地域に眠るお宝を、知恵を駆使して掘り出す アイデア広場 その1451

 

 有名な葉っぱビジネスの村があります。葉っぱビジネスは、パソコンやタブレットを自由自在に使いこなす高齢者が主役です。このビジネスは、秋に春の桜、そして春先の紅葉というニーズに応えました。季節を逆手に取ったビジネスが、市場から信頼を得られ収益も上げているのです。葉っぱビジネスは、ピークを外して出荷する技術と量の確保が特徴になっています。このビジネスは、320種にも及ぶ多品種の生産と直売、そして即日発送によって成り立っています。パソコンやタブレットを駆使する能力と長年にわたる経験が、このビジネスと支え、他の侵入を許さない土壌を築いているのでしょう。ここで注目するのは、高齢者技能とIT技術、そしてこの事業を発案した優れた方でした。高齢者が元気になっていけば、世の中は間違いなく明るくなります。仕事もせずに、毎日ぼんやりしてばかりだと、気力も体力も衰えるものです。このことに、危惧した自治体があります。徳島県上勝町では、「高齢者ばかりでも稼げる方法がないか」ということを真剣に考えました。地元の農協職員だった男性を中心に生まれ始まったのが、葉っぱビジネスでした。このビジネスは、歳をとっても人生を面白く生き、経済的に安定している人を増やしていきました。高齢者の葉っぱビジネスが軌道にのると、興味深い現象が現れてきました。働く高齢者が増えた結果、町営の老人ホームの入居者が激減したのです。そのために、町営の老人ホームが廃止になったという話です。元気よく歳をとる高齢者が増えれば、医療費も削減されるし、世の中が明るくなるという事例です。

 ある思想家は、これからの社会が経済面では効率的になり、生活に関しては非効率になるという方がいます。たとえば、これからの農業は自然に身を委ねるという非効率のゆえに、その非効率の中に豊かさを享受できるという考え方です。「地産地消」や「自給自足」のモデルは、このコンセプトになるようです。2023年は、食品の値上げラッシュが続きました。特に、輸入に頼る穀物の値上げが、私たちの台所事情を直撃しています。一般に、食料自給率には、2つの種類があると言われています。その1つは、平時向けの「生産額ベース」になります。日本の生産額ベースの自給率は、71%になります。これは、付加価値の高い作物を作って、高い商品として国内外の市場に供給するものです。もう1つは、非常時向けの「カロリーベース」になります。この自給率は、38%になります。日本が大きな災害や紛争に巻き込まれた場合に、国民が必要とするカロリーがどの程度確保できるかの目安になるものです。現在のところ、62%のカロリーに相当する穀物などを輸入に頼っていることになります。ここまでは、良く知られていることです。実は食料に関する数字としては「食料自給率」の他に、「食料自給力」というものがあります。たとえば、全国の田畑を全てイモ畑にしたらどのくらいのカロリーを供給できるのかという数字です。この食料自給力は、計算上、日本人の必要カロリー量に対して100%を超えています。ある面で、日本の食料事情は、セイフティーネットが成立しているようです。

 自給自足の歴史を見ると、日本は優れた実績を残していました。たとえば、江戸時代初期の水田面積は、室町時代の2倍になり、江戸の中期には3倍に膨らみました。水田には、肥料が必要です。人間の糞尿には、窒素、リン酸、カリウム、ナトリウムといった農作物を育成する4代要素を含んでいます。日本は、江戸時代以前から、糞尿を肥料として活用する理想的な循環系を作ったのです。日本では、1750年前後近隣の農家は、糞尿2つのくみ取り代14文(200円前後)払っていました。落語の出てくる大家さんは、鷹揚な方が多いようです。当時の大家さんは、年間20両ほどの給料で、長屋を管理する人だったのです。彼らは給料の他に、「糞尿のくみ取り権」で年間40両も獲得していたのです。大家は、給料より多い収入をくみ取り料から得ていました。その裕福な資金で、店子に農家からの野菜などを配っていました。都市の食生活と近郊農業が、スムーズに機能していたのです。「店子にとって大家は親も同然」ということは、大家さんと店子、そして近郊の農家が、お互いにウインウインの関係にあったわけです。もし、現在においてもこのような平和な関係が維持されているならば、日本の食料安保は確保されハッピーということになります。

 もっとも、令和の人々は、江戸時代の人々より美味しさを求めます。土用の丑の日といえば「うなぎを食べる日」として広く知られています。日本人の多くは、この美味しいウナギを食べる習慣ができました。ニホンウナギ関しては、残念なことも起きています。今年はニホンウナギの稚魚が確保できず、ウナギの養殖数が激減したのです。さらに、残念なことが重なります。ウナギの善し悪しは、魚粉によるといわれています。特に、高品質のペルー産の魚粉は、ウナギの栄養面において飼料として欠かせないものです。ペルーの魚粉は、ウナギが良く育つ6~7月に最も売れるのです。このカタクチイワシの魚粉が、値上がりしたのです。通常の養殖のエサは、カタクワシなどを原料にした魚粉の割合が50%程度とされています。ここに、大豆ミールなどを配合して、魚の成長に合わせて、バランス良い飼料を与えることになります。この仕組みの弱点は、カタクワシと大豆ミールの価格が不安定になることです。水産養殖の現場では、安定した飼料へのニーズが高まっています。

