多様な働き方と自己実現の両立を目指す アイデア広場 その1546

 団塊の世代は、モノに飢えていました。でも、時は移り、彼らもモノからコトへのシフトが進みました。さらに、新たな局面を迎えています。それは、その瞬間を楽しむ「トキ」の消費になり、社会的意義ややりがいを求める「イミ」の消費を謳歌するようになっているのです。「トキ」に価値を置く消費や社会的意義、そしてやりがいを求める「イミ」の消費など、消費は多様化しています。もっとも、令和の米騒動が起きれば、コメというモノに関心を向けることもあります。モノ重視の古典的な経済学は、消費を盛り上げるには、「いかに働く時間を減らすかなどが一つのテーマでした。多様な価値観を置く現代では、消費も労働もその境界が暖昧になっていくようです。その面白い事例が、新聞専門店にありました。ある新聞専売店のご主人が高齢者になり、この専売店を替わってくれと頼まれた若者がいます。若者は、専売店の権利を借金して、300万円ほどで買ったのです。この専門店では、配達の収入の他に、広告の折り込み料やその他の収入を合わせると毎月50万円ほどになったそうです。300万円の借金も、半年で返せてしまいました。彼の面白いところは、この50万円の仕事を近隣のみんなに分けることにしたのです。いちばん少ない仕事を受け取った方は、3部の新聞を配達する隣のおばあちゃんになりました。おばあちゃんは、毎朝4時頃新聞を3部取りに来て、隣に配って一日100円ほどの賃金をもらうのです。一日100円が1カ月になると、3000円ほどになります。このおばあちゃんは、3000円を使ってお孫さんにお菓子を買ってやるのが楽しみなのです。この事例の中には、モノ、コト、トキ、イミのすべてが網羅されているようです。今回は、この多様な消費について考えを深めてみました。

 イギリスはEUから離脱した現在、農業分野で人手不足の危機に見舞われています。この国の農業は、外国人労働者に大きく依存してきました。必要とされた季節労働者の大半は、イギリスへ自由に移動できるEU出身者が占めていたのです。その数は、7万人といわれています。そのイギリスは、2021年なるとEUからの人的移動が制限されるのです。このままでは、収穫要員が足りなくなることが確実視されています。イギリス在住者の農業労働者が十分に見つけられなければ、作付けをしても作物が収穫されない状況にあるのです。ある有機野菜生産者は、来年の収穫期に向けた作付面積を400haから150 haにまで減らしました。またある企業は、季節労働者の受け入れがない限り、タマネギ生産の半分をアフリカのセネガルに移すと話すまでになっています。イギリス政府も、この人手不足を黙認していたわけではありません。農業に関心を持つ国内の労働者を、積極的に採用する取り組みを行ったのです。国内での採用活動の結果、イギリス在住者が農業の収穫要員に占める割合は11%にまでなったのです。でも、果物生産者に雇われた国内の労働者の中で、6週間を超えて仕事を続けた方は28%に過ぎませんでした。農業に関心を持つ労働者の採用は費用がかさみ、イギリス在住者の就業は、その成果がまちまちだったということになりました。生産者の立場からは、農地に近い場所で人材を見つけるのが難しいという点が挙げられました。また、一般的にイギリス人は正規雇用を好み、厳しい肉体労働を避ける傾向があるようです。

 このような問題解決のヒントは、マッチングビジネス「おてつたび」にありました。「おてつたび」は、気分と人手不足2つのテーマを結びつけるマッチングビジネスになります。永岡里菜氏は、この運営会社 (東京・渋谷) を創業しました。ここには、ホテルや農家など約1800の事業者が参加し、働き旅を希望する約6万8000人が登録しています。宿泊場所を確保した上で、1泊2日から2カ月未満の仕事を、「おてつたび」のウェブで募集しているのです。たとえば、北海道別海町の牧場は、子牛の世話と牛舎管理の仕事を募集しています。子牛の世話と牛舎管理の仕事を募り、業務内容やスケジュール、報酬内容を告知していいます。5日間の短期的なアルバイトをきっかけに、長期的に働くスタッフを採用したいとのメッセージも含まれているようです。働くことで、旅先の地域に深く関わる「おてつたび」は、多様性の時代の働き方を反映しているのかもしれません。そんな時代の気分を映している。「おてつたび」は、時代の気分に浸れ、なおかつ報酬があるので貯金を取り崩さなくても済む仕事になります。

