多様性の中から生まれるアイデア アイデア広場 その1437

 アイデア、閃き、創造性などを量産する人材の評価が、高くなっています。これらは、どんな人にとっても、どんな企業にとっても、そしてどんな家庭生活においても必要で大切なものになります。このアイデアは、経験と意欲が合わさって生まれてくるものです。私たちが生きていく中で得た知識や経験は、脳の中の側頭葉に蓄積されています。側頭葉には、さまざまな経験が記憶、集積されているのです。一方、脳の前頭葉では、意欲や目的意識、やる気がつくられます。側頭葉にある知識や経験を、前頭葉で生まれる意欲や価値観が引き出してくれます。アイデアは、前頭葉の意欲と、側頭葉の経験のかけ算にたとえられます。経験は年齢を重ねるほど増えるので、歳をとった人のほうがアイデアの引き出しは多いことになります。でも、残念なことですが、歳を取ると意欲が減退する傾向が出てきます。一方、若者は意欲が十分なのですが、蓄積されている経験や知識が不十分です。引き出しが、少ないとも言えます。この両者の長所や短所を補って、経験を増やし意欲高めようと努力すれば、アイデアを作る能力は鍛えられるのです。

 前頭葉と側頭葉がうまく結びついたとき、アイデアや創造性が生まれます。創造性を高めたければ、意欲と経験を結ぶ回路がうまくつながるようにすれば良いわけです。脳の回路は、トレーニンで強化することができることが分かっています。その回路は日々使えば使うほど太くなり、創造性は増強されていくことになります。この脳の機能を活かすには、早いタイミングで必要な内容をまとめて、くり返し考え直すことが重要になります。人間の脳は、話すことで新しい思考生み、考えを深めていくことが得意なのです。蛇足ですが、最近女性の優位性が、論じられるようになりました。平均寿命で、このことが明らかになります。さらに、女性は男性に比べ、会話能力が優れていることが分かってきました。この能力が、脳の加齢を抑制しているという説が受け入れられ始めています。女性は言語中枢が発達している人が多く、話し続けるうちにいろいろなことを思いつくケースが多いのです。漠然と頭の中にある状態よりも、話したり書いたりするほうがアイデアは明確になり、客観的に眺められる状況が生まれるわけです。ひらめきやアイデアの裾野を広げていくには、億劫がらずに口や手を動かし、「話し」そして「書く」ことが大切になります。そもそも、まったくなにもないところから新しいものが生まれることはありません。

 世界の企業は、アイデアや創造性をいかにつくり出して、生産性を上げていくかに苦心を重ねています。多くの企業がチームを立ち上げて、生産性の向上を図っています。でも、せっかく優秀な人材を集めて編成したチームが、思うような成績を上げないケースも出てきています。グーグルは200近いチームを分析し、成果をあげるチームとあげないチームを調べたのです。その調査の結果は、面白いものでした。チームのメンバーが優秀か、どんな人材なのかはあまり関係ないようなのです。チーム内に心理的安全性が確立されている場合に限り、多様性の発想や創造性が得られるという結果になったのです。提案や工夫の成果が、採用されれば、前頭葉が刺激されて意欲が増すことになります。意欲が増せば、側頭葉からの記憶や経験が効率的に湧き出てきます。いわゆる高いモチベーションで、頭脳活動ができることになります。ひらめいたことを実行し失敗しても、チームの一員として尊重される職場は心地良いものです。失敗に終わっても、チームの一員として尊重されると職場は、心理的に安心感を得ます。営業成績は、個人の営業スキルと関係していると思われていました。でも、良好な職場の人間関係が営業成績を継続的に上げていくことが分かってきました。

 この心理的安全という要素に多様性という要素が加わると、アイデアや創造性の質が高まることも分かってきました。生物の多様性の研究の中に、「ジャンケン型の相互作用」」という数理モデルがあります。これは、ジャンケン型状態にあると、生物の多様性は豊かにはぐくまれるという理論になります。ジャンケンは、グーはチョキに勝って、チョキはパーに勝って、パーはグーに勝つという相対的な関係で成立しています。もしも、グーがチョキにもパーにも勝つことになったら、世の中にはグーだけが残ってしまいます。世の中にはグーだけが残ったら、多様性などは消えてしまいます。生態系の中では、ジャンケン型のように三すくみ、とかあるいは五すくみが本来の姿になります。たとえば、そこでは、猛禽類を頂点としながら、生態系が成立しています。小鳥がいなくなれば、猛禽類もいなくなります。昆虫がいなくなれば、小鳥もいなくなり、猛禽類も当然いなくなります。生態系の中では、絶対的な勝ち負けのないジャンケンン型のように三すくみが本来の姿になるわけです。これは、人間の文化についても同様なことが言えます。たとえば、万葉集は、優れた文学作品です。この万葉集には、天皇や貴族の歌と、防人など名もなき人の歌とが対等に並べられています。おそらく、世界に類のない歌集でしょう。万葉集は、わが国最古の歌集で、万葉集の編纂を行ったのは日本の古代国家なのです。国家が上から下の庶民にたるまで、巻き込んでこの歌集を作り上げました。当時の人々の多様性を十分に取り入れた歌集でもあります。

