日本海のズワイガニ漁が、好調だったようです。ズワイガニは甲羅から長い脚が伸び、繊細な食感が特徴で「カニの女王」とも呼ばれています。毎年11月から翌年の3月まで、北陸から山陰の日本海側で漁が解禁されるのです。この漁獲額は、1964年の統計開始以来最高というものでした。「越前がに」で有名な福井県でも、過去最高を記録しています。この豊漁には、地元漁師の方たちの長年にわたる資源管理があったようです。日本海のズワイガニの資源管理が奏功し、漁獲枠は2年連続で増えました。日本海沿岸の漁師と研究者、自治体職員のグループは、毎年勉強会を開催しています。勉強会を開催し、カニの生態や資源状況について情報を共有しているのです。国が定める漁獲枠を守ることに加え、自主的に小さく若いカニを逃がしたりすることも行ってきました。自主的に、禁漁区を設けたりする厳しい資源管理も実施してきました。その努力の成果が、ようやく実ってきたとも言えるようです。今回は、海の資源について考えてみました。
このように資源を保護して、豊漁を勝ち取った事例が近年いくつか報告されています。その一つに、静岡市清水区の由比漁港でサクラエビ漁があります。2023年4月5日、静岡市清水区の由比漁港でサクラエビの初競りが行われました。初日の水揚げは、大井川港と合わせて、昨年の44倍超の計約40トンになったということでした。由比港漁業協同組合長は、「初日にこんなに並んだ記憶はない」と驚きの声を上げていました。このサクラエビの豊漁が、自然発生的に起きたわけではありません。例年、春と秋に実施されるサクラエビ漁は、記録的な不漁が続いてきたのです。そこで、静岡県漁業協同組合連合会は、資源保護の対策を取りました。船主らでつくる静岡県桜えび漁業組合は、操業の一部を自主規制することもおこないました。さらに、静岡県の駿河湾での主漁場の一部では、漁を禁止したこともありました。漁を制限し、保護区に設定するなどして、資源保護策を実施してきた結果の豊漁というわけです。経済的に貧しい場合は、目先の利益が優先され、持続性を無視して捕獲してしまう傾向があります。乱獲をやめれば良いことは分かっていても、獲らなければ生活が成り立たないという事情もあります。この葛藤を乗り越えて、豊漁という成果を手に入れたわけです。豊漁には、嬉しい問題もあります。このサクラエビは、東京の豊洲市場に運ばれていきます。豊洲市場の卸値は、 1パツク(500グラム) 1300~1600円と前年同期に比べ5割下がりました。需要と供給の関係で、供給が多くなれば安くなり、少なければ、高くなるという関係はいつでも生じるようです。
供給が多くなれば安くなり、少なければ高くなるという関係はズワイガニでも起きていました。日本海の冬の味覚、ズワイガニの漁獲量が増加したが、その増加で単価も、1~2割安くなったのです。オスガニの平均単価は、福井県が1キログラム当たり7721円と前期に比べて13%も安くなりました。兵庫県では、オスガニの平均単価が1万937円と17%も安くなっていました。漁獲量が15%増えたことを考えると収入である金額の伸びが少し不満だったようです。ズワイガニの産地の今後の課題は、販売戦略になるようです。ズワイガニの出荷は、商品としての大きさに育つまで10年以上かかります。資源状況が良く、漁獲が好調なときこそ、先を見据えた漁業戦略と販売戦略が大切になります。その戦略の一つに、「カニツーリズム」があります。都心部から日本海側に赴き、カニと温泉を楽しむ「カニツーリズム」が活況だったのです。カニの単価は安くなりましたが、温泉やホテルなどと組み合わせた地域経済への貢献は大きかったようです。今後、消費者向けのPRなどマーケティングも、日本海全域で協力していけるような戦略も提案されるようです。さらに、収入が良く、若い世代も参入したくなる水産業に発展させる工夫も求められるようです。
北海道のサロマ湖の湖畔には、ホタテ養殖で成果を上げた漁民の「ホタテ御殿」が建ち並んでいます。もっとも、最初から豊かな漁村があったわけではありません。以前サロマ湖は、小さなカキやエビがいるだけの資源が乏しい湖でした。稚貝の放流や流氷対策、漁獲ルールの策定、漁協は毎月の会議で漁業者が意見を出し合いながら、組合員は持続可能な養殖場に育てていったのです。サロマ湖は、雨や春の雪解けなどで水質の状況はいつも変わります。サロマ湖に設置したセンサーから水温や塩分濃度などのデータが、スマホに届きます。その水の様子を把握し、良く育つようイカダの場所や貝をつるす高さを調節していくのです。この漁協は、毎月の会議で漁業者が意見を出し合いながら、サロマ湖の管理をしてきました。組合員は、サロマ湖を持続可能な養殖場に育ててきました。稚貝の放流や流氷対策、そして漁獲ルールの策定を行ってきたのです。サロマ湖を酷使することなく、養殖場を適正に維持する努力を重ねてきたのです。その成果としての豊かな地域があるわけです。
