コメの適正価格が農家と消費者を豊かにする  アイデア広場 その1654

 2025年の新米が出てきても、コメの高止まりは続くようです。この流れを受けて、パスタやカップ麺の売れ行きが好調です。日清製粉グループの日清製粉ウェルナは、8月のパスタの販売数量が前年同月から10%伸びています。サンヨー食品の4~9月の袋麺の出荷量は、前年同期と比べ10%超伸びました。8月26日から始まる週には即席カップ麺や乾パスタが大幅に増えました。生産体制にも、変化が現れています。お盆明けから9月中旬まで、工場の稼働時間を通常の16時間体制から24時間体制に変更し、増産に努めています。一時的な変化だけでなく、長いスパンの変化も見えるようになりました。日清製粉は、2025年1月納品分の業務用小麦粉でパンに使う商品を値下げすると発表しました。この発表は、一度値上げしたパン関連の製品価格が引き下げにつながるとの指摘も出てきています。高いコメと値下げしたパンという構図は、コメ農家に不利に働きます。その一方で、農協やコメの卸売りは、高額でコメの買い取り価格を農家に提示しています。コメの価格が、適切なレベルで取引され、農家も、消費者も、そして企業もウインウインになればハッピーです。

 農業の世界では、19990年が一つのエポックになるようです。日本においても、1990年以前は、農協を中核とするコメ農家が政治に強い影響を持っていました。いわゆる保守勢力である農家は、冷戦における西側の同盟を補完する勢力として経済的に支援されてきました。コメを政府が高く買い取り、農家を潤し、安く市場に放出し、消費者に負担をかけない仕組みができていました。農業の世界では、19990年代まで、農協を通して政治力を発揮してきました。この当時は、農協が政治を左右する大きな力があったのです。保守の岩盤である農家が求めたことは、政府によるコメの買い取り価格の引き上げと農産物自由化の阻止でした。でも、冷戦が終了すると、コメ農家に厳しい政策が、とられるようになりました。政府はコメの買い取り制度を止め、他の作物への転作に補助金を出す政策に転換していきました。結果として、コメの需要は減少傾向になり、パンやパスタの需要が増える流れができてきました。このしっぺ返しではないのでしょうが、困った現象が現れました。2024年9月23~29日に全国のスーパーで販売されたコメの量は、前年同期比で24%も減ったのです。2023年9月に1718円だったうるち米の平均価格は、2024年9月には2525円まで上昇しました。そして、新米が4000円を超える価格で市場に出荷される状況が続いています。

 日本の農政を支えてきた政党は、自民党になります。その自民党を支えてきた多くの国民に、コメの高騰という災難が襲ってきています。コメが不足したり、コメが高騰する時代、日本には大きな国難に落ちいった歴史があります。たとえば、老中田沼意次の江戸時代には、奥羽地方では大飢饉が起こりました。ある藩では、6万人の住民のうち3万人が餓死したという記録があります。コメどころの奥羽地方でコメが獲れなければ、江戸の庶民が生活に困りました。意次は、江戸にコメを集める政策を実行します。でも、江戸の米問屋は、コメを買い占めてコメの高騰が起きました。また、昭和初期では、青年将校による事件としては「二・二六事件」が有名です。1936年(昭和11年)2月26日、陸軍の皇道派青年将校らが天皇中心の軍事政権を樹立しようとクーデターを起こしました。この背景にあったのは、やはり奥羽地方における飢饉でした。青年将校は、この飢饉に無策な政府高官を暗殺するという暴挙に出たわけです。結果として、軍の力が膨張し、太平洋戦争に突き進むこといなりました。

 戦後、農業地帯は有力政治家の有力な票田でした。でも、農業人口の減少や高齢化に伴い、政治家にとって魅力の少ない地域になっています。利益の産まないところに、力を注ぐ政治家は少ないようです。日本の農業就業人口は、どんどん減少していて歯止めがかからない状況になっています。2005年には335万人いた農業従事者が、2020年には152万人と、半分以下になってしまったのです。農業従事者の高齢化も、深刻な問題になっています。2005年での65歳以上の割合は57所%でしたが、2020年には70%となっているのです。これらの従事者の方で、「生計が成り立っている」と回答した人たちでも、農業所得の中央値は200万円なのです。サラリーマンの半分程度の収入に甘んじているわけです。作物別にみると、酪農だけが中央値475万円とサラリーマン並みです。でも、その労働条件は厳しいものがあるようです。農業収入で生計を維持するのか難しいという理由で、若者が農業に就業しない状況が続いています。知人によると、中規模のナスを栽培している農家の経営も苦しいものがあると言います。収穫したナスを選別し、青果市場、農協の市場、直売所などの売り先に出荷することになります。最近では、道の駅や小売店、レストランへの直売、消費者への直接販売などのケースも増えてきています。これらの作業と販売を、高齢のご夫婦で行っています。このナス農家は、5か所にナスの直販を行っています。5か所がすべて完売すればハッピーですが、1袋でも残ると、その処理に苦労するとのことでした。

