現在、日本の弱点は、人手不足になっています。働く場所は、たくさんあるのです。でも、人がいないために、スムーズに社会や経済が回らない状況が続いています。その中でも、日本の経済成長のけん引役になるIT技術者の不足が深刻な問題になっています。このような状況の中で、大都市圏に近い自治体が、IT(情報技術)系エンジニアなど高度外国人材の確保を急ぐ流れが生じています。各自治体は、高度人材を確保し、競争力を高め、生産拠点の誘致を狙っています。たとえば、静岡県浜松市は、2024年12月ハイデラバード校と高度外国人材の誘致に関する覚書を交わしました。このハイデラバード校は、インド理系で最高峰とされる大学になります。浜松市は、2025年度からはインドとの交流を加速させています。浜松市の職員を、インドにあるスズキ子会社に派遣しました。これは、インドのスタートアップと浜松市内の企業の交流を図る目的があります。また、2024年末に、山梨県の長崎幸太郎知事がヨギ・アティティヤナトUP州首相と会談しました。山梨県もインドに目を向け、人材確保に意欲を示しています。人材獲得では、さらに新しい試みも生まれています。京都府、京都市、京都大学の3者は、優秀な外国人材を呼び込もうと協定を結びました。3者は、協定を結び、留学生の住宅支援などを検討しています。
各自治体が相次ぎ高度外国人材獲得に乗り出す背景には、国内への製造業回帰の流れがあります。あるアンケートでは、海外に生産拠点を持つ事業者の34%が国内の生産機能を拡大すると答えています。直近1年で、国内事業所を新増設した製造事業者はアンケート回答者の51%に上りました。為替や世界貿易の不安定化が、国内への製造業回帰を促しています。その支援に自治体が、知恵を絞っていることのようです。製造業では、特にデジタル化における人材が足りない状況にあります。企業は、成長が続く半導体関連の事業拡大に向けて人材確保を急いでいます。この人手不足の直接的な補強策として期待されるのが、外国人技術者の確保になります。出入国在留管理庁によると、2023年末の高度人材の在留者数は2万3958人になります。この人数は、2022年と比べて3割も増えているのです。高度外国人材は、日本における安定雇用や安定収入、社内教育など日本の企業の就業環境に魅力を感じているようです。
外国人材の中でも、インドの技術者に注目が集まっています。日本に少ないIT人材が、なぜインドには多いのでしょうか。その理由は、インドの貧しさにありました。イギリスからの独立に際して、インドは1つの戦略を立てました。財政的に苦しい中で、教育における重点を、数学と英語に集中したのです。数学の能力向上を目指した結果、豊富なIT人材を抱える国になりました。その中で、インドの理系の最高峰とされるインド工科大学の優秀さは、世界が注目しているところです。インド工科大学は、インドに23校あります。ITに特化した高度な外国人材の採用は、全世界的な広がりをみせています。世界の企業の目は、この大学に注がれます。毎年12月に行われる企業の採用活動には、多くの有名企業がインドにやってきます。日本の企業では、ヤフー,楽天、日立製作所などが採用に動いています。インドの工科系の人材は、アメリカIT大手を目指す一部の高度人材でなくとも、平均的な理系学生の技術スキルは非常に高いレベルになります。その1例が、2022年に紀州技研工業(和歌山市) に、新卒の新入社員として働き始めましたアダッシュさん(23)になります。アダッシュさん、インド工科大学で学び、プログラミグなどを習得した方です。日本は他の先進国より賃金の上昇幅が薄いのですが、それでもインドに比べ収入は高いものがあります。国内の理系学生は、大半が大手企業を選びます。地方企業や中小企業ほど、IT技術者不足は深刻になります。紀州技研工業の社長さんは「日本人の応募が減る中で貴重な高度人材だ」と話しています。アダッシュさんのような方が増えれば、日本の中小企業にとって福音になります。
これからの課題は、いかに気持ちよく働いてもらえるかということになります。知恵ある自治体は、外国人が働きやすい環境を整えていきます。医療通訳の配置などは、その初歩的配慮になります。地域の生活を安心安全に暮らすことができる同国のリーダーを育てておくことも大切になります。職場には不満や不快なことがあります。外国人技術者の方が、職場や地域に不満を持つことは当然でてきます。それに耐えることも必要ですが、ストレスを発散させることも大切になります。リーダーが心身的に安定していれば、同国の人びとに手厚いケアができます。でも、リーダーが不安定ならば、ケアは不十分な状態になります。そこで、リーダーの心身安定を維持する工夫をしなければなりません。一番の特効薬は、家族と過ごすことです。家族を呼び寄せ、家族が地域に貢献できる仕組みを作ることが、長い目で見た対策になります。企業の側にも、IT (情報技術)などのスキルを持つ外国人材を生かそうとする流れがあります。文化の違いやモチベーションの高め方など、優秀な働き手として定着してもらうためには、課題も見えてきました。日本文化を色濃く残した職場には、故国とは違う慣習や人間関係が生まれます。意見の違いや悩みを共有し、このストレスを発散するためには仲間が必要です。孤立しないように話が通じる複数の仲間との仕事が望ましいことになります。三井情報のDX技術部では、システムを開発するチーム12人のうち、4人が外国から来た外国人材で構成されています。孤立しないで、悩みを解消する仕組みを提供しているようです。これから、多くの国から高度人材が入ってきます。それらの人達が高いモチベーションを持って、働ける環境を用意したいものです。
