フレイルな人を元気にする企業と自治体の取り組み アイデア広場 その1572

 高齢者が元気になっていけば、世の中は間違いなく明るくなります。毎日ぼんやりしてばかりだと、気力も体力も衰えるものです。特に、新型コロナウイルスまん延期に他者との交流が減ったことで、元気のないシニアが増えたと言われています。心身の機能が衰えるフレイル(虚弱)が、増える状況が生まれました。このフレイルは、健康な状態と要介護状態の中間を現す用語になります。自分でも気づかないうちに、身体が衰えていたりもの忘れが進んでいる状況に心配するシニアも増えました。早期にフレイルを気づくことができれば、寝たきりなど深刻な事態になることが防げます。このフレイルは、3種に大別されるようです。1つが身体的機能の低下を示す「身体的フレイル」、2つめは認知能力が落ちる「認知的フレイル」、3つは外出機会が減り社会から切り離される「社会的フレイル」になります。特に、社会的フレイルから、残り2つのフレイルに移行することが多いことが分かっています。寝たきりになる前に、フレイルの状態から、健康な状態に戻せれば、シニアは元気になり、医療費も削減され、豊かな地域社会が形成されていきます。今回は、このフレイルの改善する仕組みを考えてみました。

 困ったことがあれば、それを解決する人々や組織、そして企業が出てくるものです。このフレイルを改善する企業の1つに、宅配弁当大手のワタミがあります。ワタミは、「みまもりサービス」をリニューアルしました。以前のみまもりサービスは、簡単な安否確認だけでした。今回のサービスは、配達の際に5つの質問をすることで配達員が配達先のシニアの心身の衰えといったわずかな変調を察知するものです。質問内容は、「昨日よく眠れましたか」や「昨日はよく食べられましたか」など簡単なものから、「お金にまつわる不審な出来事や電話等はなかったですか」といった質問になります。よりきめ細かにシニアの異変を察知できるサービスが出始めたわけです。ワタミの宅配弁当サービスは、毎週同じスタッフが対応するため顧客の変化を察知しやすいのです。「みまもりサービス」内容は、弁当配達の際に顧客の状況を家族やケアマネジャーなどに連絡することになります。今回のワタミのみまもりサービスは、月1100円の追加料金で使えます。

 シニアの世代になると、歩けるだけで良質な生活ができていると、妥協することも多くなるようです。生活の質を、自力で歩けるトイレに行けるなど最低限の日常生活レベルをイメージするようになるわけです。このレベルを続けていくと、社会的孤立が進んでいきます。孤立が続けば、加齢を加速化し、うつや認知症へ導くことを速めます。逆に、人々とコミュニケーションの場を設ければ、加齢も認知症への流れを緩めることができます。日常生活で誰かと会うために外出する機会があれば、少しでも体を動かすことができます。高齢者が孤立すれば、筋肉がますます落ちていくことになります。外に出て、人々との接触が増えれば、エネルギーが多く使われ、生活習慣病などの発症のリスク低下にもつながっていきます。運動は足腰に筋肉をつけ、万病を予防するだけではなく、孤立を防ぐ上でも重要な要素になります。一つの運動の中に、「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあう」の3つの要素が含まれている場合は、理想的な活動になります。「身体的フレイル」、「認知的プしイル」、「社会的フレイル」のフレイルを改善し、健康な状態にしていくことが、今日的課題になっています。

 「社会的フレイル」の観点から、研究が進められるようになりました。慶応大学などの研究チームは、マウスを使った幸せホルモン(オキシトシン)に関する動物実験を行いました。同じ母親から生まれた兄弟マウスを、単独飼いと4~5匹のグループ飼いに分け12週問観察したのです。すると、単独飼いのマウスは、グループ飼いと比べてオキシトシンの分泌量が少なくなりました。この実験では分かったことは、社会的な孤独が脳の視床下部から分泌される「幸せホルモン」減少させたことでした。仲間との触れ合いのあるマウスの群れは、ある意味、幸せな環境で生活できたとも言えます。さらに、孤立が身体への影響も及ぼしていました。単独飼いのマウスは、血中の中性脂肪や悪玉コレステロールが上昇して動脈硬化が進行していたのです。12週間の観察の中で、オキシトシンが肝臓に与える影響も調べました。単独飼いのマウスは、オキシトシンの量が減少し、肝臓の脂質代謝異常を招いて動脈硬化を促進していたのです。オキシトシンの減少が、肝臓の脂質代謝を抑制し、肥満を促進していたというわけです。ヒトを対象とした臨床研究ででも、孤独が心筋梗塞の発症率を高めることが報告されていました。でも、心筋梗塞の発症率を高める詳しい仕組みは分かっていなかったのです。今後、この面での研究も進むことを願っています。