 コメの高騰は、2024年に顕在化しましたが、実は2019年頃から少しずつ見え隠れしていました。夏場に並ぶ新米は早場米と呼ばれ、旬を感じさせる食材としてスーパーの定番になっています。早場米は、新潟県や北海道などの主産地より早く収穫できるコメです。2019年産の新米の店頭価格は、おおむね高値で始まりました。値上がりの背景には、農協が農家からの買い付け価格を引き上げたことがあります。これは、コメできちんと収入を得られないことに不満を持つ農家に配慮したものでした。でも、スーパーなど消費者と日常的に接している売り手側は、早場米の仕入れを減らしていたのです。パンの消費額は、コメを3割上回っている現実があります。お客さんと日常的に接しているお店は、消費者の動向を直近で見ながら商品を仕入れていきます。コメは、その意味で後れを取っていたのです。現在、日本においては、消費者と農家の生産者が、直接に取引する仕組みができてきました。良い作物を提供する農家が増えることは、「食の安全」をもたらします。農家も、安全で高品質なものを求める消費者のニーズを把握するようになりつつあります。例えば、無農薬で有機栽培のコメを求める消費者が増えています。無農薬有機栽培米で、完璧なまでに美味しいと認められた米が、1俵10万円で取り引きされる現実もあります。農家と消費者が、売り買いを直接できる環境が整っています。

 知人は、20年以上前から、農家と直接コメを買うことにしていました。彼は、20年以上前から、会津の農家からコメを契約購入しています。価格は、農家の方の提案で、コメの値段が上がっても下がっても、同じ値段で取引することになっています。今回の様に、急騰しても、昨年の値段で購入できたと喜んでいました。秋の収穫時期と春の桜の時期に、会津の農家を訪れて米を購入しています。秋の紅葉と春の桜を楽しみに、訪れているようです。もちろん、会津のソースカツどん、新そば、そして喜多方のラーメンなどの食の楽しみも味わっています。1年間のコメの確保と美味しいコメを堪能しているのです。彼に言わせると、小麦や大豆などは輸入に頼るケースが多くなり、国際情勢が不安定になれば、価格もそれに不安定になります。2022年から2023年のパンやカップ麺の値上がりは、その不安を実証しています。コメはその点、日本国内で安定的に確実に作られています。農家の方も、契約購入している方が一定程度いれば、安定した経営ができます。今回のコメの高騰は、政府の減反政策が一つの要因になっています。農業に従事する若者が、急減しています。若者が、農業に魅力を持つような政策が望まれるところです。これからは、農家の所得を上げ、労働の軽減を図り、消費者にコメの安定供給を計ることが求められます。そのためにも、3世代の農業経営ができるようになれば、日本の食料安保が少し改善されるかもしれません。

 最後になりますが、農業に従事する人口は、これからも減少していくことになります。その対策は、AIやロボットを使用した農業用ツールを開発になります。日本の企業も。パナソニック社は、トマト収穫ロボットの開発を進めているのです。このロボットは、トマトの畝と畝の間のレール上を行き来して、カメラで画像を収集します。トマトを認識すると、さらに色や形の情報を吟味して、収穫適期にあるかどうかを判断します。さらに、トマトを認識する学習だけでなく、見えづらい場所にあるトマトを認識する学習を繰り返していきます。収穫時期と判断されたら、トマトを収穫していきます。自動走行車両に牽引されながら、2本のアームによりトマトの収穫を行うことになります。海外では、単に自動的に育てて、収穫するだけでなく、そこに現代の課題を解決する仕組みを取り入れています。2017年にハーバー・アダムス大学(英国)は、農作業の自動化に成功しています。自動運転車とドローンだけを使い、種まき、手入れ、刈り入れを行うことに成功したのです。6000平方メートルの農地で大麦の種まき、手入れ、刈り入れを自動的に行いました。この時に使用した自走式ロボットは、10時間で最大2へククールの作業を自動で行うことができました。この自走式ロボットには、ソーラーパネルとバッテリーが設置されたのです。自走式ロボットの稼働に必要な電力は、太陽光発電でまかなわれたという驚きの成果でした。できるだけ人手を使わない農作業が、目の前まで来ているようです。このような方式が、稲の栽培に導入されれば、農家も消費者にも望ましい適正価格が実現するかもしれません。

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