廃棄パネルがアジアを豊かにするツールになる アイデア広場 その1511

 アジアの各国は、経済成長が顕著になっています。順調な経済成長が期待されているのですが、困ったことも起きています。それは、電力不足になります。その国の一つが、パキスタンになります。この国の地方では、1日10時間以上も停電が続くなど深刻な電力不足が続いています。このような状況を解消しようと、支援する国が中国になります。中国は、総額5兆円規模でパキスタンへの援助を行っています。その中の目玉に、巨大メガソーラーがあるのです。中国企業が、太陽光パネルを40万枚以上設置して発電を行っています。現在は、原子力発電1基分を超える100万kW以上の発電を行っているようです。アジア太平洋地域の太陽光による発電能力は、2012年において世界全体の20%でした。それが、2016年には48%まで急増し、欧州の34%を抜き去ったのです。太陽光発電の能力がアジア太平洋地域では、欧州を抜いて初めて世界最大になりました。技術進展で発電コストは大幅に低下し、原発や石炭火力より割安になる国も増えているのです。太陽光発電設備がほとんどなかった新興国も、電力需要増を見込み能力拡大に取り組む状況が続いています。

 でも、心配すべき点もあるのです。現在の太陽光パネルの生産枚数を考慮すると、2030年以降には、中国や東南アジアに廃パネルが溢れる現実が待っています。耐用年致の過ぎた太陽光パネルの大量廃棄が、心配されているわけです。使われなくなった太陽光パネルが、感電防止策を取らずに放置されている事例も増えています。パネルの放置や不法廃棄が増大するのではないという懸念が、高まっているのです。プラスチックの海洋汚染と同じような汚染の問題を、引き起こす可能性を秘めているともいえます。これは、アジア各国だけの心配だけなく、日本においても現実の問題になりつつあります。日本では、2019年からの買い取り期間終了を迎え、太陽光パネルが廃棄される心配が出てきています。太陽光発電は、2012年の固定価格買い取り制度(FTT) の導入で急速に広がりました。このためパネルの耐用年数を超える2030年代半ばには、廃棄が大幅に増える見通しになっています。現在は、中古の太陽光パネルの大半が再利用されず埋め立て処分されている実情があります。この埋め立て処分は、環境への負荷も大きいものがあります。日本は、太陽光の発電の先進国として先頭を走ってきました。その日本が、世界で最初にその廃棄の問題に直面しているわけです。政府も、この問題を座視しているわけではありません。2030年代半ばに、大量廃棄が見込まれている太陽光パネルの有効活用を考えています。古いパネルを再利用すれば、廃棄や発電所の新設にかかるコストを抑えることができます。また、利用できない太陽光パネルを分解し、資源化することを政策として推し進めているのです。

 政府は、廃棄を減らすためにパネルのリサイクル制度整備に向けた議論に着手しています。政府に、協力する企業も現れています。その一つに、三井化学があります。三井化学は、脱炭素を手掛けるスタートアップのサステック(東京.港)と協力関係を結びました。この三井化学は、中古の太陽パネルを再利用する実証実験を始めると発表しました。この企業は、2014年から太陽光の発電量の診断サービスを手掛けています。それは、発電量などを診断して再利用できるかどうか判断するサービスになります。三井化学は、サステックと2022年に太陽光発電の運用支援で連携しました。再利用できる中古パネルを使って、サステックが発電所をつくります。そして、サステックのシステムで発電量や異常の監視も手掛けるわけです。ここの発電所が生み出した電気は、企業などに直接に販売することになります。FIT期間の終了に合わせて、大量のパネルの入れ替えが増えることが見込まれます。特に、古くなった太陽光発電所から、大量の太陽光パネルを調達が可能になります。この連携を通じて、事業性などを確かめ中古パネルを使った発電所の開発を広げる計画です。

 中古の太陽光パネルの保守点検やその維持のビジネスについては、環境が整いつつあります。現在は中国企業を中心に、太陽光パネルの厳しい販売競争が行われています。中国のパネル企業にも、倒産という波が押し寄せている現実があります。生産は、飽和状態になっているのです。太陽光発電ビジネスの主戦場は、パネル生産からパネルの保守管理に移りつつあります。パネルは、設置してから年々発電能力が低下していきます。故障も多くなります。その時には、現場に迅速に駆けつけて、部品すばやく交換し、発電能力を維持するサービスが一つのビジネスになります。太陽光発電所の稼働状況を、ドローンや監視カメラで遠隔監視するビジネスにも需要が出てきています。パネルの生産が、減少していくことは確実です。減少する分野に、大量の資金や人的資本を投入する必要はありません。投資を選別しながら、大手が手掛けないニッチ分野でシェアを握り、少人数で稼ぐことも選択肢になります。

