先進的な人々は、困ったことに直面すると、それを解決する知恵や対策を作り出していきます。今回は、その困ったことを解決する人や動植物に焦点を当ててみました。まずは、ドライバー不足からになります。ドライバー不足が、大きな問題になっています。その不足の問題を解決するために、異業種間のコラボや混載の発想が次々に生まれてきます。北海道でアサヒビールやキリンビールなどビール4社がビール類の共同配送を開始しました。トヨタ自動車は、中部地方から東北地方に車を輸送するために鉄道貨物を使用していました。佐川急便は、トヨタ自動車専用の貨物列車を使った宅配便の輸送を始めたのです。物流における同業種間や異業種間の連携は、ドライバー不足が原因です。同業種間の物流にとどまらず、異業種間でも連携してドライバー不足に対処しているわけです。その貨物列車の空きスペースを使って、トラックに代わる輸送を取り入れたのです。業者の車両稼働率を平準化させることが、収入を増やすことになります。便利な鉄道輸送の実現には、JR貨物の努力も見逃せません。列車予約の仕組みは、従来は7目前でないと確定しませんでした。これでは鮮度が重要なビール各社にとって、利用価値が下がります。荷主に不評だった列車予約の仕組みを変え、発送日の28目前に確約できるようにしたのです。この28日の確約で、発注と生産と輸送の流れが円滑になりました。円滑になったおかげで、鉄道輸送のメリットが大きくなったわけです。
輸送では、別の次元の問題も起きています。強い毒を持つ「ヒアリ」は繁殖力が非常に強く、定着すすると困ったことになります。このヒアリは、海外からのコンテナに入り込んでいるケースが多いのです。ヒアリの上陸や営巣が確認された際には、殺虫剤を用いて早期に駆除することが必要です。このヒアリが、日本に定着すれば瞬く間に広がり、根絶はほぼ不可能になるとも言われています。今、強い毒を持つ「ヒアリ」の生態を把握するため、国内初となる飼育実験が進められています。飼育実験は、国立環境研究所(茨城県つくば市)で始められました。その成果が、少しずつ現れています。台湾から1万匹のヒアリを移送し、厳重に管理された環境で飼育しながら実験を進めています。ヒアリに対して、有効な薬品や日本の環境でどういったエサを好むかなどの研究を実施してきたわけです。その結果、効果が高い薬品や日本の港湾で見られる植物の種子の中でヒアリが好む種類もわかりました。特に、実験を通じて水際対策に有効な薬品を探してきました。その有効な対策が、ワサビを使ったシートでした。コンテナ内に設置すればヒアリの侵入をほぼ100%回避できるワサビを使ったシートを開発したのです。日本で豊富の取れるワサビが、ヒアリを港の瀬戸際で食止める材料になりました。もし、世界がこのヒアリ対策を求めるようになれば、大きなビジネスチャンスになるかもしれません。
話は飛びますが、トランプ大統領はブラジルに高い関税を掛けました。赤字対策のために唱えた関税政策が、黒字のブラジルにも掛けるという暴挙にでました。お話しは、ブラジルの特産品であるコーヒーになります。世界のコーヒーの生産量は、確実に増加傾向にあります。それをけん引しているのは、コーヒー愛好家です。この愛好家は、堅実に増加しています。コーヒーには、アラビカ種とロブス夕種があります。アラビカ種の品質は高いのですが、害虫や天候不順に弱いという欠点がありました。ロブスタ種は、逆に品質が低いが害虫や天候不順に強いという性質がありました。コーヒー生産者は、アラビカ種の弱点を克服するために、ロブス夕種との交配を進めてきました。生産者は、これらの強さを統合した高品質な品種の開発を目指してきたわけです。その成果も、徐々に実現しつつあります。でも、ここに香りや美味しさだけなく、別の機能を高めることができれば、売り上げは高まると考えてしまいます。コーヒーのカフェインは、海馬を刺激し、記憶や学習効果を高める効用が認められています。一般的にカフェインの半減期は、乳幼児が100時間以上で、大人が3~7時間とされています。もし、この半減期を長くすることができれば、人の記憶作用を長く保つことができます。長時間、海馬を刺激する新種のコーヒーを開発したら面白いことになります。大学受験や高校入試、そして各種の試験1週間前にこの新種のコーヒーを飲めば、受験生は長時間、脳が活性化することができます。記憶中枢を持続させるカフェインを作り出せれば、ビジネスチャンスになるかもしれません。品種改良をする中で、このようなコーヒーを開発してほしいものです。
