政府は、2023年版の「過労死等防止対策白書」を閣議決定しました。その中で、白書は労働時間が長いほど疲労が抜けにくく、うつ病の傾向が強くなると述べています。労働時間の増加が睡眠不足と疲労の長期化につながり、うつ傾向を助長すると指摘したわけです。この白書は、理想の睡眠時間と実際の時間との差について調査しています。この理想の睡眠時間に関しては、「7~8時間未満」とする人が最も多かったのです。でも、現実は、理想の睡眠時間とは違い、実際の時間は「5~6時間未満」が最多でした。一般に、労働者は週40時間労働です。その中で、週60時間以上働いている人の4割以上が、理想の睡眠時間から2時間以上も不足していたのです。睡眠時間が理想より2時間不足している人は、その3割がうつ病や不安障害の疑いがあるという残念な結果でした。さらに、疲労を翌朝に持ち越すと回答した人のうち、4割にうつ病や不安障害の疑いがあったのです。仕事関係などのストレスによる脳の疲労は、脳の奥のほうの古い皮質にたまっています。この古い脳の疲労は、じっくり眠らないととれないのです。余談ですが、日本の労働時間が長くなったことには理由があります。週5日の8時間労働で週休2日が、先進国では一般的です。欧米では、仕事量が増えると、この8時間労働を守るために、人員を増やすことを行いました。でも、日本では、人員を増やすことなく、1人1人の労働時間を延長することで対処してきました。結果として、日本では過労が増える労働環境ができてきたわけです。今回は、うつ症状にならない対策を考えてみました。
厚生労働省は、2024年の厚生労働白書を公表しました。その中で、「精神病を引き起こすようなストレス」が、大幅に上がったと注意を喚起しています。2004年の5.0%から20年間で15.6%と3倍に増えたのです。日本では、うつ病患者の数が増えていると言われています。厚生労働省によれば、日本の気分障害患者数は1996年が43.3万人です。この後の数年は、43万人で推移しています。でも、2002年は71.1万人、 2005年92.4万人、2008年 104,1万人、2014年は111.6万人と増加をつけています。そして、2022年のうつ病などの気分障害の患者数は、約150万人と推定されるようになりました。厚生労働省の患者調査によると精神疾患を有する総患者数は、258 万人(2002 年)から 419 万人(2017 年)に急増している実態が浮かび上がりました。 実際のうつ患者数は、医療機関を対象にしたこの調査で得た数字よりも多くなっていると見られています。また、うつ病は、一般的に女性、若年者に多いとされます。でも、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病に対する社会経済的影響が大きいことが日本の特徴になるようです。1990年代は40万人で推移していたうつ病などの患者が、2002年頃から70万人に急増しています。あまり関係はないとは思いますが、この時の政権は、国民に人気のあった小泉政権でした。小泉政権は、2001年4月に就任し、2006年9月に、惜しまれて退陣しました。この期間にうつ病などの患者が、急増しているのです。
残念なことに現代社会では、ストレスかたまりやすい環境が整っています。ストレスの蓄積で、ホメオスタシスが崩れることがあります。ホメオスタシスが崩れ引き起こされる反応は、身体面・心理面・行動面に見られます。身体面での反応は、息切れ、食欲低下、胃痛、便秘、下痢、不眠などの症状が現れます。心理面では、やる気が出ない、興味が湧かない、体が重く動かない(精神運動制止)などの症状がでてきます。さらに、進むと、自分を責めたくなる(罪責感)、生きていたくない、死にたいと思うなどの症状に至ることもあります。行動面での反応は、ネガティブな行動、ひきこもり(登校拒否・出社拒否) になるなどとして現れることもあります。ストレスの度合いが、その人の許容範囲を超えたとき心身などにさまざまな悪影響を及ぼすことがわかります。現在、病院の医師が診断を行なうときのうつ病の基準には世界保健機関によるものがあります。・集中力や注意力が低下すること、・自信がなくなり自己評価か低下すること、・将来に対して悲観的な見方もするようになること、・罪責感を持ったり、何事にも価値が認められなくなったりすること、・自傷や自殺の観念が生じた実際に行なったりすることがあること、・睡眠障害や食欲不振がでることなど。これらの症状が約2週間にわたって続くときに、うつ病と診断されます。
