就活から無事入社し、パフォーマンスを高める仕組み  アイデア広場 その1551

 よくテレビでは、会社説明会や会社を訪問する学生に、採用担当者の方が、会社の説明をしている姿が映し出されています。年収1千万円とか、週休3日などのキャッチフレーズも目につくようになりました。賢い学生さんは、このキャッチフレーズを心配しながら聞いているようです。売り手市場の就活でも、企業は有能な学生(人材)採用したいと考えています。そこで、有能な人材について考えてみました。有能な人材を排出する教育環境は、ある程度把握されています。一つは読書環境です。二つ目は、ピグマリオン効果から想定される教師の支援になります。三つ目は、非認知能力の育成ということになります。この3つの教育環境で育った有能な学生(人材)は、会社説明会に行くときに、いくつかの工夫をしていきます。会社訪問をする前に、会社の下調べをしています。その下調べを、採用担当者に見てもらいます。その上で、御社でやりたいこと、具体的に希望していきます。もちろん、新人が希望をすぐにできることは少ないものです。でも、そこで少し踏み込んで、希望の仕事が出来るようになるには、どのような知識とスキルが求められるのか、そのスキルを身に付けるにはどうするのかなどの質問をすることになります。採用担当者の方は、これに丁寧に応えることになります。希望した会社に入った有能な新人が、どのように企業の知識やスキルを身に付ければ良いのかを考えてみました。

 高い学力を持つ子は、例外なく小さい頃からたくさんの本を読んでいます。全アメリカの上位高校の多くは、能力の高いユダヤ系の子が占めています。彼らは、子どものころから読書を楽しんでいます。日本においても、麻布、開成、武蔵など有名私立校は、入試問題で読書する子かどうかでふるいにかけています。子どもの頭脳を順調に発達させるには、幼い頃から本に親しませたほうが良いことを世界の知性は理解しているようです。親から読書量の貯金をたっぷりもらった子は、底力が格段に違います。それを知っている進学校は、同じ学力であれば、読書をする子どもを合格にするわけです。能力のあると思われる子どもを、さらに伸ばすにはどうすれば良いのでしょうか。

 教育の世界には、ピグマリオン効果という知見があります。ある権威者から、「この子は伸びますよ」とある教師に告げたのです。この教師が、その言葉を信じて、子どもを見ているとその子供は実際に伸びたのです。実は、ピグマリオン効果は、教師の期待が子どもの成績を直接伸ばすものではありません。子どもの成長を「期待」する教師の応答が、子どもを伸ばす重要な要素になります。教師が子どもの成長を信じ、期待することは、教師と子どもとのやりとりの量と質を変えるのです。つまり、教師の質の高い応答が、子どもの能力を伸ばすことになります。このような教育環境で育つことが、良い人材の一歩になります。

 そして、3番目が非認知能力の育成になります。ペリー就学前プロジェクトは、1962年から1967年の間、アメリカのミシガン州で行われました。この地域に住む低所得者層家庭の3〜4歳児が、教育の対象になりました。このプロジェクトは、非認知能力の教育に力を入れたものでした。この能力は、一般的な知能指数や受験学力とは異なる 意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーションなどの測定しにくいものになります。ペリーの就学前教育は、30週間続けられ、その後、当時の子どもが50歳になるまで追跡調査が行われているのです。その結果が、驚くべきものだったのです。この非認知能力を対象にした教育を受けた子ども達は、持ち家率が高く、学歴が高く、収入が多いという成果を作り出したのです。貧しい家庭に生まれながらも、老後は良い生活を送れる状況になっているわけです。