国力が衰えた場合、それを克服する対策を取るものです。ビットコインを、国家の正式なお金として認める国も現れ始めました。ビットコインは取引の承認に複雑な計算作業が必要で、この作業を採掘(マイニング)と呼びます。採掘に協力すると、成功報酬としてビットコインを受け取れる仕組みがあります。採掘には安価な電力と高性能半導体を搭載したコンピュータが必要になります。以前は、世界シェアの8割を中国から米国に移り、現在は、電力事情の良い国々に分散してきています。米国の経済制裁で低成長を余儀なくされているイラン政府は、採掘を産業として認めてきました。イランには化石燃料が多く、安価で豊富な電力供給が供給できる優位性がありました。中国からイランに拠点を移す採掘業者が増え、国内でも採掘業者が多く生まれたのです。1kwhの電力料金はイランが0.005ドル、ロシアが0.063ドルと中国0.085ドルです。この安い電力料金を目指して、中国の採掘者がイランに押し寄せてきたわけです。ちなみに、イラン国内でのビットコイン報酬は年1000億円を超えるとみられています。この1000億円は、イランにとって外貨獲得が容易になる付加価値の高い資金になるのです。優位な所には、多くの人々が押し寄せ、不利な状況を生み出すこともあるようです。イランは採掘を奨励した結果、電力消費が急増し、国内の主要都市で停電が頻発する事態になりました。イランには、さらに困ったことが起きました。核施設が、米軍によって攻撃されました。攻撃に弱い国には、安定したビットコインのマイニングができないと烙印を押されてしまうのです。結果として、イランのマイニングの能力は低下するかもしれません。
何度も、同じものを使用していると使用価値が低下すると考えられています。価値が低下するのは困ったことですが、使い方によっては価値が上がるものもあります。何度も使ううちに、価値が上がるものがあれば楽しいことです。そのヒントが、米国の中古住宅に見られます。日本では、家の値段は買ったときが一番高く、30年もするとほぼ無価値と判断されています。米国では、手入れのよい家が買ったときの値段よりも、売るときの値段がしばしば高くなるのです。彼らは、自分の家と庭のメンテナンスに余念がありません。自らの資産の価値を高めようと、向上心と工夫を重ねていきます。米国では、住んでいる間に住宅に追加投資された分を適正に評価してくれる風土があります。この国では、百年以上経た物件が歴史的な価値も評価に加わり、売買価格が高くなるのです。ニューヨークの戦前の集合住宅は、「戦前物件」とされています。この古い物件は、戦後物件よりも高い値段になるという不思議な現象もあります。この環境重視の社会では、何度も使われ、環境に負荷を与えない再利用のシステムが高い評価を受けることになるようです。
余談ですが、困った時の究極的対応もあるようです。その対応が、寄生バエとコオロギに見ることができました。米国のハワイ州には、コオロギが生息しています。オスのコオロギは、メスに気に入られるために羽をこすり合わせることで音をだします。ヤドリバエ科の寄生バエは、コオロギの鳴き声を聞くことができるのです。このハエは、ほかのどんな昆虫にも例を見ない複雑な耳を進化させました。寄生バエのメスは、幼虫を育てるための宿主としてコオロギを利用するのです。鳴いている雄のコオロギの上に舞い降りて、寄生バエの幼虫をオスのコオロギの体内に穿孔します。コオロギの体内に入ったハエの幼虫は、まずコオロギが鳴くために使っている羽をすり合わせる筋肉を食べるのです。すり合わせる部分の筋肉が食べられると、コオロギは鳴くことができなくなります。すると、他の寄生バエは、このコオロギに近づきません。幼虫は、安心してコオロギを食べつくすことができるわけです。ハワイのコオロギは、ほとんど全滅状態になりました。この極限状態になったことから、コオロギが、幼虫の寄生を阻止する適応行動を取り始めたのです。その行動は、コオロギが鳴かなくなったのです。この突然変異は、羽の形状を変え、音が出ないようにしたものです。鳴かないコオロギには、ヤドリバエ類は幼虫を穿孔できません。ハワイのコオロギは、寄生を阻止するために究極的な進化をしたわけです。
最後になりますが、反面教師という言葉があります。これを上手に行っている人たちが、韓国の若者の中にいるようです。韓国で成功する若者が、増えています。彼らは、国内や海外で数億や数十億円規模の企業を創りあげているのです。韓国は、企業と大学が密接に結びついています。韓国の企業が大学のカリキュラム作成に参加し、教育内容に独自の要求をしています。ある企業は、独自にカリキユラムを作り、入社した時に役立つ学習を求めるケースもあります。入社時点で最低限の知識とスキル身に付けておくべきことを、大学の在学中に学ぶという仕組みです。でも、皮肉なことですが、この路線から離れた若者が、成功を収めているのです。彼らの成功は、大学を優秀な成績で卒業して、一流企業に入社して、出世するコースの延長線上ではありませんでした。むしろ、その逆方向にある韓国国内で誰かが感じている「不便さ」に着目することに、起業のヒントがあったと述べています。一流でないことや競争から脱落したことが、ネガティブな要素ではないと言うのです。アイデアを出す面からは、一流でないことや脱落がポジティブな要素になるというわけです。そういえば、古代日本に高い文化をもたらした百済や高句麗の渡来人は、朝鮮半島を追われて日本に来た人たちでした。現代にいても、渡来人の祖先と同様に、若い彼らが、日本や東南アジアに新しい文化をもたらすのかもしれません。