マラソン大会は利益を上げるイベントなる  アイデア広場 その1669

 2020年の箱根駅伝では、ナイキの厚底シューズを履いたランナーが、10の区間のうち9つの区間で、区間賞を獲得しました。衝撃的な厚底シューズのデビューだったことは記憶に新しいことです。でも、コロナの流行で、多くのマラソン大会やイベントが相次いで休止になりました。マラソン愛好家の購買意欲を喚起できないことは、シューズメーカーにとって痛手になりました。ところが、コロナの流行が下火になったころから、マラソン大会に参加する人々が増え始めています。その影響でしょうか、スポーツシューズの企業の売り上げが急速に伸びているのです。その一つのアシックスは、2025年1~3月期の連結決算は、3年連続で過去最高を更新しました。売上高が、20%増の2083億円と1~3月期で初めて2000億円を超えたのです。純利益は、前年同期比18%増の316億円になっています。理由は、高価格帯の「スポーツスタイル」と呼ぶ日常用スニーカーやシューズの販売が伸びためです。アシックスは、シューズ需要の増加が続くとみて、新たな製品を投入しています。今年8月、厚底ランニングシニーズとしては最軽量のトップランナー向けを販売しています。この最軽量の新製品を発売し、収益力を強化する狙いです。初心者向けの安価なエントリーモデルの販売を減らし、高価格帯のシューズに注力する戦略が奏功した形になっています。ランニング愛好家は、速く走りたいし、シューズが高いと気持ちは複雑なようです。「河豚は食いたし命は惜しし」の心境かもしれません。

 とは言え、市民マラソンの季節がやってきました。9月の世界陸上選手権は暑熱対策が追いつかず、マラソンや競歩で途中棄権が相次ぐ光景がありました。鍛錬の持続を妨げる夏の暑さはランナーにとって、なかなか克服が難しいものがあります。朝や夜の涼しい時間に走れば良いのですが、時間の確保など問題があります。それでも、愛好家にとって、継続的な練習は欠かせません。練習には、走る時間帯や走る時間とその負荷などいろいろな条件があります。そして、もう一つは、シューズになります。シューズが合うか合わないかは、体調や記録に深く関係してきます。足指の蹴りが、足裏からふくらはぎ、太ももや上半身までの筋肉へ力を円滑に伝えることで円滑なウオーキングやランニングができます。サンダルなどのかかとが抜けるシューズを履くと、足の指が靴の中で靴をつかむような動きをします。靴をつかむような動きでは、足指の「蹴る」という動作ができなくなるのです。ランニングやウオーキングは、健康の予防の分野で大きな効果を発揮します。でも、足に合わないシューズでランニングやウオーキングをやればやるほど、健康から外れた悪影響を残すことになります。有名選手の履いたシューズだから、自分に合うわけではありません。そして、健康を確実にもたらすわけでもないのです。腰が落ちていると、ひざや足首に負担がかかります。もちろん、駅伝などを見てもわかるように、腰の低い選手の走りは遅くなります。重心の移動がスムーズにいかなくなるわけです。

 そのランニングシューズも、軽量で反発力を高めた厚底の登場以来、価格が上昇してきています。そして、大会参加費も高騰しています。ランニングシューズは、高機能に加え、原材料費の高騰や円安も影響して高騰しています。大会などで使われる厚底シューズの値段は、1万円を超えるものが主流になっています。アディダスなどは、2023年に8万円超のシューズを販売しています。高い参加費についても、ブームをけん引してきた東京マラソンは、2007年の第1回大会が1万円でした。それが、2026年3月大会から、参加費が1万9800円になります。2019年に6700円台だった平均単価は、2025年上半期には8945円になりました。2024年の大会やイベントの平均参加料は、2019年比で2100円増の8000円でした。大会やイベントの参加料の上昇に、歯止めがかからない状況が続いています。それでも、シューズや参加費の上昇にもめげず、新たにスタートラインに立つ若者や外国人ランナーも増えています。走る体験を求めて、新たにスタートラインに立つ若者や外国人ランナーも増えているのです。高いシューズと高い参加費、そして走る苦しさをなぜ求めようとしているのでしょうか。

 私は、この疑問を少し考えてみました。お正月恒例の箱根駅伝では、箱根の坂道を苦しそうに走る選手を見ることができます。長距離走では、苦しい場面が出てきます。苦しければ苦しいほど、脳は苦痛を和らげるために、オピオイド(幸福ホルモン)を分泌します。その時、鎮痛効果とともに、幸福感や爽快感が訪れるのです。これが、ランナーズハイという状態です。ランナーズハイを体感するためには、運動時間で30分以上、運動量で5000m~10000mを走る必要があります。この現象は、その人の限界に近いペースで走り続けないと、簡単には訪れません。限界に近い運動を続けることは、苦痛です。脳は苦しい運動を和らげるために、オピオイドを分泌し、その苦痛を和らげます。苦痛を和らげるよりもむしろ、快楽を与えるといったほうが良いかもしれません。この快楽を求めて、高騰する大会に、高いシューズを履いて参加する人が増えているとも言えます。蛇足ですが、ランナーズハイを求めて、体調が悪くても毎日毎日疲れたように走る人もまれにいます。走るのを休むと、麻薬の禁断症状に似た症状が現れる選手です。走らないことに罪悪を感じたり、ふさぎ込んだりすることもあるのです。コーチや監督はこのような選手を素早く把握して、適切なアドバイスをすることが必要です。脳内麻薬を求めすぎると、麻薬と同じような危険を招くことがあります。熱心すぎる選手には、注意が必要です。特に、トップ選手にはそのケアが必要なるようです。