余談ですが、せっかく留学生を受け入れても、その才能を伸ばす仕組みがなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。そんな事例が、お隣の韓国に見られます。韓国政府は、留学生を高校段階から誘致する流れを作っています。地域に早くからなじませ、地域の大切な「人財」として受け入れようとしているのです。地域住民と深い関係をつくるなかで、韓国語と文化を学び、地方復活の原動力になってもらいと考えています。留学生の活動に、問題も起きています。韓国北東部・江原道にある京東大学校に近い観光水産市場での光景です。屋台で、客を呼びこむ留学生の姿がありました。観光水産市場では、料理を作り、サービスをする留学生の姿が多くみられます。留学生の言葉を借りると、学費と生活費を稼ぎ、ビジネスを学んでいるとポジティブです。韓国には、年間2500万人の観光客が訪れます。その観光地の担い手が高齢化で、消滅の危機にあるとも言われています。地方では、保育園、病院、スーパーマーケットなど、生活に欠かせないインフラも崩壊しつつあります。留学生は、人手不足を補う救世主のような存在になっています。留学生には、ビジネスと韓国語、そして韓国文化が勉強できると「一石三鳥」のメリットがあるとの見方もあります。でも、一部の大学では、韓国語の能力が不十分なまま入学している状況があります。授業についていけない学生が、増加するという現象も生まれているようです。
外国の人材に頼るだけでは、悲しいものがあります。そんな悲しさを払しょくする国内の人材が、高等専門学校(高専)の卒業生になります。2023年度に本科(5年間の課程)を卒業後、就職を希望した学生の就職率は99.1%でした。高専卒の人材は技術者に必須の専門知識をもち、就職率は99%を超えます。彼らに期待を寄せる企業は多く、彼らの求める求人倍率は大学卒業者よりも高く,その倍率は20倍に以上になります。1人の高専卒業生に対して、20社が希望している状況があります。その企業は、JR西日本、サントリーホールディングス、富士フイルムは、LIXILなどの優良企業になります。しかも、採用人数が、50人から80人とまとめて求人をしているのです。いかに、期待されている人材かが分かります。各企業にも、事情があるようです。JR西日本は、保守・点検の現場で、専門技術を持つエンジニアの確保を急いでいます。列車運行を支える保守・点検の現場で、国鉄採用の技術者が定年退職を迎えているのです。その補充と、ロボット重機や人工知能(AI)を活用した点検も進めています。現場のスキルと今後のIT技術の両方を備えた人材の確保が、喫緊の課題になっているわけです。また富士フイルムは、「材料生産や機器開発を支える人材を確保することが狙いになります。この企業は、半導体などの製造に使う高機能材料や分野を成長領域と位置づけています。製品の設計開発や製造に必要不可欠の電気や情報、機械系の人材採用を強化しているのです。その人材に、高専の学生は、ぴったりということになるようです。
最後になりますが、世界で戦うビジネスを目指すには、経営陣のグローバル化や多様性の視点も大切になります。多くの企業で、外国人労働者に日本人と同じ指示をすると、指示の意図と違うことを行うなどの混乱もありました。外国人技術者は有能であるがゆえに、個人プレーに走ろうとする傾向もあります。彼らの有能さを生かし、生産性を高める仕組みを、各社が手探りながら、自社事情に合わせて作り上げていくことになります。日本企業は、外国人材に対して組織内の指示が曖昧だったと気づいたようです。いくつかの日本企業は、指示の出し方を見直し、文書化を進めました。たとえば、チーム内での報連相(報告、連絡、相談)がなく、ほかのメンバーが何をやっているかわからない事態に陥ることがありました。チームは、全体で進めていくものです。ある部門が先走っても、遅れても、全体は円滑に進みません。そのための報連相は、重要になります。彼らに(特に高度外国人人材)重要な内容を伝える時は、はっきり、具体的に細かくということが基本になります。つねに現状を正しく把握するためにくわしく報告せざるをえないルールをつくることも、工夫の一つになるようです。内容も、「今の時点で何%の完成を見ているのか、次の報告では、何十%になっているのか」など仕事の進め方を、数値を出しながら詰めていくことも求められるようです。外国人と日本人の異質のチームが、生産性を上げていく試行錯誤がこれからも続きます。ぜひ、企業や各自治体の努力が報われるような職場にしていきたいものです。