ユニ・チャームは、赤ちゃん用のおむつや女性用ナプキンなど衛生用品を幅広く製造・販売する企業になります。最近ではペットブームもあり、衛生用品のほか、猫砂などペット関連用品まで製造・販売するようになりました。この会社の業績は、非常に好調なのです。2024年12月期の連結決算は、売上高が9889億円で、営業利益率は14%になります。ライバル企業の花王の営業利益率が9%ですので、それをかなり上回る業績になっています。この営業利益率の14%は、日用・生活用品の業界平均の6.5%の2倍以上になります。
2代目の高原豪久社長は、2001年6月に就任しました。就任以来、世界展開を進め、売上高を5倍以上に成長させてきました。高原社長は、2025年12月期の連結売上高は初の1兆円超えを見込んでいます。2025年には、売上高で1兆250億円と初めて大台に達する見通しになるようです。さらに、2030年には売上高1兆5000億円の目標を立てています。この成長の原動力には、高原社長が掲げた「共振の経営」あります。
ユニ・チャームは1961年に創業し、1984年に海外初となる台湾へ進出をしました。それ以降も各国に進出し、現在は世界で約80カ国・地城に展開しています。社員数は、1万6000人に達しています。その8割が、外国籍の社員になります。海外売上高比率は6割に達し、社員の8割が外国籍となっているわけです。まさに、グローバル企業になりつつあるわけです。このグローバル企業にも、問題があります。国・地域別の営業利益率は、日本が20%に対し、中国は11%、アジアは9%と見劣りする数字がでてきます。ユニ・チャームの喫緊の課題は、海外の収益力になるようです。成長を支えてきた高原社長は、経営層と現場が理解し合わなければ成長できないと考えています。この会社は、経営層は現場の生の情報に触れ、現場の従業員は経営層の視点を学ぶ「共振の経営」の理念を掲げ、成長の実現を目指しています。経営層と現場の双方の知恵や工夫が振り子のように共鳴し合うことで、全社員が一丸となって業績を高める実践を重視しているわけです。
現在の日本企業は、優秀な外国人材の活躍なしに、グローバル競争で勝ち残れない状況が生まれています。グローバルでビジネスを展開する上で、多面的な見方を身につけることが求められています。そんなモデル企業に、ユニクロがあります。ユニクロは、優秀な人材を採用し、その能力を生かすために、インターンシップ(就業体験)制度を導入しています。ユニクロは、世界中の学生を対象としたインターンシップを日本で実施しました。これには、22カ国・地域から51人が集まりました。この51人は、約4500人が応募し、倍率88倍の狭き門をくぐり抜けた精鋭になります。インターンでは同社の経営課題について議論し、経営幹部の前でプレゼンテーションを披露するなど実践的な経験を積んでもらい、将来の採用につなげる狙いがあります。7月24〜28日までの5日間、中国や韓国、バングラデシュなどのアジア圏と米国、ドイツなど欧米の計22カ国・地域から51人の学生が集まりました。彼らは、5日間での議論やプレゼンテーションを行いました。ベトナムから参加した学生は「倍率は高かったけど、ユニクロという世界的なブランドの経営を知ることができる機会を逃すわけにはいかないと思った」と応募理由を話していました。このインターンの中には、日本人も入っています。外国人がどのように考え、勉強をしているのかを体験してもらうためです。この中から採用される外国人は、わずか5名だそうです。これからの企業は、優秀な人材の発掘と育成を図る環境を整えておくことが求められるようです。
ユニ・チャームも、優秀な人材を育成する研究施設を用意していました。ユニ・チャームの研修施設は、「共振館」になります。この共振館は、創業の歴史や精神性を知ることができます「メモ魔」だった初代社長の数千冊に及ぶノートなども並べ、社員に学ぶ大切さを伝えています。広いセミナールームのほか、実際の書斎が再現されて経営学など数百冊の本が並んでいます。ここでは、創業者の理念や過去の失敗、成功の歴史を社員が体感して具体的に学べます。たとえば、結婚情報サービス「アカデミックユニ・チャーム」などの失敗例がパネルで並んでいます。一時、世界各国のトイレを集めた「トイレ館」などが話題になりました。その「トイレ館」が、2000年には年間来場者数が4分の1に落ち込み、地場企業に譲渡した失敗例などが並ぶわけです。いずれも、参入から撤退にいたった経緯まで細かく説明してあります。企業としては、成長を続けてきたわけですが、そこには失敗する事例もあったことを知ってもらうのです。今年の2月初旬には、米国やインドなど16カ国・地域から幹部候補生が集まりました。その幹部候補は、ここで創業の理念や「共振の経営」の理念、そして失敗の事例を学びながら、各国の風土にあった経営を創造していくことになります。海外の幹部候補にまで共通の意識をつくり、自律した「経営者」を育て、世界一の企業を目指すユニ・チャームの姿があります。