ストレスが、心身に大きな影響を会えることは良く知られています。これに関する学説にも、歴史と蓄積があります。1936年に、セリエはイギリスの科学雑誌のネイチャーでストレス学説を提唱しました。彼は、ラットにウシの卵巣の抽出物を与えた場合の反応を観察しました。異物を与え、その反応を調べたわけです。その結果、ウシの卵巣の抽出物をラットに与えた反応では、3つの点が明らかになりました。胃の粘膜からの出血、副腎皮質の肥大、胸腺の萎縮の3つが明らかになったわけです。蛇足ですが、副腎皮質ホルモンは、抵抗ホルモンとも言われています。このホルモンの分泌により、初期においてホメオスタシス維持することに成功しています。さらに、進むと副腎皮質は肥大し、限界まで副腎皮質ホルモンを分泌していきます。最後に、限界を超えて副腎が機能しなくなると死に至る経過をたどることになります。人間には、ストレスに対処する能力が備わっています。でも、極限まで使い切ると死に至ることも分かってきています。適度な使用は、「酒は百薬の長」と同じメリットがあるようです。
もっとも、ストレスは人の成長につながるというプラス面も持っています。ストレスを乗り越えた経験が、達成感をもたらす喜びとなり、その人の自信となるケースもあるのです。ストレスを乗り越えた経験が達成感や喜びとなり、次に出合うピンチをチャンスに変える力になります。ストレスがあることが、必ずしも心や身体に悪影響を及ぼすわけではありません。ストレスとその許容範囲を自分で自覚できれば、ストレスはよい作用をもたらすことも分かってきました。世界中で、多くに人が苦しみ、悩みを持ちながら生活をしています。ある文化人類学者は、人間は苦しみ、悩みながらも、前向きに生き抜く動物であるといいます。「苦しみ」の度合いが進むと、それを乗り越える前向きなシステムを持っているというのです。私たちが20万年前に、ホモサピエンスとなる以前から、この仕組みが作られてきたという説を述べています。苦しみや悩みに耐えて、それをプラスにする遺伝子を増やしてきたというわけです。確かに、成功した人たちを見ていると、困難を克服して、新しい局面を作り出しているケースがあることがわかります。苦しみを克服した遺伝子が、生存や繁殖に有利な結果をもたらしているということです。そして、それを次世代に伝えている進化の過程があるというわけです。欲張りな人類は、進化の過程を学習によって克服することを、時には行ってきました。たとえば、うつ症状の「気分が落ち込んでいる」、「何をしても楽しめない」、「眠れない」、「食欲がない」、「コミュニケーション能力がない」、「仕事に必要な基礎知識がない」などの悩みに対処するスキルを身に付ければ、うつ症状を克服できます。ストレスの原因には、いろいろな欲求の種類があり、それを理解しておくことが、ストレス社会を乗り切り、より高みに引き上げることになります。
余談ですが、小学校の先生を希望する学生が急減しています。そして、せっかく採用されも、すぐにやめてしまうとか、精神的に悩む新採用の先生方が増えている状況あります。東京都の採用に携わる知人から聞いたお話になります。採用に当たっては、心的耐性のある人材に注目すると彼は話していました。教育の世界では、理論と現実には違うものがあります。最近の学校職場は、体調が悪くても休めない環境になりつつあります。疲れているとはわかっていても、ペースダウンすることを職場の状況が許しません。特に、先生は子どもを立派に育てようという義務感にさいなまれています。うつ病になって入院する職業の筆頭ともいえるのが、学校先生になっています。がむしゃらに働き続ける人達は、うつ病に蝕まれやすくなります。良い職業人を演じし過ぎると、ストレスをためてしまうことになります。人間関係にも会社関係にも、「断捨離」が必要な時代です。最低でも、有給休暇を気兼ねなく取れる職場に勤めることが望まれます。知人は、このようなことをできる人材にターゲットを絞っていると言います。要するに打たれ強く、目標達成には柔軟に対応できる人材を求めているというわけです。後は、子どもの成長が、心の糧になるとも言っていました。
最後になりますが、人間には、大きな苦しみが生じたとき、コルチゾールが分泌されます。コルチゾールは、ストレスホルモンともいわれ、苦しみに対抗し、体内の環境を非常事態に備える働きをします。軽い苦しみならば、すぐに正常に戻ります。でも、苦しみが続くと、コルチゾールが分泌され続けることになりますコルチゾールの分泌が長期間続くと、脳や体内の組織が弱体化していきます。いわゆる「うつ」の症状が続く場合、心身が弱ってきます。でも、この最後の守りの武器を使った場合、心身の破壊というリスクを覚悟しなければならないとも言われています。それでは、これらの症状がでないようにするにどのようにすれば良いのでしょうか。セロトニンの働きが弱まると、不安や抑うつ症状を引き起こすと言われます。そうであれば、適度なセロトニンの分泌を行えば良いことになります。セロトニンは、適度な運動と市の高い睡眠によって、分泌が促進されます。適度な運動と適度な睡眠、そして朝起きた時に太陽の光を浴びれば、セロトニンの分泌は確保できます。ストレスが過度になる前に、ストレスを上手に発散させるスキルをいくつか身に付けておきたいものです。各種の趣味、ウオーキング、相談すること、そして断ることなどのスキルは、これからの社会で必要なことになります。