中学の部活動の地域移行を実りあるものにする知恵 アイデア広場 その 1537

 文部科学省は2020年9月に、教員の長時間労働を是正する改革案をまとめました。改革案の骨子は、休日は部活動の指導に携わる必要がないというものがありました。そこでは、公立中学校と高校の休日の部活動を、地域に移管する改革案をまとめたのです。2023年度以降は「地域活動」として、地域人材が担う仕組みに順次移行する方針を固めました。この改革案に先立ち、各都道府県の教育委員会でも、部活動の制限を推し進める通達を出し始めています。中学校の学習指導要領は、部活動を「学校教育の一環」と位置づけています。指導に熱心な教員ほど、休日返上で生徒の活動に付き添うケースが多多く見られました。活動日数が多いほど、顧問の労働時間が長くなる傾向にありました。部活動が、中学教員の長時間労働が慢性化する要因になっていたとも言われています。このような弊害をなくすために、スポーツ庁と文化庁は2023年度から3年間を「改革推進期間」として教員の負担軽減に努めてきた経緯があります。スポーツ庁と文化庁の有識者会議は、休日の地域移行は着実に進んでいると評価するようになってきています。教員の中にも、部活動指導の負担を減らしたので、授業の準備や私生活の充実につながったと語る方もいます。一方で、改革途上にあるとする自治体も多いのです。さらに難しい課題が、国の有識者会議から提案されています。この国の有識者会議は、休日で進める「地域移行」を平日に広げる改革案をまとめたのです。2026~31年度の6年間を「改革実行期間」と位置づけ、平日にち広げるよう求める改革案を突き付けたのです。「地域移行」を平日に広げる改革案のどこに困難さがあり、その実現にはどのようにすれば良いのかを考えてみました。

 スポーツ庁の有識者会議での結論として、休日の公立中学校の運動部活動を、2025年度末までに地域の外部団体の運営とするとなりました。提言では、2023年度から段階的に外部,運営に移行し、2025年度末までにおおむね全国で移行が完了することになるようです。この提言を先取りした自治体があります。それは、東京都渋谷区になります。渋谷区は、2021年10月に、休日の部活動の受け皿として渋谷ユナイテッドを設立しました。その組織には、渋谷区内8校の生徒約220人が登録しています。ここでの合同部活動は、通常の部活とは大きく異なります。渋谷ユナイテッドによるダンスの合同部活動では、教員の姿がないのです。プロのダンサーが、ダンスの合同部活動の指導をしています。渋谷区はダンスの他にも、様々なスポーツや文化が集まる渋谷のメリットを最大限生かしています。地元の企業やクラプチームと連携し、計約20人の指導者を確保し、この組織を運営しているわけです。もっとも、渋谷区にも指導者のさらなる確保という課題を抱えています。指導者の派遣に協力してもらえる団体が見つかりそうな競技から、スタートしたのが現実なのです。

 地域移行の問題は、少子化という波によっても生じざるをえない要素になっていました。その一つが、合同部活動です。合同部活は、2000年代ごろから少子化で部活編成が難しい地方を中心に広がりました。この合同部活が最近になって、人口が多い都市部でも取り入れる動きが出てきているのです。都市部の自治体が合同部活を取り入れる背景には、教員の負担を減らしたいという狙いもあります。複数校の部活を統合して指導を外部人材に委ねて、教員の負担を少しでも減らしたケースもあります。複数校でチームを編成し、外部人材に指導を任せる「合同部活」が一つの選択肢になっています。部活動の地域移行には合同部活のほかに、休日のみ外部コーチを招くなどの方法などの事例もありました。また、生徒は平日、所属する学校の部活に参加し、休日に民間施設の指導者に教わる事例もあります。種目も、サッカーやラグビー、フェンシング、ダンス、バドミントン、卓尿、ソフトテニスなどに及びます。蛇足ですが、野村総合研究所の推計では、中学の男子軟式野球の1校あたり部員数は2023年度が16.6人でした。それが、1校あたり23年度の16.6人が30年後に3.9人に減ると推定されています。ある意味で、合同部活動や地域移行は時代の流れになっているわけです。もっとも、悪い面だけでなく、メリットもあります。地域移行の活動に転換することで、学校の卒業を区切りとせずに競技を継続できる契機となります。これは、生涯スポーツとしての有意義な資産にもなります。

 中学校の学習指導要領では、部活動が「学校教育の一環」とされています。これが教員の指導する根拠となり、土日も休日返上で生徒たちに付き添う慣習が定着したと考えられます。でも、この習慣が、社会的状況に反するものになりつつあります。教員勤務実態調査によると、6割の中学教員が月の残業80時間を超えています。ある意味で、6割の中学教員が「過労死ラインの水準を超えているということです。この過重勤務を解消するべく、改革に取り組む自治体も現れています。神戸市は、2026年度から、地域の団体によるクラブ活動に全面移行する方針を決めました。神戸市は、2026年度から市立中学校の部活動を終了します。この狙いの一つは、教員の負担を軽くし、授業準備などに注力できるようにすることになります。政令指定都市が、平日を含めて全面的に地域に移行するのは初めてのケースです。神戸市教育委員会によると、市立中に在籍する生徒は約3万人になります。この生徒を、現在の中学1年生が引退する2026年夏ごろから、順次、学校主体の活動を終えることになります。もちろん、部活動をやめるだけでなく、その補填も整備しようとしています。神戸市教育委員会は、2025年1月から運営団体の募集を始めています。神戸市は、学校と民間団体をつなぐ体制の整備や指導資格の取得を促す実証事業を進めているのです。今後は、民間のスポーツ団体などが運営主体となります。神戸市のように、地域のクラブに運営を切り替える動きは各地で進みつつあるようです。

