小学校の温水プールが福音をもたらす アイデア広場 その1436

 小学校の先生に、気の置けない知人がいます。彼女に言わせると、学校のプール水ろ過ポンプも、金食い虫になるのだそうです。知人の知人は、プールの管理者でした。その彼が誤って、夏休みの30日間、プール水ろ過ポンプ稼働させてしまったそうです。普通は、夏休みはプールを使用しないので、ろ過ポンプを停止しておくことになっていました。すると、30日間のろ過ポンプ稼働の電気代が、100万円以上になっていたそうです。このように昔の話を終えた知人は、さらに付け加えました。昨年の12月の学校の電気代が、今までにない高額なものになっていたと嘆いているのです。教育委員会からも、節約の要請が強く出されたということです。知人の話を、笑い話と聞き流していました。でも最近、厳しい状況が生まれていることに気づかされました。

 全国の学校で、教員がプールの水を止め忘れる事案が相次いでいるのです。川崎市のある学校では、2023年に水を出しっ放しにしたミスがありました。川崎市は、この学校の教員と校長に水道代の一部を請求する事案がおきたのです。今年に入っても、6月下旬に大阪市の市立小学校で教員が水を止め忘れた事案が生じました。大阪市教育委員会が流出量や水道代の損害額を調査中で、学校へ賠償の有無を検討しているということです。教員がプールの水を止め忘れで、校長や教員が水道料金を賠償する例もあるということです。これには、驚いてしまいました。文科省は、教員が損害賠償の責めを負う恐れもある中で勤務する状況が望ましくないと考えています。その延長線上で、文部科学省は全国の教育委員会に対し、学校のプール管理について民間委託や公営プールの活用などを検討するよう通知したのです。この通知は、地域活性化の起爆剤になる可能性を持っています。

 日本の子ども達は(児童生徒)学習指導要領において水泳を行うことが決められています。そして、プールの施設は、教育基本法、学校教育法、学校教育法施行規則などで決められています。各自治体にある小中学校には、プールの設置が義務づけられています。この維持費が、予算の少ない自治体には重荷になりつつあるのです。とは言え、水泳の授業は行わなければなりません。水泳の授業は、どの程度の内容になるのでしょうか。学習指導要領によると、1~2年で水遊び、3~4年で水に浮くこと、5~6年でクロールや平泳ぎで25~50m泳げることが目安になります。詳細は、「小学校学習指導要領解説 体育編」を見ていただければ把握できます。ここで、注目していただきたい項目は、「2 内容の取扱い」になります。そこには、「適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれらを取り扱わないことができる」の項目があります。今回の文科省の通知は、この内容の取扱いの項目に関するものになります。そこで、この項目を拡大解釈し、多くの自治体に福音をもたらす仕組みを作りたいと考えてみました。多くの自治体が、赤字で苦労しています。ここでの発想は、この赤字を軽減する仕組みを作ること、さらに住民の健康を高め、介護や医療費の軽減を図るというものになります。

 まず、文科省が通知の中で指摘している指定管理者制度の活用についてです。各自治体では、体育館など公共施設の管理を民間に委ねる指定管理者制度が全国で広がっています。総務省は2015年に指定管理制度の一段の活用などを求める大臣通知を出したのです。この通知は、民間のノウハウを生かすことで住民サービス向上やコスト削減につなげる狙いがありました。多くの自治体は、公募で決めた民間の指定管理者と複数年契約を結んで委託料を払うケースが多いようです。指定管理の導入率は34.8%で、2015年の29.4%から7年連続で高まっています。2022年は、1741市区町村の11万4855の対象施設のうち、3万9914施設で指定管理を採用したことになります。指定管理者制度が、2022年の全国の市区町村の導入率は3分の1まで高まりました。中でも、山形県米沢市は先進的な導入事例になっています。米沢市は民間の参加意欲を引き出す仕組みを通じて全国一の導入率を達成しています。米沢市は、報告対象の58施設のうち57施設で導入しています。この仕組みを公営住宅で、最初に採用した際の入札応募者はゼロでした。そこで再入札を行ったところ、5グループが応札し、地元の東北警備保障による共同企業体に決まりました。この市営住宅の指定管理者は、民間のノウハウを生かして成果を上げています。共同企業体により、家賃の収納率も89%から98%に改善しました。共同企業体は、家賃の支払いや入退去の相談などに土曜日も対応しています。家賃滞納者とも頻繁に交渉しており、2カ月以上の滞納者は3分の1に減ったのです。また一つの団体が、市立の図書館と博物館を受託する方式も取っているようです。米沢市の市長は「民間が努力すれば利益が出る条件を提示する必要がある」とも話しています。利益を出すような仕組みを、自治体も民間も工夫することが求められるようです。

