現在の日本では、年間300人以上が殺されています。西洋の14世紀には10万人あたり40人も殺されていたが、20世紀の終わりにはし3人に減少しています。10万人あたりにすると、日本は0.25人の殺人が行われていることになります。犯罪人類学によると、原始的社会では社会構成員の15%ほどの人が暴力で殺されていたとのことです。サルの前脳にあるセロトニン作動性線維を取り除くと、攻撃行動が増加します。セロトニン放出量が少ないほど、反社会的衝動的になる傾向が犯罪者と男性に見られます。他者を認めない排他的な犯罪者の精神は、不安定な自分に根ざしています。生物は基本的に他者を攻撃するよりも、自分の生命を防御することが優先されます。人間のセロトニン分泌の仕組みは、防御の重視が進化の過程で作られてきたものとも言えます。
このセロトニン分泌に関しては、いろいろな領域で話題になっています。たとえば、受験の目標を実現するためにやるべきことの大半は、基本の反復になります。その勉強は、簡単で退屈なことが多いのです。目標を目指すレベルに至るまでには、必ず「退屈で単純なプロセス」が存在するわけです。この単純なプロセスに、負けてしまう子ども達も出てきます。この子どもに見られる特徴は、セロトニンが少ない傾向があります。一般的に、運動量が増えると、セロトニンの分泌が促されます。セロトニンは、夜になると睡眠を促すメラトニンになります。運動がセロトニンの分泌を促し、そのた結果として良い睡眠をもたらすわけです。セロトニンは、耐性ホルモンともいわれるものです。精神が安定しているとか、我慢強い性格の人に、このホルモンが多く分泌されます。セロトニンが多ければ、昼は安定した勉強や行動がとれます。そして、夜はセロトニンがメラトニンに変わり、高い睡眠に恵まれるという好循環になるわけです。今回は、セロトニンという視点から、成果を上げる仕組みを考えてみました。
パフオーマンスを高めるには、良質な睡眠が重要な要素になります。睡眠を考える場合、セロトニンが重要な要素になります。運動量が増えると、セロトニンの分泌が促されます。セロトニンは、夜になると睡眠を促すメラトニンになります。運動がセロトニンの分泌を促し、その結果として良い睡眠をもたらす仕組みがあります。人間は、日の出とともに活動的になり、日の入りとともに活動を低下させていくように作られています。セロトニンとメラトニンの循環が、良質な活動と睡眠を作り出しています。セロトニンは、覚醒のホルモンで、朝分泌され、脳の働きが良くなります。夜はセロトニンの分泌が減り、セロトニンからメラトニンがつくられます。メラトニンは、良質な睡眠をもたらすわけです。早起きするシフトにすれば、この良質な循環を獲得できます。それでは、この良質な循環を獲得るにはどうすれば良いのでしょうか。最近の睡眠研究は、その対象を広げつつあるようです。睡眠の質が、「食事や運動、そして環境要素に左右されることが明らかになりつつあります。環境要素とは温度、湿度、光、そして、人間関係など、環境を構成するさまざまな要素を指します。たとえば、温度が適度に保たれた保育園の園児は、歩数が1.3~1.6倍も多かったというのです。運動量の多い園児は、欠席率が低く、インフルエンザの罹患率も低かったということです。睡眠の良し悪しは、温度や湿度にも大きく影響を受けるのです。冷えきった廊下やトイレ、寝室などでは、ヒートショックのリスクが高まります。日本の一般的な住宅の冬季室温は、10℃前後と言われています。イギリスでは、健康的な室温が21℃とされています。日本の10℃の室温は、イギリスでは血圧上昇や心臓血管疾患のリスクが懸念される数値になるそうです。睡眠時の温熱環境が、快適になるような配慮を寝室には求められています。温度差がある部屋にいた人の歩数は、1日当たり約1400歩少なくなるといいます。
環境要素をコントロールすることが、長期的な健康の維持や増進に役立つことが分かりました。OECDによれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と主要先進国の中で最も短いのです。この慢性的な睡眠不足は、日本の労働生産性を押し下げ、年間15兆円の経済損失を招いているともいわれています。創造的で生産性の高い仕事を実現するためには、質の高い睡眠が必要です。いくつかの企業はスタートアップと連携し、快適な睡眠につながる健康指導などに乗りだす事業を立案しています。「運動」「食事」「睡眠」「環境要素」の情報を集め、健康サービスの乗り出す企業がでてきているわけです。そのいくつかが、仕事や生活習慣の改善を目指したサービスとして受け入れられることになるかもしれません。スマホに照度計や温度計を組み込んでおけば、照明や室内温度のデータは収集できます。その時に、どんな睡眠状況であったのかもわかります。データは睡眠だけでなく、環境要素からも分析が必要になります。
