国民が、物価高で困っています。そこで、高市早苗政権は緊急の対策を取りました。その一つに、「重点支援地方交付金」の拡充があります。この経済対策で、自治体が自由に使い道を決められる地方交付金を2兆円確保したのです。政府は、推奨メニューとしてプレミアム商品券やおこめ券、PLガス使用世帯への給付などを提示しています。「おこめ券」配布の執行を呼びかけるものの、対応は容易でないとの声が各自治体から上がっています。首相は、可能な限り年内での予算化と速やかな執行に向けた準備をお願いしたいと表明しました。それにもかかわらず、緊急の物価高対策の目的が、自治体経由では時間がかかりすぎ、達成できないとの懸念が生じています。各自治体には、それ相応の事情があります。住民への商品券配布には、各自治体で補正予算を組み、地方議会で手続きを経る必要があります。決定後も、商品券などの発行や対象店舗への説明、市民への周知などの事務作業もあります。その地方議会は、定例会を年4回開く方式がー般的です。12月定例会に間に合わなければ、次の定例会は2~3月となります。どんなに急いでも、緊急の物価対策が3月以降になってしまうという事情が出てきているのです。
特に問題の深層は、「おこめ券」から波及しているようです。おこめ券の配布では、緊急の対策にならないという点がまず1つです。2つ目は、「おこめ券」の配布がコメの高止まりを助長するという点です。3つ目が、この配布にかかる地方自治体の事務経費や職員の負担増という点に集約されるようです。政府が掲げた重点支援地方交付金による「おこめ券」については、配布を見送る自治体が相次いでいます。おこめ券は、現状では1枚500円で販売され440円分のコメと引き換えできます。交付金の500円分が、そのまま国民に渡されるわけではないのです。差額の60円分は、印刷経費や発行元の利益となります。国民には、全額の配布とはなりません。おこめ券は、コメ卸で構成する業界団体や全国農業協同組合連合会(JA全農)などが発行します。差額は、この組織の利益になるわけです。限りなく早く、経費が少なく、市町村全体の負担も少なく、交付金を市民に配りたいと考える自治体の中には、上水道の基本料金を2カ月減免するケースもあります。この場合の経費率は、2.5%になり、おこめ券よりはるかに事務経費や職員負担が少なくすむということです。
この騒動で、思い出されるのがコロナ禍における国民一律10万円の特別定額給付金のドタバタでした。国民一律10万円の特別定額給付金において、オンライン申請のドタバタ騒ぎが起きていました。わかりづらいオンライン手続きゆえに、申請にまで至らず途中で断念している人も多かったのです。ドイツやお隣の韓国が、新型コロナウイルス感染の給付金を2日間で全国民に給付したのと対照的でした。行政手続きがデジタル化されるメリットは、国民や企業などの利便性を向上できることです。ドイツや韓国は、日本よりも進んでいます。行政手続きがデジタル化されるメリットは、時間や場所の制約なく申請できることです。書類作成に要するエネルギーは、莫大なものになります。日本に求められるのは、申請をワンストップで行える体制整備になります。災害支援の対策とそれに伴う書類の作成や提出では、マイナンバーの導入が選択肢になります。マイナンバーカードの様式さえ工夫すれば、一つの書類で同時に完了する長所を持っています。マイナンバーカードを上手に運用すれば、社会保障や納税、そして災害対策を効率的に行うために利用できます。ドイツ並みに、2日間で給付金などの事務処理はすべて終了してしまいます。そして、事務コストも少なく、職員の負担も少なくなります。
日本の人口は、50年から100年後には、半減するという専門家もいます。この専門家の予想通り、地方自治体の総職員数は1994年の328万人から、2024年には281万人になり、14%ほど減少し始めました。一方で、特別交付税を見るまでもなく、職員の事務作業は増えています。少ない人員で、多くの作業を行っている自治体の実情があります。もちろん、事務の効率化を図るために、デジタル機器を導入し、事務の効率化を図っています。政府も、無策でいたわけではありません。ITに詳しい民間人を、政府最高情報責任者補佐官(CIO補佐官)に任命する制度も定着してきました。でも、効率化が進まない理由が、法制度にありました。システムは最適化されているのに、手続きの最適化を複雑な法令や役所の慣例が許さない状況があるのです。法令や行政事務手続きの専門家ではない政府CIO補佐官は、法令策定に踏み込めない現実があります。手続きの最適化を法令が阻んでいることが、行政のIT化の障害になっているわけです。