ドライバーの給与を上げる仕掛け アイデア広場 その1382

 2024年4月から、トラック運転手に時間外労働の上限規制が適用されることになりました。この規制が適応されると、輸送能力の縮小は避けられなくなります。翌日配達やさらに即日配達の速さを競い合ってきた日本の物流が、転機を迎えています。2024年に行われる規制の影響を考慮すると、2025年に全国の荷物の28%、2030年には35%を運べなくなるという試算があります。でも、このドライバーさんの給与は、思ったより低い状態にあります。需要が増え、供給が減れば、給料は上がるものです。でも、ドライバーさんの給与が低いままです。ちなみに、長距離トラックドライバーの平均給料は月収30~60万円だと言われています。 平均年収400~750万円ほどになります。また、 短距離や中距離ドライバーとなると、 月収は25~40万円、平均年収は300~500万円程度だと言われています。ドライバーさんの給与が低いままでは、日本の消費が増えず、成長もないことになります。

 そこでまず初めに、現在のドライバーさんの仕事の軽減を図り、所得を増やす仕組みを考えてみました。例えば、今までの長距離ドライバーの仕事は、福岡から大阪に荷物を運ぶ場合、2泊3日の仕事になります。1日目は、福岡で午前中に荷を積み、午後に出発します。福岡―大阪間600kmです。大阪には夜に着いて朝まで仮眠を取ります。大阪で朝一番に荷を降ろし、帰りの荷を積みます。午後に出発し、夜には福岡に着きます。朝まで仮眠を取り、朝一番で荷を降ろします。後は帰宅し、家で風呂に入り、一杯のビールで至福の時を過ごすということになります。このパターンは、女性や若者にとって魅力あるものにはなりません。そこで、この輸送を日帰りにする仕組みにします。福岡と大阪から専用トレーラーに荷物を積み朝一番で、中継地点の広島県の福山市に向かいます。福山でトレーラーを交換して、出発地点の福岡と大阪に戻るようにするのです。中継地点を、高速道路のSAやPAを活用すれば、より敏速に輸送がはかどります。国もドライバーの負担を軽減する方向で考えているようです。SAやPAの利用方法にも、いろいろな便宜が図られるようになるでしょう。このような工夫は、不規則な就業形態を敬遠しがちな女性や若者を取り込むことを可能にします。この案は、ドライバーの人材確保に繋がるものになるかもしれません。

 余談になりますが、ドライバー不足を加速させる要因が、ドライバーの本来の仕事以外にあります。この不足の原因が、荷物の積み下ろしだというと、不思議に思う方もいるかもしれません。最大のムダのひとつが、集配先に着いても積み下ろしなどをすぐに始められないことなのです。物流センターでトラックが接車し、荷物積み降ろしに使用するスペースをバースといいます。ある調査によると、1回の運行で平均1時間45分も待ち時間があるのです。もちろん、このバースの問題を解決する人たちが現れています。不便を感じるところには、ビジネスチャンスが生まれます。ある起業が、バースの待ち時間を減少させる予約サービスの仕組みを作りました。この予約サービスは、運送会社が入場希望の時間を予約すると場所が割り当てられるのです。入場希望の時間を予約すると場所が割り当てられ、運転手の携帯端末に伝達されます。入場車両の情報が可視化され、平均1時間前後に及んでいた待機時間は7分に減ったという事例もあります。この仕組みを、花王など180社以上が約250拠点で導入し、運送会社など4千社以上が利用しています。ドライバーの方に気持ちよく働いてもらう仕組みが、意外と簡単に作れるものです。

 これだけでは、給料を上げるという面において不満が残ります。時代の流れに伴いドライバーの方に、神風が吹いています。国土交通省は、宅配用の荷物と旅客を同時に運べるようにするための規制を緩和しています。国は、バスやタクシーを旅客に限定し、貨物はトラックの運送に特化してきました。でも、旅客運送や物流の担い手不足の深刻さへの対応を迫られていました。そこで、バスやタクシー、そしてトラックが旅客と貨物の運送を兼ねることができる試案を発表しました。導入された当初、一部の過疎地にのみ許容されていた貨客混載ですが、2023年4月には全国で解禁されています。 ただし、貨客混載が可能となるのは、「貨物自動車運送事業」「旅客自動車運送事業」両方の許可を取得している事業者のみになります。さらに国は、ライドシェアの導入も検討し始めています。これらの解禁により、多くの代替輸送のアイデアや工夫の中に、給料アップの仕掛けが見え隠れしています。

