コロナ禍は、世界の医療に変化をもたらしました。「face to face」の医療から、オンライン医療を普通に受けることが可能になりました。この患者に優しく便利な医療と服薬の流れは、これからも広がっていくことが予想されています。質の高い医療は、お医者さんの優れた医療技術、優れた医薬品、そして優れた医療機器によって成り立ってきました。この医療に、世界的に開発が行われている治療用アプリが注目を浴びています。今回は、この治療用アプリの可能性を探ってみました。まずは、グーグルのAIに「高血圧用の治療用アプリ」と聞いたところその概要は下記の通りでした。「日本では、「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」が高血圧治療に特化した医療機器として承認され、保険適用されているスマートフォンアプリになります。このアプリは、医師が患者に処方し、利用者は自身のスマートフォンで日々の血圧測定や生活習慣の記録を行い、医師は専用の管理画面を通じて患者の治療経過を把握し、指導に役立てることができる」と言うものです。
このキュア・アップは、2022年4月26日に、高血圧症の治療用アプリが厚生労働省から薬事承認を得て、公的医療保険の対象とりました。蛇足ですが、治療用アプリは、医療機器として厚生労働省の承認を受けたスマートフォンなどの汎用デバイスで用いる治療を目的としたソフトウェアになります。2020年に、キュア・アップはニコチン依存治療において、国内初の薬事承認を得た企業でもあります。この会社は、日本での治療用アプリの実用化で先行する企業になります。医師の代わりに毎日、高血圧症の患者を支援する治療用アプリが登場するのです。この治療用アプリを利用した患者のグループは、治療12週目の血圧の値が下がるようになりました。アプリなしで医師から生活改善の指導を受けた患者群と比べても、血圧の値がより下がったということです。このアプリは、脳や心臓の血管の発症リスクに換算し、11%の低減効果があったという実績を残しています。このアプリは、保険適用により、3割負担の場合、月々平均2,400円程度(2024年6月の報酬改定後)で利用可能になります。
ともあれ、世界の流れは、「治療用アプリ」の普及に傾いています。医師が処方する「治療用アプリ」は、普及の方向に流れているわけです。医薬品、医療機器に続く「第3の治療手段」としての開発が広がっているともいえます。治療用アプリの普及は、海外が一歩先を行っています。この治療用アプリが、患者に適した食事法や運動、そして睡眠を促すことになります。アプリで治療できると、薬への依存や医療費を下げる可能性がでてきます。日本の高血圧の推定人口は、約4300万人になります。この高血圧にかかる年間医療費は、約1.7兆円とされています。高血圧から、脳卒中や心疾患のリスクも高まります。心疾患などのリスクを、抑止することは当然です。加えて、医療費が高齢化で年々膨らむ中で、低コストを追求するのも当然のことです。治療用アプリには、効果と同時にコスト面での優位性があります。新薬は、一般的に10年以上の開発期間、数百億~数千億円規模の研究開発費がかかります。治療アプリは開発期間が5年程度で、研究開発費も数億円程度と100分の1以下でも実現できます。世界の企業が、この「第3の治療手段」に投資を行う動機がここにあるようです。
処方箋に基づくアプリは、2020年に承認された禁煙アプリが皮切りになりました。続いて、高血圧、不眠症などが実用化済みで健康保険が適用されました。承認はまだになりますが、ADHD (注意欠如・多動症) 治療など様々なアプリが開発されつつあります。「うつ」などに関して、厚生労働省は医師の処方箋なしで使える治療用アリの開発を後押しているようです。問題もあるようです。うつ治療アプリがかえって、糖尿病の治療中に低血糖発作を起こしたりする事例もあります。さらに、うつ治療アプリが、かえって自殺リスクを高めたりする恐れもあるとの報告もあります。今後、どんな症状の患者が使用可能なのか明確にすることも求められています。企業には、生命に関わる事態が起きうることを前提にアプリを開発するよう要請しています。一方で、厚生労働省では承認審査で重点を置く項目を明確にし、企業の開発リスクを軽滅する努力もしています。治療用アプリの効果や安全性などの評価指標を近く公表し、承認審査を受けやすくするようです。国策として、治療用アプリを、有望な成長分野とみて開発環境を整えるわけです。3つのアプリが承認済みの日本は、ドイツ(65製品)や米国(62製品)に後れを取っています。この挽回策のヒントは、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)にあります。へルスケア分野は、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)のように国が基準をつくると市場が拡大しました。医師の診断を受けずに使えるアプリの利便性や治療効果が周知されれば、普及が進む可能性があります。治療用アプリも、審査指標を明確にすることで市場の成長を促すことができます。
