建築現場の人手不足をビジネスチャンスに変える アイデア広場 その1595

 建設作業員が集まらず、工事が計画通りに進まないケースは各地で相次いでいます。国内で商業施設や工場などの建設が、停滞している困った現実があります。私の住む近くの町でも、工事が計画通りに進まないケースが出てきています。福島県伊達市に、イオンモールがオープンされる予定でした。当初予定が、2024年末から2026年下期に延期されたのです。この伊達市の店舗のオープンは、建設作業員が集まらず、工事が計画通りに進まなかったためです。東北地方は、人手がもともと少ないうえに、その作業員が各地に散らばっている状況があります。国土交通省の建設総合統計によると、建設会社が契約したうち完了できていない工事が15兆円ほどあるとのことです。契約した工事のうち、完了できていてない工事が、2025年3月の時点で15兆3792億円に達していました。建設会社が手元に抱える工事は、金額にして15兆円を超え、過去最大に膨らんだというわけです。工場やスーパーなどを計画通り建設し、経済活動を円滑に行えば、生産性は向上し、経済活動は活発になります。生産性の向上を急がなければ、民間企業の設備投資や公共投資の制約要因になります。生産性の向上を急がなければ、日本の成長力が一段と下振れする恐れもあるのです。

 工事が計画通りに進まないケースは、1990年代初めごろにも、手持ちの工事高が積み上がったこともありました。この時期はバブル景気の後半で、建設需要の増加が大きかったのです、現在は、その時期と対照的に業界全体の供給力が縮んでいる中での積み上がりになります。工事が速く完成すればするほど、経済が活性化する状況にあるのです。それを阻害している要因が、人手不足というわけです。2024年の建設関連の就業者数は、10年前に比べて6%減の477万人になります。さらに厳しい状況は、477万人のうち65歳以上が80万人と2割近くを占めていることです。10年前と比べ、高齢化率が5ポイント上がっています。加齢で体力が衰えれば、若いころのようには働けなくなります。この人手不足と活動力の低下に加え、残業規制が加わりました。時間外労働の上限規制は、2024年4月に始まりました。この上限規制で、建設業は原則として月45時間、年360時間までしか残業できなくなりました。結果として2024年の1人あたりの総労働時間は前年から32.3時間減ったわけです。労働時間が減ることは、働く人には良いことです。でも、経済の面からは、マイナス要因になります。

 もっとも、マイナス要因だけ見ていけば、よりネガティブになります。マイナス要因をブラス要因に変えるヒントが、TSMC工場の建設に見られます。TSMC工場の建設には、1兆円の資金援助が政府からなされています。菊陽町に建設されるTSMC工場は、鹿島建設が請け負っています。鹿島の社長さんによると、この工場建設は普通なら10年近くかかる工期を2年に縮めなければならないということです。建設現場には、ナイター設備も完備しています。その理由は、工場建設が24時間体制の工程になり、工程の間隔をできるだけ圧縮する体制になっているためです。工程だけでなく、その工程を支える技術者などの作業密度も過酷(合理的)になっています。建設現場の近くにあるホテルは、建設を請け負う鹿島が今春から丸ごと借り受けています。丸ごと借り受けたホテルに、技術者や作業員が宿泊しています。ホテルでは、朝食を6時から提供していたのですが、ほとんどの人が食べずに作業現場に向かったそうです。このホテルは、急きょ食事を5時に切り替えて、食べてもらうようになりました。鹿島の関係者は、鹿島の歴史でも例のない高速工事になったと述べています。TSMCの最速の経営が、半導体企業はもちろん、建設会社やホテルの時間軸も変えているのです。世界の先端技術を享受するためには、今までの日本の基準を乗り越える意識改革が求められるようです。

 建設業は、日本の国内総生産(GDP) ) 5%程度を占めています。この産業は、景気の先行きを左右する分野でもあります。たとえば、工場の建設が停滞すれば、備え付ける機械の投資の遅れなどにも波及していきます。機械の投資の遅れは、低成長が続く日本経済のボトルネックになります。中国では、不動産産業の停滞が、家電メーカーなどの停滞を招いていることを見ても明らかでしょう。業界全体での工事をさばく能力が低下は、関連する産業の停滞を招くことになります。工事はあるのですが、人手がないボトルネックに苦しんでいます。そこで、限りある人手の争奪戦は激しくなっているわけです。これを乗り切るには、生産性を上げる工夫になります。働き手の確保が難しいのなら、デジタル化などによって生産性を高める道も一つの選択肢です。大和総研などでは、「日本の建設業は中小が多くIT (情報技術)の導入が遅れている」と話します。日本は、建設従事者が使える省人化などのソフトウェアの1人あたり導入量が低いのです。ソフトウェアの1人あたり導入量は、フランスや英国の5分の1にとどまるというのが現状です。労働集約型の産業構造の改革が、現在の課題になっているようです。