 貨客混載やライドシェアに関しては、アメリカや中国、そして東南アジアの先進国の事例が参考になります。アメリカや中国では、乗用車の保有する個人が空いた時間に配車サービスを提供するケースが多かった。ここにきて各国のライドシェア成長戦略は、自家用車やタクシーの代替だけではなくなってきました。プラットフォームを使いながら、料理宅配や貨物運送トラックの配車サービスなど新しい市場を作り出しています。この新しい市場に適応できる質の高い運転手を、いかに確保するのかという局面になってきています。アジアの配車サービスは、スマホの配車アプリの登場で料金の透明性が向上し、一気に普及した側面がありました。東南アジア最大手のグラブは、優良運転手の認定制度を導入しました。このシンガポールを本拠するこの企業は、インドネシアで優良運転手を認定する制度を取り入れています。認定された運転手は、一般の運転手より20%多い収入を得ることができます。さらに恩典があり、配車を優先して受けられるようになるのです。優良な運転手は事件や事故を起こさないために、信用が高まるというメリットがあります。

 もう一つの視点が、貨客混載と旅行アプリになります。長距離ドライバーが、お客を乗せて長距離旅行のお手伝いをする中で、収入を得るという発想になります。昔で言うヒッチハイクで、お金を得るということにもなるかもしれません。トラックで旅行をしたいという旅行者をいかに集められるかという課題になります。そのヒントが、フィンランド開発されたWhimになります。Whim は1つのアプリで、列車、ホテル、バス、タクシー、自転車シェア、カーシェアなど様々な交通手段を組み合わせて、最適な移動体験を提供する世界初の交通アプリになります。日本は、外国人観光客に人気のある国なっています。これらの観光客は、東京や大阪、京都や富士山といったパターン化した観光地だけを巡るだけでは満足しない傾向が出てきています。個々人が、SNS等で目的地や体験すべきことを事前に学習してから、来日する方も増えています。彼らは、Whimのようなアプリを利用して、日本を観光しようとする方も増えつつあります。個人旅行の彼らが、一つのターゲットになります。

 旅行者が何を望んでいるかが分かれば、そのメニューを提供することは容易になりました。サンフランシスコで、ランチボックスのデリバリーサービスをやり始めた方がいます。普通は、弁当といえば数パターンの中から選んでもらうものが一般的です。彼のランチボックスの中には、ひとつひとつみんな違う具材、各自の好みに合った具材が入っていました。ひとつひとつ違う弁当を作っていたら、コストがかかりすぎて採算がとれないのが普通です。これを可能にしたのは、コンピユータとクラウドソーシングの利用でした。このITツール利用が、ひとつひとつ違う弁当を可能にしたのです。顧客に関するデータを集め、集めたビッグデータを分析すると、多種多様なランチボックスを無駄なく作る食材が分かります。無駄なく作る食材が分かるために、何をどれぐらい仕入れればよいのか計算できます。彼は、これを実践したわけです。旅行客が何を望んでいるかを把握できれば、その交通手段やホテル、それにかかる時間や費用を提示することが可能になっているようです。

 最後に、トルコの観光客が、東日本大震災の復興を見たいとSNSで希望した場合、この希望はスマホの配車アプリに把握されます。東京から三陸への長距離トラックドライバーが合意すれば、交渉成立となります。東京から三陸への長距離トラックにトルコのお客さんを乗せることになります。トルコの観光客が、宮城県の南三陸町を訪れたとします。彼は、東日本大震災の津波の痕跡を確かめるためにやってきたのです。地元の方に聞くと、このあたりで津波よる流出された社は三つだけということでした。流されなかった荒沢神社は、このあたりで最古の海辺の神社になります。津波は、この神社の御神体の手前で奇跡的に止まったのです。でも、奇跡ではなく、学習の結果でした。この神社は、ちょうど貞観津波(869年)の頃に作られ、慶長三陸(1611年)でも津波を避けていたのです。今回の津波では、「鳥居(標高12m)はほぼ水没しました。そして、鳥居脇の神官宅(14m)も、床上1.5mまで浸水したのです。さらに、本殿(14.5m)の床上1mまで水がきました。でも、台上の御神体は濡れなかったのです。今回の津波は、16mの津波であったことがわかります。津波が常に襲い掛かる古い神社は、幾度も津波に襲われ、建つべき位置を学習した結果、御神体が安全位置に備えてあったというわけです。こんな歴史的な伝承を伝えることにより、日本の自然災害に対する知恵などを知ってもらうことも面白いかもしれません。蛇足になりますが、このような知識を得て、観光客に満足してもらう説明や体験をしてもらうには、ドライバーの資格にツアーガイドのスキルを持っていると、長距離ドライバーの方でも楽しい旅を演出することができます。楽しい演出が、副業になれば稼げるビジネスになるかもしれません。

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