自治体が、体育館など公共施設の管理を民間に委ねる指定管理者制度が全国で広がっています。私の知っている事例では、感心した図書館があります。それは、山形県の酒田市立中央図館の素晴らしいサービスでした。駅前の立派な図書館に入ると、利用についての説明の掲示がありました。そこには、「借りたい本をゆっくり選びたい時に、託児経験の豊かな保育者がお子さんをお預かりします」と書いてあったのです。これには、びっくりするやら感心するやら、図書館もここまで進んだのかという感想を持ちました。指定管理者制度と類以した仕組みに、民間の資金やノウハウを生かして公共施設を整備運営するPFI(Private Finance Initiative)があります。指定管理者制度が対象とするのは施設の運営のみになります。PFIは、施設の整備や運営のための資金調達、建設、運営までが対象となる点に違いがあります。国は、行政サービスの効率化や質向上に向けて2003年に地方自治法を改正しました。さらに、総務省は2015年に指定管理制度の一段の活用などを求める大臣通知を出したのです。この通知は、民間のノウハウを生かすことで住民サービス向上やコスト削減につなげる狙いがありました。多くの自治体は、公募で決めた民間の指定管理者と複数年契約を結んで委託料を払うケースが多いようです。指定管理の導入率は34.8%で、2015年の29.4%から7年連続で高まっています。2022年は、1741市区町村の11万4855の対象施設のうち、3万9914施設で指定管理を採用したことになります。
余談ですが、指定管理者制度とPFIは制度の対象が異なるわけですが、2007年に日本でも、PFIの官民共同刑務所が開設されることになりました。PFI刑務所は、従来の刑務所より低いコストで運営ができるようにしてあります。一つの刑務所を国が建設し、20年間運営すると565億円かかるのです。それを民間が行うと、517億円で運営が可能になるというわけです。受刑者の監視は、民間人の職員によって行われ、刑務官は異常のあるときのみ出動する形式になります。PFI刑務所は、社会の要請に合う職業訓練と就労支援を目指して運営されています。
指定管理者制度が、2022年の全国の市区町村の導入率は3分の1まで高まりました。でも、順調に右肩上がりに、増えてきたとは言えないようです。引き受ける民間企業側からは、受託メリットが相対的に小さいうえ、経費などが厳格に定めてあり、運営がスムーズにいかないなどの障害もあったようです。さらに、全国的に光熱費や人件費などのコスト上昇が指定管理を担う民間の採算を圧迫する要因もありました。そこで、自治体側も、人件費や運営費など費目ごとに、厳格に定めていた経費の計算方法を変更しました。経費の計算方法を変更し、民間の知恵を生かしやすくしたわけです。運営の条件緩和などで自由度を高め、常にカイゼンを続ける民間の力を生かす方向になりました。施設の種類ごとに導入率をみると、民間が安定した収益を確保しやすい宿泊休養施設が85%と最も高くなっています。次に、展示場施設が68%と続いています。サービスを無料や低価格で提供する必要がある図書館は、21%と低くなっています。また、公営住宅の管理なども、22%と低くなっています。
税金の少ない自治体は予算が少なくなり、各種の文化施設の経費が削られていきます。多く図書館の経費も削減されています。図書館などの施設の運営も、縮小されていく自治体の実情もあります。予算の縮小や節約だけでは、不満ということで、稼ぐ仕組みを作る市町村もあります。土浦市では2017年に、図書館を中心部の再開発ビルに移転しました。この再開発ビルは、商業施設の恵まれた場所にありました。この好立地の3階にある図書館には、開館後1カ月で約2万6千人が訪れたのです。この地域の歩行者は、移転前と比べ平日休日ともに1日あたり千人以上増えました。人々が多数集まり、その移動の導線が伸びれば、商業地域の売り上げが増加することは経験則から分かっています。図書館の移転だけで、このような経済効果を漏らすことが実証されています。また、別の事例もあります。千葉県富津市では、4月に、初の市立図書館がオープンしました。富津市は、空きスペースの活用を模索していた商業施設側から打診を受けていました。この空きスペースを図書館にすることにより、市が独自に建設するより10億円ほど節約できたそうです。2023年4月に開館した富津市立図書館には、初日から多くの人が訪れました。特に、乳幼児に関する図書はもちろん、子ども達が学べるスペースも用意したために、保護者の方からも好評を受けているようです。富津市は、図書館を人と人が出会う地域の拠点にしたいと考えているようです。近年、多様な住民が集まる図書館の特性を生かし、地域活性化の拠点にしようとする自治体が増えています。
