ドローンが日本の農業を改善する アイデア広場 その1614

 日本の農業就業人口は、どんどん減少していて歯止めがかからない状況になっています。2005年には335万人いた農業従事者が、2023年には116万人と、3分の1になろうとしています。農業従事者の高齢化も、深刻な問題になっています。2005年での65歳以上の割合は57 %でしたが、2023年には70%を超えています。これらの従事者の方で、「生計が成り立っている」と回答した人たちでも、農業所得の中央値は200万円なのです。サラリーマンの半分程度の収入に甘んじているわけです。作物別にみると、酪農だけが中央値475万円とサラリーマン並みです。その酪農家も、厳しい状況に変わりはないようです。日本の酪農家戸数は、この50年間で40万戸から1万8千戸へ、20分の1以下に減少しています。その労働条件は、長時間労働と厳しいものがあるようです。農業収入で生計を維持するのか難しいという理由で、若者が農業に就業しない状況が続いています。今回は、農業が普通の勤労者並みの収入と安定した生活を送るための仕組みやその仕組みを実現する工夫を考えてみました。

 まず、農村に豊かさをもたらす仕組みと工夫になります。その一つが、農業の労働時間を減らすことです。1年間の総時間は、24時間×365日の計算で8760時間になります。サラリーマンの労働時間は、週休二日で2080時間になります。そして、余暇時間は、約3000時聞になります。一方、農業従事者は、かなりのオーバーワークになります。農林水産省の調査によると、畑作を行っている農業従事者が2700時間、果物に従事している方が3100時間となっています。酪農の個人経営体当たりの平均労働時間は、6700時間という殺人的労働になります。酪農家の方はサラリーマンの3倍以上を働いて、ようやく所得が同じ程度になります。サラリーマンに比べ、労働時間が長く、所得が低いという現実が横たわっています。この解決のヒントは、オランダとドイツにあるようです。オランダは、全自動の植物工場で効率的に生産を上げています。ドイツでは、平均農家の耕作地は100㌶になります。ドイツのトラクターは、1日に10㌶以上を耕作する能力を持っています。このトラクターはコンビマシンを連結しており、播種と鍬入れの複数の工程を一気にやることができます。異なる作業を同時にこなすために、何度も同じところに農機を走らせる無駄がないのです。この農機は運転しながら、土壌水分データを記録整理できるセンサーも備えてあります。作物を刈り取りながら、測定した結果を地図に表示し送受信ができる優れものです。どこに肥料をいれれば良いかを、地図上に示してくれるのです。これは、肥料の節約に繋がります。100㌶の農地を耕し、収穫し、販売する作業を、1.5人で経営しているのです。機械化により、労働時間を減らし、収穫を増やし、利益を上げる仕組みを作るわけです。

 その機械化の1つに、ドローンがあります。ドローンは近年、農業分野で活用が急速に広がっています。DJI製のドローンは農業分野で急速に普及し、種まきや農薬散布しています。DJIは、世界シェア7割を握るとされる中国のドローン企業です。この企業は、2006年に設立し、アメリカや日本など海外5カ国に拠点を持ち、売上高は5600億円になります。DJI製の直径1mを超える大型の農業ドローンが、農場で活躍しています。中国南部の広東省開平市にある農場では、このドローンが種まきや農薬散布に活躍しているのです。DJIのドローンが今年に入って種まきなどをする農地面積は、27万k㎡になるのです。この面積は、日本の国土と匹敵する広さです。ドローンを使えば、人力より50~60倍の広さの作業ができます。蛇足ですが、このような高機能を持つドローンが格安に作ることができるのです。DJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、8割が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。分解した機種のマビック・エアー2には、この基板に多くのアメリカ製部品が使われていました。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。DJIのドローンの初期は、機体も飛行制御も未熟でした。でも、3年ほどで見違える性能と操縦技術が向上しました。部品の組み合わせとソフト技術の向上で、性能を飛躍的に高めてきたわけです。

