おにぎりから見たコメの高騰とその緩和対策  アイデア広場 その1549

 政府が備蓄していたコメの放出を決めたにも関わらず、コメの高騰による混乱が続いています。最初は、15万トンを放出することになりました。次は、様子をみてのようです。今回のコメ不足には、それに至る下地がありました。日本のコメの総需要が、700万トンから800万トンと言われています。その中で、業務用米は、200万トンほどになります。昨年、農水省が発表した2023年産主食用米の収穫量は、661万トンと発表しました。この661万トンは、2020年産米の生産量が776万でしたから、115万トン減ったことになります。コメの減反政策は、政府が陰に陽に進めてきたものです。たとえば、2017年ごろには、政府が進める飼料米の生産拡大策で、業務用米は急速に品薄になりました。この理由は、飼料米に補助金を出したことにあります。飼料米は、生産管理が比較的簡単収穫ができて、補助金も受けられことが農家のモチベーションになりました。農家は高価なブランド米をたくさん作る一方で、安い業務用米は飼料米の作付けも行ったのです。この結果、2016年はブランド米が余り、業務用米が少なくなったわけです。政府による飼料用米への転作促進で2016年産の業務用米も品薄が続きました。値段は、需要と供給の関係で決まります。その流れをうけて、コメ卸が業務用米の値上げを外食や中食会社に打診し始めたのが2016年となります。あるコメ卸大手は、「1キロ40円の値上げが必要」と説明します。一方、外食大手や中食の業者は、納得がいきません。2016年産は豊作だっただけに、値上げを持ちかけられた外食や中食の胸中はやりきれないものがあったようです。なぜコメが豊作なのに、なぜ私たちが使う分(業務用米)が少ないのと不満顔になっていました。

 2016年当時、業務用米は「北海道産ななつぼし」「青森産まっしぐら」などが代表的な銘柄になります。この「ななつぼし」は、卸間の取引価格が現在、60キロ1万4250円程度でした。卸間価格は、卸売業者同士が需給の変動に応じて随時売り買いする価格になります。この価格が1年前に比べ14%上がり、ブランド米の新潟産コシヒカリと並んだのです。銘柄によって単価は異なりますが、コメ卸大手が要請する上げ幅は15~20%になっていました。外食や中食の方にとって、この値上げを受け入れたとしても、デフレ下での価格転嫁は難しい状況がありました。当時の消費者は、低価格志向に慣らされており、外食や中食業は小売価格への転嫁は頭を悩ませることだったのです。困ったことがあれば、それを乗り越える工夫が出されてきます。まず、おにぎりのコメを少し減らすとか、ノリ弁の場合は容器の底を上げて、量は減らすが見栄えを良くするなどの工夫が出てきます。大手中食は、「やりたくはないが、内容量の見直しもあり得る」と実質値上げに踏み出し始めました。さらに進んだところでは、米国産に目を付けたところもあります。米国産は、国産より1キロあたり100円安い値段でした。米国産米の食味調査もとに、「茨城県産コシヒカリと同程度の品質だった」との報告もあり、採用に心を動かされた場面もあったようです。でも、中食は商品に産地を表示する必要があり、外国産の採用には壁があったようです。この時期から、コロナ禍を経て、令和の米騒動に突入するわけです。

 令和の米騒動は、2024年8月頃から徐々に始まりました。このコメ不足前の5月頃から、面白い現象が現れました。もち麦が、業務用の中食や外食での採用が広がったのです。もち麦を使った商品は、夏のコメ品薄を背景に家庭向け需要でも急伸しました。コメ不足を背景に、白米にもち麦や雑穀を混ぜて炊飯する需要が高まったのです。もち麦を使った商品は、躍進の裏にあるのが独自の品種改良による食味の改善があります。もち麦には、麦特有のにおいがありました。このにおいを抑えたもち麦の品種改良に成功したのです。食味の改善とともに、もち麦の特徴である食物繊維の含有量を減らさない品種を開発しました。もち麦は、プチプチした食感と健康効果が指摘される水溶性食物繊維を豊富に含むのが特徴になります。白米にもち麦や雑穀を混ぜる食習慣が定着すれば、生活習慣病対策にもなります。さらに、医療費削減にもなるというキャッチフレーズです。このもち麦は、米国の種苗会社と共同で品種改良したものです。開発した専売品種の商業用栽培が米国で2020年に始まり、2023年から本格的に輸入して発売になりました。

