働く若い人口を増やす仕掛け アイデア広場 その1397

 2024年に、民間有識者でつくる「人口戦略会議」が地域の持続可能性を分析し、その結果を発表しました。自治体の消滅可能性の試算は、民間団体が2014年に公表して以来、2回目となります。「人口戦略会議」の報告書では、自治体の消滅危機が続く現状が浮き彫りになってきました。東北地方は、市町村全体のうち77%が消滅可能性自治体に挙がり、地域別では割合が最も高い地域になります。この消滅可能性自治体の定義は、2050年までに子どもを産む中心の世代となる20歳から39歳の女性が”半数以下”となる自治体のことになります。ある意味、子どもが増えない市町村ということになります。特に秋田県では、秋田市を除く24市町村の96%が、子どもが減る一方で、増えない地域になるということです。和歌山県や高知県も、70%を超えています。今でも地域振興という場合、地域の人口増の要素を重視していました。自治体の人口対策が、人口流出の是正という対策に重点が置かれてきた面がありました。また、若年人口を近隣自治体間で奪い合うかのような状況もみられていました。今後は、このような小手先の対策では、地方の復興は望めないことが分かってきたともいえます。

 2014年の試算が出た後、政府は東京一極集中の是正などを目指す地方創生に取り組始めました。政府の多額の交付金や自治体独自の取り組みで、状況が好転した自治体は出てきてはいます。その一つに東京都豊島区があります。豊島区では、若年女性が10年前から6%も増加し、今回の消滅可能性の地域から抜け出しました。豊島区の努力には、見逃せないものがありました。豊島区は、私立保育所を2023年度までの8年間で、5倍以上に増やしたのです。若いお母さんの住みやすい、そして働きやすい条件を整えていったわけです。さらに、池袋駅周辺には芝生を備えた公園を整備しました。子どもが、安心して遊べる場を整備したわけです。豊島区の高際みゆき区長は、記者団に「脱却にはほっとしている」と述べています。今までの豊島区の対策に、自信を持った発言ということもできるかもしれません。他にも、奈良県川上村は、若年女性の減少率が全国で2番目に高かった地域になります。この村は子育て世帯支援を強化し、足元で子どもの数を増やしています。鹿児島県十島村や和歌山県北山村も、消滅可能性自治体から外れました。十島村は、1次産業に新たに就く人への奨励金や子育て支援拠点の整備を進めています。北山村は、英会話教室や海外への語学研修など英語教育事業に力を入れています。成果を上げている市町村もありますが、全体的には取り組みの効果は限定的になっています。人口減少については、地方と都市の双方が課題を抱えているようです。

 人口減少の対策を上手に行っている自治体には、教育面の支援が印象に残ります。長野駅から車で約30分、標高1000メートルほどのところに飯綱高原があります。この高原はリゾート地として開発が進み、多くの別荘が立ち並ぶ地域になります。飯綱高原は、移住者を受け入れやすい環境が整備されつつあります。自然の中で、子供を育てたい家族連れの移住が増えているのです。この要望をより具体化するために、長野市からの補助金も受けている民間企業が開発を進めています。ここには、家族で宿泊できる広さの部屋も用意されています。仕事をしながら、1週間程度滞在し、高原の生活を体験することができます。もし移住することを決めるのであれば」、住居の斡旋なども考えているようです。ここの強みは、このエリア内に、ユニークな教育方針を掲げるグリーン・ヒルズ小中学校があることです。家族の移住となれば、子どもの教育環境が重要になります。子どもの教育が高いレベルで保障される市町村が、一つのヒントになるようです。

 企業が率先して、女性が働きやすい環境や子育てのしやすい環境を整える対策を取っているケースもあります。富士通は、大分県と協定を結び2021年6月時点で6人の移住が決まりました。気の早い方もいたようで、決まる以前に一部の社員の方は、既に大分県内での生活をスタートさせていたそうです。富士通における業務内容は、神奈川からの移住前と何も変わりがないとのことです。平日は仕事をし、週末は3密を避けながら車で出かけ、メリハリのある毎日が楽しいということです。自宅の間取りは移住前のILDKから、1部屋増え、家賃は1カ月あたり数万円下がりました。家賃が下がったので、その余ったお金でマイカーを購入したそうです。週末には車を使い、熊本県の阿蘇市など自然あふれる公園に子どもと出かける機会が増えたと、生活の充実ぶりを語っていました。また、ある企業では、同じ成果を上げた場合、育児を行っている女性がいるチームが表彰される制度があります。この企業の面白いことは、女性の入っているチームが前期で目標の成績を達成した場合、後半はハワイ旅行に行ったということでした。チーム毎に行われる表彰の評価の基準は、一定の労働時間を超える人が一人でも出たら表彰の対象外にするのです。高度成長期の評価基準とあまりにもかけ離れたケースになっています。この基準が、女性の働く能力を向上させているのです。

