今回の衆議院選挙で、国民が理解したことがあります。長期間、自民党が政権を担っている間に、税の仕組みが複雑になり、分かりにくい制度になっていたことでした。この点の改善に気が付いたことが、今回の選挙の成果と言っても良いかもしれません。たとえば、奥さんの年収が103万円を超えると、納税者である夫などの配偶者控除がなくなり、一気に税負担が増える仕組みになっていました。いわゆる年収が増えたのに、世帯の手取りが減るという「壁」があったのです。1987年に、この壁である「配偶者特別控除」という制度が導入されました。さらに、「106万円の壁」というものも続いて話題になりました。これは、1985年に基礎年金の改正で導入されたものです。基礎年金の改正は、本格的な高齢社会の到来に備え、公的年金制度を長期にわたり健全で安定的に運営していくためのものです。具体的には、「106万円の壁」とは、パートやアルバイトなどの従業員が、週20時間以上勤務している場合に生じる壁になります。この壁は、年収が106万円を超えると、厚生年金保険や健康保険に加入する必要があることを指します。このため、パートの方が社会保険料を負担する必要が出てきて、手取りが減ってしまうという壁になります。このようなことを、一般の国民の方は余り考えずにパートやバイトをしていました。もしくは、このような制度があるから、奥さんは103万円以上の働きをしないという流れができたともいえます。このことが、ある面で人手不足に陥っている日本の労働市場において、働きたくとも働くことができない人がいるという理不尽さを生み出しています。日本の一人当たりGDPが先進国で最低という数字になって現れています。今回は、働きたい方が働ける環境整備し、労働の質を高め、一人当たりGDPを高める仕組みを考えてみました。
日本の年金制度について、少しお話を深めます。日本には、戦後の高度成長を支える独特の仕組みがありました。それは、夫が会社で一生懸命働き多くの収入を得る一方で、奥さんは家を守り、子育てを立派に行い、老後の祖父母を介護する仕事を受け持つ仕事分担でした。日本企業は正規社員の夫に精一杯働いてもらうために、家のことは奥さんに丸投げする仕組みを推し進めていきました。このような夫が働き、妻が家を守る仕組みは、1985年の国民年金法改正の前には、日本の家庭では当たり前の状況だったのです。この仕組みで、日本の高度成長が実現していました。このような成功を見て、政府は奥さんの年金を、任意加入の国民年金から、強制加入で無償支給の国民年金へと切り替えました。それが、「106万円の壁」ということになります。正社員の夫に扶養されている奥さんが、一定以上の給与を得ると扶養から外れる制度になったわけです。一定以上の給与を得ると、扶養から外れるわけです。それは、奥さんが年金などの保険料を負担する義務を負うことを意味するわけです。無償の国民年金という特権が、貴重な奥さんという女性労働者の就業抑制を生む要因となっているわけです。無償の国民年金の不公平な制度が、人手不足の常態化する現在では非効率な制度になってしまいました。以前は良い制度だったが、現在は貴重な労働力の損失をもたらし、男女の経済力格差をもたらす悪い制度になってしまったともいえます。世界の労働環境は、男女が共に働くことが普通になっています。このままでは、世界に後れを取る一方になります。日本も、夫婦が個々に社会保険を持つ制度への移行が求められる時代になりつつあります。
日本の女性は、労働力率がM字型のカーブを描いています。働き始めるときには、高い生産性を示すのですが、結婚や子育て、そして親の介護などの事情により、職を離れるケースがでてきます。すると、生産性が落ちてきます。そして、家の事情が落ち着いて、30代後半から40代にかけて働き始めて、再度生産性が上がるというM字型のカーブを描く働き方になっていたのです。このM字型のカーブが、女性のキャリアアップに大きな不利益をもたらしていることが明らかになってきました。日本の労働環境の中では、働きたい女性がいくつかの壁に直面します。結婚や子育てが、その壁になります。この壁を乗り越えた国の一つに、フランスがあります。フランスでもかつては、女性は子育てのために仕事を辞め、労働力率はM字型のカーブを描いていました。ところが、1980年代には、労働力率のM字型のカーブくぼみがなくなったのです。現在は、M字型のカーブくぼみがなくなり、今ではゆるやかな台形になっています。女性は子どもを産んでも仕事を続けるのが、フランの大きな特徴になります。この特徴を支えているのが、各種の休暇制度です。たとえば、あるNGO働く女性の場合は、法定の年5週の有給があります。さらに、このNGOでは法定の有給に加えて、労使協定により年20日以上の時短代休があります。自分の能力を生かすため、社会に貢献するために仕事に強いこだわりを持っています。子どもの成長と自分のキャリアに応じて、両方を天秤にかけて、休暇を上手に使っているのです。「仕事も、子育ても」の両立は、環境がそろえば不可能ではないことをフランスの女性は示しています。
