福島県福島市の朝の光景です。市内を流れる阿武隈川の土手を自転車で福島駅に向かうと、散歩やジョギングを楽しんでいる人が少なからずいます。気に掛かることがあります。舗装された堅い地面をウオーキングしたり、ジョギングをしている人がいることです。阿武隈川の土手で、練習していたある長距離の言葉が思い出されます。「堅い歩道ではなく、歩道の両側にある平らな草の上を歩いたり、ジョギングをすることは、膝や腰の負担を和らげます。長い目で見ると、距離を稼げて、持久力の向上に役立つ」という貴重な言葉でした。この方は、関東インカレの長距離部門などでも優勝した実力者だったので、印象に残る言葉でした。足腰の痛みは、4人に1人の割合で発生します。痛いからといって運動しなければ、急速に運動機能が衰えます。かといって、堅い地面を歩いたりすれば、ますます痛くなります。痛みは、現実のものです。痛みが強ければ、幸福感は得られません。幸福感の多いウオーキングを長く続けたいものです。そこで、長く続けられるウオーキングを考えてみました。
歩くことで、活力が得られることは多くの人が体験しています。速歩は、若返りホルモンを分泌させて肌の張と潤い、そして髪のツヤを保持することが知られています。60代後半の人が、40分ほど速歩を1年続けたところ、海馬の容積が2%増加したという報告もあります。ストレスがあり、不機嫌な状態では、作業能率があがりません。ストレスを減らし、不機嫌な気分にならないための最善の方法は、定期的に運動をすることも選択肢になります。ストレスを減らすためには、朝昼晩とできるたけ身体を動かすようにすることです。家から駅への徒歩移動は、目的地に着くための手段と考えられがちです。でも、この時間が有意義な時間することも可能です。この歩く時間は、ほかのことを考えずにいられる貴重な時間にもなるのです。歩くときのリズムで、思考が数分間途切れた後に、アイデアがひょっこり現れることが多いのです。もっとも、このひょっこり現れたアイデアを、メモしておかないと気まぐれなアイデアを取り逃がしてしまいます。
1日中椅子に座り続けなくても、仕事ができるような工夫をする企業が生まれています。電話をしているときも、椅子にじっと座っていることが最善ではないと考えているのです。電話をしているときも、立ち上がったり、歩いたりしながら、応答をしても良いとしているわけです。電話をよくする人は、ワイヤレスのヘッドセットを使って歩さながら通話をしている光景があります。また、ミーティングで行き詰まったりしたとき、少しの間ミーティングを離れて、歩きに出ることを許容する職場も出てきました。ミーティングの合間に歩くことは、考えをまとめること、課題の取り組みの再確認、もしくは課題を俯瞰することなどに使っているようです。この企業では、一人でミーティングを離れることを許容する一方、複数人での離脱も奨励しているのです。同僚の話に耳を傾けるのに最適な場と時間は、一緒にウオーキングをしている時だというのです。ウオーキングの効用は、個人のみならず、組織の視点からも認められつつあるようです。
専門家によると、ウオーキングにも良い歩き方と悪い歩き方があると言います。悪い姿勢でのウオーキングは、健康に害をもたらすことが分かっています。正しい歩き方は、上体をまっすぐに伸ばした姿勢で、軽快な足どりで「さっさっ」と歩くことになります。この歩き方は、腰が伸びていることが基本になります。腰がまがっていては、体重をうまく支えられません。この場合、足や膝、そして腰に負担がかかり、疲労や障害の原因になります。踵から着地し体重を足先に移すように歩きます。「土踏まず」が十分に形成されていないと、この動きがスムーズにいきません。足裏の筋肉が未発達になり、疲労しやすくなるわけです。疲労が蓄積すると、痛みや外脛骨障害を引き起こす誘因にもなります。歩くことは、人間の基本動作です。直立歩行を無理なく行うためには、訓練や練習が必要です。森に残ったチンパンジーやゴリラは、偏平足です。チンパンジーやゴリラは歩くことはできますが、上手ではありません。この歩き方で長い距離を歩けば、足腰、や股関節に痛みが生じます。直立歩行は、人間を人間にたらしめる動作です。そのためにも、歩く訓練は常に注意深く続けることが求められます。
