高齢者の中には、「いやあ、ボケたくないからね」と言う方が増えています。そのためには、いつでも歩ける体にしておくことが秘訣になるようです。「身体の機能が衰えると脳も衰える」という説は、医学的にも証明された事実でのようです。病院や施設では、ベッドにいる時間が長いお年寄りにも、つとめて歩かせようとする光景が見られます。歩かせることが無理なら、せめて指先の運動だけでもさせようとします。指を開いたり閉じたりするだけでも、脳への血行を促進し、退化を一定程度食い止めることができるそうです。健康のために適度な運動が大事とは、身体だけでなく、同時に脳にもいえるようです。厚生労働省によると、2022年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳になります。健康上の問題に制限されずに日常生活を送れる期間を示す健康寿命は、2019年時点で男性が72.68歳、女性が75.38歳でした。健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年とされています。ある意味で、余生を男性が9年、女性が12年の不自由な生活を暮らすことになります。今回は、この9年から12年の不自由な生活を経ることなく、乗り越える工夫やアイデアを絞り出してみました。
老後においても、日常生活が円滑に過ごせる身体機能の維持増進は大切です。老化は、足からといわれています。高齢になり下肢の静脈弁が劣化してくると、弁が十分に閉じなくなります。この弁が劣化すると、血液は上方の心臓に向かって流れにくくなり、逆流してしまう症状が出てくるのです。逆流すると静脈弁の上側で、血液は滞り凝固しやすくなります。この症状では、特に注意の必要な病気が糖尿病になります。糖尿病が悪化し、足の血液の流れが滞ると足を切断するケースも出てくるのです。不健康な血管内壁は、血栓性因子の働きを強め、血液凝固が起こりやすく血流が滞りやすいという症状になりがちです。一方、健康な血管内壁は、血栓を作りにくい因子が増えて、血液凝固が起こりにくく、血流がスムーズ流れるという現象を作り出します。ここに、第二の心臓と言われるふくらはぎが、筋肉のポンプの働きをします。ふくらはぎの筋肉を使うウオーキングが、継続的に行われると効果があるという理由になります。早い時期から筋トレや強めの有酸素運動をすれば、病気や認知症のリスクも減少します。速く歩ける人は、歩き方の遅い人に比べて死亡率が5分の1も低いという統計もあります。
筋肉を使えば良いことは、シニアも分かっています。でも、若いころのような筋力もなくなり、長時間にわたる活動も難しくなる現実があります。歳を重ねてからは、つねに心と体の状況を勘案しながら活動を心がけます。たとえば、台布巾は絞る力が弱くなったので、ガーゼのハンカチを使います。板は、軽くて洗いやすいプラスチック製のものを愛用しています。先輩は、自分の体の衰えを客観的にとらえることが大切だと諭します。その一方で、負荷やストレスも必要と述べます。筋肉を使えば、筋肉は肥大します。脳を使えば、脳も肥大します。適度な負荷が必要であることも述べています。わざわざウオーキングをするのではなく、仕事や家の用事のついでに体も動かす工夫をしています。先輩曰く、「ついで運動」の習慣を、家事の中に組み込んでいます。牛乳を火にかけて温めるときの隙間時間には、流し台につかまってスクワットをします。先輩の家の台所は、あえてあちこち動き回りながら作業するように物を配置してあります。 動き回りながら作業するほうが、日々料理をする中で、自然に体を使う機会が増やせるわけです。家の中で楽をするより、ちょっと「バリア」を残しておくのです。バリアフリー化が進む世の中に、逆らっているようです。ちょっとした「バリア」が、年齢とともに失われていく自分の能力を少しでも守り続けるというわけです。21世紀型の技術に依存しすぎると、健康寿命を短くしてしまうと先輩は言うのです。
生活の中では、「おもしろいな、わくわくする」「やっていて楽しい」「幸せ」という感情が大切になります。会社勤めをしていた時には、労働時間が8時間、生理的時間が8時間、余暇が8時間という3区分でした。1年間で働く労働時間は、8時間×365日+7× (7日一2日)の計算で2080時間になります。でも、高齢者の余暇時間は、1日16時間になり、1年では5840時間になります。この5840時間を、楽しく過ごすことがシニアの義務でもあり権利にもなります。3600万人のシニア世代が健康であることは、社会全体の利益につながることになります。楽しく生きるだけで、社会に貢献できる恵まれた立場になります。この楽しく生きることが、意外と難しいのです。シニアは、楽しく生きるためのスキルを見つける必要があります。