 今回の試算では消滅可能性に該当しないのですが、出生率が低く他地域からの人口流入に依存する自治体も取り上げています。他地区からの人口流入で人口を維持している自治体を「ブラックホール型自治体」と分類しています。その「ブラックホール型自治体」は、25になるそうです。「ブラックホール型自治」には、東京都新宿区や中野区、大阪市、京都市などが該当しています。2018~22年の合計特殊出生率は、全国平均の1.33に対して東京23区では7区が1を下回るのです。東京23区など大都市では、低出生率が国内の人口減少改善の足かせとなっている状況があります。国内の人口減少の改善には、人口を吸い寄せる大都市での出生率向上が急がれているのです。共働き世帯の子育てを地域で支える仕組みづくり、子育てと教育への経済負担の軽減が求められます。これを実現している地域が、豊島区ということになるかもしれません。出生率向上は、地方と都市でそれぞれ地域の実情に応じた取り組みの強化が必要になります。現状では、女性の負担を減らせるように男性の育休取得の推進を行うことが喫緊の対策になります。もちろん、企業や地域に(子育て支援の必要性の)認識をもっと広め、対策をトータルでやる必要もあります。

 女性の働きやすいヒントが、議会の変化に見られます。日本国内で女性議員の比率が最も高い町は、神奈川県の大磯町になります。2003年には、この町の女性議員の比率が50%になりました。女性議員が増えて、議会は変わったのです。男性ばかりの議会運営の場合、議員が行う視察も「親睦のための観光」などの形式が多かったのです。男性議員の観光主流の視察を、女性議員は福祉のための視察に大きく変換していきました。女性が政策決定の主導権を発揮し、税金を人々の日々の生活を良くすることに使われるようになったのです。女性議員は、家庭と社会の仕事を融合する管理術を持っています。議会集団が男性や高齢者で構成されていれば、男性と高齢者の利益を重視する施策が通りやすくなります。女性議員が増えることで、町おこしなど住民に直接関わる施策が提起されるようになっていったということです。女性議員が増えれば、保育園など女性が働きやすい環境整備が進むことが明らかになりつつあります。

 日本から海外を眺めると、欧米には女性の首相や閣僚が多いことに気が付きます。ヨーロッパでは、クオータ制が導入されているのです。この制度は、積極的に女性を登用するものです。クオータ制が導入されている理由は、女性の知的生産が高いことが認知されてきたからです。一方、男性は既得権が守られており、女性に不利に働く社会制度の存在があります。子育て中のワーキンマザーは、知的生産性がとても高いことが分かってきました。この女性の能力をより生かすことと、制度的不利な状況にある女性の周りにある障壁を低くするためにクオータ制が取り入れられているわけです。議員や会社役員などの女性の割合をあらかじめ定め、女性の有効活用を図っているともいえます。クオータ制の仕組みは、男性優位の社会制度を是正する優れた制度になりつつあります

 最後になりますが、人々は、1年間の総時間が、24時間×365日の計算で8760時間を平等に持っています。その中で、労働時間が8時間、生理的時間が8時間、余暇が8時間という3区分があります。その区分法によると、1年間で働く労働時間は、8時間×365日÷7× 5の計算で2080時間になります。このような状況の中で、日本は労働が最も長い一方、子どものケアや余暇に充てる時間は最も少ないというわけです。この少ない時間の問題は、子育て世代に重くのしかかっています。たとえば、6歳未満の子が1人いる世帯は、1日平均8時間を家事、育児、介護、買い物に使っています。この子どもがいる場合、2016年には2人親家庭の母親が1日 225分を育児に充てています。子持ちの世帯は、働く時間が長い分、短い時間で集中的に家事や育児をこなす必要があり、負担が重い状況が生まれます。負担が多いと分かっている若者が、あえて結婚をし、子育てをすることに挑戦するでしょうか。負担を軽くする対策を、自治体も、企業も、そして地域社会も知恵を出し合うことが求められているようです。昭和の時代は、保育所も学童保育もなく、学校が終わると子ども達は学年の垣根を越えて自由に遊んでいました。そして、出生率は高い数字を残していました。そんな時代は、来ないのでしょうか。

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