 今年は大会エントリーの動きが全国的に活発で、コロナ流以前の水準まで回復しつつあるようです。コロナ前の2019年の95%まで回復し、2025年は2019年をわずかに上回ることが見込まれています。アールビーズ(東京・渋谷) )は雑誌「月刊ランナーズ」の発行を始めマラソン大会の運営を行う企業になります。この企業は、全国のほとんどのマラソン大会の登録を手掛けています。アールビーズの統計によると、2024年は、エントリーの合計が210万件になりました。コロナ後は、若者の参加が目立つのも特徴になります。2025年には、アールビーズのサイトへの20代の新規会員登録が2019年の約1.6倍の9万6000件まで伸びています。若者は、仲間と大会に参加し、フィジカルな体験と感動を共有することに喜びを見出すようです。そんなコミュニケーションのツールとして、市民マラソンが若い人たちに選ばれている状況があります。近年の傾向としては、日本の大会に出場する外国人ランナーも増えています。特に多いのは香港、台湾、タイからの旅行者のようです。

 余談ですが、マラソン大会には「光と影」があります。「光」は、先見の明のある団体が増え続ける参加者をより楽しくする仕組みを作り出しています。コロナ禍で遠のいた参加者を呼び戻そうと、最近は各大会同士が連携する企画が目立つようになりました。その一つに、観光も絡めることでランナーに各大会を回遊してもらう導線づくりがあります。具体的なものには、ジャパンプレミアハーフシリーズがあります。このジャパンプレミアハーフシリーズは、全国のハアラソン主要な6大会を結ぶイベントです。ジャパンプレミアは年間順位を算出、賞金も用意、城や湖などの名所をめぐる企画です。参加者に通年の目標を提供し、観光も絡めることで。ランナーに各大会を回遊してもらう企画でもあります。「影」の部分は、人手不足です。マラソン大会には、多くの役員やボランティアが必要です。ボランティア不足に伴うスタッフの臨時雇用で大会の経費が膨らみ、参加料にはね返ることが1つです。2つは、スタッフ不足で大会が開けないという事情です。

 最後は、光を育て、影をなくすアイデアになります。たとえば、ジャパンプレミアハーフシリーズは、以下のようになっています。

2 月 第 1 日曜日 香川丸亀国際ハーフマラソン

3 月 第 2 日曜日 名古屋シティマラソン

4 月 第 4 日曜日 ぎふ清流ハーフマラソン

5 月 第 2 日曜日 仙台国際ハーフマラソン

10 月 第1日曜日 札幌マラソン

10 月 第 3 日曜日 東京レガシーハーフマラソン

第77回香川丸亀国際ハーフマラソンには、約8,700人が参加しました。参加者は世界トップレベルの招待選手と市民ランナーです。この大会の運営に関わるスタッフ(役員やボランティア)は、かなりの数になります。このような大規模な大会では、スタッフの確保が可能です。でも、地方のマラソン大会においてスタッフを確保することが難しくなっています。そこで、地方の大会では、2日制にするアイデアが出てきます。2000人規模の大会では、1日目に1000人が走り、残り1000人がスタッフ(役員とボランティア)になり大会を運営します。2日目は、反対にして大会を行います。2日制になるので、次の課題は宿泊施設の確保になります。この課題を、支援する地域があります。そのモデルの1つが、北海道東部の釧路市にあります。釧路市では、長期滞在者の受け入れ拡大が進んでいます。3泊4日以上滞在した利用者数は、釧路市が約1400人と、道内市町村の中でトップになっています。釧路市で長期滞在者の受け入れは、関東や関西など大都市圏からの誘客を伸ばしているのです。夏場が30度を超える酷暑に見舞われる本州にとって、道東の釧路は避暑地として魅力的な釧路市には、テレワークとシェアリングの環境が整っています。過ごしやすい釧路の夏がビジネスを育てる場になれば、釧路市はビジネスと余暇活動を育てる地域になるかもしれません。もう一つのモデルが、車を拠点に生活するバンライフになります。愛知県に住むあるウェブクリエーターの方は、軽自動車で旅をしながら生活と仕事をしています。ちなみに、車を拠点に生活するライフスタイルのことを、バンライフといいます。バンライフを始めるため、約100万円かけて軽自動車を購入し、車内を整備したそうです。車には布団や机、ポータブルバッテリーなどを積み込み、車中泊にもテレワークにも対応できるようにしたのです。地方で仕事の依頼があれば、自宅を出て愛車の軽自動車で1週間程度ゆっくり過ごす優雅な生活と仕事を満喫しているとのことです。仕事だけでなく、マラソン大会を巡るバンライフになります。このような要素を組み合わせて、大会運営をすることにメリットが生じています。人が集まれば、地元にはお金が落ちます。落ちれば、地域は豊かになります。タイかい運営の人手不足の解消にもなります。上手く流れるキーマンが出れば、面白いことになります。

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