 日本では、多様性が求められる分野が増えています。創造性やアイデアの出にくい分野が、あちこちに散見されるようになりました。その一つが、アカデミックな世界になります。日本のアカデミックな世界は、専門があまりに細かく分かれすぎるようになりました。研究者は専門分野の研究にばかり目を向け、ほかの領域との交流を避ける傾向があります。自分の分野にあるルールからはみ出したり、ルールを変えたりしてはいけないという考え方が主流なのです。ふつうは、決められたルールがあって、それに沿って仕事をすれば良いわけです。そして、決められたルールを守るとことはもちろん大切なことです。でも、現実に即して、「おかしい」と思うことがあれば、ルールそのものを見直すことも必要になります。自分の研究の成果が、どういう意味をもたらすのかという視点をもつことが大事になります。世界はすでに総合科学、総合学問の時代に入っています。日本は、総合科学、総合学問の時代にまだ踏み出していないようです。研究の成果が、人間の営み全体での位置づけがどのようなものかという視点に重点を置いてほしいものです。

 多様性が重要で、多様な価値観の人と会うことが、新しいアイデアを生むことは常識になりつつあります。自分とは違う相手も受け入れていくことが、多様性を認める前提になります。自分とは考え方や好み、やり方が違う人とも積極的に関わることを苦手とする人々がいれば、それを変えようと努力する人たちもいます。変えようとする場合、自分を鍛える場として異質の人達との交わりをポジティブに考えることも大切です。自分にとって好ましくない避けたい人間関係を変えることは、自分を鍛えるものに転じると考えるわけです。避けたい関係が、葛藤や訓練を経験する場にもります。葛藤やぎりぎりのせめぎあいを共有した仲間の間には、親密な連帯感が生まれるケースが多いのです。親密な連帯感が、社会的孤立を乗り越える誘因にさえなります。異質集団の成功は、切瑳琢磨しながら向上してきた成果ともいえます。異質集団の中でも、自分なりに工夫をすることで、抑制のある行動がとれるようになるようです。多様性が重要で、多様な価値観の人と会うことが、生産性を高め、新しいアイデアを生むことは常識になりつつあります。自分とは違う相手を受け入れていくことが、多様性を認める前提になります。そんな環境を個人が努力して作り出し、企業もそのような環境を準備し、さらに地域社会もそのような風土を受け入れることができれば、素晴らしい社会が形成されます。このことを実現している最もシンプルなモデルは、外国人労働者と仲良くやっている職場になるかもしれません。

 企業活動おいて、限られた資源をいかに活用するという発想も必要です。辛いとか、やりにくいとか感じたら、どうしたら楽になれるかを考えることです。自分も、そして相手の立場に立っても考えることです。たとえば、デパートでは、長時間立っているのがつらいシニアはたくさんいるものです。「がまんしろ」「慣れれば平気だ」と教えられ、それに慣れた人は、シニアのつらさを理解することは難しいかもしれません。そんなとき、売り場に椅子を多く置いたところ、売上が伸びるという事例が生まれました。買い物に同伴している夫が「早く帰ろう」という回数が減ったのです。奥さんは、心置きなく買い物を満喫しました。この売り場の方は、奥様を満足させ、旦那様のつらさを軽減し、椅子を用意するだけで、売り上げを上げることができました。人間の行動パターンは、心や信念を伴いながら形成されていくことになります。この信念は、少し厄介な特徴を持っています。その特徴は、統一性と一貫性になります。「上層部の決定にはとりあえず従う」とか「親の言ったことをそのまま行う」という信念が形成されると、なかなか変えることが難しくなるのです。日本の企業の大きな流れを見ると、上層部の決定にはとりあえず従うという流れがありました。上の言うことを聞いていれば、定年までやめることなく働くことができる労働環境がありました。でも、時代が変わりつつあります。これからの時代は、「自分とは考え方や好み、やり方が違う人とも積極的に関わる」ことが求められるようです。

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