 自治体の施設を民間が活用して、利益を上げている事例が米国のデトロイト市に見られます。アメリカの貧乏都市の代表だったデトロイトが、最近勢いを増してきています。都市公園を市民に無償で管理運営を任せるシステムを取り入れました。任された市民は公園でホットドックを販売する起業家になりました。公園でホットドッグの販売権を得た代償として、公園の管理と清掃を業者が行うわけです。市は清掃に関する人件費が節約でき、ホットドッグ屋さんは販売で利益を得ます。眠っていた公共施設が、利益を生み出すのです。日本には、眠っている公共施設やこれから眠ってしまう公共施設が数多くあります。2002年度から14年間で、全国で約6800の公立学校が廃校になりました。6800の公立学校のうち、900近くが再利用されずに、取り壊されたのです。これからも、子どもの数は、減少していきます。その減少に並行するように小学校の廃校や統合が行われます。もっとも、多くは、福祉施設や体験交流施設、美術館、オフィスなどとして今も活用されています。町が校舎を無償貸与し、トイレなどの改修費を助成し、民間に活用させる事例もあります。公立学校は、地域の中心部に位置して、文化活動を担っていた場所です。使いやすい場所にあり、工夫次第では、付加価値のあるビジネスを立ち上げる立地条件を兼ね備えています。ここに、文科省の通知の威力を活用する下地ができてきます。

 少子化により、確実に統廃合する施設や遊休施設は、工夫次第で、宝の山になる可能性があります。たとえば、30万人の中規模都市には、50校程度の小学校があります。この小学校は、いずれ統廃合されていきます。そこで、廃校が予定されている小学校に、温水プールを建設します。5つの廃校が予定されていれば、5つの温水プールを建設する構想も面白いものです。野外プールの建設費は、約1億円です。室内温水プールの建設費は、1つ10億円程度です。50億円で、5つの室内温水プールができます。この5つのプールを、最初は50校の小学校が共用して、通年使用するわけです。統廃合が進むにつれて、学校は少なくなりますが、5つの温水プールを残った学校が調整しながら共同使用するようにします。野外プールのように、天候によって水泳の授業を中止するというようなこともなくなります。東京などの中央区などでは、『学校温水プール』を一般開放をしています。区民の大人は350円、区以外の大人は500円です。区民の65歳以上の高齢者は無料になっています。これをさらに発展させて、室内温水プールを民間企業に運営を移管する発想も出てきます。プールの運営は、民間の企業に委託する運営方法を取るわけです。この自治体は、5つの室内温水プールの建設費50億円だけの支出になります。あとは市の予算を使わない仕組みで運営をすることにします。プールの運営は、民間の企業に委託する運営方法を取ります。民間のスイミングスクールは、自前で室内温水プールを作り運営しています。その中で、利益を出しているわけです。自前の資金を使わずに温水プールの運営ができれば、利益は以前より多くなるはずです。

 最後は、指定管理者制度を導入した室内温水プールの活用方法になります。学習指導要領による、1~2年で水遊び、3~4年で水に浮くこと、5~6年でクロールや平泳ぎで25~50m泳げることになる程度の内容ならば、経験の豊富な民間のスイミングスクールに委託することが合理的です。自治体が温水プールを作り、その運営を民間のスイミングスクールに委託し、水泳の指導をしてもらうことも、文科省の通知を広く捉えれば、このような指定管理者制度の導入も視野に入ります。子ども達が使わない時間帯が、稼ぐ本番になります。ここで、利益を上げる仕組みをつくることになります。週2~3回泳いでいる人達は、医療費が年間3~4万円少ないというデータがあります。さらに、水泳には限らないのですが、週5~6回運動している人達は、肥満が少なくなります。小学校の体育館は、放課後は子ども達に使われていません。室内温水プールや体育館を有効に使いながら、健康増進を狙うわけです。そのためには、途切れなく利用者を呼び込む工夫をすることになります。良いサービスは、スムーズに人々を呼び込むことになります。サービスには、食べても飲んでも良いスペースが不可欠です。統廃合から生まれた温水プールは、小学校の電力消費を節約し、水泳のスキルを高め、先生方の負担を軽減し、自治体の予算を節約することに貢献します。さらに、一般の人々が多く利用するようになれば、健康寿命の獲得に貢献することになります。さらに、プールの運営が上手くいけば、企業が利益を上げることに繋がり、自治体には税が入ることになります。小学校の温水プールは、「三方良し」、「四方良し」の状況が生まれるかもしれません。

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