 高性能で安価なドローンを、より高機能にする技術が身近に迫っています。その技術は、5G技術とロボット技術です。あるロボットは、目の前のオモチャのブロックをバラバラに分解して箱に片付ける作業をスムーズに行います。箱に片付ける繊細な指の動きは、まるで人間のようです。人間より関節を多くしてあるロボットは、より滑らかで稼働範囲の広い動きが可能になるのです。この繊細な指の動きをするロボットは、10km離れた場所から人間が操作していたのです。通信の遅れがほとんど発生しない5Gを使用すれば、違和感なく人間とロボットが連動していきます。モニターを見ながら操作するわけですが、そのモニターの画質は高品質化してきています。人間の目よりもきめ細かに具材を写し出すことが可能になっています。さらに、モニターの画像は3Dなので奥行きが感覚でわかるようになりました。この3D画像のおかげで、細かな操作がスムーズにできることになります。食材や具材をより美しく、食べたくなるような配置にすることも可能になります。遠隔地から、人間が操作する技術が目の前に迫ってきています。さらに、その操作を、AIが自動的に行うようになることも可能になります。複雑な動きをロボットが行う場合、動き方をロボットに教える「ティーチング」が導入時の障壁の一つとなっていました。京セラは、このティーチングをクリアしたAIを、開発しました。AIの認識した対象物に応じて、ロボットアームの動かし方とつかみ方を自動で調整する優れものです。この企業は、外部から調達したロボットアームに、自社開発したAIのソフトウェアを組み込んで性能のアップを図ろうとしています。さらに、ロボット単品の売り切りビジネスではなく、保守点検やAIの性能向上などを通じて稼ぎを増やそうとしています。ある意味で、保守点検のサブスクリプション(継続課金)型のビジネスを検討しているわけです。このシステムを農業に取り入れれば、作業効率は格段にあがるかもしれません。

 復習になりますが、2022年のウクライナ戦争開戦当初、ドローンは戦闘における補完的な存在だとみなされてきました。戦闘が激化する中で、ロシアとウクライナ双方とも偵察や攻撃面でのドローンの機能が進化していきました。ドローンの進化だけでなく、ドローンを扱う兵士の能力も格段に向上していきます。ウクライナでは、1人の操縦士が1日に50機以上のドローンを操縦し、敵の目標を攻撃しています。ドローン操搬士は、実戦経験を通じて急速に腕を上げています。ドローン操縦士は、1年程度で攻撃の成功率を50%以上も向上させた操縦士も少なくないようです。ウクライナとロシアの双方は、ドローンの操縦士の育成を急いでいます。ロシアは2030年までに、ドローン操縦士を100万人育成する計画を掲げています。より具体的には、日本の中学生にあたる生徒向けの教育カリキュラムに、ドローン操縦を組み込んでいるのです。ウクライナ戦争は、ドローン機能の向上とそれを支える人的資源を急速に増大しています。世界は、この戦争が終わることを望んでいます。そして、終わった後、このドローンの資源をどのように利用するかが課題になります。日本のゼロ戦を開発した人材は、新幹線の開発に活躍しました。中国人民解放軍の陸軍は、リストラにあいました。リストラにあった優秀な人材は、中国の高速鉄道を支える要員になっています。軍事技術が、民間の技術に転用されることは歴史の流れでもあります。

 最後になりますが、農業政策で成功している国が、オランダになります。小さなオランダが、世界第2位の農産物輸出国なのです。その立役者は、植物工場です。オランダの植物工場は、徹底的な合理化を行っています。耕作、追肥、種まき、収穫作業において完全自動化を行っているわけです。発芽から栄養配分、生育の監視や収穫まであらゆることに関連した機器が考案されています。植物工場では、雑菌や菌を入れない仕組みになっています。菌の少ない野菜は、長持ちするので、廃棄率も少なくなります。食の安全性も保障されています。オランダに植物工場ができて、日本できない理由が、65年前にできた農地法の規制になります。オランダでは、植物工場が規制もなく自由に農作物を作り出しています。そして、農産物の輸出額は、10兆円を超えています。日本は、65年前にできた農地法の規制により、災害に強い植物工場を作れません。コンクリートを使用した植物工場は、農地と認められません。その工場には、高い税金がかかるのです。脆弱なビニールハウス農業は、豪雪や暴風により崩壊しやすいものです。65年前の国内農業を守ることに主眼を置いた農地法を改正すれば、オランダのように自由に植物工場を稼働させることができる環境が整います。さらにドローンの進化は、日本の風土にあった農業に貢献する可能があります。日本の水田は、能登野半島の棚田に代表されるように小さな田んぼが多数あります。このような水田が50枚(水田1枚が1アールから1ヘクタール)が、点在していることがあります。もし、進化したAIを搭載したドローンをウクライナのドローン操縦士が使用すれば、1人で50機のドローンを同時に遠隔操縦して、種子や肥料などを適切に散布することが可能になるかもしれません。このようなことが実現すれば、農業における人手不足や過重労働の問題が解消するかもしれません。 

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