 一つの解決策ができると、さらに便利な解決策が考案されるものです。その一つに、中部電力が全国の自治体を対象に展開している「eフレイルナビ」があります。このeフレイルナビ」も、見守りサービスの一つになります。フレイルとなった人は心身の活動が鈍るため、室内での活動量が減ったりします。彼らは、心身の活動が鈍るため、外出時間が減る傾向があります。彼らの行動特徴として、外出や活動などに伴い電使用量の変動幅が縮小する傾向があります。この電力使用量から、居住者の活動量からフレイル有無を分析するわけです。使用電力量を30分ごとに計測し、そのデータを人工知能(AI)、を通して分析します。中部電力のサービスの強みは、精度の高さになります。AIを通した分析でフレイルと判定された人が実際にそうであった割合は、80%以上の精度になります。変動幅変化からフレイルリスクを数値化し、契約している自治体に連絡する仕組みです。連絡された自治体は、過去のフレイルのスコアから個別訪問の必要性など対応方針を決めることになります。

 余談ですが、健康を促進する対策として、筋肉の評価が高まっています。筋肉が分泌するホルモンの中には、認知症やガンを予防することに効果が認められています。今までは、経験則的に認知症を防ぐために、あるいは発症を遅らせるためには、運動が良いと言われてきました。これが、実証されつつあるのです。マイオカインには、認知症以外の病気を抑え込む効果もあることが明らかになってきています。イリシンというマイオカインは、筋肉から分泌された後、血流に乗って脳に到達します。イリシンが脳に到達すると、脳の中でBDNFという物質が多く分泌されます。BDNFは、Brain Derived Neurotrophic Factor(脳由来の神経栄養因子)のことになります。このBDNFという物質が多く分泌されると、情報伝達に役立つ神経細胞が作られるのです。結果として、この物質が多く分泌されると、脳の機能が高まることが分かってきました。逆に、筋肉が萎縮すると脳の機能が低下することも分かってきました。萎縮した筋肉は、”マイオカインのうち、脳にプラスに働くホルモンが分泌されにくくなるのです。さらに、萎縮した筋肉は、認知機能が低下する方向に働きかけるホルモンを分泌するようになります。萎縮した筋肉は、認知機能が低下する方向に働きかけるホルモン(へモペキシン) を分泌するようになります。このヘモペキシンは海馬に働きかけ、認知症の発症を促進する働きさえするようになるようです。要は、適当な運動を仲間と行えば、より良いフレイル防止効果を得ることができるようです。

 最後になりますが、社会的な孤独が、1人暮らし世帯の増加で増えています。スキンシツプが少ない人は、オキシトシンの量も少ないと報告されるようになりました。各自治体は、フレイルのシニアを増やさないように、さらにフレイルの人を元気にするように対策を練るようになりました。その一つに、中部電力のサービスの採用があります。中部電力は、一人暮らしの高齢者がサービスの対象で、2023年から自治体向けにサービスを始めました。中部電力のサービスは、2025年度での採用自治体は27自治体で、採用しています。長野県松本市は、電力量から虚弱リスクが高いと判断した高齢者にサロンへの参加を促す事業を行っています。社会的フレイルのおそれがある人に対しては、「集い場」への参加を促しています。フレイルのリスクが高いと分析された31人のうち、27人の健康状態が改善しました。他の27自治体の山形県遊佐町や鳥取県琴浦町などでも、他電力管内での採用が増えているようです。シニアが元気で活動している地域は、このような対策と活動がプラスの原動力になる可能性があります。

タイトルとURLをコピーしました