たとえば、体によいウオーキングです。経験則からは、歩く姿勢や正しい歩き方が重視されています。理想的な歩行は、足指から押し出す力が、ふくらはぎ、ひざ、そして太ももへと伝わることになります。足指から押し出す力が、ふくらはぎへ動きが円滑に伝わらないと、正しい歩行ができないのです。足のアーチで体重を受けとめる歩き方は、蹴り出す力を生み出すことで効率よく歩けることに繋がります。足の指に体重がかかった状態で歩くと姿勢がよくなって歩行がきれいにみえます。このような歩き方をすれば、むくみや冷えが解消することが分かっていたわけです。もちろん、正しい歩行は、血栓症なの症状から身体を守ることになります。このようなウオーキングを、年間1000時間かけてマスターすれば、楽しい老後を送れます。また、免疫細胞が正常に機能しているときは、ガン細胞は休眠状態になり、ガンは悪化ないという知見があります。健康の状態が悪化した場合に、ガン細胞が活動を始めるようになります。ガン細胞の活動を抑制するものには、笑いがあります。笑いによって明るさを保っている人は、がん細胞の増殖が抑えられることが経験的に分かっています。この笑いのスキルを得るには、どうすれば良いのでしょうか。これも、1000時間の学習が解決してくれます。笑いをいつでも身の回り準備し、笑いを享受できる仕組みを作ることです。常に聞くためには、落語のコンテンツを身の回りから取り出せるようにしておくことです。NHKのラジオ番組から、録音を取って収集することが可能です。何はともあれ、自分が楽しくなる落語を集めて、聞くことです。それらを聞き続けることで、疲れにくい体になり、病気が少なくなり、明るい人柄になっていく方もいるようです。
余談になりますが、健康を求めすぎると困ったことに巻き込まれることもあります。ある100歳を超えた先輩は、「私が子どもの頃の血圧は、年齢プラス100が基準と言われていました」と述べていました。今は、血圧を120~130 に下げないと、いつ倒れてもおかしくはないなどとテレビコマーシャルで脅される時代です。いつの間にか100歳の人まで、120~130でないといけないとなってしまったのです。先輩の長い人生から得られた知見から、この変遷を分かりやすく解説してくれます。高血圧の基準値を下げると、高血圧の患者数が増えます。患者が増えれば、薬が売れて儲かります。少子高齢化になり、人口の多い70歳代の人々は、大部分が120~130の範囲に入ってしまいます。投網に掛けられるように、患者が増えて薬を飲まされる構図ができてしまったというわけです。健康な人には薬を出せませんから、病人にして薬を服用させる仕掛けを作ったということです。一般に5種類以上の薬を服用すると、副作用の率も高くなります。85歳以上の高齢者は、6.4種類の疾患をもち、6.8種の薬を服用していたという地域もあるようです。健康をあまりにも求めすぎたために、かえって副作用による不健康を助長するという情況も生まれているようです。近年問題になったことに、サプリメントの問題が起きました。健康という甘い蜜には、いろいろな利害が群がってくるものです。そこを自分の知恵で、達観する学習も必要のようです。
最後になりますが、もっと楽しい生活を希望するのであれば、食事は一定の栄養を満たした食事が求められます。運動も一定の量を確保しながら、楽しいものにしたいものです。そして、睡眠は、疲れを取ることはもちろん、次の行動の糧にするようにしたいものです。さらに、運動や食事の部分最適ではなく、生活の満足という全体最適を実現できれば、幸せの領域に入ります。ここで注しなければならないことは、食事も運動も睡眠も、そして雑多な情報の断捨離を自分の判断で行うということです。これらのことがスムーズになるまでには、1千時間から1万時間の学習を注いできたわけです。あるシニアが、百歳まで現役でキッチンに立って自分の食べるものは自分で作りたいと話していました。でも、年齢とともに出来ないことも増えてきます。百歳を目指すのであれば、すべてのことをやることはできないことを認めることが第一歩になるようです。その判断基準を、自分なりに作ることができます。いろいろなトライ&エラーを繰り返していくことで、判断基準が養われます。たとえば、高齢者は複数の作業を同時にやるとミスが多くなります。一つのことに集中し、別の作業を忘れてしまうのです。このミスを避けるには、洗う、切る、火を使うという3つの仕事を同時にしないことになります。鍋を火にかけたら、そばを離れないことを第一にします。「キッチンは電気とガスのどちらがいいのか?」と聞かれたら、迷うことなく電気と答えることができれば、判断基準ができている人といえるようです。できることは全力でやり、できないことはできないと割り切ることになります。そして、そのできることにも、リスクを回避する仕掛けを生活の中に組み込んでおく知恵も大事になります。