世界を見渡すと、ノルウェーの漁業が一目置かれているようです。世界中でサーモンの消費が増えています。世界のサーモンなどサケマスの養殖量は、350万トンと、この10年で約1.5倍に増えました。特に、ノルウェーは年間約90万トン生産量の95%を輸出するようになりました。IT技術や魚の健康管理など最先端の養殖技術で、世界140カ国にサーモンを輸出しているのです。回転寿司の中で最も人気のあるサーモンの世界最大の供給国は、ノルウェーになります。このノルウェーの生産量の伸び率は、年5%を目安にしています。それ以上でも、それ以下でもないことが、利益を確実にしているようです。万全と思えるノルウェーにも、課題が浮かび上がってきています。温暖化の足音です。世界の平均海面水温は、過去100年間に0.54℃上昇しました。太平洋や日本海、東シナ海では、世界平均より大きい1.1℃の海面水温の上昇がみられます。北東太平洋の定点では、表層水中の酸素濃度が50年問で約15%も減少しているのです。海水面の水温上昇は、海洋生物圏の縮小を促す原因になります。その表れが、日本の真珠になります。日本の真珠の大産地で、アコヤガイの大量死が続いているのです。海の酸素不足が、原因とされます。酸素濃度が15%も減少すると、生物資源は20%以上減少すると言われています。海洋の表面水温の上昇には、さまざまな点で困った副作用をもたらしているのです。ノルウェーでは今のところ、温暖化による水産物への影響は目立っていません。でも、影響の萌芽が芽生え始めています。欧州を中心に、海上養殖の餌や排出物による汚染が問題となっています。ノルウェーは魚の扱い方や鮮度管理などは、日本を手本に学んできました。今では、その日本を凌駕する技術を身に付けているようです。養殖技術は日々進歩していますが、資源管理の強化は将来に向けた課題になっているようです。
少し前の2016年9月頃、ウナギが話題になりました。今もそうですが、日本で流通しているニホンウナギは、天然資源に依存しています。「養殖ウナギ」は日本近海で捕った天然の稚魚を養殖場に送り、食用の親魚に育てる仕組みになっています。でも、稚魚であるシラスウナギの採捕量は、1980年代から低水準に移行し、徐々に減少していく流れになっていました。シラスウナギは、国際自然保護連合のレッドリストにも「絶滅危惧種」として掲載されるようになりました。日本の国民食でもある「かば焼き」が、このままでは消えていく運命になるかもしれないのです。もちろん、この危機を黙って見ているわけにはいきません。天然ウナギがいなければ、ウナギの完全養殖技術を開発すれば良いわけです。国立研究開発法人の水産研究・教育機構は、静岡県内で人工稚魚の飼育研究を進めていました。この人工稚魚は、ふ化してから稚魚まで成育しました。問題は、その生存率が1.6%にとどまることでした。この生存率を高めれば、完全養殖のウナギを市場に出荷することが可能になります。この機関では、当面の目標として生存率を4%に、そして成育日数は現在の300日から180日まで縮めることにおきました。さらに、水産庁は2020年までに、人工的にウナギの稚魚を量産できるようにする目標も掲げました。水産庁は、2017年度から人工稚魚の飼育実験を他の民間施設などにも広げようとしていました。人工稚魚の飼育事業費は、全額、国が負担する方向で検討をしていたのです。これが、10年前のお話しになります。
最後は、2025年4月頃のお話しです。水産庁は、ウナギ稚魚養殖し、人工的に量産体制を2020年までに実現しようとしていました。少し遅れていますが、ようやくその実現の兆しが見えてきたようです。日本の国内水産業は、マルハニチロとニッスイが有名です。面白いことに、2位のニッスイが株式の時価総額で最大手マルハニチロを引き離しているのです。このニッスイは、ブリに完全養殖に取り組んでいます。出世魚ブリの完全養殖をはじめとする利益水準を着実に切り上げ、株主還元に手厚く配分することで競合各社に差をつける戦略のようです。ここに、ウナギの完全養殖を加えたいようです。ニッスイは新日本科学と、ウナギの人工ふ化した稚魚(人工種苗)の研究、そして大量生産技術に関する共同研究を始めたと発表しました。新日本科学は2014年にニホンウナギの人工種苗生産の研究開発を始め、2017年に生産に成功しています。2019年には、鹿児島県の沖永良部島にウナギの研究施設を建設し基礎的な知見を持っています。一方、ニッスイは培ってきたブリの人工種苗の大量生産技術を持っています。この二つを統合することで、ウナギの完全養殖、および大量生産を可能にしようとしているわけです。その実現が待たれます。