仕事のできる社員の育て方  アイデア広場 その1673

 世界の企業は、アイデアや創造性をいかにつくり出して、生産性を上げていくかに苦心を重ねています。多くの企業がチームを立ち上げて、生産性の向上を図っています。でも、せっかく優秀な人材を集めて編成したチームが、思うような成績を上げないケースも出てきています。グーグルは200近いチームを分析し、成果をあげるチームとあげないチームを調べたのです。その調査の結果は、面白いものでした。チームのメンバーが優秀か、どんな人材なのかはあまり関係ないようなのです。チーム内に心理的安全性が確立されている場合に限り、多様性の発想や創造性が得られるという結果になったのです。提案や工夫の成果が、採用されれば、前頭葉が刺激されて意欲が増すことになります。意欲が増せば、側頭葉からの記憶や経験が効率的に湧き出てきます。いわゆる高いモチベーションで、頭脳活動ができることになります。営業成績は、個人の営業スキルと関係していると思われていました。でも本当は、良好な職場の人間関係が営業成績を継続的に上げていくことが分かってきました。このような職場では、良い成績を上げるコミュニケーション環境(くつろげる空間と時間など)が、整っているようです。

 日本にも、このようなスペースを作ることに挑戦する企業が増えています。その一つに、コクヨと並んで有名なキングジムがあります。キングジムは本社の2階を刷新し、社員や来客者が交流できる共創スペースを作りました。この共創スペースは、「目NCREATIVECOMMONS “Meets” (ミーツ)」と名付けられています。このスペースは、日常業務や新製品発表会、社内研修などに活用されています。社内の交流機会が減っている中、部署を越えた会話を促して商品や事業の新たなアイデア創出を狙っているようです。このスペースが、部門の垣根を越えたコミュニケーションや新しい発想が生まれる場所にしたいようです。共創スペースは、最大50人を収容できるワンフロアになりますここには、ボックス型の会議スペースのほか、飲食可能なカカフェスペースを設けてあります。ここの机や椅子は移動可能で、オープンスペースとしても使えます。キングジムは文具に頼る事業構造から転換し、生活雑貨を成長の柱に育てる方向に舵を切っています。従来の仕事内容を、新たな方向にするためには、新たな発想も求められるようです。フロアの中心には、キングジムグループが販売する文具やキッチン雑貨を常設展示してあります。身近な文具やキッチンを見て、触れて、そこで会話をし、考えることなどから新たな発想は生まれる可能性が出てくるようです。

 アイデア、閃き、創造性などを量産する人材の評価が、高くなっています。これらは、どんな人にとっても、どんな企業にとっても、そしてどんな家庭生活においても必要で大切なものになります。このアイデアは、知識と経験そして意欲が合わさって生まれてくるものです。私たちが生きていく中で得た知識や経験は、脳の中の側頭葉に蓄積されています。側頭葉には、さまざまな経験が記憶、集積されているのです。一方、脳の前頭葉では、意欲や目的意識、やる気がつくられます。側頭葉にある知識や経験を、前頭葉で生まれる意欲や価値観が引き出してくれます。アイデアは、前頭葉の意欲と、側頭葉の経験のかけ算にたとえられます。経験は年齢を重ねるほど増えるので、歳をとった人のほうがアイデアの引き出しは多いことになります。でも、残念なことですが、歳を取ると意欲が減退する傾向が出てきます。一方、若者は意欲が十分なのですが、蓄積されている経験や知識が不十分です。引き出しが、少ないとも言えます。この両者の長所や短所を補って、経験を増やし意欲高めようと努力すれば、アイデアを作る能力は鍛えられるのです。その鍛える場が、共創スペースということになるかもしれません。

