アメリカでは、2割の子どもが肥満と指摘されています。2~19歳の肥満の割合は、19%になっています。特徴的なことは、経済的に困窮する家庭に肥満が多いことなのです。ヒスパニック系や黒人の子どもの肥満の割合は、26%、24%と、白人の6%に比べて高くなる傾向があります。このような事態に、対応する自治体も出てきています。ニューヨーク市は、公立学校の給食に毎週ビーガン食を提供するプログラムを始めました。発起人は、ニューヨーク市長でした。アダムズ市長は、糖尿病を患ったことを機にビーガンになったのです。彼の提案で、揚げ物をやめ、生野菜や果物を提供し、給食の改善に取り組み始めました。ニューヨーク市の給食は、無料で提供されています。そのメニューは、事前に試食され、好評だったそうです。食事に関しては、もう一つの流れがあります。ネスレやユニリーバなどの食品大手企業が、植物由来の人工肉の開発に多くの資金を投資しています。この背景には、欧米での食生活の変化があります。完全菜食主義(ビーガン) など健康や環境への配慮から、動物の肉を控える消費者が増えているのです。イギリスのビーガン人口は2019年時点で60万人となり、4年間で4倍に増えました。肉や乳製品は食べるが、量を成らすフレキシタリアン(柔軟なべジタリアン)も増えています。このような状況の中で、ドイツとフランスの消費者の半数が、肉を食べる量を減らしています。欧米では、若者を中心に環境への意識が高いものがあります。ビーガンやフレキシタリアンが求める食品の流れは、環境と健康の配慮の高まりとともに強くなっていくようです。
このような肉を減らす流れに呼応するように、日本古来の料理や食材が海外で評価を得るようになりました。評価が高まり、需要がうまれれば、それに応じた供給が行われます。もっとも、黙っていては、需要も供給もスムーズにいきません。開拓者がそれ相応の汗と知恵を出さなければ、成果はうまれません。今回は、肥満やビーガンの求める食材を提供する企業に焦点を当ててみました。まずは、岩手県洋野町の ミナミ食品さんに登場してもらいました。ミナミ食品は、大豆加工品の「ゆば」で海外展開を進めています。ゆばは、大豆と水だけでつくられる食材です。このゆばは、「南部ゆば」の商品名で展開しています。京都などでは「湯葉」、日光では「湯波」と表記されているようです。ゆばは、1200年前に中国から仏教とともに日本に伝わりました。肉食を禁じられていた僧侶にとって、貴重なたんぱく源として、精進料理の中で発展してきました。
岩手県洋野町の周辺地区は、豆腐の生産と消費地として知られています。ここの地区は、競争の厳しい地区でもありました。ミナミ食品は、同じ大豆由来の食品であるゆばは競合が少ない点に目をつけました。それで、生産から乾燥、包装、出荷までのゆばの一貫工場を建設し、2022年に稼働しました。パッケージのデザイン性も重視しており、高級スーパーの成城石井の全店で採用されています。国内だけでなく、海外市場開拓先として当初は中国を狙い、一部輸出も始めました。さらに、2022年にニューヨークで開かれた食品見本市に出展し、欧米に市場性があると判断したようです。植物性たんぱく質を摂取できる食品として、ビーガン向けなどに需要があると見込みました。現地では、「スキンスープ( TOFU SKINSOUP)」の名称で販売しています。乾燥ゆばを湯で戻して飲むスープを、日系スーパーや高級スーパーに納品しているところです。
アメリカで問題になっている肥満や糖尿病の対極にいる人たちには、「生食主義者」という人たちがいます。先進国の欧米には、「生食主義者」という人たちが一定数いるのです。生食主義者は、肉も魚も食べません。スーパーなどで高級野菜を購入し、ミキサーで野菜を濃縮して食べています。生食主義者は、誰もがガリガリに痩せこけて、慢性的なエネルギー不足に陥っているのです。生食主義者の女性は、月経が止まり、男性の性的機能も低下しています。彼らは、誰もがガリガリに痩せこけても、この生活を続けています。肥満も困りますが、ガリガリに痩せこけても困ります。彼らも、自分の健康について考えるようになりつつあります。精進料理が、日本にあることを理解します。さらに、筋肉が健康の向上に貢献することも理解します。近年、この筋肉がホルモンを分泌することが分かりました。ホルモンを分泌する臓器は、脳の下垂体、すい臓、甲状腺、副腎などが知られていました。その働きも、人間の生命活動に不可欠なものとされていたわけです。ホルモンを分泌する器官と同じような働きが、筋肉もある事実が判明したのは、2000年代に入ってからのことになります。筋肉が分泌するホルモンは、「マイオカイン」と総称されています。これは、現在、30種以上が確認されているのです。マイオカインは、筋肉を動かすことで筋肉から分泌されます。筋肉は、体重の3~4割を占める大きな器官になります。今では、「筋肉は人体最大の内分泌器官」と言われるまでになっているのです。筋肉の重要性、そしてたんぱく質の必要性、菜食主義との葛藤から生まれる答えは、大豆を素材にした食材の摂取と言うことになります。
