ホスピスで優雅に老後を迎える知恵  アイデア広場 その1422

 厚生労働省によると、2021年の国内死亡数は144万人、2022年が157万人、2023年は159万人となり3年連続で増加し、過去最高を更新しとのことです。この国内死亡数の9割は、70歳以上の高齢者になります。高齢者の家庭では、看取りの問題が起きています。一方、国では費用がかさみがちな入院医療から、在宅サービスへの移行を進める流れが起きています。国は在宅ケアを推進するのですが、高齢者が終末期を迎える「看取り」の受け皿が不足する現実があります。高齢者の介護を、別の高齢者が担う「老々介護」の割合も6割を超えています。医療行為を必要とする高齢者を抱える家庭では、家族の心身的負担が大きくなっています。高齢者の夫婦や高齢の親子だけでは、終末期の看取りを進めるのには困難な状況が生まれているのです。今回は、誰でもが迎える終末期を迎える「看取り」について眺めてみました。

 家庭における高齢者の介護では、介護されるほうも介護するほうも心身的にかなりのストレスが生じるケースが出てきます。状況が進行すると、「うつ状態」に陥る人も出てくるようです。うつには、基本的に次の8つの症状があります。不眠が続く、食欲がない、全身がだるい、将来に希望がない、興味や集中力の低下、自責の念が強くなる、自殺を考え始めるなどあります。このうち4~5個を持つようになると、本格的なうつ状態に入ると言われています。「がんばる人」「責任感の強い人」「まじめな人」ほど、この状態を抱え込むようです。困る状況になれば、それを解決する方法を見つける方もいます。これは、介護を理想的に行っていたご家族のお話になります。お婆さんを頂点に、自分の息子夫婦と娘夫婦が近くに住んでいました。このお婆さんが、歩くこともままならない状態になり、在宅介護をすることになりました。この息子夫婦と娘夫婦、そしてその子どもを含めた5人で、「ローテーション」を組み、介護をすることにしました。一人に負担が、集中しないようにしたのです。無理をして、体の状態が悪くなると、前向きな介護が難しくなります。頑張る人には、「介護の休みを与えなければならない」という体制がとても大切になります。いつでも、前向きな状態で介護にあたることが、介護される方にも介護する方にも、良い影響を与えます。「ローテーション」を組めるかどうかは、大きな「家族の実力」になります。家庭の介護力は家族構成や経済力、介護する人とされる人の性格により家庭ごとに異なります。そして、大切なことは、人間の限界もわきまえておくことも必要だということです。

 もっとも、このような理想的な家族だけではありません。高齢者のご夫婦や孤独な高齢者というケースも増えてきています。このような方たちを受け入れる施設の中に、ホスピス施設があります。これからー人暮らしの高齢者も増える状況を考慮すると、ホスピス型住宅の役割は大きくなるようです。ホスピス型住宅は、介護や医療行為がいつでも受けられる住宅型有料老人ホームになります。この施設は、病院にいるような安心感のある「自宅」の位置づけです。ホスピス型住宅は、外出や飲食、家族と過ごす時間を持つなど、人生の最後を自由に過ごせる場所になります。施設によっては、横たわりながら入浴できる浴槽や補助付きのトイレもあります。入居者は介護土とゲームを楽しんだり、自室で折り紙をしたりしながら過ごしている光景も見られます。もちろん、介護に加えて医療のサービスも受けられます。がんの痛みに対しては、看護師が痛みの評価をして、医師の指示のもと医療用麻薬の投与をすることもできます。さらに、点滴、気管内吸引、排痰ケア、人工呼吸器のサービスを受けることができます。終末期には、家族の支援がと自宅で看取りを迎えるのは困難なケースの場合、このような施設を利用することも選択肢になります。

 高齢者夫婦や親子だけでは限界があり、受け皿として期待されているのがホスピス型住宅になります。このホスピス型住宅には、いくらぐらいかかるのでしょうか。一つのモデルでは、部屋の家賃と管理費が月額11万1120円になります。1日3食の食事が必要な場合は、月額3万8880円がプラスされます。他に医療保険や介護保険の自己負担分、寝具レンタル代や洗濯代行費、おやっ代がかかります。一般的に、これらの費用を考慮すると月額20万~50万円程度になります。この金額に、余命月数を掛け合わせた金額が、人生の総決算になるかもしれません。このような施設運営には、問題も起きているようです。現在、末期がんや難病の患者に特化した介護施設「ホスピス型住宅」が急増しています。末期がんや人工呼吸器を使用している人を多く囲い込んでいる施設は、事業者側の収益性が意図的に高くできる仕組みが含んでいます。各施設は、提供した医療や介護サービスに対して、医療保険報酬や介護保険報酬を得ることができます。ある代表的施設では、約3割が介護保険の収入で、医療保険による訪問看護サービスの売上高が約6割を占めています。高度な医療ケアが必要な人は、訪問看護を使う回数が多くなると顧客単価が高くなる仕組みになります。利益を多くするためには、訪問介護を多くすれば良いわけです。現在、訪問介護の回数が以上に多く、なおかつ医療費の多い施設が、問題になっているようです。

