ペットの世界にも、変化が起きているようです。ペットの数では、イヌの数が常に優位に進んできました。それが、ネコに変わられたのです。イヌよりも手がかからないという理由で、ネコを飼う人が増えてきたのです。国内のネコの飼育数は、2014年に842万匹と初めてイヌ(820万匹)を上回りました。2021年は、ネコが894万匹と前年(862万匹)から30万匹も増加しました。新型コロタウイルス禍の期間では、イヌが一時減少した一方、ネコの場合は増加ペースを加速させています。2023年には、直近の10年間で最多の906万匹とイヌ(684万匹)との差も222万匹となっているのです。ネコの飼育数は初めて900万匹を超え、さらにその平均寿命も過去最高を記録しています。ネコの平均寿命は、2023年に15.79歳となりました。2010年の平均寿命が14.36歳ですから、から1.43歳伸びて過去最長となったわけです。人間も高齢化社会になると、医療の充実や健康が話題になります。ネコの場合も、高齢なネコの皆さんへの医療サービスが課題になるとともに、ビジネスチャンスでもあるという状況が生まれています。
ネコ好きの知人に、ネコの生態について聞いたことがあります。「ネコは、だれにもじゃまされないでいるのが好きな動物だよ。決して、人間に媚びらないんだ。ネコは、自由気ままに生きているね。」と話してくれました。彼によると、家で飼われているメスネコは家を中心にして半径500mくらいの地域を歩き、オスネコはメスネコの2倍くらいの地域を歩きまわります。ネコは気分によって、急にあまえたり、逆に知らん顔したりします。気分をつかむことが、難しい動物のようです。でも、分かる動作もあるようです。ネコが、セーターや毛布を前足で交互に揉むしぐさをすることがあります。これは、セーターや毛布をお母さんネコと思って、おっぱいを吸うしぐさであまえているというのです。難しいのは、引っ越しの時になるそうです。すみ慣れたなわばりを離れたら、ネコは、新しいなわばりに慣れるまで時間がかかるのです。ネコは、新しいなわばりのすべてのものの匂いを嗅がないと気がすまない動物です。このような気ままで、甘えん坊で、そして愛らしいネコが高齢化する中でも、一時でも長く一緒にいたいのだと知人は話していました。
知人の望みをかなえるビジネスが、次々に現れています。中国は、2023年のネコ飼育数が6980万匹と日本の8倍も多いのです。中国でも、ペットのビジネス市場にスタートアップが進出してくるなどネコのペット市場が広がっています。中国国内だけでなく、海外にも進出を始めています。中国企業の中には、高齢化のネコ市場に商機を見いだし。日本に進出してきています。pidan (ピダン、上海市)は、2023年に日本法人を立ちあげました。ピダンは、中国の高級ネコ用品店になります。電子商取引(EC) サイトでも、トイレ用の砂や外出用品などを販売している企業です。ピダンは、2024年2月には大丸東京店(東京)のペット用品店に専用コーナーを設置しました。こうした専用コーナーの設置店は、すでに全国30店補にも上るそうです。ピダンは2026年までに、百貨店やホームセンターなど全国500店舗での取り扱いを目指しています。日本のネコ愛好家のニーズにあった商品を、精力的に開発する姿勢を示しています。日本も、中国に負けているわけではありません。Uaiam (ユニアム、東京・港)は、生鮮キャットフードを開発し、販売する会社になります。この会社は、健康ケアに特化したおやつ4種類を発売しています。おやつ4種類を、初年度で43万個の販売を目指しています。このおやつで、食事と医療の両面でネコの健康を支える狙いをもっています。ユニアムは、「腎臓健康ケア」「腸内環境ケア」など健康ケアに特化したおやつを発売するわけです。たとえば、腸内環境ケアに関しては、腸内の善玉菌を増殖させるというオリゴ糖やビフイス菌をフードに組み入れたおやつを開発しています。
