太陽光発電の効率を維持する工夫  アイデア広場 その1684

 以前、アジアの発展途上国は電力不足に悩まされていました。たとえば、パキスタンの地方の村や町では、1日10時間以上も停電が続くなど深刻な電力不足が続いていました。でも、中国が、総額5兆円規模でパキスタンへの援助を行っています。その中の目玉に、巨大メガソーラーがあります。太陽光パネルを40万枚以上設置して発電を行っているのです。このような、流れは、各国に波及しています。アジア太平洋地域の太陽光による発電能力は、2012年において世界全体の20%でした。それが、2016年には48%まで急増し、欧州の34%を抜き去りました。技術進展で発電コストは大幅に低下し、原発や石炭火力より割安になる国も増えているのです。太陽光発電設備がほとんどなかった新興国も、電力需要増を見込み能力拡大に取り組む状況が続いています。この努力の中で、将来の不安を少なくする工夫が求められる状況が生まれています。この不安は、現在の太陽光パネルの生産枚数を考慮すると、2030年以降には、中国や東南アジアに廃パネルが溢れる現実が待っています。耐用年数の過ぎた太陽光パネルの大量廃棄が、心配されているわけです。そして工夫は、いまある太陽光パネルを有効に使用することになります。今回は、パネルの有効利用について考えてみました。

 中古の太陽光パネルの保守点検やその維持のビジネスについては、環境が整いつつあります。現在は中国企業を中心に、太陽光パネルの厳しい販売競争が行われています。中国のパネル企業にも、倒産という波が押し寄せている現実があります。生産が、飽和状態になっているのです。太陽光発電ビジネスの主戦場は、パネル生産からパネルの保守管理に移りつつあります。パネルは、設置してから年々発電能力が低下していきます。故障も多くなります。その時には、現場に迅速に駆けつけて、部品すばやく交換し、発電能力を維持するサービスが一つのビジネスになります。太陽光発電所の稼働状況を、ドローンや監視カメラで遠隔監視するビジネスにも需要が出てきています。パネルの生産が、減少していくことは確実です。減少する分野に、大量の資金や人的資本を投入する必要はありません。投資を選別しながら、大手が手掛けないニッチ分野でシェアを握り、少人数で稼ぐことも選択肢もあるようです。

 そこで、既存の太陽光パネルをいかに長く使用するという課題がでてきます。2018年に、九州経済調査協会が太陽光発電事業者に実施した調査があります。ここで、「発電事業で困っていること」という質問に対して、66.3%が「雑草対策」と回答しています。この数字は、「落雷や獣害による設備の故障」の32.6%、「パネルの汚れ」26.7%を大きく上回っていまいました。一般に、雑草対策には、除草剤散布や砕石敷き、コンクリー舗装、防草シート敷設などがあります。除草剤や防草シート敷設などの対策では、周辺環境への影響が心配されます。私事ですが、私の散歩コースには、2つの小さな太陽光発電所があります。1つの発電所では、人手を使った草刈とパネルの水拭きをしています。もう一つの方は、強い除草剤を使っているのでしょうか、草がほとんど生えず、地面が泥にまみれた状態になっています。前者の方が、見栄えも環境に優しいパネルの使用になっているようです。私事はさておき、近年、比較的手軽に雑草対策できる方法として、ロボット芝刈り機に注目が集まっています。通常、年2~3回の草刈りが必要となります。専門業者に依頼すると、1平方メートル当たり数百円かかるようです。大きな発電所になると、草刈りのコストもかさむことになります。太陽光パネルによる発電では、「雑草対策」とその維持管理が課題になっていることが明らかになってきました。

 太陽が当たらなければ、太陽光パネルによる発電はできません。背丈の高い雑草が、太陽光パネルにかぶさると太陽光パネルに影ができ、発電効率が低下し、発電量も低下します。山林や放棄された農地に建てられた太陽光発電所にとって、雑草対策は不可欠です。そのため、敷地内の雑草を自動で刈る「ロボット芝刈り機」を導入する太陽光発電所が増加しています。ロボットを活用すれば、1台で1日当たり最大5000平方メートル程度を除草できます。最大5000平方メートル程度を除草できれば、作業負担の軽減にもつながります。草が伸び放題になれば、発電効率が低下してしまう他に、故障や火災の原因にもなる可能性もあります。また、影を落とす状態が続くと、電気抵抗が局所的に高まって発熟する「ホットスポット」が起きることもあります。「ホットスポット」は太陽光パネルの特定の部分が異常に高温になる現象です。さらに、つる性の雑草が電力変換装置やパワーコンナイショナーの内部に入り込めば、故障や火災につながる可能性もあります。太陽光発電には、雑草対策が課題として残ります。