良い歩き方は、人生の財産になります。人生に役立つものの周りには、ビジネスが生まれます。ウオーキングの周りには、人々の足下を支えるシューズのビジネスが生まれました。履きやすいシューズ単独で販売するのではなく、健康と搦めて販売するスポーツ企業も現れています。先進国における人々は、余暇活動に関わる商品やサービスにおいても、健康に配慮した商品を選択する傾向があります。歩く小道を利用して手軽にできる散歩などは、シニア層の健康維持には重要な要素になります。散歩やランニングなどの運動量が適切に確保されていれば、脂肪、筋肉、骨のいずれに対しても良い影響をもたらします。運動が海馬にも影響を与え、脳を活性化させることも分かり始めました。適切な運動をすれば、動きがよく、姿勢がよく、体型がよくなります。そして、頭も良くなるのです。もっとも、良い歩き方でなければ、効果は半減します。良い歩き方とは、足指の蹴りが、足裏からふくらはぎ、太ももや上半身までの筋肉へ力を円滑に伝えることになります。足指の蹴りから上半身まで筋肉の動きが、円滑に伝わることで正しいランニングやウオーキングできるわけです。足指の蹴りからふくらはぎへ動きが円滑に伝わらないと、正しい歩き方ができなくなります。
最近は、ウオーキングのツールとしてのシューズだけでなく、ポールも注目を集めるようになりました。歩行において足腰の弱く安定性を欠く方には、ポール(杖、ステッキ)が必需品になっています。それも、1本の杖から右手と左手に2本持つ方も増えています。歩けなくなれば、体力が低下し、健康水準が落ちていくことが分かるのでしょう。一方、積極的にポールを使って、強めのウオーキングする方も増えているのです。シナノという企業は、高齢者用の杖や歩行時に姿勢を支える「ウオーキングポール」を手掛けています。この会社は、長野県佐久市にあります。この会社が作るストックは、スキーの滑りをコントロールしやすい点が受け、人気ブランドに成長しました。日本では、滑りの正確性にこだわるスキーヤーが多かったのです。重心を手元部分に近づけ、少ない動きでも振りやすいストックを開発してきました。このストックを、2010年ごろ、スキー用品の一大市場である欧州に売り込もうとしたのです。でも、欧州では純粋にレジャーとして楽しむスキーヤーが大半でした。欧州では、シナノの細かな工夫を求める消費者が少なかったのです。
この失敗を教訓に、どの国に何を売り込めば価値を伝えられるかという販売戦略を見直したのです。その結果、高齢化と同時に健康意識が高まる東アジアにターゲット絞ったようです。2016年から、台湾向けにウオーキングポールの輸出を開始しました。この戦略は、健康需要を捉えて販売は好調に推移しています。韓国でも、ポールの販売は好調に推移しています。ポールを両手に持つと背筋が伸び、左右のバランスが取れた状態でウオーキングができます。高齢者が陥りやすいバランスの崩れを、2本のポールが防ぎます。さらに、一定の時間を歩くだけでは、足、腰、背の筋肉に疲労が蓄積します。足が疲れれば、膝が曲がってきます。腰が疲れれば、腰を曲げた姿勢で歩くことになります。いわゆる腰の曲がった前傾の姿勢で、歩くことになります。これを補正するツールが、2本のポールというわけです。ポールウオーキングは、手足を有効に使いますので、歩幅が広くなり、運動の質と量を高めます。
最後になりますが、ウオーキング、サイクリング、ジョギングなどの能動的なレジャーは、集中力やモチバーションを高めます。身体的な活動は、気分をポジティブにする効用があり、なおかつその効果が持続する特徴があります。日常生活でのポジティブな気持は、日々の生活の中で幸せを感じる前向きなものです。ポジティブ活動をするほど、幸福度が高まり、充実した生活を過ごすことができます。幸せには、現在のポジティブな気分と将来に関するポジティブなものの両方が含まれると考えられています。特に、将来に関する楽しみや目標への期待は,脳の快楽中枢を活性化するようです。幸せに生活する一つの要素として、ウオーキングはこれからも注目されていきます。その中で、杖(ポール)と靴(シューズ)も大事な付属物になるようです。