余談ですが、腸内細菌が健康を維持増進することが、あらゆる動物について証明されるようになりました。ペットの場合も、平均寿命の視点より健康寿命の視点から、健康食品のニーズが出てきているようです。このニーズに応えるヒントが、肥満の実験に見られます。この実験は、妊娠したマウスを、2グループに分けます。一方のグループには、食物繊維の少ないエサ与えて飼育します。もう一方には、食物繊維の多いエサを与えて飼育したのです。この2つのグループから生まれた子どものマウスを高脂肪食で飼育しました。食物繊維の多いエサを与えた母親マウスの腸内では、短鎖脂肪酸という物質が多く作られていました。食物繊維の多いエサをとっていた母親から生まれたマウスは、明らかに肥満が抑えられるという結果が出たのです。一方、食物繊維の少ないエサを与えた母親から生まれたマウスは、成長するにつれて肥満になっていったのです。子どもの成長の仕方や将来の体形に、母親の腸内細菌が関与することが分かりました。ネズミの子の肥満抑制のキーワードは、母体の腸内細菌が作る短鎖脂肪酸ということでした。ユニアムのケースでは、腸内の善玉菌を増殖させるというオリゴ糖やビフイス菌を用いたわけです。一方、親子代々腸内に生息する腸内細菌を温存し、それを増やす知見を得れば、健康寿命をペットが獲得していくことができるかもしれません。もしできれば、ビジネスチャンスは、膨らむことになります。
健康寿命が一つの切り口とすれば、もう一つの切り口は睡眠になるかもしれません。RABO (ラボ、東京・渋谷) は、AIを使ったネコの首輪型デバイスCatlogを手掛けています。この会社は、首輪型端末でネコの行動を見守るサービス「キャトログ」を行っています。 センサーを搭載した首輪つけて、ネコの睡眠時間などを計測するのです。ラボは6月中をめどに、キャトログにネコの睡眠の質をAIが分析する機能を追加する予定です。AIがあらかじめ、ネコ3万匹の病歴や睡眠時間のデータを学習します。この教科書学習データを基にして、ネコの睡眠時間などを計測し、データと照らし合わせて適切な状態かを判断することになります。AIでネコの表情を分析して、睡眠の質を計測し、高齢ネコの健康に役立てるサービスを行うわけです。睡眠時間に一定の変化があれば、飼い主のスマートナオンに通知することになります。
もう一つの切り口は、痛みになります。高齢のネコになれば、建康面の問題が増えますが、ネコの自由きままという特性上、痛みを知ることが難しいのです。ネコには痛みなどを隠す習性があり、飼い主が異変を察知するのは難しいというわけです。さらに、ネコは表情の変化が分かりにくく、飼い主が痛みに気付きにくいということもあります。Carelogy (ケアロジー、東京)は、ネコの表情からで痛みを検知するアプリを手がける会社になります。手術前後など痛みのネコの画像約6000枚から、痛みがあるときの表情をAIが学習しました。それによると、ネコの耳が外側に回転していたりしたら中程度の痛みがあると判断します。一方、耳が正面を向いているときは痛みがないとします。Carelogyは、ネコが痛みを感じているかどうか調べるウェブアプリサービスの提供を始めました。この会社は、ネコが痛みを感じているかどうか調べる「CatsMe! (キャッツミー)を提供しています。このキャッツミーは、累計17万人超が利用し、現在の月間のアクティブユーザーは2~3万人にも及んでいるそうです。ネコの健康、睡眠、そして痛みに科学のメスが入り始めました。その結果、ネコの平均寿命は延びています。人間は、欲張りな動物です。自分の可愛いペットが、もっと楽しく健康でいるためにはどうすれば良いのかを求め続けます。その解答は、人間の高齢化社会の課題を解決する解答になるかもしれません。
最後は、ペットの健康を守る最後の砦のお話しになります。細菌やウイルスの感染は、人間は人間、動物は動物という単純な区切りができなくなっています。野生動物から家畜に感染した病気が、人間に感染することも起こりつつあるのです。サーズやマーズ、そして新型コロナと動物から人間への感染は、これからも起きると想定されます。とすれば、人間を対象にした医学だけでなく、動物を対象にした獣医の知見も必要になってきています。その獣医の必要性が叫ばれてきたにも関わらず、日本は、獣医学部を50数年間にわたって新設してきませんでした。現在は感染症の被害を見ればわかるように、獣医の知見がなければ重大化する事例が多くなっています。一部地域では、産業関係の獣医師不足が指摘されていました。50年以上も新設されていなければ、不具合もでてきます。でも、新しい獣医師が増えれば、今までの獣医師の既得権が侵されます。安倍首相の官邸は新しい獣医学部の新設に意欲的でした。でも、既得権を犯される側からすれば、望ましいことではありません。族議員と官僚のタッグは、強力な抵抗勢力として存在しました。結果は、新設が強行されました。新しい獣医学部の新設には、いろいろな裏のお話しもあるようです。でも、1600万匹のネコとイヌの健康を考慮すれば、新しい獣医学部の創設は、動物を愛する人たちと動物たちにはハッピーな事だったようです。