 面白い餌が開発されています。福岡市で2016年創業したムスカが、ハエの一種である「イエバエ」を使った魚の飼料を開発したのです。これは、植物工場と同じように工場で育てられます。この幼虫を乾燥させた商品を養殖飼料に5%を混ぜると、養殖魚のサイズが大きくなるということです。一般的にマイワシやカタクチイワシの餌魚の価格は、変動が激しいのです。変動の激しい飼料は、養殖経営にはマイナス要因になります。イエバエの飼料は、安定供給できる強みがあります。イエバエの排せつ物は、有機肥料して利用できる可能性もあります。このことから、面白いクローズドシステムが考え出されます。養殖場と植物工場、そしてイエバエの繁殖施設を隣接に作り、養殖場の汚染水とイエバエの排泄物を植物工場で使用します。排出される汚染物質は、植物工場の肥料として利用するわけです。養殖漁は大きく育ち、農作物は豊富に収穫され、外部には汚染物質を出すことのないクローズとシステムが、完成することになります。ムスカは、畜産農家から出る家畜の糞や食品工場から出る残りカスを利用して、飼料や肥料を作る仕組みを開発しました。ムスカのイエバエを活用すれば、家畜の糞などが1週間程度で飼料や肥料になります。有機廃棄物1トンに対して、300gのイエバエの卵で、飼料や肥料を生産することができるのです。イエバエの卵で作った飼料や肥料は、畜産農家や魚の養殖業者に供給されています。家畜の排せつ物は、全国で大量に発生し、その量は毎年8000万トンに上ります。養魚場で使う飼料の材料は、ほぼ無限にあると考えても良いのです。もちろん、畑に必要な肥料も、ムスカを媒介とすることで無限に供給が可能になります。

 さらに日本には、強力な資源が存在しています。日本の林業は、伐採できる森林を豊富に抱えていることが強みになります。日本の人工林の蓄積量が、戦後の17億㎥から現在は49億㎥に増えているのです。日本の森林面積は、2500万haで、年間成長量は約1億㎥になります。その中で生産している木材は、3400万㎥に過ぎません。使用量をはるかに上回る森林の増加量があるにも関わらず、日本の林業はそれを生かし切れていません。ここに来て、面白い飼料の開発が見られます。京都大の研究グループは、シロアリに間伐材を与えて養鶏用飼料をつくろうとしています。京都大の松浦健二教授は、2020年1月、鹿児島県の山林でオオシロアリの巣を採集して持ち帰りました。体長1センチほどのオオシロアリ数百万匹が、木の葉の中で動き回っています。シロアリは巣から逃げることなく生活し、飼育に手間がかからないのです。1キロの間伐材を餌にして、約45グラムのオオシロアリが育つのです。このシロアリには、高タンパクで脂肪分や繊維質も多く含まれています。シロアリは、養鶏用飼料として一般的な大豆かすや魚粉と比べて栄養分の遜色はありません。このシロアリはそのまま鶏に食べさせたり、冷凍乾燥により粉末にして他の飼料と混ぜて利用ができるのです。森林は、日本では数少ない自給できる資源になります。余剰資源を利用できる地方で、シロアリの生産と林業を融合することも可能になります。山林に放置されている間伐材を有効活用し、鶏肉と鶏卵の生産に結び付ける発想は楽しいものです。

 最後になりますが、人間は、「快感」を求めるために、生存上必ずしも必要ではない「無駄」を行うことがあります。「快感」のために生存上必要ではない「無駄」が、地球の危機を招くようになってきました。地球の危機に立ち向かうためには、経済が「右上がり」でなければならないという原理を見直すことが指摘されるようになっています。たとえば、フードマイレージという無駄があります。フードマイレージはどれだけの重量の食料を何km運搬したかを表示したものです。このフードマイレージは国民1人あたりの数値で見ると、日本と韓国が飛び抜けて高いことが分かります。日本と韓国は、世界中から食料を輸入しているためです。このフードマイレージは、水や燃料費などの無駄使いの指標になります。フードマイレージの概念を知っておけば、「地産地消」や「自給自足」の理解も深まります。現代の日本に合った「地産地消」や「自給自足」の仕組みを新たに構築する時期になっているようです。葉っぱビジネスや昆虫食、そして林業を見るまでもなく、日本の各地域には、お宝が眠っているようです。それを、知恵というツールを駆使して掘り出していきたいものです。

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