スポーツとお金、そして選手の社会的成功への道筋  アイデア広場 その1445

 イギリスのオックスフオード大学の研究チームは、1960年以降のオリンピックの予算を分析しました。この分析によると、今回の東京オリンピック大会の費用が過去最大に膨れ上がっていると試算していました。結果は、オックスフオード大学の研究チームの試算通り、過去最大に膨れ上がりました。日本側とIOCは、大会の簡素化で合意していました。でもその合意は、過去のオリンピックにおいても守られたことはないのです。東京オリンピック・パラリンピックについて、会計検査院は21日、大会経費は計約1兆7千億円に上るとする検査結果を国会に報告しました。オリンピック・パラリンピック組織員会は、東京大会開催の経費として約1兆3500億円の予算計画を発表しました。この1兆3500億円の予算は、ブラジルのリオにおける2013年の立候補時点から倍増している金額になっていました。2016年のリオ大会は、1976年のモントリオール大会の開催費用の4.5倍になっていました。東京大会は、モントリオール大会の開催費用の8.2倍になってしまったわけです。オックスフォード大学の分析によると、オリンピックを開催する都市は、負担費用が3倍に膨れることが明らかになってきたわけです。IOCは、この費用の超過分の負担に対する責任を一切負わない契約になっています。

 なぜ、このような理不尽な大会が、行われてきたのでしょうか。その一つのヒントが、1936年に、ドイツでオリンピック大会にあります。第二次世界大戦が起こる前の1936年に、ドイツでオリンピック大会が開催されました。このオリンピックは、ナチス政権に最大限に利用された大会ともいえます。スポーツには、集団や民族、そして国民を「凝集」する力があります。ドイツの国家主義の高揚に、最大限に貢献したオリンピックとも言われています。サッカーのワールドカップで日本が勝てば、渋谷でDJポリスが出動しファンの整理にあたります。ファンにとっては何ら経済的利益にもならない勝利が、彼らを一つの行動に駆り立てるのです。甲子園では、高校球児の一挙手一投足に県民の目が釘付けにされます。この凝集性は、いつの時代においても政治に利用されてきたものです。

 私事ですが、8月5日ごろ、日本のオリンピックに関して、生成AIのCopilotに聞いてみました。聞いた内容は、「東京オリンピックの時、国や企業からの競技団体への資金援助はどのくらいですか。一方で、パリオリンピックでは、減少していると思うのですが、どの程度減少しましたか。」という質問でした。それに対して、Copilotの回答は、以下のようなものでした。「東京オリンピックでは、競技団体への資金援助は多岐にわたりました。例えば、日本オリンピック委員会(JOC)や日本スポーツ振興センター(JSC)からの補助金がありました。また、企業からのスポンサーシップも重要な資金源となっていました。具体的な金額は競技団体やスポンサーによって異なりますが、全体として大規模な支援が行われました。一方、パリオリンピックでは、資金援助の状況が変わっています。パリ2024の予算の96%は民間からの資金で賄われており、国からの直接的な支援は減少しています。これは、国際オリンピック委員会(IOC)やパートナー企業、チケット販売などからの収入に依存しているためです。具体的な減少幅については明確なデータはありませんが、全体的な傾向としては国からの支援が減少し、民間からの資金調達が増加していることがわかります。」というものでした。日本で行う場合、国民の凝集性を高めるために、予算が投入されていく流れがあります。でも、東京オリンピックは、ドイツほどの凝集性高めることに失敗したようです。また、民間企業の資金が、競技団体の効果的に使用されたかなど確認が残りました。その流れから、いくつかオリンピックについての調べてみたいことが浮かび上がりました。一つは、オリンピックの効用です。もう一つは、オリンピック挑戦している選手たちの将来についてです。今回は、開催都市や選手が成功の道を歩むにはどうすれば良いか考えてみました。

 オリンピックやパラリンピックなどの大きなスポーツイベントをやりきることは、大都市東京の安全性を世界に示すことになります。大きな大会は、都市の総合力を集結して初めて成功するイベントなのです。2020年は、都市として東京の実行能力の高さを世界に示す絶好の機会にもなりました。スポーツイベントが世界の注目を集めるにつれ、テロ防止や事故の安全対策が不可欠になりました。観客や審判、そして選手を事件から守ることが、求められるわけです。さらに、最近ではイベントの参加者に不便をかけない最小の規制で、最大の効果のある対策が求められるようになりました。開催地は、大変な負担を負うことになります。でも、これを少ない事故で乗り切り、イベント参加者に最大の満足を提供することができれば、開催の都市としての実力は高く評価されることになります。それは、海外からの旅行者だけでなく、海外の資本も日本に入ってくることを意味します。今回のフランスでは、鉄道事故を未遂に防いでいます。東京では、事故を未然に防ぐために、「ランニングポリス」を導入しました。見せる警備も導入していました。このような工夫の結果、事故のない大会に導いたわけです。今の東京は治安の良好な状態が確認され、外国の観光客で溢れています。ある意味、過剰な投資と思われたオリンピック予算が、生きてきているのかもしれません。