近年はテクノロジーで眠りを分析し、快眠を促す「スリープテック」の進歩が著しいようです。多くの社員の睡眠のデータの知見から高い生産性高低が浮かび上がってきました。生産性の高い社員の眠りは、寝付きの良いという特徴がありました。これらの特徴を持つ社員は、ベッドに入って3~10分で眠ることができるのです。一般的な社員は、入眠までが長く30分以上を要する人もいました。生産性の高い社員は就寝時間にこだわらず、簡単に入眠ができるのです。あるスリープテックの企業が、上場企業に勤める112人に睡眠改善のプログラムを行いました。112人が、プログラムによる3カ月間の改善に取り組んだわけです。結果として、睡眠改善プログラムによる企業の経済効果は、1人当たり年間12万円の生産性につながったということです。上場企業の社員数が250万人として、この睡眠改善プログラムを実施すると、3000億円の生産性が実現することになります。睡眠を改善する方法も、あるということです。
余談ですが、日本でも2010年代以降に、ワーケーションという言葉が使われるようになりました。ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせたワーケーションという造語になります。先進的な企業では、ワーケーションの効果が確認されているようです。この方式を取り入れて、実際に生産性を上げている企業も出てきているのです。2020年6月に、ある研究所が沖縄で行った実証実験では、良い結果が報告されています。3日間のワーケーションを体験した人の生産性は平均20%上昇し、ストレスは37%低下したというのです。さらにリフレッシュ効果を、35%の参加者が認めています。面白い報告は、「これまでと異なる環境で新たなアイデアや企画が生まれた」という声も14%に及んでいるのです。非日常的時空間で過ごす場合、新たなアイデアを生むことを経験することはよくあります。でも、課題もあるようです。新入社員研修に関しては、ワーケーション形式だと生産性が低下することが明らかになっているのです。この新入社員の研修において、アイデアを求めることが難しいことは、ある面で自然な成り行きです。アイデアは、既存の要素を新しい組み合わせでつくり出すことになります。そのアイデア作成には、一連の過程があります。アイデアを作り出したい人は、データをできるかぎり収集します。つまり、その仕事や分野の知識が一定程度持っていないと、組み合わせが貧弱になり、良いアイデアは出てこないということなのです。
最後になりますが、現代は多くの働き方があります。どの職場にも言えることですが、新入社員は仕事の知識を増やし業界の知識を増やすことです。たとえば、日経ビジネスは30万部、エコノミスト、ダイヤモンド、東洋経済をあわせて100万部が、発行されています。日本のサラリーマン5000万人のうちこれらのビジネス雑誌を読む人は100万人程度になります。日常的にこれらの雑誌を読んでいれば、一定の知識の蓄積は可能です。やる新入社員とやらない新入社員の中には、知識の差が出てきます。アイデアを生む基本は、知識の吸収と意欲を持って課題に向き合う姿勢になります。アイデアを量産できる人は、自分でアイデアを作る仕組みを持っています。たとえば、偶然がもたらす発見をセレンディピティと言います。この発見を頻繁に起こすためには、起こしやすいような場所に行ってみることになります。北海道や沖縄のリゾート地に行くことも一つです。もう一つの方法として、書店があります。書店で自分の仕事とは関係ない分野の書棚を回ってみると、セレンディピティが起きやすくなります。セレンディピティを起こすように、自分の生活の中にランダムな部分を少し入れておくことは一つの知恵になります。ただし、運動と睡眠のバランスを取り、セロトニンの分泌を調整できれば、より安定したアイデア産生能力が生きてきます。セロトニンが適切に分泌されていれば、安定した仕事やアイデア産生能力を発揮できることになります。これが、睡眠の大切な理由になります。