治療用アプリは、医療費削減「切り札」として注目されています。この分野では、医師創業の新興企業が先行するのですが、成長を見据えて大手の参入表明も増えています。もっとも、本格的な治療用アプリの普及には課題もあるようです。国内において、薬事承認を受けたアプリは3種類にとどまっています。国の規制当局に治療用アプリの審査ノウハウが少なく、開発企業も少なかったことその理由です。さらに、アプリは薬に比べて有効性を確認しにくい点があります。治療用アプリを審査する医薬品医療機器総合機構にも、米国のようなノウハウは乏しい実情があります。また、治療用アプリでは、医師の細かい指導がないと、アプリの操作に複雑さを伴います。生活習慣病は高齢者に多く、このアプリ操作に慣れない人も多いのです。もっとも、国における審査のノウハウ、医師の負担の軽減、患者の理解度などが改善されれば、切り札としての潜在能力を発揮するかもしれません。
余談ですが、日本の医療には、もう一つの問題点があります。医薬品には、医師が処方する処方薬(OTC類似薬を含む)とOTC薬があります。医師が処方する医療用医薬品は、処方箋薬とOTC類似薬があります。OTC薬は、薬局で患者や消費者が選んで買う薬になります。OTC類似薬とOTC薬には、違う点と似たような点があります。OTC類似薬は、OTC薬と同じ成分でも処方箋なしでは入手できません。でも、面白いこともあります。OTC類似薬は、健康保険が利くのです。OTC類似薬は、処方箋を調剤薬局に出せば、薬代は原則、公定薬価の3割になります。後期高齢者は、原則1割と格安です。OTCは、カウンターを挟んで買うので「オーバー・ザ・カウンター」の頭文字をとったものです。OTC医薬品は、胃腸薬、うがい薬、湿布、目薬、ビタミン剤など7000種に上ります。OTC薬は、きれいなパッケージに入っています。一方、類似薬は用法を記した薬袋に入れられて渡されるものです。市販の風邪薬パブロン(OTC薬)などは、病院や診療所で医師が処方する薬と同じ効果効能をもつとされています。要は、OTC類似薬とOTC薬は、同じ効用を持つものなのです。処方箋を調剤薬局に出せば薬代は原則、公定薬価の3割ですみ、後期高齢者は原則1割になります。処方箋を出せば安くなるのですが、その安くなる理由は健康保険から差額が出されているからです。健康保険は、毎年赤字になっています。もし、OTC類似薬の仕組みが無くなれば、年間1兆円の保険医療費の節約なるという試算もあります。さらに、OTC類似薬の仕組みが無くなれば、医療機関に入る処方箋料や調剤薬局に取られる技術料のムダも省けることになります。患者は、シンプルな医療サービスが受けられるようになると言うことです。このシンプルな医療サービスに、治療用アプリが入れば、面白いことになるかもしれません。
最後になりますが、医食同源という言葉があります。薬も食べ物も、健康にかかわることを意味する言葉になります。日本で承認された治療用アプリは、3つだけです。でも、健康を維持し、増進する健康アプリは、数多くあります。ダイエットや運動などを支援する健康管理アプリは幅広く普及しています。新潟にあるフラー株式会社は、「App Ape (アップ・エイプ)」を手掛けています。このフラーによると、健康管理などへルスケア関連のアプリは2024年に1788個に上っているとのことです。そこには、食と健康に関するアプリもあります。メタボ治療の場合、食事の写真からカロリーや塩分を自動計算し、減量や減塩を助言するするアプリなどもすでにあるようです。これらのアプリの有効性を治験によって効果を確かめ、医薬品医療機器法に基づいて国の製造販売承認を受けることも選択肢になります。でも、承認を得ることなく、個人として使用することも、選択肢になります。このアプリを、薬局などで購入する一般用品(市販薬)のアプリ版と位置づけることも可能でしょう。要は、国民が健康になり、治療する人が少なくなり、医療費が減少すれば良いことになります。そんな健康アプリ兼治療用アプリが実用化すれば、国民の健康増進に寄与するかもしれません。