コメの高騰に備える自治体の遊び心   アイデア広場 その1585

 2024年は、コメの価格に今までにない異常な現象が起きました。JAグループなどコメの集荷業者と卸会社が相対で取引する価格(新米の出回り〜10月)に、異変が起きたのです。この異変は、茨城産コシヒカリは60キログラム当たり2万6704円で、高級米の魚沼産コシヒカリが2万5039円と価格が逆転したことでした。この現象は、北海道産「ゆめぴりか」の2万5877円にも現れました。茨城産コシヒカリは、業務用途が多く、本来は割安な銘柄でした。それが、高級米とされる魚沼産や北海道産よりも高くなってしまったのです。この茨城産は、2023年産の前年同期と比べて75%も高くなりました。このような現象が、業務用途が多い宮城産ひとめぼれにも現れ、55%も高い情況になりました。魚沼産コシヒカリは21%の上昇にとどまり、低価格帯のコメほど値上がりが大きくなる傾向が生じたのです。この時点では、多くの方が2024年度の新米が出荷されれば、例年並みになると予想していました。農林水産省も、新米の流通で品不足の減少が落ち着きつつあると国民に呼びかけていました。でも、この楽観論をあざ笑うような状況が2025年5月になっても続いています。2024年9月23~29日に全国のスーパーで販売されたコメの量は、前年同期比で24%も減りました。2023年9月に1718円(5kg)だったうるち米の平均価格は、2024年9月には2525円まで上昇しました。そして、2025年5月には17週連続で4200円を超す状況が続いているのです。

 困った状況の裏には、理由がありました。農水省が発表した2023年産主食用米の収穫量は、661万トンと発表しました。2020年産米の生産量が776万でしたから、115万トン減ったことになります。さらに、この生産量は、1993年に起きた冷夏による「平成のコメ騒動」(783万トン)を下回る数量なのです。コメの生産量の低下は、政府の行政にも表れています。コメ需給などを担当する食糧庁は、2003年に廃止になりました。コメ担当の部署は、食糧庁より格下の園芸作物も扱う農産局という名称になるようです。担当の方は、「コメと園芸作物を一体で、農業の高収益化を進める」と話しています。コメに対する需要にも、変化が見られます。安さが求められる外食など向けの業務用米が、需要を伸ばしています。コメに厳しい状況の中で、異変が起きました。2024年はコメ不足になったのです。8月頃、スーパー店頭では、コメが品薄になり、棚からコメが消えたのです。この予兆は、5月ころからあったようです。コメ不足が広く報道されるようになった6月ごろからコメがふるさと納税のサイトで人気になっていたということです。

 今回のコメ騒動を、冷ややかに眺めていた知人がいます。知人は、20年以上前から、会津の農家からコメを契約購入しています。この契約は、(30kg玄米を9000円で取引することになっています。この購入は、秋と春に行っています。農家で玄米を冷凍保存してくれるので、新鮮さが保たれています。自家精米機で精米し、美味しく食べられるのです。今回の様に急騰しても、秋の収穫時期と春の桜の時期に、会津の農家を訪れて米を購入しています。輸送費は、自分持ちということになります。でも、このコメ取りが、会津旅行と兼ねていると彼と彼女は言います。秋の紅葉と春の桜を楽しみに、訪れているようです。もちろん、会津のソースカツどん、新そば、そして喜多方のラーメンなどの食の楽しみも味わっています。会津の温泉も良いものだと2度の訪問を楽しみにしています。1年間のコメの確保と美味しいコメを堪能しているのです。知人言わせると、小麦や大豆などは輸入に頼るケースが多くなり、国際情勢が不安定になれば、価格もそれに不安定になります。2022年から2023年のパンやカップ麺の値上がりは、その不安を実証しています。コメはその点、日本国内で安定的に確実に作られてきました。農家の方も、契約購入している方が一定程度いれば、安定した経営ができます。今回のコメの高騰は、政府の減反政策が一つの要因になっている面もあるようです。農業に従事する若者が、急減しています。若者が、農業に魅力を持つような政策が望まれるところです。これからは、農家の所得を上げ、労働の軽減を図り、消費者にコメの安定供給を計ることになるでしょう。今回のコメ騒動が、改革の口火を切ることを願っているとのことでした。

