良い歩き方は、人生の財産になります。散歩やランニングなどの運動量が適切に確保されていれば、脂肪、筋肉、骨のいずれに対しても良い影響をもたらします。運動が海馬にも影響を与え、脳を活性化させることも分かり始めました。適切な運動をすれば、動きがよく、姿勢がよく、体型がよくなります。良い歩き方とは、足指の蹴りが、足裏からふくらはぎ、太ももや上半身までの筋肉へ力を円滑に伝えることになります。足指の蹴りから上半身まで筋肉の動きが、円滑に伝わることで正しいランニングやウオーキングできるわけです。ところが、歳をとるとさらに、一定の時間を歩くだけで、足、腰、背の筋肉に疲労が蓄積します。足が疲れれば、膝が曲がってきます。腰が疲れれば、腰を曲げた姿勢で歩くことになります。いわゆる腰の曲がった前傾の姿勢で、歩くことになります。このまま歩き続ければ、良い運動がかえって体を壊す運動になってしまいます。もっとも、これを補正するツールがあります。それは、2本のポールというわけです。ポールを両手に持つと背筋が伸び、左右のバランスが取れた状態でウオーキングができます。高齢者が陥りやすいバランスの崩れを、2本のポールが防ぎます。ポールウオーキングは、手足を有効に使いますので、歩幅が広くなり、運動の質と量を高めるわけです。最近は長く歩き続けるために、体の筋肉を強くする歩き方も推奨されるようになりました。今回は、歩き方について考察を深めてみました。
「後ろ歩き」は、「レトロウオーキング」とも呼ばれる歩き方になります。この歩き方が、注目されるようになりつつありあります。新たな研究によると、後ろ歩きは消費カロリーもアップさせることが分かってきました。ジャネット・デュフェク氏は、米ネバダ大学ラスベガス校の運動機能学と栄養学の教授です。彼は、20年以上にわたり、後ろ歩きについて研究してきました。彼の研究に、1週間に3回から4回、10~15分間後ろ向きで歩いた人の調査があります。20歳から40歳の女性が、6週間の後ろ歩きプログラムに参加しました。その結果、女性は体脂肪が減ったのです。後ろ歩きは、早歩きした場合と比べて1分当たりの消費カロリーが40%も多いことが分かりました。後ろ歩きのプログラムに参加した女性は、体重の減少だけでなく、健康状態も改善したということです。普通に前を向いて歩くときは、主に足首を使います。後ろ歩きでは、腰回りや膝を使うようになります。その結果、お尻の筋肉とハムストリングを鍛えることに繋がるのです。さらに、腰とハムトリング(太ももの裏にあたる筋肉群)の柔軟性が高まることも分かりました。
後歩きは、普段あまりやらない運動になります。この動きは、バランス感覚を向上させ、使われていない筋肉を鍛えます。前を向いての歩き方と違う後ろ歩きは、通常の歩行とは別の筋肉群を動かすことになります。その結果、筋力と関節の可動性を高める効果をもたらします。前向きに歩いた人や特に運 動をしなかった人に比べ、バランス感覚と体の安定性が向上することが分かってきました。後ろ歩きの効果は、柔軟性やバランス感覚の向上にととどまらないことも明らかになってきました。この歩き方は集中力が必要になるため、脳の実行機能(思考や行動を御する脳機能)も鍛えられるのです。後ろ歩きで認知機能が向上するのは空間知覚とコーディネーションが鍛えられるためです。空間知覚とコーディネーョンは、脳の指令で巧みに体を動かす能力になります。この研究では、反応速度と短期記憶の向上につながるも明らかになってきまました。
ウオーキングが、うつ症状の改善に役立つことが明らかになってきました。2023年版の「過労死等防止対策白書」では、うつ病についての言及がありました。人間の感情には、喜び、高揚、幸感、快感、悲しみ、落胆、恐怖、不安、怒りなどがあります。これらの中で不安などの負の感情が多くなれば、「うつ」の状態になりやすくなります。一方、これらの負の感情を適度に発散することを行えば、より良い状態が保てることになります。この発散法の一つに、ウオーキングなどの運動があるわけです。もちろん、運動だけでなく、趣味などの楽しいことも発散の選択肢になります。ある実験で、運動の重要性が明らかになりました。うつ病の患者に、薬のグループと運動処方のグループに分けて実験を4ヶ月間行ったのです。