クマの駆除と自衛力の強化を同時に達成する工夫 アイデア広場 その 1668

 新聞やテレビは、毎日クマの被害を伝えるようになりました。町中にも出没し、出会い頭に被害を受ける人も多くなってきました。特に秋田県では、人とツキノワクマとの遭遇がかってない規模で起こっています。2023年度に秋田県では、3723件もの目撃情報があり、70人の方が負傷しているのです。日本全体で見ると、2025年は死者が9人と2023年度の6人をすでに上回り、人身被害も9月末時点で108人に達した。こちらも23年度の9月末時点の109人と同水準になっています。東北地方では、クマ目撃は珍しくなくなり、人身の被害が過去最悪のペースで起きています。東北地方で起きているクマの大量出没は、本州全体で起こることが心配されています。すでに国内の6割を超す地域で、目撃される状態が続いています。札幌市や仙台市など大都市でも、目撃が多発しています。秋田県によると、山に設畳したカメラ情報からクマの県内生息数を4400頭と推定さえるといいます。生息数を4400頭と推定したのですが、分布など正確な生態はわかっていないのです。また、環境省のデータを分析すると、クマの生息数は1978年から2018年にかけて倍増していることが推定されています。

 これほどクマの出没が目立ってきた理由を、多くの専門家は「里山の衰退」としています。この里山は、クマと人の世界を分ける役割を持っていました。クマは、警戒心が強い動物です。人の活動が活発だった里山にたまたまやってきても、すぐ山に帰るのが常でした。ところが、状況が変わってきました。里山を支えてきた人々が高齢化し、さらに減少し、過疎化が進み、農業や林業の人の活動は極端に減りました。人口減少や過疎化で荒廃した里山は、もはや人だけのものではない状況が生まれたのです。柿や栗の木も豊富にあって、人の危険も感じることなく、食べることに困らない場所になりました。クマには、里山から山奥に帰る理由がなくなったのです。野生動物の管理は、個体数管理、生息地管理、被害防除の3つをバランス良く実施することになります。被害を防ぐには、動物の生態と侵入する要因を調べ、被害発生の仕組みを知ることが大切になります。山や森などの自然が荒れれば、動物の食べる食物はなくなります。飢えた動物は、里の食物を狙うことになります。人間の住む農村が疲弊すれば、動物の侵入を防ぐことができなくなります。一般的な対策には、動物の嫌う環境を整備すること、農地を守る侵入防止対策を整備すること、捕獲圧に重点をおいて適切な捕獲行うことなどがあります。でも、捕獲圧に対する耐性は、クマは弱く鹿はやや強くイノシシは強いという特性がありました。クマには恐怖感を与えて、山に返すことで事足りると言われてきました。でも、この臆病者と言われたクマが、人を襲う猛獣になりつつあるのです。

 日本の野生動物は、江戸時代から明治時代以降、乱獲状態にありました。生息数は著しく減少し分布も限られていたのです。過去1世紀は、野生動物の被害が無い状態で農林業が営まれてきました。でも、農村の衰退とともに、作物を食い荒らす野生の動物が増えてきたのです。1999年は、野生動物の保護から科学的管理への方向転換が図られたことが、ターニングポイントになりました。野生動物に対する国の政策が、保護から調整へと大きく舵を切ったのです。でも、保護に固執した地域もありました。宮城県の川崎町は、「牛タン」の里といわれるほど牧畜が盛んです。牛の飼料であるデントコーンの畑が、ツキノワグマに荒らされて困っていたのです。この解決策として、「ツキノワグマのすみかを守る会」の人達は熊が食べても良い畑を作ったのです。山際でお腹がいっぱいになったクマは、危険をおかしてまで里の畑に来ることはないと考えたわけです。クマが食べてもいい畑の活動は、もう10年も続いています。確かに、農作物被害も減り、駆除されるクマの数も減っているようです。これと似たような事例が、福島県のいわき市に見られます。いわき市は、畑の農作物をイノシシの害から守るために、山にカボチャの種をまいています。地元の人たちは自衛手段として、山にカボチャを作ることをごく当たり前にしていたのです。人間の生産活動をする農村と動物の住む森林の間に、カボチャ畑という緩衝地帯を設けたわけです。いわきのカボチャの仕掛けは、地元に代々伝わる智恵ともいえます。長期的には、動物の住む森が落葉広葉樹林で埋め尽くされれば、危険を冒してまで里山に来ることもなくなるかもしれません。森林を回復することが、野生動物問題を解決する一つの道になるようです。