 建設に関しては、大きな工場だけでなく、マイホームについての問題も起きているようです。住宅の「数」は相当に増えているにも関わらず、欲しい住宅は高等過ぎて入手困難になっていいます。空き家は、700万件にもなろうとしています。でも、そこに住む人はいないのです。高額すぎて「手が出ない住宅」と不便ということで「手を出したくない住宅」ばかりが増えている状況があります。住宅の供給側も需要側も、立地に強こだわる人が増えたともいえるようです。たとえば、都心や駅近といった狭い範囲に、土地や建物の奪い合いが集中しています。奪い合いが続けば、住宅やマンションの高コスト化を助長することになります。この「手を出したい」住宅の地価高騰に加え、地価工事費の上昇があります。建設会社は、利益率の高い工事を優先する傾向が強まっています。建設大手のトップは、採算や工期を十分に確保できるかによって物件を厳格に選別しています。蛇足ですが、海外の大都市では投機目的や非居住の外国人による購入増で住宅価格が急騰したケースがあります。その地域では、住宅価格が急騰し、自国民が購入できない問題が生じています。不動産投資の過熱が起き、販売対象が一般庶民ではなくなってきたことも関係しているようです。このような現象が、東京都内でも起きているようです。都市化しきったことで、開発余地が乏しい時代に入ったことが、このような現象をおこしているのかもしれません。

 余談ですが、悲観論があれば、楽観論もあります。都内の土地問題の解決策が、高齢化の中にあります。悲しいことですが、人間には寿命があります。それは、相続という形で明らかになります。結論からいうと、相続発生見込みの戸建ては東京23区や大阪市、そして神戸市などでは駅からの徒歩圏内の物件が多いのです。たとえば、関東大震災後に人口が流入した住宅地や密集市街地に、相続発生見込みの住宅が多く存在するのです。東京都には、高齢世帯のみが住む持ち家や交通利便性がそれなりに高いエリアにも大量に存在します。23区内の駅から徒歩圏内でも、相当数の住宅やマンションが空く可能性が高いのです。東京23区は鉄道駅からの徒歩圏内には、2030年ごろに戸建て7.8万戸、そしてマンション5万戸が相続対象になります。2040年ごろには、住宅6.6万とマンション7.4万戸もの相続発生見込みになるのです。住まいの選択肢が多様化し分散化し、新たな居住需要の喚起を図る施策の可能性が出てくるのです。都市や地方に求められるニーズは、その時代により変わっていきます。特に、南海トラフなどの自然災害を想定した防災対策の充実などを通じた居住イメージや安全な住居の需要の再構築が求められています。病院・スーパーなど生活インフラ維持の支援、居住地近くでも働ける場の創出など、これからの望ましい環境の構築が求められます。新たな居住需要の喚起を図れれば高齢化が進む日本ならではの明るい未来を目指せます。

 最後になりますが、国や自治体は、駅前など中心エリアの再整備・再開発が民間主導で多く手掛けられてきました。東京圏では、鉄道会社等による戦前からの沿線開発地が行われました。国や自治体は、バブル崩壊後の経済対策として都市再生に力点を置いてきました。駅前の大規模な再整備は、利便性の向上や地価の上昇など一定の効果を上げてきた。でも、地価の高騰が駅近以外のエリアの利便性や住環境の相対的なイメージ低下につながってきたことも事実です。特に、戸建てエリアの利便性の向上や再整備を進めようという施策はなおざりになってきた面がありました。蛇足ですが、諸外国では自宅周りの生活圏の重要性を見直し、その質を高める動きが活発化する傾向があります。日本も都市・住宅政策のべクトルが、拠点再整備型の「都市再生」から、「生活圏の再生」に力点を置く方向へと転換する流れも出てきています。たとえば、シニアの視点から見ると、秋田駅前は、再開発は評価できるものです。秋田駅から徒歩4分という立地条件は、魅力あるものになります。この分譲マンションは、地上17階、地下1階で、150人の住民が住む予定になります。1~2階は北都銀と秋田信金の支店や調剤薬秋局、そして交流スペースが入り、3~4階には内科、歯科、訪問介護ステーションや美容サロンなどのテナントが入ることになります。医療面や金融面での心配はなくなります。シニアにとっては、安心できる建物ということになります。このように生活が安心できる移住環境は、これからのモデルになるかもしれません。

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