを向上させてきました。その一つに、甲状腺があります。甲状腺が分泌しているホルモンは、新陳代謝を盛んにします。このホルモンは、脳に行くと脳が活発に働くようになるのです。甲状腺機能が低下している人は、気力がなくなった体がだるくなったりします。この機能が低下している人は、動けなくなったります。動けなくなればなるほど、甲状腺ホルモンもますます分泌されなくなります。甲状腺の機能を向上させるために効果的なものは、有酸素運動です。ウオーキングやジョギングは、効果的な運動になります。
政府は、2023年版の「過労死等防止対策白書」を閣議決定しました。その中で、白書は労働時間が長いほど疲労が抜けにくく、うつ病の傾向が強くなると述べています。労働時間の増加が睡眠不足と疲労の長期化につながり、うつ傾向を助長すると指摘したわけです。この白書は、理想の睡眠時間と実際の時間との差について調査しています。この理想の睡眠時間に関しては、「7~8時間未満」とする人が最も多かったのです。でも、現実は、理想の睡眠時間とは違い、実際の時間は「5~6時間未満」が最多でした。一般に、労働者は週40時間労働です。その中で、週60時間以上働いている人の4割以上が、理想の睡眠時間から2時間以上も不足していたのです。睡眠時間が理想より2時間不足している人は、その3割がうつ病や不安障害の疑いがあるという残念な結果でした。さらに、疲労を翌朝に持ち越すと回答した人のうち、4割にうつ病や不安障害の疑いがあったのです。仕事関係などのストレスによる脳の疲労は、脳の奥のほうの古い皮質にたまっています。この古い脳の疲労は、じっくり眠らないととれないのです。このじっくり眠る状態を作るヒントは、運動と休息にあります。人は運動をしている間は、交感神経が優位になります。激しい運動を終えて落ち着いた段階では、副交感神経が優位になるのです。副交感神経が優位の状態を一定時間取ることができれば、古い脳の疲労を取ることが可能になります。副交感神経を優位にするためには、安らぎをもたらす香りや音楽も効果的と言われています。強いストレスがあれば注意力も低下し、脳の働きも悪くなり記憶力が落ちるものです。集中力を使う仕事の中では、特に人間関係のストレスと軽減しておくことが求められます。
最後になりますが、世界中で、多くに人が苦しみ、悩みを持ちながら生活をしています。ある文化人類学者は、人間は苦しみ、悩みながらも、前向きに生き抜く動物であるといいます。「苦しみ」の度合いが進むと、それを乗り越える前向きなシステムを持っているというのです。私たちが20万年前に、ホモサピエンスとなる以前から、この仕組みが作られてきたという説を述べています。苦しみや悩みに耐えて、それをプラスにする遺伝子を増やしてきたというわけです。確かに、成功した人たちを見ていると、困難を克服して、新しい局面を作り出しているケースがあることがわかります。苦しみを克服した遺伝子が、生存や繁殖に有利な結果をもたらしているということです。そして、それを次世代に伝えている進化の過程があるというわけです。欲張りな人類は、進化の過程を学習によって克服することを、時には行ってきました。たとえば、うつ症状の「気分が落ち込んでいる」、「何をしても楽しめない」、「眠れない」、「食欲がない」、「コミュニケーション能力がない」、「仕事に必要な基礎知識がない」などの悩みに対処するスキルを身に付ければ、うつ症状を克服できます。
労働時間が8時間、生理的時間が8時間、余暇が8時問という3区分があります。1年間で働く労働時間は、2080時間になります。この仕事のために、「眠れない」、「食欲がない」、「コミュニケーション能力がない」などの症状が出たのならば、仕事に従事しながら、余暇時間を活用しながらこの3つを克服すれば良いことになります。仕事や余暇の中に数千の小さなゴールを設定して、達成していけば良いわけです。以前にはできなかった仕事ができるようになり、自分が成長したことを認識できることが、克服の一つのステップになります。達成可能な小さなゴールに注目して、このゴールを少しずつ乗り越えることも楽しいものです。乗り越えれば、達成感や楽しさ、そして幸せの感情が得られるからです。この楽しくなるスキルをいくつか備えて、仕事を行い、そしてうつ的症状を克服することも選択肢になります。