 このような旅と仕事をマッチングする状況の萌芽は、地方の自治体には見られていました。公務員は、地方公務員法で兼業が制限されています。でも、この制度が緩められて、農産物の収穫において働けるようする自治体が現れました。青森県弘前市は、市職員がリンゴ農家で収穫などのアルバイトをできるようにしたのです。弘前市では、市内の農協と連携し、農家が求人情報を掲載できるアプリも導入しています。リンゴ栽培では、摘果や収穫期など短期間に多数の労働力が必要となります。このような事例は、北海道にもあります。北海道の十勝地方は、高齢化などで人手不足が深刻になるなか、臨時労働力の確保が急務になっています。この北海道で、農家が1日単位でアルバイトを雇う専用マッチングァプリが広がっているのです。このバイトの対象者は、主に学生や専業主婦、副業が可能なサラリーマンになります。道内では、9月のタマネギの収穫、9~11月には特産のジャガイモや長芋、長ネギの収穫期を迎えます。農家が募集する仕事は、「ジヤガイモ収穫」「ネギ箱詰め」など機械を操作しない単純作業になります。人手不足や高齢化が常態化しているこの地方では、繁忙期に当たる収穫の強力な助っ人になっています。日本における人手不足が、このような自治体の出現になり、さらには、「おてつたび」のようなビジネスの出現を可能にしているのかもしれません。

 先ほど日本の金融庁が老後の資金として、2000万円ほど蓄えておくことが望ましいという試算を発表しました。批判をあびているようですが、ある意味で理にかなった試算でしょう。どの国でも高齢化が進み、平均寿命も伸びているために公的年金の支払いが大変になってきています。どの国でも、年金受給額がどんどん減っている現実があります。そこで、年金プラス副業(小遣い稼ぎ)という発想が生まれます。副業は、葉っぱビジネスとか、新聞配達とか、リンゴの収穫とかなど、個人や地域にあったものが考えられます。お金を稼ぐことも一つですが、健康で楽しいひと時を、仲間と過ごす「トキ」と場所の確保もこれからの課題になります。その活動を円滑に行うには、活動する場所(ジムや公民館など)、仲間(趣味のグループ)、プログラム(スキルの高度化)の存在が不可欠です。高いレベル活動を目指すならば、リーダーもしくは高い知見を持つ仲間の存在が欠かせません。この場所や仲間、そしてスキルの向上を準備している場所があります。その一つに、低価格ジム「チョコザップ」があるようです。このジムは、面白いことを考えました。ここでは、会員がジムの運営を手伝うと月額の割引やギフトカードがもらえ制度があるのです。「セルフメンテナンフ会員」は、マシンの不具合に対応できる会員です。「フレンドリー会員」は、清掃や備品の補充などを手伝う会員です。セルフメンテナンフ会員」や「フレンドリー会員」になると、月額の割引やギフトカードがもらえるサポート会員認定制度を導入しているのです。50代のサポート会員は割安になるほか、顔見知りができるし会員同士の結束も生まれているようです。年配の会員を中心に、手伝うことで利用施設への愛着も高まるとの声も聞こえるようです。

 余談ですが、「おてつたび」のような旅と仕事の隙間ビジネスは、これからも需要は出てくると推測されます。さらに、進めて紋々的な知識やスキルを高め、地域に貢献するような仕組みもこれからは求められるようです。たとえば、地方の医療は、医者の不在で医療過疎が進んでいます。そんな中で、新潟県津南町は、町長の努力と前向きな若いお医者さんの心意気で地域医療が安定しています。津南町は、東京駅から新幹線とバスで2時間余り距離になります。この町立津南病院には、20代の医師の木村真依さんと宮城禎弥さんが勤務しています。お二人は、今春から津南病院で,地域医療の最前線に立ったのです。でも、面白い勤務形態をとっています。木村さんは月~水、宮城さんは水~金、残りはともに東京で経営コンサルタントとして働くのです。医師とコンサルタントのダブルワークと二拠点生活をセットにしたスタイルで、1人の常勤医を置くのと同等の効果があるのです。近年、医師に限らず、ダブルワークや副業で社会貢献を志す若者は多いようです。このスタイルは、成長志向の強い若い世代に響く手法になっています。木村さんと宮城さんは、経営やマネジメント、そして起業について学びました。お二人とも、これからの医師は、ビジネスを学ぶ必要があると話します。木村さんは、「病院経営や行政のプロセスがよく見て、その意思決定に関わる現場の醍味を実感したい」としています。宮城さんは、医療現場にデジタル技術を取り入れるのに意欲的です。

 最後になりますが、人が生きていくためには、複数の雑事をこなさなくてはなりません。昔のお百姓さんは、農業だけをしていた人はいませんでした。お百姓さんは、山の手入れもやるし、大工もやるし、藍染めもやるし、いろんな仕事をやっていました。現代では、分業の精髄を示す縦割り行政が批判を浴びるようになりつつあります。一方で、横断的な連携が注目を浴びるようになりました。異分野の人と人のつながりは、ビジネスを成功に導くものとされています。プロジェクトで組んでいるメンバーも多様になれば、新しい仕事の領域が開けてくるケースが増えてきます。個人が複数の能力を持つこと、もしくは、グループで複数の能力を持つことが、注目されているわけです。複数の能力を持った人材が、「おてつたび」のような働き方で、地方に貢献し、自己の能力開発を同時に行うことができれば、楽しい社会ができることになります。

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