 一方で、緩衝地帯などの対策では、間に合わないという意見が大勢になりつつあります。では、個体数管理、生息地管理、被害防除をどのようにすればスムーズに行うことができるのでしょうか。クマの個体数が倍増し、問題行動を起こしていれば、個体数を減らすことが緊急の対策になると考える方が増えます。クマを捉えるには、どうすれば良いのでしょうか。都市部に現れた人食いクマを、警察は捉えることができませんでした。猟友会の人達の手で捕獲されることになります。ここから、発想を飛躍させます。それは、ドローンを使用した個体数管理、生息地管理、被害防除になります。そのヒントは、ドローンの進化です。この分野で、最も早く開発を進めてきた国が、イスラエルになります。1970年代から開発を進め、イスラム組織ハマスとの戦闘にも自国製の偵察・攻撃幾を大量投入してきました。その事例として、暗殺用のドローンがありました。イスラエルのドローンは、ハマスのリーダーの部屋に飛んでいってその本人だけを殺害することができるのです。標的の人物を認識し低空で飛んでいって、標的を発見すると5寸釘を眉間に当てる性能を持っていました。2001年10月、アメリカのブッシュ大統領が、アフガニスタンへ空爆と地上軍の投入を命令しました。この戦闘に、全長10cmで重量16gというドローンが使われました。これには、静止画像と動画を記録する可動式カメラを搭載しています。このドローンは、戦闘地域で狙撃兵を偵察するために使われていたのです。戦場では、狙撃が日常的行われています。どこから狙撃をされたのかを、ドローンを飛ばして調べるのです。どこから狙撃してきたか、手元のゲームボーイのような画面で見ることができます。この超軽量ドローンを利用して、狙撃ロードを横断する際に、狙撃地点をチェックし、危険を排除したのです。これらのツールとその機能をより高めれば、クマの個体数管理、生息地管理、被害防除がスムーズに行われる可能性がでてきます。

 さらに、時代は進みます。2022年のウクライナ戦争の戦闘が激化する中で、ロシアとウクライナ双方とも偵察や攻撃面でのドローンの機能が進化していきました。ウクライナ軍は、2025年6月1日にロシア空軍基地への大規模なドローンを攻撃しました。この「クモの巣」と名付けた作戦には計117機のドローンが投入されました。「クモの巣」作戦は、ロシア国内の4カ所の軍用飛行場を同時に攻撃したのです。117機の製造費用は、計2億円程度にとどまり、ロシア側に与えた損害はその5000倍に上る1兆円との推計があります。戦闘は塹壕戦を伴いながら、ドローン同士の戦いの様相を示すようになっています。ウクライナ軍が前線の部隊に配置したドローンパイロトは、数万人規模になります。ドローンパイロットは、実戦経験を通じて急速に練度を上げています。これらのパイロットは、ジャミングや防空レーダーの回避など実戦経験を蓄積しています。豊富な要員が、多様な作戦に従事しています。ここにきて、日本の自衛隊もドローンの多角的利用を導入するようになりました。自衛隊は、普通科の隊員が敵の車両などに突っ込む自爆型攻撃機をおよそ300機導入する計画を立てました。また、経済産業省が中心となり、無人機の産業基盤強化に向けた検討会を立ち上げました。戦闘力は実践的訓練を伴って、初めて実力を高めることができます。