人材を育てるためには、いくつかの見方があります。その一つに、失敗や反省、そして悔しさを多く経験していると、素質が開花すると言われています。日頃から失敗と成功の両方を経験している社員は、どんなことも自分で考えて行動ができるようになります。失敗や反省、そして悔しさの数を多く経験していれば、逆境をどう乗り越えるか分かる子どもになります。成長する企業には、失敗の過程を許容する企業の包容力が必要のようです。強い組織や企業は、ミスや失敗を当然のこととして取り込み、成長の糧にしているようです。あるアメリカの航空会社はミスを起こった際でも、適切に報告すれば、責任は問われないシステムになっています。重大事故などのへの緊急対応は、事前に対応策を整えておくことしか対処の策がありません。前もって、行動のリスクと克服法を考えておけば、状況をコントロールできます。失敗や間違いを大事にする企業は、社員が働きやすい職場になります。失敗や間違いを責める行為は、ある面で必要なことになります。でも、あらゆる仕事を中断して、責めることや批判にのみ専念すれば、消耗だけが表面化します。批判を常に心の片隅に起きながら、改善し生産性を上げていくことが求められます。このようにある面では厳しく、ある面では許容する企業が、成長を勝ち取るのかもしれません。
余談になりますが、これからの社会において、働く人々に望まれるものは、複雑な問題解決能力、創造力、コミュニケーション能力になっています。さらに、これらの能力は、異質集団の中で高められるということもわかってきました。いわゆる異質の人材を集めたチームによる付加価値の高い生産性が、注目を集めているわけです。でも、せっかく優秀な人材を集めて編成したチームが、思うような成績を上げないケースも見られます。その中で、生産性を上げているチームは、メンバーが互いの考えを尊重する気風があることが分かっています。間違いを認めたり、リスクを冒してチャレンジしたりできる安心感が、チーム内にあるというのです。働く人が課題にチャレンジする場合、その課題が大きすぎても小さすぎても、選択に悩みます。そんな場合、どうすれば良いのでしょうか。ユニ・チャームの高原豪久社長は、独特の仕組みで、悩みの解決策を社員に示していました。彼は社長就任後すぐに、カバン持ちの制度を導入しました。幹部候補生に2カ月間、社長のばん持ちの制度を導入したのです。社長の「かばん持ち」として、社内外の会合や出張まで同行する制度を設えたのです。この同行する中で、経営層の考え方を肌身で学ぶ機会をつくりました。この「かばん持ち」には、累計60人強が参加し、一部は実際に幹部社員になったそうです。カバン持ちの方には、経営層の行動規範が目の前で示されました。それが、自然に多くの現場に流れていくことになります。経営層の行動規範が、現場のチャレンジやリスクへの向かい方に反映されていくことになります。
最後になりますが、日本で働く外国人が、2024年10月時点で230万人となりました。前年に比べて12.4%増え、その増加幅は25万人になります。日本で働く外国人の労働者の方が、急速に増えてきています。2023年10月末時点の厚生労働省のまとめによると、日本で働く外国人の労働者数は約205万人でした。2022年から約23万人増えています。2020年10月末時点では、約172万人でしたので、その増加が目につきます。外国人を雇用する事業所数は342,087所で前年比23,312所増加、届出義務化以降、過去最多を更新し、対前年増加率は7.3%と前年の6.7%から0.6ポイント上昇しています。急速に少子高齢化が進み、生産年齢人口が減っているのです。そのような状況の中で、外国人労働者は日本の成長にも不可欠な存在になりつつあります。大学教授や高度な専門職、医療関係など専門的技術的分野の資格で働く外国人は、約36万人と過去最高になっています。特定技能の在留資格の人は、人手不足が深刻な介護や建設、農業や外食などの分野で働いています。宿泊業・飲食サービス業で働く方は14%になり、生活の身近な場面でも日常的に見かけるようになっています。日本企業も、外国人の知識や経験、技術力を求めるようになりました。そのためにも、外国の方が安心して研究に従事する人的環境と物理的環境を整えることが課題になっているようです。もちろん、技能労働に従事する方の働く環境も、より良い方向にもっていくようになければならないようです。