挑戦者は、ミナミ食品さんだけではありません。宮崎県高千穂の山間地域にあるシイタケ専門問屋の杉本商店さんが、欧米を中心に輸出を増やしています。ここの社長さんは、地域の高齢化や少子化で国内市場が縮小することに危機感を持っていました。国内市場が縮小するなら、輸出をすれば良いとポジティブに捉えました。輸出先は、現在では24カ国・地域を上回るようになりました。シイタケは、おがくずで作る人工培地に菌を植える「菌床栽培」と菌を仕込んだ木を自然に近い状態で手入れし2年ほどかけて栽培する「原木シイタケ」があります。現在では、「菌床栽培」で生産されるものが多いのですが、原木栽培の方が肉厚で風味が楽しめるとされています。高千穂のシイタケは、湿気を含んだ空気とクヌギの養分をたっぷりと吸い、品質高いという評価を得ています。ここから輸出される主力は、肉厚の干しシイタケになります。高千穂の肉厚シイタンケは、肉を食べたような満足感が得られるとビーガン(完全菜食主義者)らの間で人気となっています。
余談になりますが、国民の40%、ベジタリアンというインドでは、飲食店の食材が一つのビジネスチャンスになります。インドの飲食店のメニューは、「ベジタリアン」か「ノンベジタリアン」と明記されています。ベジタリアンの方は、宗教上の理由もありますが、健康を重視する方も多いのです。インドにおける健康志向の高まりが、植物由来の代替肉の増加に繋がっているようです。新型コロナの流行時には、免疫力を高める食品として認知され、人気が急速に高まったわけです。インドでは、完全菜食主義者であるビーガン向けの市場だけでも、年平均10%以上の成長が続いています。インドの財閥でもあるタタ・グループでは、植物肉を使ったソーセージなどの提供を始めています。14億の人口を持つインドは、植物肉の市場として世界の注目を集めています。インド市場が活況となるなか、当然、日本勢も参入を狙っています。日本のネクストミーツは、夏にインドで「ネクストヤキニク」と呼ぶ商品を発売することになっています。植物肉の企業は、生産し、販売し、利益を上げなければなりません。そのターゲットとして、インドは格好の国になります。約14億人の人口を抱えるインドは、多民族・多宗教国家でもあります。多様なインドは、食に対する考え方も様々です。ここに、日本食、精進料理、そして大豆と水からつくられた「ゆば」がインドに受け入れられたならば、大きなビジネスチャンス生まれます。
最後になりますが、日本の企業が外国で成功するためには、現地の生の情報が求められます。杉本商店の社長さんは、衰退する地元のシイタケ産業を見て、危機感を強めました。海外市場を開拓するしかないと考え、まず干しシイタケを食材に使う香港や台湾を探ってみました。そこの売店の売り場には、中国産の菌床栽培シイタケを乾燥させた安価なものが並んでいたそうです。表示されたシイタケは、すべて中国産でした。でも、そのシイタケの品質を見て、新たな市場があると感じたそうです。経済が発展し、富裕層が増えれば、食への要望も高まります。 安価なものが並んでいたのを見てから、富裕層の多い米国に向かいました。彼は、現地や海外のシェフやレストラン経営者とも精力的に交流をします。その交流と日本産シイタケの提供を通して、肉を食べたような満足感を得られる食材として認知度が徐々に向上していきました。肉厚な国産の干しシイタケがビーガンらを中心に売れるようになったわけです。
もう一つの事例があります。2022年に日本人と中国人が、Sake RD (サケアールデ、東京・港)を共同創業しました。このSake RDは、日本留学経験のある劉柳氏と共同で創業したわけです。劉氏は、中国子会社の副総経理も務める人物です。Sake RDは今田酒造本店(東広島市)と共同で、四川料理に合う日本酒「と」を開発しました。上海で、若者や中華料理店オーナーなど100人超を対象に「と」の試飲会の市場調査を実施しました。9割が「おいしい」と回答し、「口の中の辛みを消すと食が進む」などの好意的な意見が出ました。これらの意見を参考に、純米酒の甘みだけでなく料理の辛さを打ち消して口の中をすっきりさせる酸味も持たせて、中国に進出をしています。中国でも健康志向が高まり、アルコール度数の低い飲み物のニーズが求められる傾向が出てきています。現地に詳しい人材を活用して、現地の好みにあった商品開発や市場開拓の迅速化につなげる構想も楽しいものです。これからは、米国や中国だけでなく、日本のGDPをすぐに追い抜く14億人のインドもターゲットにした、日本の食材を提供していきたいものです。
