ストレスがあることが、必ずしも心や身体に悪影響を及ぼすわけではありません。ストレスとその許容範囲を自分で自覚できれば、ストレスは良い作用をもたらすことも分かってきました。失敗や達成感を経験することは、私たちの生活にとってとても大切なものになります。でも、許容範囲を超えるストレス(心の負担など)のために、精神的に悩む人々が増えているのです。精神医療を必要としている患者は、1999年に204万人でした。それが、2017年には400万人超えてしまったのです。昭和時代の精神科病院に一度入院したら、社会に戻れない場所というイメージがありました。当時は、軽症のうちに受診する人は稀だったようです。現在では、メンタルクリニックがあちこちで登場し社会に戻れない場所というイメージは払拭されました。むしろ、軽いうちに治療して、社会生活を円滑に送るスキルを身に付ける賢い人が増えているのかもしれません。今回は、過度のストレスに対する個人のスキル向上を考えてみました。
ストレスに対する処方には、いくつかの有用なものがあります。セロトニンは、ストレス耐性(stress tolerance)を強化するホルモンになります。このホルモンが欠乏すると、情情緒や行動のコントロールが難しくなります。セロトニンは、情緒や行動の統制に関連する神経伝達物質になります。また、セロトニンは睡眠に関わる物質でもあります。これが不足すると、睡眠障害や不安感などマイナスの精神症状に陥りやすくなります。であれば、このホルモンの分泌を促す食事をすれば良いことになります。セロトニンの原料は、必須アミノ酸の「トリプトファン」です。この必須アミノ酸は、体内で必要量が生成できないため、食事からとる必要があります。トリプトファンを多く含んでいるのは、肉、魚、豆類といった食材を適正に摂取すれば、1つの対策になります。2つ目の対策が、「レジリエンス」になります。「レジリエンス」とは、ストレス耐性と比較すると、回復する力の要素が強調されるようです。レジリエンスは、先天的なものではなく、トレーニングによって高めることができます。日常生活で意識的に実践することで、より困難な状況にも対応できるようになります。これらの能力を継続的に高めて、怒り、落ち込み、不安などの状況を適切に乗り切るスキルとも言えます。3つ目が、セルフコンパッションになります。「失敗や苦痛に対する優しさ(癒やし)」であり、ストレス耐性はストレスそのものに対する耐久力で、レジリエンスは回復力で、セルフコンパッションは、癒しということになります。自分に優しく思いやりを向けるセルフコンパッションが、逆境を乗り越える力になることがわかっています。さらに、ストレスを減少させるだけでなく幸福感を高めることもできます。その高める方法は、シンプルです。セルフコンパッションの1つに、自分の肩にトントンと優しく手を添えたりすることや両手で自分をぎゅっと抱きししめることがあります。自分なりに落ち着くジェスチャーや自分に優しさを向けられるジェスチャーを、いくつか持ことに癒しを求めるわけです。
ストレスをなくす研究は、長年にわたって行われてきました。残念なことですが、生活からまったくストレスをなくすことはできません。その中で、ストレス耐性・レジリエンス・セルフコンパッションを自由に操れる人達は、自然にストレスに対して、上手に対処しています。彼らは、ストレスに対処する方法やストレスを減らす方法を知り、ストレスに支配されるのではなく、ストレスをコントロールするスキルを身に付けています。彼らの行動を見ていると、ストレスが人の成長につながるというプラス面も持っていることが分かります。ストレスを乗り越えた経験が、達成感をもたらす喜びとなり、その人の自信となるケースもあります。ストレスを乗り越えた経験が達成感の喜びとなり、次に出合うピンチをチャンスに変える力に変えているようです。ストレスがあることが、必ずしも心や身体に悪影響を及ぼすわけではありません。ストレスとその許容範囲を自分で自覚できれば、ストレスは良い作用をもたらすことも分かってきました。失敗や達成感を経験することは、私たちの生活にとってとても大切なものになります。
