ある専門家に言わせると、文明の発展は人類の好奇心が大きく貢献しているということになります。たとえば、狩猟社会から農業社会へ移行すると安定した現状維持を優先することになります。そこでは、挑戦的姿勢は軽視され、安定した作物の生産が優先されていきます。でも、水害や干ばつなどの危機的状況になった場合、集団に大きな被害を及ぼします。面白いことに、文明や文化を発展させてきた先見性のある組織を見ると、好奇心の旺盛な人を大切にしてきました。急激に自然環境や社会環境が変わる事態に備えて、好奇心のある人材を温存してきたともいえます。
一般的に好奇心は、拡散型好奇心と追求型好奇心があります。たとえば、質問ばかりする幼児がいます。「なぜ質問を繰り返すのだろうか」という疑問にぶつかります。これは、拡散型好奇心の典型的事例です。この対極に、1つの疑問を執拗に追求する追求型好奇心があります。この子どもには、追求型好奇心もありました。この子どもがじっと見つめる、アリの行列には、特徴があります。アリは同じ巣内お互いグルーミングという行為で身づくろいをして、体表物質を塗り合います。アリの体表物質は、不揮発性の化学物質(フェロモン)を利用して敵と味方を区別しています。また、フェロモンは揮発性なので、アリ間距離が短い方がフェロモンの残留が高くなり早く進めるわけです。子どもは、なぜ、敵がいないのか、同じ間隔を保っているのか、なぜ最短距離で餌場から巣に運ぶのかをアリの行列を見ながら考えているのです。
拡散型好奇心におぼれてしまうと、単なる物知りに終わってしまいます。好奇心は、人類の発展を支えてきた要素になります。でも、拡散型好奇心だけを伸ばしていくと、問題点を分析することもできず、解決策も見いだせないままに流れていきます。そこで、追求型好奇心を使いながら。問題点を分析し、一定の解決方法を見出す作業も必要になります。米国の大学で、面白い実験がありました。大学は、真理の探究をする場であるという捉え方が一般的です。その大学で、真理とかけ離れた実験が行われました。俳優に、ユーモアやジェスチャーをたっぷりまじえておもしろおかしく講義してもらいました。真理とは、かけ離れたものでした。でも、学生の評価は、興味深いものでした。俳優の講義に対して、学生の評価が全般的に高かったのです。授業方法だけでなく、授業の内容までもが、すばらしいという評価をする学生が多数いました。この多数の学生から、多くの業績が生まれていったという報告もあるのです。大学における俳優の講義は、多くもなく、少なくもなく、学生の好奇心を引き出すちょうど良いレベルだったようです。知的好奇心を高めるためには、子どもも親も、そして先生も、つねに余裕を持つことが大切のようです。余談ですが、アリの行列をじっと見ている子どもを、お母さんもじっと見ていたのです。「この子は伸びる」と推測することできるようです。
