小学生や中学生が減少する中で、不登校の子ども達が増加するという現象が起きています。2024年度に不登校だった小中学生が、35万3970人と前年度の34万6482人より7488人増えて、過去最多を更新しました。不登校の増加は12年連続になります。コロナ禍前の2019年度が18万1272人でしたので、約2倍の増加になりました。不登校の小中学生の数は、過去5年で約2倍に膨らんだことになります。不登校は、病気や経済的理由などを除き、年間30日以上登校していない状態と定義されています。また、2024年度の問題行動・不登校調査によると、小中高・特別支援学校におけるいじめの認知件数は76万9022件で前年から5%増え、過去最多を更新した。このうち心身に重い被害を負ったり、長期欠席を余儀なくされたりした「重大事態」の発生件数も過去最多の1405件になりました。今回は、不登校の原因と分かる授業、そしていじめに負けないという視点から考えてみました。
不登校の増加が続くなかでも、子どもの学ぶ権利を保障し、将来の日本を支える人材を養成することが求められています。学校は、理解度に応じた宿題や補習を提供することで授業が分からず取り残される子どもをなくすことに努めています。現在の学校で行われている各教科や科目の授業には、到達目標があります。目標を達成するために、授業があります。授業には、子ども達が授業を理解し、学習進度の目標に到達しているかどうかを調べる評価の過程があります。一般的に、授業が理解できたかどうかを調べるには、診断、形成、総括の3段階の評価過程があります。診断、形成、総括の流れが把握できれば、学習目標との関連で、子ども達の学力形成が逐一把握されるわけです。残念なことですが、この当たり前のことが十分でないことに、不登校の1つの原因があるようです。世界の流れとして、子どもの学習履歴を用いて、生徒個々人に最適化された学びを提供するための実践が始まりつつあります。デンマークでは、国の統計省が、国内の公立学校についての授業を公開しています。この国は、どの先生にどの授業を何時に受けたかがわかるパネルデータを公開し始めたのです。どのクラスでどの先生にどの授業を何時に受けたかがすべてわかる仕組みです。こどもの学習状況がわかれば、学習面からの不登校の理由が分かります。
いじめられている子どもにとって、学校は勉強するどころではなくなります。父親や母親と相談できる子どもは、いじめられにくいという経験則があります。いじめを受けた時、その辛さを両親に打ち明けられ、親子が協力してこの課題に向き合う姿勢が大切になります。両親としっかり話し合い、その課題に立ち向かうことで、辛いいじめを克服していく力が育っていきます。「いじめという困難そのもの」よりも、「その困難をどう受け止めるか」という「態度」が重要になります。話し合いや課題に向き合う場合、いじめの事実を裏付ける確かな物証を確認する作業も大切になります。家族力が低下していると言われていますが、このような話し合いのできる家庭は強いと言えます。強い家庭に見られる特徴に、早寝早起きと三度の食事があります。良く寝る子は、メラトニンが分泌されています。そして、朝起きるとセロトニンが分泌されます。朝の太陽光で、網膜が自然光を感知すると、セロトニンという脳内神経伝達物質が分泌されるのです。セロトニンは、脳神経回路に信号を行きわたりやすくして、脳に覚醒をもたらすのです。セロトニンという物質は、困難なことにぶつかっても、冷静に乗り切るメンタル状態を保ってくれます。家族の支えと自分自身の心理的耐性を育てる習慣があれば、ある程度のいじめを乗り越えられるというわけです。
オーストリアのある児童養護施設には、エピソードがあります。1930年代に、オーストリア人医師がある児童養護施設を訪間しました。この施設の子ども達は、ほとんど無感動で、発育も不十分だったのです。服も身ぎれいで、食べ物も与えられていたのですが、人との触れ合いに欠けていました。スタッフの数が足りないために、親がするようなスキンシップができなかったのです。おどろくべきことに子どもたちの中に、1人だけ溌剌と順調に成長している子がいたのです。この施設では、子どもたちが寝ている間に清掃スタッフが部屋の掃除をしていました。夜中に施設内を観察していた医師は、ある光景を目撃します。この清掃スタッフが、ベッドの下の段に寝ているあの溌剌とした子を抱き上げては抱きしめたりなでたりしていたのです。抱き上げては、抱きしめたりなでたりしていたのはほんの一瞬でした。でもこのスキンシップは、毎晩、続けられたのです。幸か不幸か、清掃スタッフは抱き上げることにもっとも短時間でスキンシップできる入り口の下の段に寝ていたこの子だけに素敵な行為をしました。このベッドに寝ていたおかげで、その子は順調に成長することができたのです。親子のスキンシップ、またはそれと同様なスキンシップの重要性を暗示す事例になります。
