2023年度の文部省の調査では、に公立の教員で休職した先生が、過去最多になりました。2021年度に公立小中高校と特別支援学校で、精神疾患を理由に休職した先生は5897人でした。それが2年後の2023年度に公立の小中高校と特別支援学校で精神疾患を理由に休職した教員は、7,119人と3年連続で過去最多となりました。休職した先生は2021年度より1222人多くなり、この人数は過去最高になったという悲しいものでした。悲しいことを、嘆いてばかりいても解決にはなりません。その対策を着実に行っている教育委員会もあります。山形県では採用5年目までの小中高教員の退職者数が、2021年度は30人になりました。このうち精神疾患などによる退職者は、2018年度が2人、2021年度は7人になったのです。このような状況を改善するために、山形県は中学や高校では普及している教科担任兼学級副担任を小学校にも導入しました。その一つに、新人教員は教科担任と学級副担任を兼務しながら、先輩教員から学級経営などを学ぶ仕組みも取り入れました。新人教員は、先輩教員の授業見学や教材の研究、副担任としての事務作業などに充てることができるようになりました。また、新人教員は学級担任になる場合も、「新採教員支援員」を配置する仕組みも取り入れました。支援員は、週5~8コマ程度の授業を代わりに受け持ちます。この取り組みで、新人教員は平均で週6時間程度の空き、時間を確保できるようになりました。山形県は、2023年度、106人の小学校の新卒採用教員を採用しました。106人のうち精神疾患による特別休暇の取得や退職はゼロだったのです。今回は、精神悩みを減らして、健全な社会生活をするために、制度的支援ではなく、個人が行う知恵を考えてみました。
アメリカでは「ヨガ」や「マインドフルネス」と並んで、「森林浴」が注目を集めています。森林浴では、「フィトンチッド」が注目を集めています。「フィトンチッド」は、樹木が発散する揮発性物質です。これを直訳すると、「フィトン（植物が)+チッド(殺す」となり少々危険なイージを持つ物質になります。これは、樹木や草が有害な物質等から自分の身を守るために発散している成分になります。フィトンチッドの成分は、消臭効果や脱臭効果をもっています。このフィトンチッドのおかげで、空気が浄化され、森林内が清々しい空気で満たされているわけです。この成分は、主に針葉樹が放つテルペン類の香気成分になります。テルペン類の香気成分には、aーピネン、カンファー、ヒノキチオール、リモネンなどがあります。この香気成分を浴びながら、都会の人は森林の中を歩くとき、身も心もリフレッシュされ爽快な気持ちになるわけです。森の香りが、人びとを心地良い状態に導くようです。この香りは、植物の葉などから植物独特の揮発物質を発散しているものです。森の香りを私たち人間は、総じて心地良いものとして受け取っています。文明の進んだ都市に長く住んでいると、この森の香りが恋しくなります。
香気成分のaーピネンは、針葉樹から放出されます。このaーピネンは、副交感神経を優位にする働きがあります。森林浴をおこない樹木の下を歩くと、副交感神経が優位になることが知られています。副交感神経が優位になると、自律神経の安定を促し、リラックス効果が期待できるというわけです。面白いことは、フィトンチッドの作用が一方向ではないということです。リラックスをもたらすフィトンチッドは、高血圧の人の血圧を下げてくれる作用もあります。森林浴で、ストレスホルモンが減少してリラックス状態に導かれ、血圧や心拍数が安定するようになります。一方で、血圧が低すぎる人は、健康とはいえません。そんな血圧が低く気分かすぐれない人も、森林浴によって、血圧が正常値に近づくという良い状況が生まれます。さらに、森林浴ではナチュラルキラー細胞が活性化するのです。ナチュラルキラー細胞は、リンパ球の一種になります。この役割は、身体の中でウイルスに感染した細胞や一部のがん細胞を認識して攻撃するものです。さらに、リモネンは免疫機能とストレスホルモンに有益な効果があるのです。アメリカで評価されている点は、森林浴を行った後も持続効果が認められたことです。それは、30日が経ても持続効果が認められたのです。月に1回ほど、森林浴をすれば、身体は常に高い免疫機能を維持できる可能性を示しているわけです。