山形県米沢市は民間の参加意欲を引き出す仕組みを通じて全国一の導入率を達成しています。米沢市は、報告対象の58施設のうち57施設で導入しています。この仕組みを公営住宅で、最初に採用した際の入札応募者はゼロでした。そこで再入札を行ったところ、5グループが応札し、地元の東北警備保障による共同企業体(JV)に決まりました。この市営住宅の指定管理者は、民間のノウハウを生かして成果を上げています。共同企業体により、家賃の収納率も89%から98%に改善しました。共同企業体は、家賃の支払いや入退去の相談などに土曜日も対応しています。家賃滞納者とも頻繁に交渉しており、2カ月以上の滞納者は3分の1に減ったのです。また一つの団体が、市立の図書館と博物館を受託する方式も取っているようです。米沢市の市長は「民間が努力すれば利益が出る条件を提示する必要がある」とも話しています。利益を出すような仕組みを、自治体も民間も工夫することが求められるようです。また、導入率3位の神奈川県大和市は、複数の施設を1つのグループにまとめて入札をかける方式を取っています。図書館や文化ホールと生涯学習センターの施設を1のグループとし入札するのです。この入札において、大和市はコスト削減に偏らないよう指定管理者に要請しています。市は、市民サービスの向上度を利用者数などで毎年モニタリングを続けています。両施設の資料や文化財を一体的に検索できるデータベースを整備し、展示や研究にも立てる工夫を凝らしています。
もっとも、民間にできることは民間だけでなく、自治体が行っているケースもあります。その有名な村に、長野県下條村があります。下條村は、プールの総事業費1億4千万円でしたが、わずか42万円の負担でプールを作ったのです。政府の補正予算は、年末に急きょ決まることがあります。年度末ギリギリに急に提示されても、即座に対応できる自治体はあまり多くないのです。仕事の早い下條村職員は、この交付税の書類への対応が容易にできました。国からの補助金は、「地域の元気臨時交付金」などで1億円が交付されました。残りの4000万円は、本予算で国が交付税で補填する条件になったわけです。結果として、村の持ち出したお金が42万円のみだったのです。下條村は、何が何でも補助金をもらうというわけではありません。国の交付金を使った公営住宅の建設などは拒否しています。補助金を使った公営住宅は、入居を希望する住民を平等に入居させる規則の縛りがあります。村が望むのは、子どもを持った若い家族です。村の活性化には、若い住民の存在が不可欠です。この村は、自前の資金で、公営住宅を建設しました。そして、保育園を完備し、小学校も充実させたのです。さらに、医療費などの支援も加えました。一般住宅の半分の値段で入れる住宅を作り、転居して欲しい人に合った条件を整えたのです。村に周辺の市町村から、若い家族が転居してきたわけです。自主財源を確保し、その財源を住民に還元する手法は、これからのモデルになります。
最後になりますが、神奈川県相模原市の財政危機は、2021~2027年度に累計816億円の歳出超過と試算されています。相模原市は、行財政構造改革プラン(2021~27年度)の第2期案をこのほど公表しています。改革プラン策定前の2019年度では、経常収支比率が99.8%になっていました。この経常収支は、地方税などの経常一般財源のうち人件費などの経常経費に充当されるものです。経常収支比率は、100%に近いほど独自政策や臨時的な支出に回せる余力がないことを示しています。相模原市では2019年度以前において、新しい施策に使えるお金がほとんどなく財政が硬直化していたわけです。でも、改革プランを実行する中で、財政調整基金は2022年度末で208億円と急回復し、経常収支比率も96.9%まで改善したのです。この財政調整基金は、借金の反対の貯金にあたるものです。相模原市の財政調整基金の残高は、2019年度末で68億円とピーク時のほぼ半分に減っていました。68億円が、208億円に急回復したということになります。
相模原市は、2020年度当初予算で新規事業を原則「凍結」しました。2021年度もほとんど新規事業を実施しない緊縮型の予算編成をおこなったのです。財政危機を前に、徹底した歳出の見直しを進めてきたわけです。もっとも、歳出の削減だけでは、市民へのサービスは低下します。限られた財政の中で、民間の力を利用しつつ街の魅力を高める施策を打ち出すことも行いました。歳出を見直す一方で、将来の人口増と税源確保として街づくり事業に力を入れています。相模原市は、市民の意見公募を経て、2024年3月の新しいプランの策定を目指しています。その一つに、民間の活力を用いる方法があるようです。さらに、相談支援窓口の拡充や福祉人材の確保を実施し、給付型から支援環境整備に重点を移す構想もあります。行政の支出を抑え、民間や市民の力を利用する仕組みを構築しているようです。人口が減り、高齢化が進めば、自治体の税収は減少します。減少する中で、住民の住みやすい地域を作り出す工夫が、これからは日本中で求められるようです。