 保守や点検、そして維持には、限界もでてきます。耐用年数の過ぎた太陽光パネルを、回収する時期が必ずやってきます。つまり、回収やリサイクルの時期がくるわけです。この回収したパネルを分解し、使用素材を回収し、リサイクルする仕組みが求められています。従来は、パネルからアルミフレームの分離が難しいために、まとめて粉砕していました。パネルの有害物質の有無を確認しないままに、埋め立てをする事例もあります。ここに、朗報が出てきます。廃パネルのガラスと電池部材を分離する「ホットナイフ」と呼ぶ機材が、開発されたのです。これは、パネルからアルミフレームを1分以内で外す装置です。パネルの分離がスムーズに行えれば、分離したガラスは素材メーカーなどに販売することも可能になります。自社に精錬所があれば、ガラスや電池部材が含む銀や銅などの金属を低コストで再資源化ができるわけです。さらに、技術は進歩しています。岡山県新見市ある新見ソーラーカンパニーが、新しい技術を開発したのです。この企業が開発した太陽光パネルのリサイクルでは、熱分解炉を活用しています。熱分解装置に充満させた600度を超える水蒸気で、パネルを15~20分程度加熱します。接着剤とプラスチック材のバックシートは、気化してはがれてしまいます。水蒸気とともに接着剤やプラスチックを回収、水と有機物に分離します。分解後には、ガラス片、銅線、そして太陽電池のセル片は残り、二酸化炭素を排出せずに処理が完了するという優れものです。これまで70%程度にとどまっていたリサイクル率は新方式で約95%まで高められるのです。この企業は、太陽光パネルの分解だけでなく、再生ができる工程も視野に入れているようです。太陽光発電システムは、2030年代後半から年間50万~80万トン分が寿命を迎えます。それらの太陽光パネルがリサイクルできれば、現在の課題解決に寄与することになります。

 廃パネルの回収から分解、そしてシリコンなどの再資源化という一連の処理技術は、これからも紆余曲折を経ながらに構築されていくでしょう。ここでの一つの課題は、一連の処理技術を行う技能者の養成ということになります。日本での技能者は、少ないながらも確保できます。でも、パネルの廃棄が大量になれば、このリサイクルを円滑に行うことのできる人材が不足してきます。廃パネルの回収とリサイクルは、将来において全世界の国々が抱える問題になるわけです。日本は、廃パネルの回収とリサイクルのモデルを構築しつつあります。でも、人材が不足しているわけです。この不足を、海外の人材に頼る発想が出てきます。日本においてパネル補修や再資源化を企業で研修し、技能を身につけてもらうわけです。将来必要とされる人材を招致して、育成しておくことは有益なことです。日本で研修を受けた技能者は、祖国の廃パネルのリサイクル事業に携わり、各々の祖国に貢献する仕組みを作るわけです。人材育成の期間は、日本企業も人手が確保されます。大義と実利を、同時に実現することになります。

 最後になりますが、日本も新興国もウインウインになるお話です。そのヒントが、キッコーマンになります。キッコーマンは、原料をドル建てで輸入するために、円安局面では輸入コストが高まります。そのようなリスクを軽減するために、原材料を世界各地で調達して製造し販売する仕組みを作りました。いわゆる、事業体制のグローバル化を推進したわけです。キッコーマンは、しょうゆを国内から海外に輸出しません。しょうゆは、液体でかさばり、輸送コスト高いという理由です。現地で大豆などの原料を調達し、工場を作ってそこで日本の麹を使ってしょうゆを作れば良いわけです。太陽光パネルについても、輸送コストの高いしょうゆと同じような発想が生まれます。自国で生じた廃パネルは、自国で回収とリサイクルの仕組みを構築することが合理的になります。その時に、廃パネルの一連の処理技術を行う技能者が求められます。この技能者の養成を、日本が行うという発想が生まれます。途上国から技能実習生として、パネルの監視や修理、そして廃パネルの再資源化を行う人材を受け入れます。日本において、数年間パネル補修や再資源化企業で研修し、技能を身につけます。その間、日本企業も人手を確保できます。技能実習生は、本格的に訪れる廃パネルのリサイクル事業に携わり、その技能を祖国で活かすことになります。もちろん、技能実習生が祖国で、スタートアップを設立ことも可能です。日本の企業が、そのスタートアップを支援することも可能でしょう。アジアの国々が、環境に優しく、利益を上げるビズネスとしても、ウインウインの関係が作られるというお話になります。

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