コメ農家に厳しい政策が、とられてきました。政府は米価格を維持するために、他の作物への転作に補助金を出すなどし、生産を減らしてきた経緯があります。結果として、コメの需要は減少傾向にありました。このしっぺ返しではないのでしょうが、困った現象が現れました。2024年9月23~29日に全国のスーパーで販売されたコメの量は、前年同期比で24%も減ったのです。2023年9月に1718円だったうるち米の平均価格は、2024年9月には2525円まで上昇しました。農林水産省は、新米の流通で品不足の減少が落ち着きつつあると国民に呼びかけています。でも、コメの価格は高止まりしており、消費者は購入を抑えている状況があります。その間隙を見て、パンや麺の企業が攻勢をかけてきています。消費者の側にも、コメから食パンや生麺に乗り換える状況が発生しています。たとえば、相次ぐ値上げにより販売の減少が目だっていた食パン(6%増) や生麺(10%増)がプラスに転じています。食品各社が、高騰するコメに代わる製品に力を入れているのです。米食を中心に据えてきた日本の食事のスタイルが、変わるかもしれなという識者も出てきているようです。今回は、稲穂の国の重要な穀物を安心価格で手に入る仕組みを考えてみました。
スーパーでは、興味深い現象が見られます。かさ増しのために白米に混ぜる家庭用もち麦の8月の売上高が、前年同月比で44%増えたのです。団塊の世代には、なじみの麦飯が復活したというわけです。穀物食品大手「はくばく」(山梨県中央市)では、もち麦の8月の売上高が44%も増えました。この家庭用もち麦の売上は、9月にも30%増と急増しています。昔の麦飯とは違い、このもち麦の昧が良くなっているようです。もち麦が、小売店でコメ売り場の近くで販売され、消費者に支持された経緯もあるようです。家庭用もち麦は、品種改良で昧が良くなったのです。企業は、炊飯のかさ増しができるもち麦の生産体制を整え、コメ不足の特需への対応を急いでいます。さらに、各社は炊飯のかさ増しができるもち麦の生産体制を整えたり、即席麺の増産に励んでいます。サンヨー食品の即席麺「サツポロ一番」は、販売が急速に伸びているようです。
コメの高騰を受けて、パスタやカップ麺の売れ行きが好調です。日清製粉グループの日清製粉ウェルナは、8月のパスタの販売数量が前年同月から10%伸びています。サンヨー食品の4~9月の袋麺の出荷量は、前年同期と比べ10%超伸びました。8月26日から始まる週には即席カップ麺や乾パスタが大幅に増えました。生産体制にも、変化が現れています。お盆明けから9月中旬まで、工場の稼働時間を通常の16時間体制から24時間体制に変更し、増産に努めています。一時的な変化だけでなく、長いスパンの変化も見えるようになりました。日清製粉は、2025年1月納品分の業務用小麦粉でパンに使う商品を値下げすると発表しました。この発表は、一度値上げしたパン関連の製品価格が引き下げにつながるとの指摘も出てきています。高いコメと値下げしたパンという構図は、コメ農家に不利に働きます。今回の特需で、パスタや即席類が消費者の広い支持を得れば、米食離れを促す可能性もでてきます。でも、今のところ食品各社は、生産設備の増強のために投資に踏み切る動きは見られません。日清製粉ウェルナなども、「パスタの需要増には対応するが設備増強は考えていない」と話しています。
2023年は、パンや麺関連の食品の値上げラッシュが続きました。輸入に頼る穀物の値上げが、私たちの台所事情を直撃しました。このまま、「食料が輸入できなくなったらどうするのか」などと、心配する方も増えてきたようです。一般に、食料自給率には、2つの種類があると言われています。その1つは、平時向けの「生産額ベース」になります。この生産額ベースの自給率は、日本の場合71%になります。これは、付加価値の高い作物を作って、高い商品として国内外の市場に供給するものです。もう1つは、非常時向けの「カロリーベース」になります。この自給率は、38%になります。日本が大きな災害や紛争に巻き込まれた場合に、国民が必要とするカロリーがどの程度確保できるかの目安になるものです。現在のところ、62%のカロリーに相当する穀物などを輸入に頼っていることになります。ここまでは、良く知られていることですが、実は食料に関する数字としては「食料自給率」の他に、「食料自給力」というものがあります。この自給力は、日本において「農林水産業が有する食料の潜在的生産能力」を表した数字になります。たとえば、全国の田畑を全てイモ畑にしたらどのくらいのカロリーを供給できるのかという数字です。