結論から言うと、手書きの時代からの事務手続きを、そのままIT化しようとしたところに間違いがあるようです。行政事務は文書主義の原則により、紙を中心とする手続きが大半を占めています。紙中心の手続きに加えて、縦割りの行政が支配してきました。手書きの仕組みと縦割り役割分担が、IT化の開発コストを増大させ、品質低下などの問題につながってきました。企業のIT化は、「システムに合わせて仕事のやり方を変える」方式が常道でした。公務員の長い慣習や労働環境が、デジタル化を推進することを阻んでいるようです。新型コロナウイルスのまん延は、行政のIT化の問題点を改めて浮き彫りにした。特に、他国との比較で弁解の余地ができなくなっています。公務員の働き方改革に本腰を入れて取り組まない限り、行政のデジタル化やオンライン化が難しいようです。
交付金の無駄を強調する自治体もありますが、この交付金を上手に利用している村もあります。その村は、長野県下條村になります。下條村は、プールの総事業費1億4千万円でしたが、わずか42万円の村の予算でプールをつくりました。今回のように政府の補正予算は、年末に急きょ決まることがあります。年度末ギリギリに急に提示されても、即座に対応できる自治体はあまり多くないのです。仕事の早い下條村職員は、この交付税の書類への対応が容易にできました。この時には、国からの補助金は、「地域の元気臨時交付金」などで1億円が交付されました。残りの4000万円は、本予算で国が交付税で補填する条件になったわけです。結果として、村の持ち出したお金が42万円のみだったのです。下條村は、何が何でも補助金をもらうというわけではありません。国の交付金を使った公営住宅の建設などは拒否しています。補助金を使った公営住宅は、入居を希望する住民を平等に入居させる規則の縛りがあります。村が望むのは、子どもを持った若い家族です。村の活性化には、若い住民の存在が不可欠です。この村は、自前の資金で、公営住宅を建設しました。そして、保育園を完備し、小学校も充実させたのです。さらに、医療費などの支援も加えました。一般住宅の半分の値段で入れる住宅を作り、転居して欲しい人に合った条件を整えたのです。村の狙いは成功し、村に周辺の市町村から、若い家族が転居してきました。交付金も、工夫次第では自治体にとって、利用価値のあるものになります。
余談ですが、交付金の扱いは歴代の政権でも政策課題となっていました。安倍晋三政権では、地方交付税の総額を安定的に確保し、国税の伸びに伴い、交付金も増えていました。石破茂政権下で自民、公明両党が参院選公約で国民人1当たり2万~4万円給付を掲げていました。2024年度の都道府県と市区町村の税収は、前年度比4%増の47.6兆円でした。都道府県と市区町村の税収は、4年連続で過去最高を記録していたのです。重点支援地方交付金は、実情に合わせて使える点が大きなメリットになっていました。地域により生活スタイルが違うため、実情に合わせて使えるということには利用価値もあったのです。一方で、過度な交付金の拡充は、「ばらまき」と捉えられるリスクもありました。交付金を当てにして、放漫財政に陥る自治体もあったのです。重点支援地方交付金は、会計検査院が検証することが可能な補助金とは違うものです。検証することが可能な用途が指定される補助金と違い、事後検証がおろそかになるケースもあったのです。自主財源を確保し、その財源を住民に還元する手法が健全な自治体の在り方のようです。
最後になりますが、これからの自治体はどのように住民サービスを充実させていけば良いのでしょうか。人口が減り、税金が減り、自主財源が減り、職員が減る中で、どのように住民へのサービスを提供していくかが課題になります。その一つのモデルが、先に登場した上長野県下條村になるようです。健全な運営を行いながら、人口を増やし、豊かな生活をつくり出しているモデルになります。この下條村の特徴は、職員数が少ないことです。下條村の職員数は、人口1000人当たりの一般行政町員数は8人になります。類似自治体の平均値は17人なので、半分の人員で業務をこなしている計算になります。下條村は、課を総務課・振興課・福祉課・教育委員会の4つに統合し、係長制度を廃止しています。仕事の枠を取り払い、一人の職員が複数の業務を兼務する仕組みを取っています。一人一人の職員が複数の仕事を効率よく行えば、職員数を削減しても業務に支障は生まれないことを証明しているようです。もっとも、ここで満足するわけにはいきません。今後の職員の減少と仕事量の増加を考慮すれば、IT化は必然の流れになります。企業のIT化は、「システムに合わせて仕事のやり方を変える」方式が常道でした。公務員の長い仕事の慣習を一変して、企業並みのデジタル化を推進する方向に進んでほしいものです。
