日本国民は、世界最高レベルの平均寿命を享受しています。それを支える国民皆保険では、医療費の自己負担が70歳以上は2割、75歳以上が1割に抑えられています。でも、日本の医療費は、平均寿命の増加とともに40兆円を上回る水準が続いています。このまま医療費が増加すれば、国の予算が成り立たなくなるといわれています。人々が健康を享受し、現在の医療水準を維持し、そして医療費を軽減する仕組みが求められています。たとえば、大学病院などの赤字が顕在化するようになりました。大学病院の医療技術は、素晴らしいものがあります。でも、「鶏を割くに牛刀を用いる」ということわざもあります。このことわざは、小さな病を治療するのに、大学病院や名医を利用する必要はないと言うことに通じるようです。早期発見や早期治療に心掛ければ、健康を維持しながら医療費を「軽減できる道」はあるようです。今回は、この道を考えてみました。
米国の年間医療コストは、GDPの15%以上もかかっています。アメリカのGDPが2000兆円ですから300兆円の医療費を使っていることになります。ちなみに日本のGDPは500兆円で医療費が40兆円となります。日本の医療費は、GDPの8%ということになります。今回のコロナショックでは、アメリカの医療体制の弱さが見られました。世界で最も医療費を使っている国が、7600万人の感染者と90万人の死者を出しているのです。これだけ見ると、この国も脆弱さを感じてしまいます。でも、アメリカでは確実に守られている人たちがいます。富を持っている人たちは、高額な医療保険に入っています。彼らは、この感染症から守られています。アメリカの医療保険は、面白い仕組みを持っています。予防医療を重視しているのです。予防医療で、病人を減らすことで会員の健康を維持増進し、保険会社と医療機関は多くの利益を得るという仕組みを構築しています。手術より、検診のほうが費用は安くなります。病気になれば、医療機関には高額の治療費を払うけど、会員が健康であれば、診療費や手術費を払うことはありません。保険会社は、高額な保険金のもらい得となるわけです。患者が病院に来なければ、来ないほど儲かるという賢い仕組みを構築しているのです。保険会社による医療保険の仕組みが、健康を維持する働きをしているのです。そして、保険会社は、利益を上げています。そして、富裕層は健康を享受している流れがあります。
もう一つの工夫は、オンライン医療になります。オンライン診療は、海外のほうが一歩先を行っているようです。タイのオンライン医療を手掛けるバーチャルホスピタル病院は、新型コロナの流行前より利用する患者が急増しています。この病院では、診療から薬の配送まで一括したサービスを提供しています。バーチャルホスピタルでは、患者がスマホのビデオ通話で看護師に症状を伝えます。利用者が専用サイトで、「お腹が痛い」とか「熱がある」といった数十項目から、自分の症状を入力するわけです。看護師に症状を伝えた後、担当医師が細く聞きとる仕組みになっています。この病院の診察料は、15分で1700円になります。診察結果もオンラインで診療報告書が出され、早ければ1時間半以内に自宅に薬が届くことになります。インドもオンライン医療が進んでいる国なります。この国では、医師や病院が圧倒的に不足しています。インドでは、スタートアップの企業がAIを使った診療システムを開発しています。利用者は、「喉が痛い」「熱がある」「おなかが痛い」など体調や症状を選択肢から選びます。病状の選択肢を記入する段階から、人工知能(A I) は症状から病気を推定していきます。さらに進んでいることは、医師を指定できることです。いろいろな症状に対応できる医師の一覧から、患者は診断してもらう医師を選びます。医師の一覧から、診断してもらう医師を選び、電話やビデオチャットで症状を詳しく話していきます。AIが専門医を選定し、選ばれた医師が最終的な病気の判断をします。たとえば、首都デリーの患者が、1000km以上離れた産業都市ムンバイのお医者さんを指定することもできるのです。A Iの活用で、医師が診る患者数は飛躍的に多くすることができています。このAIを運営している企業は、病院から一定の手数料を得て、利益を上げています。
世界の流れは、保険会社とAIの利用が一つのトレンドのようです。もちろん、日本もこの流れを利用する企業があります。富士通は、米エヌビディアと病院向けのAI システムを開発したと発表しました。富士通は、電子カルテなどの医療データなど、病院業務に特化したAIを動かせるようにしました。この開発したツールは、人の代わりに自律的に作業する「AIエージェント」向けのソフトウェアになります。このソフトを活用すれば、患者が画面上のAIアバター(分身)と会話できるのです。患者との会話を基に、AIが受付や問診などの業務を代行できるようになる優れものです。患者が画面上の分身と会話することで、来院時の受付や問診を事前に完了できるようになるわけです。これまで医師や看護師が担っていた診察前の一連の業務を、AIアバターにより自動化できることになります。患者との会話から、どの診療科で診てもらうべきかという分類も、AIが代替してしまうわけです。診察前の一連の業務を、AIアバターにより自動化することを年内にも提供を始める予定です。まずは、受付といった定型業務向けに展関することになるようです。将来的には、心臓のエコー画像の解析など、より高度な業務にも適用していく狙いもあるようです。