 余談ですが、人は必ずあの世に行く運命にあります。でも、行く前は自分の気持ちを前面に出して、楽しく生きていきたいものです。この自分の気持ちや楽しく生きることのできる施設がある一方で、そうでもない施設の存在がメディアに登場することがあります。多くの高齢者は、良い施設を見つけたいと願うわけです。その願いをかなえるヒントが、乳幼児の施設にあります。以前、乳幼児施設で成長した子ども達が、心身の発達に遅れが目立ったことに注目が集まりました。感情表出が乏しく、心身の発達がひどく遅れる子らが多いことが社会問題になったのです。日中ぼんやり座っているだけで、感情表出が乏しく心身の発達がひどく遅れる子どもたちの存在です。これは、人員が不足し、子どもたちへの声かけや笑いかけが少ない乳児院や養護施設に起きた問題でした。このような心身の発達がひどく遅れることは、ホスピタリズム(施設病)と呼ばれています。心身の発達がひどく遅れることは、人的刺激の不足によるものでした。これからの高齢者が、高齢者用の施設を選ぶ必要が出た時には、施設病の観点が重要なものになります。施設が、適切な人的刺激を与えてくれるものであるかを確認する必要があります。施設の選択には、ハード面だけではなくソフト面の充実度を考慮することも重要になるわけです。入所者数に対する職員さんの人数や態度、あるいは施設全体の雰囲気を見極めることも最後の見識になります。

 最後の見識に付け加えて、もう一つのお話しです。介護の問題は、「終末期のケアの問題」とかなり共通している点があります。あるグループホームを訪れると車イスの人、寝たきりの人、ときに大声で叫ぶ人がいます。こんな施設では、先が思いやられると、初めて訪れた人は思ってしまいます。でも、この状況を見て、要介護の進んだ人たちを受け入れている素晴らしい施設と評価する洞察力が必要です。いずれ寝たきりになっても、大声を出すような状態になっても受け入れてくれる施設であることの証明なのです。赤ちゃんの発達と「老いの進行」に関して、「頭部尾部法則」があります。子どもは頭から発達し、次に末端の足に発達していく法則です。老人の場合は、足から衰えが始まります。衰えてくると、例外なく、まず歩けなくなります。お年寄りも、末期がん患者さんも同じですが、必ず足から始まります。これらの人々を介護福祉士の人たちが、お世話をしています。お世話の行き届いた施設に、何とか入りたいものです。

 最後になりますが、最後の看取りの金額の問題になります。1月50万円のホスピス施設になると、1年で600万円、2年で1200万円かかることになります。この費用をどうすれば、捻出できるかという問題です。このヒントは、四国の高松市にあります。衰退する地地方都市の中で、高松市の丸亀商店街は資産価値を高めることに成功しています。この町の商店街振興組合は定期借地権を活用し、土地の所有と利用を分離した商売を行う仕組みを作りました。この借地権を活用し、土地の所有と利用を分離する方式は地権者がリスクを負う仕組みになります。丸亀地区の地権者は、リスクを覚悟でこの案に乗ったのです。店を営業している人達は、消費者のニーズを捉えながら、商売に徹して稼いでいます。これらのお店の工夫に吸い寄せられるように、若者が多く集まり、そこから地域の活性化が始まっています。地権者は土地を組合に出資し、商業の活性化を促し、地代としての利益を得ているのです。丸亀地区は、高齢者にとって、良い場所になっています。入居の大きな理由は、医療介護施設の完備にあります。高齢者にとって大きな家は、必要ありません。1LDKのマンションで十分です。マンションの1階に診療所があれば、通院の心配ありません。診療所と高度医療機関との連携も円滑に行われています。医療が充実し、住むところが商業施設として整備され、若者がいる地域は、高齢者にとって住みやすい場所になります。丸亀地区の売上げは、開発前の3倍以上になり、買い物客は1.5倍以上に増加しています。建物の固定資産税の評価額は、400万円から3600万円になり、税収を大きく増やしました。高齢者が、介護医療施設の完備した地域に移動し、できれば、その土地の権利を獲得し、資産価値の上がるのを見ながら、最後の看取りを待つというシナリオも面白いかもしれません。

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