睡眠への関心が、高まっています。それに伴い深刻な悩みも、出てきています。それは、新しく小学1年生に入学する子ども達に見られる困った現象になります。9時間30分を下回る短時間睡眠の子どもには、注意集中ができない行動特徴があるというのです。これらの子どもは、じっとしていられなくて歩き回るという行動特徴がみられます。短時間睡眠の子は、授業が10~20分たったころから、集中力を失ってキョロキョロイライラしてきます。短時間睡眠で幼児期を過ごした子どもは、就学してから授業に集中できない傾向があるのです。これらの子どもたちが問題行動を起こしても仕方のない状況が、クラスの中で自然と出てきています。いくら優秀な先生でも、短時間睡眠の子に対して十分な指導や支援ができない状況が生まれています。もちろん、クラスの学習環境の悪化は当然のように生まれてきます。睡眠は、脳を休め,疲れをとるだけでなく、記憶を整理し、定着させます。睡眠は、脳を育てる働きがあり、学力とは切り離せない関係にあります。就学前の。幼児期の睡眠は,脳にとって大切なものなのです。午後10時を過ぎて就寝している幼児の割合が3割を超える現状は,日本の国家的な危機とも言われています。
ここで、睡眠の概要を確認しておきます。人間は、日の出とともに活動的になり、日の入りとともに活動を低下させていくように進化してきました。セロトニンとメラトニンの循環が、良質な活動と睡眠を作り出しています。朝の太陽光で、網膜が自然光を感知すると、セロトニンという脳内神経伝達物質が分泌されます。セロトニンは、覚醒のホルモンで、朝分泌され、脳の働きが良くします。このセロトニンは、脳神経回路に信号を行きわたりやすくして、脳に覚醒をもたらすのです。夜はセロトニンの分泌が減り、セロトニンからメラトニンがつくられます。メラトニンは、良質な睡眠をもたらします。睡眠とは、身体が休むときに脳の活動をしっかり低下させるシステムです。良い睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に90分の周期で起こるといわれています。深いノンレム睡眠中は、子どもの成長や身体の傷の修復に関係する成長ホルモンが分泌されます。正常な成長発達に、必要なホルモンです。細菌やウイルスが身体に侵入すると防御機構が働き、ノンレム睡眠を誘発し免疫物質を作ります。眠りが免疫物質を作り、身体を防御するわけです。このように、睡眠は人間の成長と健康維持に必要不可欠なものとなっているわけです。
子ども達の活動を活発にする鍵は、良い睡眠と快便にあります。便秘で悩む子どもが、多くなっているようです。便秘のとき、子どもは学校でつらい思いをしています。おなかが痛くなるのは、ある程度我慢できます。でも、友達から「おならが臭い」と言われるこことは、精神的につらいことになります。さらに、そのことが周りに広まると、クラス内で、孤立することになってしまいます。便秘が、自尊心が傷つける要因になるわけです。NPO法人日本トイレ研究所の調査結果を見ると、多くの子どもが便秘で困っていることが分かります。便秘状態の子どもは、全体の16.6%にもなるようです。さらに便秘予備軍の状態にある子ども達は、20.7%にもなります。計37.3%の子ども達が、便秘気味の状態になっていることが読み取れます。小学校や中学校の学習指導要領には、排便に関する記述はどこにもありません。子どもたちがウンチについて詳しく学ぶことは、学校でも家庭でもほとんどないようです。便秘で身体的にも精神的にも、そして社会的にも不都合な状態で、授業を受けている子ども達もいるのです。一方、便秘でなければ、授業に集中できるようになって勉強もはかどることになります。
快適な学校生活には、就寝時刻を早め,生活リズムを整えることが突破口になります。第一に、夕食開始時刻を早めることは,生活リズムを整える突破口になるようです。人間は食物を食べると,消化の良い物で,7~9時間ほどでウンチになります。夕食で食べた物の中で消化のよい食物の残りかすは、朝にはもう大腸に着いています。夜間に10時間ほど眠るとするならば,排泄の準備ができた状態になっているわけです。朝の胃は、空っぽです。空っぽの胃に朝食が入ると,胃は食べ物が入ったことを脳に伝えます。空っぽの胃に朝食が入ると,消化吸収された「残りかす(ウンチ)」を出すために、腸が蠕動運動を始めます。腸が蠕動運動を始め、ウンチを押し出そうとします。「残りかす」のある方が良く、大腸に刺激が伝わると,じわじわと押し出そうとします。これが、快便となって1日を快適に過ごす要因になります。反対の場合は、ネガティブな1日なってしまうことが多いようです。心がけ次第で、睡眠と食事の関係は、良くも悪くもなるケースが生まれるわけです。