医療と少し離れますが、技術の進歩は急速です。会話から、体調を把握する技術も進んでいます。音声認識技術に強みを持つPST (横浜市)は、東京海上ディーアール(東京と)職員の離職率低下に向けて協業を始めています。東京海上グループは、ヘルケア事業を重点事業に位置づけている企業になります。4月に未病や予防に焦点を当てたサービスを提供する東京海上ハスケアが事業を始めた。一方、PSTは日常会話などから心身状態や病態を分析する技術を持っています。このPSTは、音声認識技術を東京大学などとも共同で研究し分析の精度を高めてきました。電話などの音声から、従業員のスレス状態などを把握する技術になります。音声から、トラック運転手が事故をおこすリスクの分析データを蓄積してきました。ストレス状態を把握することで、早期に従業員の健康改善に向けた支援が可能になります。物流業界では、点呼をするなかで、健康の確認や飲酒の有無などを行い、リスクを排除してきました。点呼の音声から、事故のリスクを早期に発見し、事故防止につなげるツールが登場したわけです。
余談ですが、最近、ペットにお金や時間をかけることを、惜しまない愛好家が増えてきました。国内では、犬と猫が推計で1600万匹飼育されています。ペットを飼っている世帯は、2019年と比較すると、約4%も増えています。ペットが家族の一員となり、食事と居住環境が整うとともに寿命が延びてきています。高齢化社会は、シニア向けという新たな市場を生みだしました。人間に限らず、ペット市場においても、ペットの老後が長くなる状況になってきました。その老後を支える一因に、動物医療があります。ペット市場の拡大の背景には、動物医療の発達などによるペットの長寿命化があるわけです。長寿命化を受けて、ペットの健康に着目した商品やサービスが注目を集めることになります。ペット市場では、健康や介護に着目した商品やービスが続々と誕生しています。特に、この傾向は欧米で顕著になっています。米ポープと米小売り大手ウォルマートが、提携したことが話題になりました。ウォルマートは、特別会員を対象にポープの遠隔診療サービスを提供するようになりました。ポープとウォルマートが提携は、ペットの遠隔診療が盛んになることを示唆しているようです。ウォルマートの他にも、診察と処方箋の発行、そしてペット保険とを、組み合わせたサービスを提供する企業も出ています。この先には、人間とペットが同時に入ることができる米国流の予防重視の保険が生まれるかもしれません。
最後になりますが、医療費の軽減と健康の維持については、オンライン医療と保険会社の知恵があるようです。たとえば、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病では、対面医療よりもオンラインのほうが患者の状態が改善したという事例が数多く報告されるようになりました。2018~21年に一般的な医療ケアと比較した試験では、AI医師が成果を上げていたのです。AI医師が、心不全の患者が半年の間に再入院する割合を半分以上低減させたというのです。心臓病や高血圧の患者は、退院後に薬の服用や生活管理がおろそかになるためだに再入院になるケースが多いのです。退院後は、自宅でAIによる医師のエージェント(代理人)の管理下で療養していると成果が上がるというわけです。「薬の時間ですよ」と、ロボットが教えてくれます。Al医師が、音声などで薬の服用や睡眠のタイミングなど細かく指示を出すのです。このシステムは、アメリカ食品医薬品局(FDA)認証を取得したデバイスを使いスマホなどと組み合わせて使用されています。生活習慣病だけでなく、精神疾患を対象にオンライン診療を広げ、国民の医療アクセスを改善させるケースも出てきています。もう一つの保険会社の事例では、米国の予防医学が参考になります。日本でも、単なる生命保険から、複合的な機能を持った保険が開発されています。生命保険会社がM&A(合弁・買収)を行うことにより、新しい複合的サービスが生まれています。日本生命保険(日生)は介護と保育サービス、住友生命はウェルビーイング、第一生命はデジタルビジネスとなります。ある意味で、誕生から死亡するまでの健康と幸せの保険というコンセプトが浮かび上がります。保育サービス中に、幼児期の病気を予防し健康を維持増進する保険サービスは、今でも可能です。ここに、教育面のサービスを入れる企業も現れました。オンライン医療と保険の利用で、いつまでも健康で元気な生活ができるようになりたいものです。