「仕事も、子育ても」を両立させているフランスの女性は、どのような工夫をしているのでしょうか。4人の子どもを持つ女性は、出産後、週4日勤務を希望しました。つまり、土曜日と日曜日の週休2日に加え、もう1日休む制度を利用したのです。月曜日は、休みの日になります。フランスでは、幼稚園や小学校の送り迎えを親がすることが普通です。子どもを送った後、月曜日はこれから1週間にそなえてゆったり準備する時間になります。土曜日曜日に買い物をすると、子どもと過ごす時間が足らなくなるからです。4時半に上の2人を小学校に、下の双子を幼稚園に迎えに行いきます。フランスで多い幼稚園と小学校の併設タイプで、お迎えを4人一緒にできるのです。実家が近ければ、週1~2回は祖父母たちの出番になります。火曜日のお迎えは、近くに住む両方のおばあちゃんたちの出番になります。フランスでは、水曜日は学校が休みです。学校がない水曜日にはなるべく、有給休暇や時短代休など様々の手を使って時間を確保します。学校がない水曜日には、なるべく、子どもと過ごせる時間にするようです。木曜日、この日は、週で唯一シッターが子どもたちを迎えに行くことになります。金曜日は再び、おばあちゃんたちの出番になります。彼女が帰宅するまで、おばあちゃんが家で子どもをみていてくれるのです。彼女が帰宅するのは午後7時ごろになりますが、家で子ども達をみていてくれます。7時に帰宅してから子どもの夕飯、お風呂、宿題の世話など、家事と育児などに取り掛かります。週2回は、家政婦を頼んで掃除をしてもらい、家事の負担を減らしてなんとかこなすという生活です。
世界の企業では、女性の能力を生かそうする流れがでてきています。グーグルは、社員に無償で炊事や洗濯代行のサービスをオフィスで提供しました。グーグルは、最大の価値を発揮する資源は、優秀な社員だと見極めています。優秀な社員の時間は、無駄にしてはいけないという哲学があるようです。日本は長らく、男性優位の職場環境を形成してきました。でも、最近は女性の購買力も急速に向上してきています。女性のことは、女性がよく分かります。女性の提案から男性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造、そして販売という流れが多いようです。これを、女性の提案から女性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造・販売という流れを構築した方が合理的です。日本の企業にも、女性の能力を評価する企業も現れ始めました。積水ハウスが2023年、「幸せ度」調査を、慶応義塾大学大学の前野隆司教授の監修で実施されました。この調査が、これからの日本企業に一つのヒント与えています。この「幸せ度」調査では、女性管理職のスコアが、男性の管理職、男性のー般社員、そして一般の女性社員を上回っていたのです。女性管理職が、職場で最も「幸せ度」が高いという結果になりました。もちろん、幸せの中には、仕事の成就度の高さも含まれているようです。女性が高い能力を発揮する場が、管理職のレベルで発揮されるケースも増えているのです。この流れをより大きな流れにしていきたいものです。
最後になりますが、無償の国民年金は、不公平な制度であることが理解されました。国は、これと似たような仕組みを、高齢者の在職老齢年金についても導入を試みています。高齢化社会では、元気な高齢者も働き、働けない高齢者を助けることが基本となることを誰もが支持します。でも、そこに年金制度と所得の再分配の仕組みを、ごちゃまぜにする仕組みを導入しようとしています。それは、在職老齢年金の制度になります。在職老齢年金の制度の目的は、生活保護などの福祉の考え方になります。この考えは、豊かな受給者から貧しい受給者への所得移転という目的になります。でも、所得の再分配は、所得税が役割を担うことが一般的です。公的年金は、税とは異なり、保険料と給付が比例する保険として人々に理解されています。貧しい方への所得移転は、所得税から行われるべきです。でも、年金の制度は、働いた方が長年にわたって納入したお金を老後に受け取る仕組みです。それなのに、在職老齢年金の制度は、厚生年金を受給中に就業し、賃金との合計額が月50万円を超すと年金が減額され仕組みです。これは、「働くと損をする」制度になってしまいます。働かないで、年金をもらうほうが良いという状況が生まれることを意味します。今回の103万円の壁や106万円の壁の問題提起は、日本の税の制度だけでなく、生産性の向上や働くこと幸福などの領域にまで派生することになったようです。