睡眠と食事の他に気になることが、運動になります。運動による身体への刺激は、生活リズム向上のために有効です。子どもは、遊ぶことが仕事と言われるほど動くことが大切になります。日中における子ども運動刺激は、生活リズム向上のためには不可欠なものになります。近年、心配されることに、子どもたちの生活の中で,運動量が激減してきていることがあります。保育園の5歳児の場合、午前9時から午後4時までの間に、 1985 (昭和60) ~1987(昭和62) 年は、だいたい1万2,000歩を動いていました。それが、1991 (平成3)~1993 (平成5)年になる7,000~8,000歩に減ってきました。さらに、1998 (平成10)年以降になると, 5000歩台に激減しているのです。子どもの生活全体の歩数が減ってきて,体力を向上させることに必要な運動量が不足している実情があります。なぜ、運動量の確保が望まれるのでしょうか。それは、睡眠と食事と運動は一蓮托生の関係にあるからになります。ある事例で述べますと、夏休み明けは、不登校が顕在化する時期でもあります。夏休み明けに問題行動を取る子ども達の特徴は、学習リズムが崩れているとか、生活リズムや友達関係が乱れているとかなどが指摘されています。ある意味で、睡眠、食事、運動のリズムが崩れている子ども達ということになるようです。一方、休み明けに、元気に登校していった子ども達の特徴は、3度の食事を取り、日中に運動をし、夜は十分に睡眠をしていることです。
余談になりますが、仕事や学習のパフオーマンスを高めるには、良質な睡眠が重要な要素になります。睡眠を考える場合、セロトニンが重要な要素になります。運動量が増えると、セロトニンの分泌が促されます。運動がセロトニンの分泌を促し、その結果として良い睡眠をもたらす仕組みがあります。セロトニンとメラトニンの循環が、良質な活動と睡眠を作り出しています。セロトニンは、覚醒のホルモンで、朝分泌され、脳の働きが良くなります。蛇足ですが、セロトニンという物質は、困難なことにぶつかっても、冷静に乗り切るメンタル状態を保ってくれます。面白い報告書があります。サルは、集団で生活をしています。集団には、上下関係が厳密に秩序づけられています。ボス猿とランクの低い猿で比べると、脳内の機能が違うことが知られています。ボス猿はセロトニンの神経伝達物質の受容体が豊富で、セロトニンの働きが活発なのです。セロトニンの働きが活発なことは、ストレスや不安を撥ねのけ敵と対決しても怖気づかないのです。ボス猿にふさわしい行動がとれるわけです。ランクの低い猿ほど、セロトニンの働きが低下しています。セロトニンは、不安をコントロールするうえで不可欠な役割を果たしています。セロトニンの働きが悪いと不安が強くなり、おどおどびくびくして小さくなってしまうのです。夏休みの間にセロトニンとメラトニンのサイクルを睡眠と運動で確保しておけば、休み明けも安定した行動がとれることになります。
最後は、継続的に日本人の学力や能力を継続的に育てていく仕組み作りになります。認知心理学の分野では、「メ夕認知」の能力を高めることが学力向上に役立つと言われています。メタとは、「何々をする方法」という意味になります。確かに、自分の学力を上げるためには何をすればよいかを知っている人が、大体成績が良い傾向があります。ここで言うメタ認知能力は、一般的な知能指数や受験学力とは異なり、 意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーションなどの測定しにくいものになります。より具体的には、ストレスへの耐性、道徳心、自己肯定感、行動力、好奇心、探究心、我慢強さ、失敗を恐れずに失敗から学ぶ姿勢などになります。仕事ができる大人や 勉強ができる子どもは、職場で、生活の中で、そして学校生活の中でこれらの徳性を獲得していると言われています。これらの徳性を獲得するためには、いろいろな場の経験を積まなければ、獲得はできません。さらに、獲得する過程では、失敗や成功を体験していくものです。いわゆる試行錯誤を繰り返しながら、成長していくわけです。この成長に欠かせないものが、適切な睡眠と食事、そして運動になります。これらの試行錯誤の活動を、幼児期、小中高校、大学、そして社会人になって、さらに、定年になってからも続けることが求められる時代になったようです。