現代社会はストレスがたまりやすい環境にあります。ストレスの過剰な蓄積により、ホメオスタシスが崩れることもあります。ホメオスタシスの乱れにより、引き起こされる反応は、身体面・心理面・行動面に見られます。身体面での反応は、息切れ、食欲低下、胃痛、便秘、下痢、不眠などの症状が現れます。心理面では、やる気が出ない、興味が湧かない、体が重く動かない(精神運動制止)などの症状がでてきます。さらに、進むと、自分を責めたくなる(罪責感)、生きていたくない、死にたいと思うなどの症状に至ることもあります。近年、メンタルヘルスに関する国際的な調査よると、異なる文化圏を問わず、女性の抑うつや不安の症状が増加していることが分かりました。現代の女性は、学業や職業上の成功と伝統的女性の役割(子育てや家事など)も求められ、二重の心理的負担を負っています。さらに、若い女性は、ネットの影響を強く受ける立場になっています。東京都の10~16歳を対象の縦断調査では、不適切なネット利用が抑うつと関連していました。ネットが急速に思春期の生活に浸透したことで、ひと昔前と比べてリスクが大きくなっています。以前は、セクシュアルハラスメントや性暴力の被害が対面でのみ発生していました。近年では、オンライン上での被害が多くなっているのです。特に、日本では得意な現象が生じています。日本で2024年、20歳未満の女子の自殺者数(430人) が男子(310人)と初めて上回ったことです。10年前は、女子が165人、男子が373人でした。男子が多く、女子が少ない傾向は長く続いたのですが、これが逆転したのです。男子の自殺者数が横ばいである一方、女子の自殺者妾だけが2.6倍に増えました。女子の自殺者数だけ増える実情は我が国では初めてであり、世界的に見ても異例と言われています。女性は平均年齢や健康寿命の観点からも、男性より健康とみられていたのですが、若い女性に関しては異なる状況が生まれているようです。
どのようにすれば、悪化する状況を変えることができるのでしょうか。行動面での反応は、ネガティブな行動、ひきこもり(登校拒否・出社拒否) になるなどとして現れることもあります。ストレスが過剰になり、その人の許容範囲を超えたとき心身などにさまざまな悪影響を及ぼすことになります。自衛の策としては、ストレスが慢性化することを避けて、健康を損なうことがないように工夫することになるわけです。この工夫の1つに、前にも述べたように、セルフコンパッションがあります。たとえば、テストで失敗したとき、自分に厳しい言葉をかけたほうが良いと思うのは間違になります。実は、自分に思いやりや励ましを向けるほうがやる気につながることもわかっています。失敗すれば、ネガティブ感情が生じるものです。この感情が、ストレスとなって、身体や精神に良くない影響を与えることもあります。一方、テストで良い成績を取ることができれば、ポジティブ感情を感じることで次の行動のエネルギーになることもあります。それでは、ネガティブ感情を軽減するには、どうすれば良いのでしょうか。経験的には、1つのネガティブなことを感じたら、その3倍ポジティブなことを感じられれば良いとされています。3倍ポジティブなことを感じられれば、ネガティブ感情を乗り越えられるというわけです。
最後になりますが、現代人は健康に対して非常に注意深くなってきています。肥満になれば、肥満の薬を買い求める行動に励みます。健康に気を配るあまり、健康が人生の手段ではなく人生の目的になっている人もいます。現代人は健康でさえいれば死なないかのような思い込みのなかで生きている人もいます。昭和の初期は、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームの概念がありませんでした。平均寿命が短かった頃の人々はもっと自分の身体を自分の好きなように取り扱っていました。健康に注意を払うことは大切です。でも、過剰に過敏になるのは、かえってストレスを過度に高めることになります。健康に良いことを押しつけられると、かえって健康を害するという事例もあるのです。フィンランドの上級公務員に、健康に良い節制を求めた事例がありました。40~45歳の公務員に定期検診、栄養学的チェック、タバコや酒の抑制を求めるものでした。もちろん、拒否できる自由はあります。そこで守ったグループと無頓着なグループの結果は、驚くべきものでした。健康管理に無頓着な集団が、循環器系、高血圧、死亡、自殺のいずれも少なかったのです。良いからと言って、やらされる仕組みは効果の面で疑問があるようです。患者の悪い点だけを上げて、強制しようとすると、逆効果になる場合あります。個々人に応じたアドバイスを工夫することが必要になります。人間は、純真で我儘な性格を併せ持った動物です。その動物の欲求を満たすような健康処方を、知恵ある自治体や企業に提供していただきたいものです。