 コメが不足すれば、値上がりすることが分かりました。急な値上がりは、困ったものです。そのような場合の対策の一つが、ダイナミックプライシング(変動料金制)になります。ユニバーサルジャパン(USJ)は、1日券が7900円ですが、春休みで混雑する期間は8700円にして、混雑を平準化しています。需給に応じて価格を柔軟に変えることを、ダイナミックプライシング(変動料金制)といいます。ダイナミックプライシングが、広がり始めているのです。この方式の導入は、アメリカが先行しています。1970年代に、航空チケットの販売に導入されました。現在は、大リーグを始め、アメリカの4大プロスポーツ全てが導入されています。日本において、ダイナミックプライシングを導入した横浜F・マリノスは、売り上げが8%増えたといわれています。Jリーグの名古屋グランパスも、この方式を導入しました。ある程度需要に応じて、値上げをすることは、農家の生産意欲を高める方策にもなります。

 ファンはチケットを得るために、一定の負担を喜んで引き受ける姿勢ができてきたようです。選手もアーテイストも、そして農家も、コアなファンには、不利益を与えたくありません。チケット販売の場合、大切な対象者はこのコアなファンになります。AIは、入場者数と売上げが最大になる価格を重視します。ここに、コアなファンの優先度を高くする仕組みを導入すると面白くなります。売上の最大化ではなく、ファンのコア度を加味した販売システムをつくるということです。コアなファンの存在は、Jリーグでもステージでも継続的に繁栄させる基礎になります。コアなファンの見極めと、彼らにチケットの優先的に配布(コメの優先的配布)を行うダイナミックプライシングの仕組みの構築も面白いかもしれません。

 余談ですが、今回のコメの高騰で、農家の方が豊かになったとは言えないようです。農家の方に価格の転嫁が、十分になされていないのです。コメの消費は、安定したものであることが望ましいわけです。消費を安定し、農家だけでなく、コメの生産地にある観光施設との相乗効果を高めることも案があります。その一つの案として、修学旅行の利用があります。福島県の児童生徒の人数は、小学校の児童数は86,804人、中学校の生徒数は46,148人、高等学校の生徒数は45,647人になります。約18万人の児童生徒がいます。この児童生徒で、小中高の修学旅行や宿泊訓練を、観光地の会津で行うことにします。1人1泊1万円として、2泊3日の修学旅行や宿泊訓練をすれば、36億円のお金が地元に落ちることになります。さらに、県教育委員会による学校行事の調整を行います。福島県の修学旅行を一斉に行うのではなく、1年間を通して継続的に行うことにします。36億円÷365日=約1千万円、18万人÷365日×2泊=約1000人となります。会津地区に、年間を通して、毎日1千万円のお金が落ちていき、旅行客は毎日1000人訪れる仕組みを作るわけです。ここに県内とは別に、国内旅行者やインバウンドなど合わせると120万人の旅行客が加わります。ここで消費されるコメの量は、安定したものなる可能性があります。会津は、只見線が走っています。地図を見ると分かりますが、この線路が新潟県に入ると、そこは魚沼産で有名な魚沼地区です。ある意味、只見線の走る会津地区は、魚沼地区と同じようなコメの産地になります。豪雪地帯という気候も似ており、美味しいコメが獲れる地域なのです。

 最後になりますが、ふるさと納税でコメを手に入れている方は、一定数これまでもいました。これは、農家を支援することにもつながっていました。今年は、この一定数が異常に増加したのです。最大産地新潟県の自治体では、ふるさと納税が急増しています。8月の寄付件数が、前年比4.3倍にのぼったのです。新潟の場合、今申し込んでも実際に届くのは10月以降になるようです。これだけの需要があるのであれば、面白いサービスを提供できるかもしれません。たとえば、2025年のゴールデンウイークで話題になったのは、道の駅でマスにコメをどれだけ積んでも500円というイベントが人気を集めました。これをヒントに、玄米30㎏の一袋を予約者に限り、1万円で買えるなどのイベントも面白いかもしれません。条件は、自家製米機を持っている人に限るなどにします。毎日、玄米を精米すると、美味しいお米を食べることができます。コメをふるさと納税で各地に送るより、来てもらって持って帰っていただく事が、コト消費として満足のいくことになります。会津にコメを獲りに行くとき、会津の名所旧跡を見たり、美味しいソースカツどんや新ソバを食べたり、喜多方のラーメンを食べるなどのコト消費を楽しむことができます。コメを安定的確保すると同時に、コトの楽しさを享受するふるさと納税も選択肢の一つになるかもしれません。

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