 運動において、高度な技術を修得することは重要なことになります。高度な技術を修得し、それを試合やゲームで実践しなければならないという考えもあります。生徒の中には、高度な技術を希望する子ども達もいます。この要望をかなえるシステムも、整い始めています。日本スポーツ協会(JSPO)は、教員免許状所持者向けの公認スポーツ指導者資格(スタートコーチ)の受講者を募集しています。このスタートコーチの資格は、学校と兼業で地域でも指導を続けたいと望む教師に向けたものになります。この資格を取るための受講内容は、適切なコーチング、スポーツ医科学、指導現場においるハラスメント防止を重視した内容になっています。JSPOは、教員向けのスタートコーチ以外にも、競技別とスポーツ少年団向けのスタートコーチも導入しています。2019年と2020年から認定している競技別の資格認定者はで2306人になります。そして、スポーツ少年団向けでは、9196人がすでに資格を取得しています。一方で、小中学生の年代では、常に高度な技術を修得しなくとも、楽しく運動やスポーツに参加することを希望する子ども達もいます。状況によっては、とりあえず浅い経験だけでも良い場合が多いのです。高度化の層と運動経験を楽しむ層の二つを満足させる制度ができればハッピーです。

 渋谷区は、2023年度に部活動改革のモデル校を定め現在は区立中の半数が地域移行に取り組んでいました。バスケットボール部員27人が、12月の土曜日東京都渋谷区立代々木中学の体育館に集まりました。バスケットボール部員27人が、シュートや試合形式の練習に打ち込みました。メニューや動きの指示を出すのは同校の教員ではなく、競技経験が豊富な外部の指導者2人でした。バスケットボール部所属の中学2年の生徒は「、細かい技術を分かりやすく教えてくれる」と歓迎します。渋谷区担当者も、生徒が専門的な指導が受けられると答えています。渋谷区は、平日も休日も外部人材が各学校を拠点に指導を担っています。渋谷区スポーツ協会が、学校と民間のスポーツクラブなどとの橋渡し役となっているのです。ここでの最大の問題は、指導者の確保なのです。休日は何とか確保できるようです。でも、平日に指導者を確保することは、なかなか難しいという状況があるようです。これは、都市部に限らず、地方都市においてもみられる光景です。部活動の地域移行は、理想です。でも、現実は、指導者確保の問題が大きく横たわっているのです。これには、スポーツ庁も文化庁も困っているようです。

 最後になりますが、困っていることがあれば、解決策を見出すことも楽しいものです。北欧の福祉施設などでは、老若男女が福祉施設のスペースを有効活用する風景が見られます。いわゆる福祉施設と学校を隣接してデザインしていく手法です。高齢者と子どもの共用スペースでは、高齢者と児童生徒の活発な活動風景が見られます。ここから、部活動の地域移行の発想には、老若男女が融合した趣味の活動、もしくは社会的活動の姿が浮かび上がります。人生100年を楽しみながら生きていきたいという方は、高齢化の流れとともに増えています。そこに欠かせないものが、趣味ということになります。公民館や民間の習い事で行われている活動を思いつくままに上げてみました。絵画、陶芸、園芸、茶道、生け花、書道、パソコン、川柳、短歌、墨絵、人形造り、体力維持の体操、ヨガ、ピラティス、バレエ、社交ダンス、ジャズダンス、フラダンス、フラメンコ、ベリーダンス、釣り、登山、ハイキング、ゴルフ、ランニング、エアロビクス、ピアノ、バイオリン、チェロ、フルート、合唱、囲碁・将棋などとなります。これらの活動を支える中心には、世話役と言われる人たちがいます。この世話役の方には、一定の知識やスキルを持ち、指導のできる人たちもいます。これらの活動を3400万人の高齢者の方が、日々行っているわけです。活動が充実すればするほど、シニアは活き活きしてくるものです。シニアだけの活動でも楽しいのですが、子どもや若者がその活動に入るとより楽しくなるようです。学校の部活動を、地域の高齢者活動と融合するという考え方も選択肢になるかもしれません。たとえば、「しのぶもちずり」の歌枕で有名な福島市では、学習センターでの活動が盛んです。もちずり地区にある学習センターでは、ダンス、卓球、合唱、体操、空手など、50以上のサークルが日常的に活動しています。この活動は、土日に限らず、平日も午前午後を通じて行われています。50のサークル活動と子ども達の希望する運動や文化活動をマッチングするサービスを整えれば、面白い地域移行のシステムができるかもしれません。

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