 オリンピックもそうですが、スポーツの世界で変わらなかったものがあります。上位を目指し、懸命な精進重ねる選手の姿です。そして、選手の純粋な競技に向き合う姿勢です。この姿勢が、見る人々に感動を与えるのです。いわゆるスポーツが引き起こす「凝集性」という現象です。競技者が真剣で前向きであればあるほど、この凝集性は、家族や地域や国民を巻き込んでいきます。もっとも、この凝集性が政治やメディアに利用されていることは周知のことです。選手ファーストと言いながら、それを口実に私腹を肥やす大会関係者やメディア関係者もいます。競技進行やプログラム編成に関しては、選手よりもメディアの要求が優先されています。国際オリンピック委員会(IOC)の運営にも、批判は根強いものがあります。オリンピックの商業化と巨大化が進み、開催都市への負担が大きくなっています。IOCの役員に国賓待遇のホテルや無用の移動にも批判が集まってきています。この役員の無駄な費用を、選手の競技力向上に使う仕組みをつくることが望まれています。でも、実現は難しいようです。財務が、公表されないことが多いのです。オリンピックの映像権は、必要経費を除き選手のためにのみ使う仕組みを作ることも、これからの検討事項になる流れが出来つつあるようです。

 オリンピックの映像権が選手のためにのみ使う仕組みの萌芽が、アメリカの大学スポーツに見られるようになりました。NBAは全米バスケットボール協会で、MLBはメジャーリーグベースボールになり、NCAAは全米大学体育協会のことになります。このNCAAの1部校は、良いスタッフ、専用のスタジアムやアリーナなど充実していいます。米国では、学生スポーツは人気があります。大学フットボールやバスケットボールのテレビ放映権は、日本では考えられないような金額になっています。NCAA(全米大学体育協会)とトップアスリートを擁する大学は、プロに匹敵する稼ぎを生み出しているのです。たとえば、2019年のMLBの総収益は107億ドル(約1兆5700億円)でした。その2019年のNCAAの総収益は、MLB を上回る158億ドル(約2兆3200億円)でした。一方、選手側には不満もあるようでした。選手達は、莫大な利益を上げています。でも、その利益が選手たちに還元されていないのです。莫大な利益を上げている選手たちに対する対価は、授業料や寮費など必要最低限に抑えられていました。奨学金などにしても、学生アスリーへの還元は18.2% (2019年)に抑えられていたのです。優れた能力を持つ選手たちは、インターンシップの収入にも制限がかかっていることはおかしいと主張すしてきました。これに対して、NCAAはアマチュアリズムを盾として利益の分配を拒否してきました。でも、時代はアマチュアリズムを変えつつあります。2000年代の後半から、かつてのアスリートらが訴えを起こすと、立て続けにNCAAが敗訴する事態になりました。肖像の利用によって、利益を得ることを阻止してはならないという法律が成立しました。学生アスリートが、肖像などを活用して利益を得ることが認められていることになったわけです。

 最後になりますが、IOCの非難だけをしても、問題の解決にはなりません。開催都市も選手も、IOCもウインウインになる提案を一つしてみます。オリンピックは、競技が33で、その種目数が339になります。33の競技には、季節性があります。オリンピック競技を季節に合わせて、1年間通して行うことにするのです。33競技を12ケ月に分けて、1ケ月に2~3競技を行います。1ケ月に2~3競技を行うようになれば、競技施設や宿泊施設の確保は容易になります。選手役員の輸送や役員の確保も、スムーズになります。無理のない大会運営が、可能になるわけです。観光客も継続的に、途絶えることなくやってくることになります。既存の競技施設や宿泊施設で、息長く競技大会と観光ビジネスを継続する仕組みを作りたいものです。「国民体育大会」は令和6(2024)年開催の第78回大会から「国民スポーツ大会」に名称変更になります。この大会も、1か所ではなく、複数の場所で行われるようになるようです。スポーツ行事の負担軽減の波は、世界だけでなく、日本にも押し寄せているようです。

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