世界の国々では、国民の健康を重視する姿勢が顕著になってきています。その指標である平均寿命は、各国の1人当たりの国内総生産(GDP)とよく相関関係にあると言われています。日本は1人当たり GDPが34位と低迷していますが、平均寿命は世界トップの84.3歳になります。この相関関係も、状況によって変わるようです。たとえば、国民全員が、等しく年収500万円の国がります。もう一つは、半数の人々が年収900万円で半数が100万円の国があります。両国の平均所得は同じ500万円ですが、平均寿命は「格差のある国」の方がずっと低くなります。この具体的なモデルの国が、米国になります。米国の平均寿命は78.5歳で、社会的格差が健康格差につながっている代表例といえます。個人の所得や学歴によって健康状況に違いが出ることを健康格差と呼びます。今回は、格差が広がっているとされる日本の状況において、健康格差を縮小する仕組みを考えてみました。
国立がん研究センターが、中卒者と大卒者の平均寿命の推計結果を発表しました。この種の推計の発表は、国内で初めてのことでした。その結果も、ショッキングなものでした。がんや心疾患などの死因別に見ると、ほぼ全てで中卒者が大卒者の死亡率を上回っていたのです。小学校や中学校まで卒業した「中卒者」の死亡率は、男生で約1.4倍、女性で約1.5倍でした。中卒者は大卒者に比べ、平均寿命が亡くなる確率が約1.5倍になるとする推計結果になったのです。もっとも、中卒と大卒の死亡率の割合は、フランスの男性で2.2倍、フィンランド女性も2.2倍と高率でした。日本の1.5倍という数字は、大きいとは言えません。日本国内の格差が小さかった理由は、国内の衛生水準が高いことです。これは、国民皆保険制度の存在が大きい要因です。この推計結果の発表の中に、健康格差の縮小のヒントが隠されていました。それは、次のような説明にありました。「健康や寿命には上限があり、大金持ちでも老いや死は避けられません。ある程度所得が上がると、寿命はほとんど延びなくなります。逆に低所得者の場合は、わずかでも所得が増えれば劇的に寿命が延びるのです」。つまり、低所得者の所得を少し増やすことにより、寿命は延びることになります。そこで、所得を少し向上させる仕組みを考えてみました。
経済協力開発機構(OECD) が、15歳の金融知識を試験して調べた報告があります。残念ながら、日本の子ども達のお金の知識は先進国の中で高いとは言えないようです。数学や文章読解の力は高いのですが、お金を稼ぎ、支払う実践経験が少ないことが指摘されています。確かに、日本の学校教育の現場では、一番身近であるはずのお金の話がほとんど出てこないのです。これでは世界に遅れるということで、文科省も新しい方策を出してきました。2020年度に小学校において、2021年度には中学校の家庭科で、お金の管理に関する内容が強化されたのです。学習指導要領において、家庭の教科で買い物の仕組みや売買契約、お金の管理の内容が強調されることになりました。安心のためにお金を増やすためにできることは、大きく分けて次の三つしかありません。毎月の収入を増やすこと、毎月の支出額を減らすこと、運用などで手持ちのお金を増やすことの3つです。投資信託を20年保有し続けて損失を出す人はほぼいません。投信信託のお金は、世界の事業に投資され、地域を豊かにし、富を生んでいるのです。お金を使わずに貯蓄をすることは、世の中にお金が回らなくなることを意味します。仮に、月1万円を年利3%で50年運用すると元本600万に対して運用益が約775万円になります。月1万円を年利5%で50年運用すると2000万円以上の運用益が出て、総額で2660万円になるという計算もあります。この金額があれば、老後の2000万円問題も解決することになります。
所得を少し上げる方策として、国民の個人資産の1800兆円の使い方などを考えてみるのも面白いかもしれません。日本人の個人金融資産は、1800兆円もあります。この金融資産は1800兆円の半分以上の52%が、預貯金だという調査結果があるのです。アメリカは13%.ドイツやフランスなどの欧州先進国は20~30%が預貯貯金です。外国の方からすると、この900兆円に及ぶ預金はもったいないと言います。預金は、ほとんど増えないからです。たとえば、投資信託を20年保有していると、多くケースでは2~6%の利益を生み出しています。投資信託の場合、20年間以上を保有し続けても、損失を出す人はほぼいないことが確かめられています。2017年における一人当たりGDPは、日本が約400万円です。もっとも、世帯収入となると540万程度になるようです。もし、900兆円の預金を投資信託に預けた場合どうなるでしょうか。優良の5%を想定した場合、45兆円が配当されることになります。日本国民1人に、45万円が配当されることになるのです。2人家族の場合、世帯収入に90万円が上乗せされることになります。ベーシックインカムとしては、楽しい収入になります。もっとも、富裕層の方がこの案に賛成するのには時間がかかり、現実的な解決策ではないかもしれません。いずれ、人々の意識が変われば、実現する案かもしれませんが。