 長い人類の歴史を見ると、女性が結婚し出産することは、人類の発展に大きく寄与してきた面があります。女性の場合、出産することで脳が重くなり、知能が高まるごとがわかっています。これは、他の動物に対して優位性を持つことになりました。男性は結婚することで、多くの場合、攻撃性も下がり、温和になります。温和になる努力がないと、子孫(自分の遺伝子)を残すことができなくなるケースが増えます。男性は、結婚することで、自ずと良好な社会関係を形成するように努力します。女性の知能が高まり、男性が温和になることで、人類は他の動物に対して優位な地位を築いてきたとも言えます。家族をつくって社会の中でうまく生きて、子孫を残してきた女性と男性だけが、現在の成功者と言えるのかもしれません。結婚することは、社会関係力を向上させる「基本」になります。社会関係力を向上したもの同士が、切磋琢磨することで、生産性が上げることは経験則的に知られていることです。たとえば、優秀な専門家は、家族同伴で赴任地に居住します。家庭での安定が、確実な能力を発揮する前提になることを示す事例になります。

 日本でも、社員の安定が生産性向上になることが分かり始めてきました。ある企業では、その安定を会社が支援するようになっています。三菱UFJは、行員向けに、恋愛を支援するマッチングアプリの提供を始めました。結婚など自分なりのライフプランを実現させるひとつの手段として、活用してもらえればと会社は述べています。導入したマッチングアプリは、Aill (エール、中野)が運営する「Aill goen(エールゴエン)」になります。これは、人工知能を介して働き方や人生設計に沿った相手を引き合わせるアプリです。社内掲示板にマッチングアプリの提供開始を知らせと、数日後に使い始める社員が増え始めました。このマッチングアプリは、会員が限られているので安心感があり、スムーズに広がったようです。三菱UFJに勤める20代の男性は、「無料で使えるので、とてもありがたい」と三菱UFJに勤める20代の男性は満足しています。8月末時点で、366人が使用しており、その8割が20~30代の社員になります。また、審査を通った自社の従業員を、他社の社員に紹介するサービスも行っているようです。9月末時点で、1500社超がこのアプリを導入しています。月6600円の利用料は、福利厚生の一環として三菱UFJが全額を負担しています。

 三菱UFJだけでなく、りそなホールディングス(HD)も傘下4つ銀行行で2024年から無料提供を始めています。このアプリの導入から3カ月後に、りそなHDが実施した従業員の意識調査では良い兆候が見られています。20代の社員では、「充実」を示す回答が2023年10月の調査から5ポイント増えて74.7%となっています。「仕事とプライベートが充実しているか」との質問には、若者を中心に指標が改善していたのです。独身の行員向けに無料で使えるマッチングアプリの提供には、銀行特有の事情があるようです。以前のように、出会いの場がなくなっていました。以前は総合職の男性と一般職の女性が社内結婚する例も多かったのです。今はセクハラへの警戒感もあり、社内で「出会い」を避ける人たちも増えていました。社内での出会いの創出は、人材定着の有効打になる可能性がありました。社員の私生活が充実すれば、仕事にも好影響が出ます。このアプリの狙いは、社員に、元気で長く働いてもらう仕組みづくりだったようです。760人がアプリを活用し、55人が交際まで発展したそうです。また結婚した社員や交際した社員は、「仕事に打ち込める、やりたい仕事ができるようになった」と回答していました。

 最後になりますが、最近、ワーク・エンゲージメントという言葉を聞くようになりました。これは、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことです。ワーク・エンゲージメントは、仕事に対して熱意と没頭、そして活力の3つが高いという要素を持っています。この特性の高い社員は、楽しんで仕事をしています。彼らは、決められた仕事をしながら、いくつかの課題に取り組んでいます。この課題を解決するアイデアは、いくつかの情報の組み合わせから作り出されます。散歩をしている時とか、お風呂に入っているときに、仲間との会話のときに、ふとアイデアが顔を出してきます。共創スペースなどは、このアイデア生産に適した場所になります。また、安定した心身の状態は、家庭の安定が基礎になることは経験則から明らかです。現代の課題は、職場の工夫から解決に向かうのかもしれません。

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