 便利なツールが現れれば、それを利用する企業も現れます。姫路インザイは、太陽光発電事業などを手掛ける企業になります。この企業は、2018年に、ハスクバーナのロボット芝刈機「オートモア」を導入しました。「オートモア」は、ロボット芝刈り機で世界シェアトップを誇るスウェーデンのハスクバーナの製品になります。この企業は、農林・造園機器の大手でもあります。「オートモア」は、ロボット掃除機「ルンバ」のように、自律走行して草を刈ります。平地で外周にワイヤを設置すれば、範囲内の草を設定した高さで刈る優れものです。電池残量が少なくなると、充電ステーションまで自動で戻り、充電もします。問題があるとすれば、傾斜や凹凸の大きい土地では、十分に性能を生かすことができないことでしょう。価格は、10万~60万円になります。1台で、1日600~5000平方メートルを除草できる能力があります。ここの社長さんは、雑草をきれいに刈り取ることができ、防草シートより見栄えも良いと「オートモア」を性能と美化の両面から評価しているようです。

 余談になりますが、日本でも太陽光発電システムは、2030年代後半から年間50万~80万トン分が寿命を迎えます。現在、パネルの再資源化の技術は進歩しています。岡山県新見市ある新見ソーラーカンパニーが、新しい技術を開発したのです。この企業が開発した太陽光パネルのリサイクルでは、熱分解炉を活用しています。熱分解装置に充満させた600度を超える水蒸気で、パネルを15~20分程度加熱します。接着剤とプラスチック材のバックシートは、気化してはがれてしまいます。水蒸気とともに接着剤やプラスチックを回収、水と有機物に分離します。分解後には、ガラス片、銅線、そして太陽電池のセル片は残り、二酸化炭素を排出せずに処理が完了するという優れものです。これまで70%程度にとどまっていたリサイクル率は新方式で約95%まで高められるのです。この企業は、太陽光パネルの分解だけでなく、再生ができる工程も視野に入れているようです。廃パネルの回収から分解、そしてシリコンなどの再資源化という一連の処理技術は、さらに円滑になるように構築されていくでしょう。でも、このリサイクルを円滑に行うことのできる人材が不足しているのです。廃パネルの回収とリサイクルは、将来において全世界の国々が抱える問題になります。日本は、そのモデルを構築しつつあります。でも、人材が不足しているわけです。この不足を、海外の人材に頼る発想が出てきます。日本においてパネル補修や再資源化企業で研修し、技能を身につけてもらうわけです。将来必要とされる人材を招致して、育成しておくことは有益なことです。日本で研修を受けた技能者は、祖国の廃パネルのリサイクル事業に携わり、各々の祖国に貢献する仕組みを作るわけです。人材育成の期間は、日本企業も人手が確保されます。大義と実利を、同時に実現すると楽しいことになります。

 最後になりますが、2021年に、ホンダは電動ロボット草刈り機「Grass Miimo (グラスミーモ) HRM3000KI」を発売しました。これは、事前に設定したエリア内を自動走行しながら草を刈る電動ロボット草刈り機になります。このロボットは、スマートフォンなどから遠隔操作できる草刈り機になります。グラスミーモの作業エリアは、最大4000平方メートルで、草を刈る高さを2~6cmに設定できます。草刈り機がエリア内を走行しながら自動で草を刈り、充電も自動で完了する仕組みになっています。グラスミーモの価格は、64万3500円でした。時代は進み2025年、「農機具製造のササキコーポョン(青森県十和田市)は、スマモの販売に力を入れています。この会社も、リモコン操作型のロボット草刈り機「スマモ」を発売しました。果樹園や太陽光パネルを設置した場所など、広い土地、の雑草を刈る利用を想定しています。発電所の架台の下でも作業できるように、車体の高さは40cm以下に抑えています。オートモアやグラスミーモより、性能は著しく向上しています。草丈50cm程度まで刈り取ることができ、傾斜35度でも走行できる優れものです。このスマモのRS400-M2.販売価格.は、1,895,300円税込と高めになっている点が気になります。

 蛇足になりますが、太平洋セメントの子会社のナコード(東京・中央)は、廃棄された太陽光パネルのリサイクル事業を千葉県袖ケ浦市で始めました。このリサイクル施設では、1日当たり太陽光パネル約1500枚に相当する約26トンの処理能力を持つようです。年間、約1万トンになります。太陽光発電システムは、2030年代後半から年間50万~80万トン分が寿命を迎えます。この寿命に備えるには、この規模のリサイクル施設を、50ほど建てることが必要になるようです。

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