役者と観客の相乗効果  アイデア広場 その1638 

 最近のシニアは、若くなっているとの評価があります。その要因に、化粧品があります。昔は、女性の化粧が主流でした。最近では、男性用の化粧品も数多く開発されるようになりました。男性用グルーミング機器や基礎化粧品も、続々発売される時代になりました。美を追究する男性は、義務や責任を追及する人間と比較して低いと見られていた時代もありました。今は、そのようなこともなくなり、若返りや美の追求としての化粧が、むしろ奨励されるまでになっています。変化を愛して、次々に興味をひくものに挑戦すれば良いという流れになっています。瞬間的な快楽を求め、人生の目的は享楽であると割り切る人達もいます。一方、社会のなかで一定の地位を占め、堅実なルーティンを行う単調な生活を恐れない人々もいます。美の追求には、瞬間的享楽を求める美への志向と単調な生活を恐れない人々の美に対する志向があるようです。それぞれ彼らの志向するサービスには、いろいろな工夫が積み重なっているようです。化粧品に限らず、サービスする側とサービスを享受する側の関係を、今回は取り上げてみました。

 ある老夫婦が、飛行機の窓際に座っていました。その窓際には、若い女性の写真があったのです。客室乗務員は、窓際の写真に気づき、写真とともに旅をするご夫婦に感動しました。その客室乗務員は「窓際の方にも、おひとつどうぞ」という言葉とジュースを差し出したのです。もちろん、老夫婦は感激しました。乗務員が感動しただけで、ジュースを用意するという行動がなければ、乗客に感謝されることはありませんでした。窓際の方にも、おひとつどうぞという行動をとったところに、感性に根差したサービスのすばらしさがあったのです。人の思いに敏感であることは、サービス業の基本になります。一般的には、明るく接客するということは、サービス業に携わる人間にとって基本中の基本になります。でも、お客様の中には、心配ごとやイライラを抱えたりしながら、訪れる方もいます。心配ごとを持った方をお迎えするとき、ただひたすらに「明るく」する以外の工夫も求められます。細に尋ねなくとも、様子を見て推し測ることができる本当のサービスを身に付けることも大切なスキルなります。一流のプロフェッショナルは相手に「言葉以外のメッセージ」を伝える力も持っているようです。

 寿司は、新鮮さイコール生、生イコール美味しいという思い込みが庶民にはずっとありました。でも、取り立ての鯛がプリプリなのは当然ですが、寝かせなければ旨くありません。ムラサキクニには、磯味があるから火をちょっと通すことで、磯味が取れて甘みに変わります。寿司職人と会話を交わしながら、これの奥深い知識を仕入れて、食べることの知識を得ながら寿司文化を楽しんできたわけです。お客さんが、料理の本質に至るには時間がかかります。料理人は、お客に料理の本質へ近づくように導きます。お客もそこに至るように、振る舞うことも求められるわけです。お客が、美味しいものを知ることは大事です。高額な食材ばかり使うのは、料理人の陥りがちな危険な自己満足になる場合もあります。目の前にある食材で、最善を尽くす料理人でありたいものです。一人前になった食通は、高級食材や調度品にお金をかけるようになったお店に、警戒感を抱く場合さえあるのです。ベテランの食通は、料理人の些細なささいな塩加減変化にも反応するようになります。「もしかしてシェフは今朝、夫婦げんかでもしたのかな、いつもと塩加減が違うという」というような反応を示します。これは、染みのレストランので、何度も食べているメニューを口にして常連が言った言葉になります。一方、常連の反応を見て、料理人は精進を積み重ねていくことになります。

 日本の一流デパートで販売を担当していた女性は、インドを選びました。日本のデパートで勤めていても、人並み以上の所得も生活も可能な人材でした。でも、可能性を確認したかったのでしょう。この方がインドを選んだ理由は、英語が堪能だったことと、この国には質の高いサービスの需要があると見抜いたからです。インドでは、従来型の「売ってやる」式の販売サービスからの脱皮が求められていたのです。質の高いサービスが、提供できない実態がありました。日本のデパートおけるサービスやマナーは、世界最高と言われています。インド系米国人は、すでに300万人を超えています。インド系米国人は、収入や地位、そして教育の面で全米平均を大幅に上回る状況です。アメリカの対インド政策に影響を与える存在にも成長しているのです。彼らがインドとの交流を強め、頻繁に祖国と往復している現実もあります。インドの新興富裕層は従来のエリートと同様に愛国心が強いのです。彼の多くは、生活を楽しみつつも恩返しとしてインド国民の生活向上に寄与したいと考えています。世界に散らばりながらも、愛国心は健在なのです。インドと他国を往来しながら、富を増やすことができる人たちともいえます。彼らがインドに戻れば、世界水準のサービスを求めます。その求めに応じているのが、日本において百貨店の接客やサービスを身につけた人材ということになります。次に彼女がターゲットにするのは、地場の高級小売店やブランドショップと言うことでした

