少子化の流れを止めて、子どもを増やす仕組み  アイデア広場 その1499

 日本人の出生数が、この5年で2割以上も減り、2023年は過去最少の72万7千人になりました。この傾向は、さらに危機的になりつつあります。2024年の出生数が、前年比5.8%減の68.5万人になる見通しになりました。少子化に危機感を持つ人たちは、その原因をいろいろ考えてきました。その一つに、出生率の低下はこれまで、晩婚化や結婚しない人の増加が主な原因という説があります。1990年代からは、結婚後の出生ペースの低下もみられるようになりました。その中で特徴的な事は、結婚しているカップルの子どもの数も減っていることです。晩婚化や結婚しないことに、少子化の原因があると言う説に疑問符が付くようになりました。最近は、若者が結婚や子育てをためらう大きな理由は、経済的な不安定さにあるという説が有力です。政治も、このことに真剣に向き合うようになっています。今回の選挙でも、少子化対策は、すべての政党が選挙公約として前面に出しています。たとえば、自民党は2023年に決めたプランに沿って、児童手当拡充や男性の育休取得率引き上げを掲げました。児童手当拡充の実現には、年間3.6兆円が必要になります。また、家庭との両立を難しくする長時間労働を見直す施策としては、働き方改革があります。女性に偏る家事や育児負担の軽減などをはかることは、これから徐々に解決に向かうことを願っています。また、教育の無償化の問題は、教育の質や国際競争力の向上などとセットで考えることになります。少子化の要因は多岐にわたります。そこで、今回は、少子化の問題を考えてみました。

 2020年の合計出生率はフランス1.79、日本1.33で差は0.46になります。フランスは、子育て支援先進国として注目されるスウェーデンを上回りヨーロッパでトップになります。フランスの女性の労働力率は、2022年時点で過去最高の68.1%に達しています。日本は、2023年の女性の労働力率が45.1%になります。ちなみに、労働力率は15歳以上の人口に占める労働力人口の割合です。フランスの女性は、日本の女性より就業率が高いという結果がでました。働きながら、子育てができる環境がフランスにあるのです。あるフランス在住の日本人が、フランスの女性を観察したそうです。100人のフランス女性がいたら、子どもがいない人が10人で、子ども1人が20人になったそうです。さらに、子どもが2人は40人で、3人が20人になり、4人以上は10人になったそうです。

 フランスと比較されるドイツの場合、子どもがいない女性の割合が高いのです。ドイツでは、子どもを1人産んでも、2人目をつくるのはためらいます。この国では、母親がそばにいなければ子どもに良くないと言われます。ドイツでは、仕事を辞めたくない女性は子どもをつくらないようです。ドイツは、育児の責任が大きすぎるからです。また、スウェーデンでは乳児期の母子関係を重視して、1歳までは家庭で育てて、母乳もあげる傾向があります。フランスでは、産後数カ月で仕事に戻り、母乳をあげる期間も短いのです。フランスの子育ても仕事もという特徴は、いくつかの制度の支援があって成り立っているようです。フランスでもかつては、女性は子育てで仕事を辞め、労働力率はM字型のカーブを描いていました。ところが、1980年代には、労働力率のM字型のカーブくぼみがなくなったのです。現在は、M字型のカーブくぼみがなくなり、今ではゆるやかな台形になっています。女性は子どもを産んでも仕事を続けるのが、フランの大きな特徴になります。この特徴を支えているのが、各種の休暇制度です。たとえば、NGO働く女性の場合は、法定の年5週の有給があります。さらに、このNGOでは法定の有給があるに加えて、労使協定により年20日以上の時短代休があります。自分の能力を生かすため、社会に貢献するために仕事に強いこだわりを持っています。子どもの成長と自分のキャリアに応じて、両方を天秤にかけて、休暇を上手に使っているのです。「仕事も、子育ても」の両立は、環境がそろえば不可能ではないことをフランスの女性は示しています。

 「仕事も、子育ても」を両立させているフランスの女性は、どのような工夫をしているのでしょうか。4人の子どもを持つ女性は、出産後、週4日勤務を希望しました。つまり、土曜日と日曜日の週休2日に加え、もう1日休む制度を利用したのです。月曜日は、休みの日になります。フランスでは、幼稚園や小学校の送り迎えを親がすることが普通です。子どもを送った後、月曜日はこれから1週間にそなえてゆったり準備する時間になります。土曜日曜日に買い物をすると、子どもと過ごす時間が足らなくなるからです。4時半に上の2人を小学校に、下の双子を幼稚園に迎えに行いきます。フランスで多い幼稚園と小学校の併設タイプで、お迎えを4人一緒にできるのです。実家が近ければ、週1~2回1は祖父母たちの出番になります。火曜日のお迎えは、近くに住む両方のおばあちゃんたちの出番になります。フランスでは、水曜日は学校が休みです。学校がない水曜日にはなるべく、有給休暇や時短代休など様々の手を使って時間を確保します。学校がない水曜日には、なるべく、子どもと過ごせる時間にするようです。木曜日、この日は、週で唯一シッターが子どもたちを迎えに行くことになります。金曜日は再び、おばあちゃんたちの出番になります。彼女が帰宅するまで、おばあちゃんが家で子どもをみていてくれるのです。彼女が帰宅するのは午後7時ごろになりますが、家で子ども達をみていてくれます。7時に帰宅してから子どもの夕飯、お風呂、宿題の世話など、家事と育児などに取り掛かります。週2回は、家政婦を頼んで掃除をしてもらい、家事の負担を減らしてなんとかこなすという生活です。