この食料自給力は、計算上、日本人の必要カロリー量に対して100%を超えています。ある面で、セイフティーネットが成立しているようです。問題は、カロリーベースの自給率になります。国際情勢は、緊迫度を増しています。穀物の輸入が、いつも確実に、安定した価格で輸入されるとは限らない状況が生まれつつあります。国内の自給率を確保するためには、農地、農業に従事する人、消費者、流通経路とその移動などの要素が重視されます。日本の状況を見ると、農地の荒廃が進み、農業に従事する方は高齢化し、消費者は、コメ離れが進み、流通に従事する人は激務に耐えています。この課題を、解決することが求められえいます。その課題解決ヒントが、原宿の銭湯にありました。
東急プラザ原宿の目玉のーつが、90年続く東京・高円寺の銭湯「小杉湯」2号店になります。原宿の新施設の新店の場合、立地の効果を生かし売り上げをつかみ、認知度を高めるのが通常のパターン認知度を高めるのが通常のパターンになります。この小杉湯2号店(ハラカド)は、面白い手法を使ったのです。都会の銭湯の場合、普通なら人気のサウナを作り、安定的な客数を集めるのが常とう手段になります。このハラカドは、あえてサウナを作らず、風呂を純粋に楽しむ「銭湯」スタイルにこだわっています。さらに、当初に限ってですが、お客を地元住民の方に限定してオープンしたのです。ハラカドの小杉湯は、利用者を地元・原宿の住民や働く人だけに限定したわけです。この大胆な主旨は、長期的に銭湯を運営していくには地元の「コア客」の信用獲得が欠かせないことにありました。さらに、従業員の待遇にも破格の優遇策がありました。その待遇は、週休3日で終身雇用というものです。あくせくしないアナログな経営姿勢のためか、離職者はゼロで推移しています。スタッフが無理なく働けることが独特の雰囲気を醸し出し、地元のよいお客様が集まるという相乗効果をもたらしています。
ハラカドの開業日は、2024年4月17日になります。実際の客数は、4月21日日曜日が200人弱で、翌日の月曜日が145人でした。これは、想定を超えた数字になったそうですハラカドの営業時間は、午前7時から午後11時までです。開業当初は、午前7時から午前11時までは地域客限定にしたのです。そして、5月12日までは午後の時間帯である正午から午後6時の営業を休止したのです。さらに、午後6時から午後11時までは、原宿に加え、周辺の神宮千駄ケ谷などと再びお客を限定しました。「規制」を緩めるのは、5月13日からになりました。営業を休止していた午前11時から午後6時までを、初めて一般向けに開放したのです。フルオープンとなったのが、8月1日からで、9月22日日曜日は500人を超える銭湯の利用者になりました。洗い場が3倍近い高円寺の1号店は、日曜日で800~1千人の利用客になります。それと比較しても、3分の1の2号店の効率は、非常に効率の良いものになっています。この銭湯の良さは、地元の方をコアなお客にし、従業員の方が安心して働ける職場環境を提供していることです。もちろん、お店全体として、利益を上げているようです。
最後になりますが、今回のコメ騒動を冷ややかに眺めていた知人がいます。彼は、20年以上前から、会津の農家からコメを契約購入しています。価格は、農家の方の提案で、コメの値段が上がっても下がっても、同じ値段で取引することになっています。今回の様に、急騰しても、昨年の値段で購入できたと喜んでいました。秋の収穫時期と春の桜の時期に、会津の農家を訪れて米を購入しています。秋の紅葉と春の桜を楽しみに、訪れているようです。もちろん、会津のソースカツどん、新そば、そして喜多方のラーメンなどの食の楽しみも味わっています。1年間のコメの確保と美味しいコメを堪能しているのです。彼に言わせると、小麦や大豆などは輸入に頼るケースが多くなり、国際情勢が不安定になれば、価格もそれに不安定になります。2022年から2023年のパンやカップ麺の値上がりは、その不安を実証しています。コメはその点、日本国内で安定的に確実に作られています。農家の方も、契約購入している方が一定程度いれば、安定した経営ができます。今回のコメの高騰は、政府の減反政策が一つの要因になっている面もあるようです。農業に従事する若者が、急減しています。若者が、農業に魅力を持つような政策が望まれるところです。そのヒントが、都会の中の型破りな銭湯になります。これからは、農家の所得を上げ、労働の軽減を図り、消費者にコメの安定供給を計ることが求められます。そのためにも、3世代の農業経営ができるようになれば、日本の食料安保が少し改善されるかもしれません。