子どもは、発達するにつれて他者(友達、保育士、祖父母、親戚、近所の人など)と関わりを持つようになります。子どもが重要な他者を選び取る能力を持つことは、重要なことです。複数の重要な他者を持っていれば、それぞれの人から異なる情報を得ることができます。特に女児は小さい時期から、人間関係を広げ始めていることが、明らかになりました。重要な他者を選び取る能力を持つことを、親が認知して、それを認めてもらうことは、子どもにとって非常に重要なことになります。望ましい他者の存在があれば、親子の濃い交渉時間は短時間でも良いというわけです。このことを補足する面白い実験が、慶応大学などの研究チームによっておこなわれました。これは、マウスを使った幸せホルモン(オキシトシン)に関する動物実験になります。同じ母親から生まれた兄弟マウスを、単独飼いと4~5匹のグループ飼いに分け12週問観察したのです。すると、単独飼いのマウスは、グループ飼いと比べてオキシトシンの分泌量が少なくなりました。この実験では分かったことは、社会的な孤独が脳の視床下部から分泌される「幸せホルモン」減少させたことでした。仲間との触れ合いのあるマウスの群れは、ある意味、幸せな環境で生活できたとも言えます。このことは、人間社会に言えるようです。
余談になりますが、 いじめの有無の把握には、いくつかの方法があります。たとえば、グループのメンバーであるA君、B君、C君、D君が笑顔で学校生活し、成績が向上している場合、いじめがないと判断できます。グループに所属しない孤立した子どもに関しては、成績が向上し、マイペースで学校生活をしている場合は、いじめがないと考えても良いでしょう。一方、グループのメンバーA君、B君、C君、D君の中で、C君だけが急に成績が低下した場合や以前と比較して沈んだ状態になったときには、注意が必要になります。いじめの状況は、一様でないことにも理解が必要になります。いじめの有無については、成績の推移から推察できるということです。仲間集団の成績が向上している場合は、いじめがないと判断できます。仲間の一人だけの成績が低下している場合、その仲間集団に何かあることが推察できます。このような子どもの人間関係は、簡単なソシオメトリーで調べることができます。現在は、より高度な調査方法が開発されています。たとえば、エイベックスでは日本マイクロソフトと協力して、ライブなどで観客の満足度を数値化する試みを行っています。カメラで顔を撮って、AIがその表情や向き、体の動きなどからその人の集中度を評価する仕組みです。ライブでの瞬間の観客の様子から満足度を自動で数値化できれば、良いデータが得られます。この満足度を自動で数値化するソフトは、塾や語学学校などで導入することが検討されています。学習に対する集中度を把握し、子どもの学習成就度を把握することができるというわけです。満足度を自動で数値化の技術を使うと、うつ状態や自殺願望を持っていることが検出可能という報告もあります。もし、子どもの表情で、学習の満足度や不登校の兆候がわかれば、解決に向かって新しい手法になるかもしれません。
最後になりますが、日本では、タブレットがデジタル教科書のツールとして配布されています。学習の遅れなどは、オンライン学習でも支援できるようになりつつあります。最近、このツールには別の利用方法もあることが分かってきました。こどもに配布したこのツールを活用して、心身の変調を把握するなどの不登校対策を行う教育委員会も出てきました。ある教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報を端末に入力するよう指示しています。この教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報をデータ化しています。気分や睡眠時間に異変があれば、教員やスクールカウンセラーが相談に乗る仕組みになります。学習意欲の把握や心身の変調をデータ化し、教員や保護者がいつでも見ることができるようになれば、少しは不登校を減らすことができるかもしれません。
不登校やいじめに対する守りだけでは、楽しくありません。現在の家庭や学校では、より積極的な対策も必要です。子ども達は課題に直面している時、そして関心のあることに夢中になっている時、左脳も右脳も問題解決のための積極的な活動をしているのです。左脳も右脳も問題解決の間、両側の側頭葉におけるドーパミンの分泌が著しく増しています。このドーパミンが出ていると、やる気がアップし、好奇心あふれるイキイキとした脳になります。ドーパミンは、楽しさや喜びといった快感、興奮を感じたときに分泌されるものです。幼児期のころから、このメカニズムが発達している子ども達がいます。それは、早寝や早起き、そして朝ごはんの習慣化ができていいて、読書や適度な運動の習慣がある子ども達になります。それらの子ども達が積極的に取り組む課題を、個々人に提供できるようになれば、不登校やいじめが少し減るようになります。