うつ病の患者は、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少しています。これを、薬のグループは抗うつ剤で補うことにしました。この結果は、どちらもグループにも同程度の幸福感をもたらすという有意義な結果をもたらしました。この幸福度の改善は、運動が抗うつ剤と同じだけの効果があることを証明したわけです。さらに時間が過ぎるにつれて、運動の効果の優位性が浮かび上がってきました。抗うつ剤を飲んだグループは、6ヶ月後38%が再びうつ状態に戻っていたのです。運動療法をしたグループは、6ヶ月後の再発率はわずか9%でした。運動療法は、「うつ」の状態から90%以上を解放したことになります。
再度、後歩きに戻ります。ほかのトーニングと同様に、後歩きの効果は運動の強度で変わります。ウオーキングなどの運動の強度を計るには、トレッドミルが便利です。トレッドミルは、速度や傾斜を調整することで、負荷を高めたり落としたりできます。トレッドミルで後ろ歩きする一番の効果は、体にかける機械的な負荷が変わることです。後ろ歩きをすると、歩行パターンが変化します。歩行パターンが変化するので、筋肉や健、筋膜、関節の使い方や負荷も違ってきます。後ろ向きに歩くと、腰痛が軽減し、バランス感覚が向上することが分かっています。理学療法に後ろ歩きを取り入れたところ、変形性膝関節症に大幅な改善がみられました。報告によると、関節痛の患者に膝蓋骨へ負担をかけることなく膝を支える大腿四頭筋が鍛えられます。理学療法やリハビリプログラムに、後ろ歩きがしばしば組み入れられる主な理由がここにあります。そして、トレッドミルで後ろ歩きする効果の一つが、脳と体のバランスシステムが刺激されることです。
良い評価があれば、それに反する評価もあるようです。近年の健康志向の流れから、歩かなければならないという強迫観念を持つ方が多いようです。ウオーキングは、健康の維持増進に貢献します。でも、間違った歩き方をして、膝を痛める方も多いのです。後歩きの評価が高まりつつあるわけですが、それに反する意見もあります。否定的意見を述べるのは、カナダにあるマギル大学の社会科学局のジョナサン・ジャリ氏です。懐疑的な専門家もおり,後ろ歩きの効果について納得していない人もいるわけです。その理由は、膝痛や腰痛の改善に関して、トレッドミルで後ろ歩きする研究に参加する被験者は少ないことにあるようです。膝痛や腰痛の改善の成果は、後ろ歩きの研究に参加する人数が少なく、限定的な疾患を対象とした結果だと言うわけです。後歩きが、ほかのトレーニング以上に効果があると思えないという方もいるのです。もう一つは、後歩きが転んでしまう危険性もあるというものもあります。それでも、後ろ歩きをやってみたしというのであれば、安全への配慮が欠かせません。トレッドミルを使えば、転倒のリスクは減らせます。後歩きの即効的効果は、ソリにべルトを付けて10mから15mを後ろ向きに歩いて引っ張るだけで良いというものがあります。 プラスアルファの効果を期待するならば、ソリの利用もあると言うことです。
最後になりますが、歩ける方は、健康と言っても良いでしょう。1日に8千歩以上を歩くと、死亡率が下がることはこれまでの研究で分かっていました。ウオーキングは、軽い有酸素運動になります。このウオーキングは、末梢で循環する血液の量が増加し、疾患予防の効果があります。確かに、血液には、各器官に酸素や各種栄養素を運び供給する働きがあります。この働きが、円滑に行われる限り、健康は維持向上されることでしょう。日本では、ウオーキングが1日7000~8000歩の歩行が有効とされています。欲をいえば、1日8千歩程度の運動で、その運動の中に中強度の運動5分程度入れるとより効果があがります。この中強度の運動を5分間以上すると、うつ病の発症率は10分の1以下になるという報告もあります。ちなみに、中程度の運動とは、歩きながら仲間と話がちょっときついかなという程度の運動になります。後歩きなども、この中程度の運動になる可能性があります。効果的な歩き方は、いろいろあるようです。その中で、自分にあったウオーキングを選択し、日々楽しく実践していってほしいものです。