 企業は、困難に対して粘り強く取り組み続けることができるといった人材を売り手市場の中でも探しています。企業は、シビアに人材を見極めていきます。自発的で勤労意欲が高く、コミュニケーション能力が高く、チームで働くことができる人材を見極めていきます。問題の共有、問題を分解、仮説で挑戦、失敗をして、次に活かす人材の姿勢などを見極めながら、採用になります。一方、運よく入社した有能新人は、会社を客観的に把握することになります。その把握の一つは、バリューチェーン分析などになります。自社の強みや弱みを把握するのがバリューチェーン分析と呼ばれる仕方になります。売り上げの増加があれば、その把握をします。たとえば、売り上げの増加を国内既存、国外既存、国内新規、国外新規に分けて考えることができます。売り上げの場合、ここ数ケ月から5年の間でどのように推移したのか、などのデータを点ではなく推移で考えることも必要です。8月の売り上げの場合、同じ時期の売り上げをこの5年間の比較するとどうかなどのデータは点ではなく推移で考えるというわけです。見る視点を「結果」よりも「過程」に絞ることになります。問題設定と解決能力、利点と欠点を分析し、時間とコストなどリスクを管理することも必要です。自社の生産やサービスの「流れ」を分解して、強みや弱みを把握できるようにすることが第一になるかもしれません。ここまで会社の実情を理解すると、年間1千万円とか週休3日などの幻想が消えていくかもしれません。

  有能な人材は、幻想よりも達成感を重視します。彼が掲げる目標は、行動を方向づけ、努力を増加させ、行動を継続させることに繋がる場合が多いのです。より重要な目標に、時間やエネルギーを割くことを考えていきます。目標は、モチベーションにつながり、結果として、高いパフォーマンスに繋がっていきます。優れたパフォーマンスは、目標をクリア(達成)することで、さらなる目標を設定することの繰り返しになります。この繰り返しで、有能な人材が、さらに有能になっていく過程をたどればハッピーです。目標設定に失敗し、挫折感を味わえばモチベーションを高められず、パフォーマンスを低下させることになります。結果として、仕事に対するモチベーションが低下し、仕事のパフォーマンスがさらに低下することになります。蛇足ですが、いったん向上していたパフォーマンスが低下すると、そこからの回復がなかなか困難になります。いわゆるスランプの脱出は、なかなか難しいのです。新人の5月病とか、3年年以内にやめる新人が高校卒で4割、大卒で3割という数字が出てきます。もっとも有能な新人は、目標の設定の調整し、問題が生じた時の対処について考えています。いわゆる目標マップを作成し、問題が生じた時の対処法を明示しておくようです。

 有能な社員は、解決された前例のない問題に対して「挑戦」しなくてはなりません。正解がない中で前進していく状況では、実験(試行錯誤)と結果の確認は必要になります。前例のない問題に対して「挑戦」する場合、必ず失敗という逆境がついてまわります。どんな仕事においても、「リスク」がなくなることはありません。「いかにリスクをなくすか」ではなく、「リスクを正しく分析し、工夫しながら乗り越える」ことになります。克服の仕方は、知恵も必要です。なるべくリスクの低い実験で試し、失敗を最大限次に活かすという技術が重要になります。素早く実験して、結果を正確に比較する技術が必要になります。情報収集については、「どれだけよい情報を集めるか」ということに目を奪われがちです。でも、情報収集について時間がどれくらいかかっているのかを考えるか必要があります。時間は、無限にあるわけではありません。

 最後は、ルーティンの重要性についてのお話しになります。心理学では、あらゆる活動において意識と無意識の2つのシステムの働きが想定されています。意識的な注意を払って課題に取り組めば、より精繊な情報処理が可能になります。困ったことは、意識が無意識に比べ負荷が大きいため、意志の力を発揮させるのに必要な資源が枯渇しやすくなることです。一方、無意識は自動化されているため、意識に比べて負荷が少なく、高い効率性を備えています。無意識は自動化されているため、仕事が着実なだけでなく、努力もあまり必要としません。この事例を分かりやすくした、ヒントが上位のゴルフ大会になります。ゴルフのツアーにおける賞金とパットの成功率の高さを調べた調査があります。得られる賞金が大きくなるほど、パットの成功率が低くなることがわかっています。意識の資源が「賞金」に割かれ、本来の課題遂行に対して意識的に制御することができなくなる事例になります。意識は無意識に比べ負荷が大きいため、このような緊張状態においてパフォーマンスが低下するわけです。ここで大事なことは、練習で自動化された行為を、本番では無意識に実行することです。意識の柔軟性と無意識の効率性を協働させることができれば、パフォーマンスは向上します。無意識に実行するための有効なやり方としては、「ルーティン」があります。新人も、この意識と無意識、そしてルーティンの呼吸を飲み込んで、仕事の達成感を享受してほしいものです。蛇足ですが、ルーティンの具体例は、イチロー選手や大谷選手が打席に入るときに見せるパフォーマンスになります。

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