全国一律のベーシックインカムがダメならば、地域に限定したベーシックインカムを地方創生の一環として導入する案もあります。その候補地は、原発事故の福島県富岡町になります。この地域で、100億円のベーシックインカムの元手を作ることにします。簡単に100億円のベーシックインカムの元手と言いますが、どうすればこのお金を作れるのでしょうか。富岡町の面積は68キロ平方メートルになります。ここに、太陽光発電所を作ることにします。1ヘクタールの土地に太陽光発電を設置すると、年間約100万キロワット時(kWh)の電力を生産することが可能です、その売電は年間1000万円になります。1kwhの売電が10円として計算すると、1ヘクタールの太陽光発電の売電は1000万円になる計算です。100ヘクタールの土地に太陽光発電を設置するとその売電は年間10億円になります。1キロ平方メートルは、100ヘクタールです。1000ヘクタールの太陽光発電を作れば、100億円のベーシックインカムを確保できることになります。この地区の優位性は、使用可能な基幹送電線が豊富にあるのです。原発で使われていた、送電線が現在使われていません。送電線への投資が必要ないという優位性があるのです。
それでは、1000ヘクタールの太陽光発電の資金は、どのようにして作るのでしょうか。1ヘクタールの土地に、太陽光パネルを設置する費用は2億円になります。1000ヘクタールの土地に太陽光発電の設置の費用は2000億円になるわけです。この2000億円の財源探しが、一つの課題になります。この地区には、原発事故で放射能に汚染された土壌が大量にあります。この大量の土壌を保管するために、富岡町以外にものいくつかの中間貯蔵施設が作られています。中間貯蔵施設に関する予算は、平成28年度1300億円、平成29年度、1900億円、平成30年2800億円、平成31年度2100億円程度計上されています。今後も1000億円から3000億円程度の予算が計上されていくことのようです。現在に至るまで、莫大な国の税金が投入されています。中間貯蔵施設の汚染土壌は、30年以内に福島県外の最終処分場に移すという約束があります。30年後には中間貯蔵施設から、新たに建設される最終貯蔵施設に汚染土壌運ばれていくわけです。つまり、30年後には、中間貯蔵施設建設に使った費用と同程度の1兆円とも2兆円とも言われる莫大な税金が、使われることになるのです。中間貯蔵施を最終貯蔵施設にすれば、1000ヘクタールの太陽光発電所の費用はすぐに獲得できます。また、最終処分場は、より厳格な基準でつくられるということであれば、中間貯蔵施設の近くに最終貯蔵施設を建設すれば良いのです。輸送費も人的負担も最小に抑えることができます。富岡町の皆さんに、100億円のベーシックインカムの元手できるわけです。富岡町の人口が1万人とすると、1人100万円のベーシックインカムが入ることになります。
最後は余談になりますが、中卒者と大卒者の平均寿命の推計結果のお話しです。この集計には、かなり複雑な手法を使わなければならなかったようです。フランスやフィンランドの場合、すぐに学歴や所得、そしてその平均寿命の集計ができるデータが揃います。日本の場合、それが簡単にはできないのです。マイナンバーの利用は、社会保障や税、災害対策などに限定されています。欧米などでは、政府統計計を使って格差の状況を調べ、解消のための対策に生かしている実情があります。今回の推計結果は、個人の学歴を含む国勢調査 のデータと、死因などの情報を含む「死亡票」のデータの活用をましました。さらに、両方のデータに含まれる「性別、生年月、住所」などが一致する人を選び、学歴と死因を結びつける作業があります。「性別、生年月、住所」選び出す突合作業は、「年金記録」問題でも使われた方法になります。この方法は、手作業で行われたので、年金問題の複雑が明らかになったことがあります。このようにして、2010年時点で30〜79歳だった方が、2015年までにどうなったかを調べたわけです、そして、亡くなった人のうち男性約22万人、女性約10万人を調べ、対象者の地域が偏らないよう調整する作業をおこなったのです。日本では各種の統計で共通する個人番号がないことから、実態を把握することが難しい状況があります。マイナンバーの利用が限定されているため、国民の実態を把握する術がないともいえます。日本は「統計後進国」から、先進国に飛躍してほしいものです。そのためには、マイナンバーカードの有効利用を国民が考え直す時期かもしれません。