 言葉によるコミュニケーションは、国際化が進む中、これからも重要なスキルになります。コミュニケーションは、話し手と聞き手の二者間でのやりとりが基本になります。この時には、注意が必要です。人は会話しているときには、目の動きや表情しぐさなどで、言語外のメッセージを伝えることがあります。言語外のメッセージを、ノンバーバル(非言語)なメッセージといいます。人は、声の抑揚や姿勢、その場の雰囲気など、言語外の情報を重視することあります。相手のノンバーバルなメジセージを読み取ることで、誤解を少なくすることができます。ノンバーバルなメッセージを読み取り、コミュニケーションにおける誤解を少なくすることが可能になります。蛇足ですが、メールでのコミュニケーションは、ノンバーバルなイメージがなくなります。そのために、メールでのコミュニケーョンは、誤解が生じるケースも出てきます。英語によるコミュニケーション能力も大切ですが、ノンバーバル(非言語)を理解する能力も求められる時代になっているのです。このノンバーバルの能力高める環境や訓練に注目を集めつつあります。でも、人々の行動は、ノンバーバルから離れる傾向が出てきています。他人とのコミュニニケーションのために目や頭を使う場面どんどん減っています。オフィスで隣の人とメールでやりとりする状況が、コミュニケーション能力を低下させているのかもしれません。

 余談になりますが、現在のビジネスは、顧客、商品、課金の仕方、支払い方法、資源の5つの領域から収益を得るパターンがあります。たとえば、土地という資源を所有している有名大学の例を挙げてみましょう。イギリスのオックスフォード大学は、世界の大学ランキングで3年連続1位に選ばれています。この大学が世界中から優秀な人材を集め、高度な教育を行い、有用な人材を輩出しています。すると、オックスフォード大学のある街全体の価値が上がり、不動産価格が上昇するという現象を引き起こしているのです。また、自宅で学習塾を開くと、原価や初期費用はかかりません。学習塾の評判が良ければ、受講者増えます。塾講師の能力(資源)が高ければ、無から有を生じるように利益を生み出していきます。顧客、商品、課金の仕方、支払い方法、資源のどの分野からでも、工夫次第でどんな分野においても、成功体験が享受でき、そして利益を上げることができます。教育に関するサービス(優れた指導者の存在など)の存在が、地域の住民に豊かさをもたらすことになります。

 最後になりますが、スキルを積み重ねていくヒントが世阿弥の稽古理論の中にあります。世阿弥は、能を幽玄無上の詩劇へと発展させた能役者です。能役者は舞台が命であり,常に魅力ある舞台を目指します。能はすべての表現をできるだけ切り詰め、集約し、観客の想像力に働きかけます。観客はイメージを描き、心の眼で演技を完成させます。能は、花を大切にします。「花」とは、役者および役者の演技演奏が観客の感動を呼び起こした状態をいいます。観客を魅了したときに、「花」が咲きます。稽古はしっかり行ない、慢心による凝り固まった心を持ってはなりません。「下手のまねなどできるか」という慢心を捨て、謙虚でいることが前提です。大切なのは、下手の優れた芸をふくめて優れた芸をレパートリーに加えることなのです。多くのレパートリーをもつことは、芸能者として生き残っていくための生命線です。一方、同じ役者の同じ演目の芝居を、通の客は喜んで何度も観に行く傾向があります。通が何度も観に行くのは、日によって役者のパフォーマンスが違うからです。役者が持つ多くのレパートリーを見分けることも、通の楽しみになります。通の観客の視線が、役者のパフォーマンスを高めることもあるのです。役者と観客が、相乗的に芸とを高めていく流れがあるようです。観客によって、演者は、自分でも驚くほど違うパフォーマンスを見せます。

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