 余談ですが、 2024年度に国は、森林整備のための新税「森林環境税」を導入しました。この森林環境税には、震災復興に伴う増税措置のうち2023年度末に期限切れとなる住民税を使うことになります。この新税導入は、2019年に決まりました。国はこの新税の課税に先立って、2019年度から臨時財源で譲与税を全自治体に支給しているのです。年間約600億円のお金が、全自治体に配られました。配られるお金は、各自治体が抱える私有人工林面積、林業就業者数、そして人口の3つの基準で決まります。でも、せっかく配られたお金が、使われないという問題も浮かび上がってきています。森林環境税が先行して配られた財源を巡っては、未活用額が4年間で450億円にもなっているのです。もっとも、この森林整備のための新税「森林環境税」が使われることになったとしても、森の安全が確保されなければ、森を豊かにする林業者の方々は十分な活動ができない可能性があります。「森林環境税」を600億円を自衛隊に供与し、クマの個体数を減らす訓練をしてもらうことも選択肢になります。秋田県の生息数が4400頭とすれば、これを2200頭程度にします。これができれば、野生動物の被害が無い状態で農林業が営まれることになる可能性があります。クマの個体数を減らす過程で、自衛隊のドローン実践能力が高まるかもしれません。ウクライナでは、1人の操縦士が1日に50機以上のドローンを操縦し、敵の目標を攻撃しています。ドローン操搬士は、実戦経験を通じて急速に腕を上げています。ウクライナとロシアの双方は、ドローンの操縦士の育成を急いでいます。ロシアは2030年までに、ドローン操縦士を100万人育成する計画を掲げています。ウクライナ戦争は、ドローン機能の向上とそれを支える人的資源を急速に増大しています。日本も、安全保障のレベルを日頃から高める訓練が求められます。

 最後になりますが、動物の命を奪うことと、奪った動物を大切にすることは、矛盾しないことを世界の民族史は示しています。縄文時代から、時代を経たアイヌ文化にもその一面が見られます。それが、日本のアイヌのイヨマンテです。熊送りは、イヨマンテ(霊送り)といわれています。熊に変身した神は、お土産(熊自身の毛皮、肉、内臓など)を持って村にやってきます。アイヌの村人は遊びに来た熊に、酒や餅を持たせて神の国に「お送り」(死者として)をする儀式がイヨマンテでした。アイヌの人たちは、自然の恵みは受け取るが、それ以上に自然を大切にすることで、自然に報いていたわけです。

山奥に住むクマが、食べ物が豊富であれば、わざわざ人間の生活圏に入ることは少なくなります。であれば、クマにとって山が住みやすい場所にすれば良いわけです。食べ物(ドングリやクリなど)があって、安全な場所(人間の活動が極端に少ない場所)ということになります。このような場所は、天然林ということになるかもしれません。日本の場合、人工林の中にも生産に不向きな土地があります。逆に、天然林でも生産性に優れた森もあります。ここからは、飛躍したお話になります。その一つは、時限立法になります。所有者不明の私有林は、国が強制的に50年間、借用すると言うものです。もちろん、利益を上げて、事業を展開している私有林は対象外になります。この50年間で、生産性の低い森は、天然要素の強い森林に方向転換していきます。天然林でも生産が適している場所は、人工林に変えていく政策を行います。50年間で、木材の生産に適した森林を集約して、林道を整備し、大型機械を使用できる環境を整えることになります。そして、50年後に生産性の高くなった私有林を、50年前の所有者にお返しすることになります。人工林は、人間活動の盛んな生産性の高い森になります。一方、天然林は人間活動の低調なクマの住みやすい森になります。天然の森に、広葉樹を植林し、ドングリがたくさん落ちる森にすることもできます。こんな工夫で、クマと人間の共生を計れればハッピーです。もっとも、その実現には、クマにとっては苦難の時期が訪れることになります。

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