自律神経から良好な状態を概観すると、交感神経と副交感神経がバランス良く働いていることになります。交感神経が活発の時は、心身の活動が積極的になります。そのために筋は緊張し、血糖値は上がり、心拍数や血圧が上がります。副交感神経が活発な時は、心身の活動を休息に向かわせます。疲れた身体を休ませるわけです。筋は弛緩し、血糖値は下がり、心拍数や血圧も下がります。このような２つの神経がバランス良く機能している場合、自律神経が良好といえます。この自律神経に強く影響を与える要素は、血圧、心拍数、体温、呼吸数、筋緊張になります。この中で、呼吸だけが自分の意思で操作できる要素になります。この操作は、インドや中国の数千年に渡る歴史の中で有用な文化を生み出してきたのです。インドのヨガや中国の太極拳などは、この呼吸の操作によって生み出されてきたものです。例えば、会議のプレゼンテーションで、上がって頭が真っ白になってしまったとき、呼吸法によってこの過緊張を和らげることができます。過緊張は交感神経が活発になることによってもたらされます。ですから、副交感神経を活発にして、交感神経の作用を相殺すれば良いことになります。ゆっくりした呼吸は、副交感神経を優位にします。5秒間吸って15秒間吐く呼吸を3度繰り返すという1分の深呼吸で、「過緊張」を「適性緊張」に持っていくことができます。この他に、腸が動くと副交感神経が優位になりという方法を利用することもできます。コップ一杯の水を飲むだけで、副交感神経が優位になります。
フィトンチッドやフェロモン香りを捕らえる脳は、人間では原始的な本能に近いものがあります。嗅覚は視覚や味覚と違い、シナプスを介さず直接脳に情報を伝える構造になっています。この臭覚は、食べ物の安全性の確認や外敵を察知したりするものです。生きるために不可欠な感覚です。嗅覚は、人間の生存にとって最重要といえものです。これは、食べ物を見つけ、フィトンチッド、そしてフェロモンを感知する生きるために不可欠な感覚になります。私達は良い香りを嗅いだ時に、気分が晴れやかになり、不安感やうつ状態が改善されることを経験しています。グレープフルーツの匂いを嗅ぐと、多くの人は新鮮で活動的な気分なります。この香りを嗅ぐと交感神経は活性化し、胃の副交感神経は抑制されるのです。グレープフルーツの香りは、グリセロールの濃度と体温が上昇させ、食欲が低下させる働きがあります。一方、ラベンダーの匂いを嗅ぐと、たいていの人は穏やかでリラックスした気分になります。ラベンダーの香りは、交感神経の活動を抑え、胃の副交感神経の活動を活発化させる働きがあります。香りを上手に活用すれば、私達生活のリズムを改善する上で役に立つことになります。
以前から、「病は気から」という気持ちの持ちようが言われてきました。その病気との関係では、ネガティブな感情が重要視されていました。ネガティブ感情を持つと、「ストレスが増しますよ」とか「病気の進行が早くなりますよ」という具合です。気持ちの持ちようと病気との関係では、不安や怒りなどの感情が重要視されてきたわけです。でも、最近は違う流れが出てきました。強さやしなやかさ、幸福感、感謝といったポジテイプな感情が注目されるようになってきたのです。ポジティブな感情を強めることで、病気の予防や健康増進の手法が注目されているのです。ポジティブの代表には、笑いがあります。たとえば、笑うと自律神経へ影響を与えます。この影響で、活動時に高まる交感神経が活性化します。そして、笑った後はリラックス時に優位になる副交感神経に切り替わることが分かっています。交感神経がいつまでも活性化していることは、心身に悪い影響を与えます。同じように、副交感神経がいつまでも働いていることも、心身に悪い影響を与えます。適度に、交互に働くことが望ましいわけです。笑いは、この切り替えを行う有意義なツールになるわけです。10秒間笑顔を作ると、副交感神経がオンになって過緊張がやわらぐといわれています。「笑顔を作ろう」といっても、そう簡単ではないという人もいます。でも、普段から「笑顔トレーニング」をしていれば、どんなタイミングでも笑顔が作れるという人もいます。割り箸をくわえるだけで笑顔を作るとわかれば、これを利用しない手はありません。
最後になりますが、現代はストレス過剰社会になっているようです。この過剰なストレスに、対応していくスキルが求められています。このスキルは、一夜漬けでは身に付きません。1000時間や1万時間の学習や訓練によって獲得できるものです。自分の好きな森のコースを10ほど用意し、週末に歩くことも一つの方法でしょう。ヨガなどの呼吸法も、その一つになります。また。グレープフルーツの香りやラベンダーの匂いを状況に応じて、用意するという方法もあります。笑いが良いと言う方は、落語のCD全集を揃えて、状況に応じて聞くことも一つの方法になります。すぐに笑いが欲しい場合には、割り箸をくわえるなど余興も効果的です。相手が笑えば、自分も楽しくなります。笑いは伝染する特徴がありますので、自分が笑えば相手も笑う流れがでてきます。要は、自律神経系を安定させることです。それは、交感神経と副交感神経系の活動のバランスを取ることでもあります。そんなスキルを、身に付けて、ストレス社会を楽しく過ごしたいものです。