 今まで日本では、政治家も行政も力を入れていたことに、待機児童の問題がありました。これは、働く女性の負担を軽減する意味も含まれていました。保育所は、女性に安心して働いてもらう支援の役割を果たしていました。保育行政が、日本の人手不足を解消する役割も担っていたわけです。政治や行政の努力もあり、現在はほぼ待機児童はゼロの状態になっています。でも、女性への負担は、減っていません。そして、次に出てきたことが、保育園の質や教育の質の問題です。先進国の流れを見ると、教育の「質」を高める投資に重点が置かれるようになっています。先進国の教育においては、将来に向けた人材育成が、この急激な進歩に負けないように構築されつつあります。AIの登場は、現在の仕事の65%なくなることを予想します。その代わりの仕事が、知的で高度な労働に代わることになるようです。21世紀型の学校は、それに備えています。この21世紀型の学校は、①グローバル市民の形成を目的とし、②平等公正な教育を掲げ、学びのイノベーションを推進し、③探究と協同の学びで学習者中心の授業を推進し、④教師は教える専門家から学びの専門家へと移行し、⑤教職専門性の開発を学校経営の中心に位置づけるなどをして、変化に備えています。日本における人手不足や教育の質の問題は、その改善と解決が求められています。その根源に、少子化の問題解決もあります。

 余談になりますが、地方公務員の離職が東北地方でも深刻な問題となっています。山形県では採用5年目までの小中高教員の退職者数が、2021年度は30人になりました。このうち精神疾患などによる退職者は、2018年度が2人、2021年度は7人になったのです。このような状況を改善するために、山形県は中学や高校では普及している教科担任兼学級副担任を小学校にも導入しました。その一つに、新人教員は教科担任と学級副担任を兼務しながら、先輩教員から学級経営などを学ぶ仕組みも取り入れました。新人教員は、先輩教員の授業見学や教材の研究、副担任としての事務作業などに充てることができるようになりました。また、新人教員は学級担任になる場合も、「新採教員支援員」を配置する仕組みも取り入れました。支援員は、週5~8コマ程度の授業を代わりに受け持ちます。この取り組みで、新人教員は平均で週6時間程度の空き、時間を確保できるようになりました。山形県は、2023年度、106人の小学校の新卒採用教員を採用しました。106人のうち精神疾患による特別休暇の取得や退職はゼロだったのです。新人に寄り添い、職員の声を拾うなど職場環境の改善が、東北で徐々に効果をみせている事例になります。この取り組みの延長線上に、結婚をして、子どもを持って、フランスの様に「子育ても、仕事も」両立できる環境を実現してほしいものです。もしできれば、少子化の流れを止めて、子どもの増える社会になるかもしれません。

 最後になりますが、生活に余裕がなければ、子どもを多く育てるのは難しいという当たり前のことが分かります。所得の問題だけではなく、生活時間に余裕がなければ子どもを多く育てるのは難しいわけです。OECDのデータベースで、①有償労働②無償労働③個人のケア④余暇の比較があります。日本人は、子どものケアや余暇などに充てる時間が主要7カ国で最も少ない結果になっています。ちなみに、有償労働は、仕事や学校、通勤通学になり、無償労働は、家事や子どものケアになります。さらに、個人のケアは睡眠や食事、そして休息に、余暇は遊びやスポーツに費やすことになります。人々は、1年間の総時間が、24時間×365日の計算で8760時間を平等に持っています。その中で、労働時間が8時間、生理的時間が8時間、余暇が8時間という3区分があります。その区分法によると、1年間で働く労働時間は、週休2日で2080時間になります。フランスには、ここに5週間の有給休暇(40時間)、20日以上の時短代休、そして年間2920時間の余暇時間が生まれます。この時間を考え、そして工夫して使っている女性が、フランスにはいるわけです。日本も、休暇制度が整い、子どもが安心して成長できる環境が整い、女性自身がそのキャリアを高めることのできる仕組みを整えていきたいものです。

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