 令和の米騒動を乗り切っているものに、コンビニのおにぎりがあります。おにぎりは、子どもの頃から慣れ親しんだ昧を繰り返し食べる人が普通の姿でした。昭和の当時、おにぎりは家でつくるもので、わざわざ買うという意識は薄かったようです。もっとも、ご飯さえあれば、日常の食事としていつでも手軽に食べられると言う安心感がありました。そこに、パリパリののりを巻く手巻きタイプが商品化されたことが一つのエポックになります。この1978年頃は、おいしさより手軽さが重視されていました。コンビニのおにぎりを食べる人が増えていきます。量は質に変わるとの例えがありますが、それがおにぎりにも現れてきます。専門店の「おにぎり浅草宿六」が、2018年にミシュランガイド東京で掲載されました。「おにぎり浅草宿六」が掲載されると、おにぎりが行列に並ぶほど価値のあるおいしいものとの認識されるようになったのです。この頃から、ランチ需要を含めて「ごちそう系」のおにぎりが出始めます。2024年10月の農林水産省によると、おにぎりへの家計支出は2023年、2018年比で3割増えています。おにぎりは、弁当、外食、コメに比べて伸びが顕著なのです。コメ関連の食費が上がる中でも、おにぎりの消費が「一人勝ち」の様相をみせています。おにぎりへの家計支出は、前年比では9.3%増と、物価上昇率を上回るペースになっています。

 コンビニおにぎりの歴史をたどると、初期の1978年頃はおしさより手軽さが重視されていました。コンビニによる創意工夫は、おにぎりの売り上げを高めていきました。各コンビニから、人気おにぎりが出現します。たとえば、2018年にロ一ソンが110円で発売した「悪魔のおにぎり」があります。「悪魔のおにぎり」が、若者を中心に支持され,累計8000万個を販売しました。さらに、201円以上の高価格のおむすびも売れ始めます。ぜいたくな具やコメを使い、1個250円を超える「高級化路線」の流れもでてきます。いくらや鮭ハラミ、黒毛和牛などを具にした商品を、 200円代半ばから300円弱で販売するものも現れます。1つで満足感のある高級商品に対して、定番商品は2個買うという消費者も多いのです。斬新な高価格帯商品を打ち出す一方、定番商品の値上げには慎重な面も各コンビニは見られます。むしろ、定番商品の価格を引き下げる動きが相次ぎました。ミニストップは、本体価格が98円(税込み105円)と100円を切る商品を定番化しました。セブンーイレブンは、2024年に売れ筋の「ツナマヨネーズ」を151円から138円に引き下げています。コメの高騰など制約が、逆に工夫を呼び、消費者のニーズにあったおにぎりを作り出しているようです。

 余談ですが、世界株指数が5%下落したのに対し、農業関連株指数は6%の逆行高となっています。世界では、食料の生産と加工に関連する企業に投資マネーが向かっているようです。国連食糧農業機関(FAO) の食料価格指数は、2022年3月まで2カ月連続で最高を記録しています。原因は、ウクライナ危機で食料価格が高騰したことによるものです。農産物価格の上昇は、各国の農家にとってチャンスになります。農産物の生産を上げれば、高く買ってもらえる状況ができたわけです。そのためには、肥料や農薬を多く使うために、これらを生産する企業にもチャンスが訪れることになります。結果として、肥料や種子、農機といった農業生産に直結する銘柄の上昇が顕著になっているということです。日本でも2月23日の進行から、サカタの株価は侵攻前から28%高くなり、5月初旬には一時、1990年以来の高値になりました。農産物が不足をすれば、増産に励む企業や人々が増えます。コメの価格は、政府の関与が強く影響していたようです。コメの外部環境は、かなり前から、価格高騰になりつつあったのです。でも、価格は、伏流となって表面化しませんでした。それが、政府の業務米抑制の結果、ほころびが顕在化し、今回の令和の米騒動を引き起こしたようです。

 最後になりますが、コメに詳しい知人は、コメ農家と直接取引をしていました。コメが確実に手に入らない状況を危惧していたのです。その危惧が、当たり始めたのは、2022年頃でした。コメのだぶつき感が、後退する兆しが見えてきたのです。いわゆる求めるコメが、求める価格で気軽に買える状況でなくなってきたのです。その兆候も、察知していたようです。たとえば、大手コメ卸の担当者は「おにぎり、弁当など中食や外食向けの需要が伸びている」、流通市場では「業務用の需要は増えているが、家庭用の需要が伸び悩んでいる」などの話を聞き始めました。おにぎりやノリ弁当は内容量を減らす実質値上げも、現実昧を帯びてきていました。特に可能性が高いのは、ノリを使うおにぎりやノリ弁当になります。ノリは、海水温の上昇などで年間生産量が10年間で10万トン減っています。ノリは、値上がり傾向にありました。コメも、700万トンから、660万トンになろうとしていました。こんなところに、危惧をしていたわけです。でも、彼の面白いところは、どうしたらこのような状況を有利な状況に切り替えられるかと考えたところです。一般的には、価格を抑えるため、ノリを使わず、チャーハンやカレ一味など「混ぜご飯風」にぎりを考えます。このような流れは、コンビニの商品として直ぐに現れました。さらに、もち麦と雑穀と3色食品群の具材を混ぜたおにぎりも出てきました。その上で、もち麦の食物繊維と腸内細菌の関連からのおむすびを考えていたようです。美味しさ、健康を凝集したおむすびの商品化です。これが、実現すればハッピーです。

タイトルとURLをコピーしました