人生100年と言われる時代は、70歳で定年しても、その後30年の余生があります。この余生を楽しく生きるためには、いくつかの工夫があります。残りの寿命が約30年と決まれば、資産と健康寿命の「見える化」ができるようになります。その中で、困ったことがあります。まず、心身の機能の低下があります。モノが見えない、声が聞こえない、思うように動けない、すぐにモノ忘れをするなど、若いころには思いもよらないことが起きるようなりました。この思いもよらない中で、楽しい生活をすることを考えてみました。すると、若いうちから障害を持っている方の生活を見ることが、一つの知見になることを理解しました。たとえば、若年性アルツハイマー認知症の方が、楽しい生活を過ごしています。その生活は、心身の機能の衰えたシニアの楽しい生活の参考になります。心身の機能が低下した場合でも、その状況を再現すれば良いわけです。この心身の機能の衰えは、老人ホームや養護施設の生活に見られます。今回は、楽しい老人ホームの在り方や過ごし方を考えてみました。
東南アジアや中国などでは、高齢者向けの施設が増えると見られています。そんな中で、タイが注目を集めています。バンコク南部にある高齢者向け施設は、高齢化に伴い需要が急増しているようです。病院やホテル、そして不動産会社が、急増する老人ホームの需要を取り込もうとしているのです。高齢化社会という課題を新たなビジネスチャンスに変え、事業のさらなる成長に向ける企業のチャレンジになります。もちろん、タイ政府もこの事業を後押しすべく動いています。これらの企業は、外国人の高齢者を引きつけるため、施設の水準を引き上げようとしています。チェンマイにあるバーン・ラリサの老人ホームも、外国人の間でも人気が高まっている姿勢の1つです。コリーン・エイドリッツ・ミラーさん(70)は、米カリフオルニア州ハリウッド出身になります。元病院事務長のミラーさんは、4カ月前からチェンマイの老人ホームに住んでいます。ミラーさんは、家賃は月3万5000バーツ(約16万円)でも残りの人生を過ごすつもりです。「高齢者に健康と幸福をもたらす住居」は、「米国に比べれば、費用はずっと安い」と彼は話しています。
東南アジアには、需要が急増している地域がいくつもあるようです。タイ内務省によると、タイの人口の約20%にあたる1300万人が60歳以上になります。2024年に25億バーツ(100億円)が2033年には市場規模が200億バーツに達する見通しです。老人ホーム業界は、今後5年にわたり毎年30%のペースで成長していくわけです。病院やホテルの参入で、タイの老人ホームのレベルは著しく向上しています。タイの国民所得は、向上しています。そのような中で、多くの若いホワイトカラーが、両親を老人ホームに入れる必要があると認識しているのです。認識は、高まっているのですが、それを実践する若者が少ないと言う実情もあるようです。高齢の親族の世話をする意思や能力のある若い世代が減少する中、高齢者が自身が老人ホームを求める需要が増えています。あるシニアは、「家族は仕事や学校に行くので、今も家に住んでいたらとても寂しいと思う」と漏らしています。老人ホームなら、コミュニティーがあり同年代の友達と話せるというわけです。ここに入居したことで、子どもたちがそれぞれの生活を送ることができていると話しています。ちなみにこの施設は、敷地面積(約3万6800 ㎡ に建つ9階建ての施設には468室あるが、全て入居済みの盛況です。
それでは、良い施設とはどのようなものでしょうか。老人ホームを選ぶ必要が出た時には、施設病の観点も重要なものにもなります。心身の発達がひどく遅れる子らが多く育つことをホスピタリズム(施設病)、と呼ばれています。この子ども達は、感情表出が乏しく心身の発達がひどく遅れる特徴があります。貧しい施設で育った子どもに多く見られるようになり、社会問題になったこともあります。これらの施設の特徴は、子どもたちへの声かけが少なく、1日中ぼんやり座っているだけの乳児院などで起きました。人員が不足し、子どもたちへの声かけや笑いかけが少ない乳児院や養護施設が、要注意というわけです。発達心理学者ピアジェは、「調整」と「同化」について言及しています。発達の重要な側面であると考えている情報を取り入れることは、同化となります。自分の持っている知識が新しい情警報によって変更されることを、調整といいます。老化を抑制する一つに、知識や経験を取り入れて、自分の持っている知識や経験値を高めていくことがあります。日々新しい情報を取り入れ、自分の持っている知識を更新させながら、人間は成長し続けていきます。老人ホームを選ぶ場合、このような適切な人的刺激を与えてくれるものであるかを確認する必要があります。入所者数に対する職員の人数や態度、施設全体の雰囲気を見極めることが必要になるというわけです。
敬老という言葉があるように、高齢者は世の中のことを多く経験しているという点で尊敬されてきた面があります。でも、高齢者も多すぎると、いろいろ軽視される状況が生まれてきました。その状況に類似した状況が、認知症の方に対し偏見を持って見る目にあります。認知症の症状は様々で、脳の萎縮や損傷の部位により異なります。少し前のことが思い出せないとか理性的な行動が取れないなどの症状がでることもあります。進んだ国では、認知症の方も一般の人も普通に生活する光景があります。日本では、認知症の方の「徘徊」を極力避けようとします。でも、進んだ国では「徘徊で」はなく、散歩と呼びます。手厚い見守りで、徘徊を安全にすれば、散歩と呼べる体に良い運動になります。外に出かけたいけど、間違えることが許されない社会では、障害を持った人には窮屈な社会になります。オランダとフランスには、認知症の人が集う街や村を模した介護施設があります。窮屈でない自由な社会が、国や地域に用意されているのです。日本にも、変化が現れています。2004年に痴呆」から「認知症」という言葉に変わって、偏見は少しずつ減ってきました。「認知症」に変わって偏見は減ったが、なお「できないこと」への誤解は根強いものがあるようです。高齢化先進国の日本は、2030年には高齢者の7人に1人が認知症になると言われています。この方たちが、楽しい生活を送る環境整備が求められるようです。
もちろん、日本も先進国に負けているわけではありません。素晴らしい、高齢者施設も誕生しています。その一つに、24年6月に開業した「ありがとうシェアハウス」(広島県福山市) があります。ここに入居する60代から90代の女性9人のうち、半数以上が認知症の方になります。夕飯は介護施設から職員が届けますが、食器の片付けや翌日の炊飯は自分たちでします。一人暮らしのときにはできなかった料理や洗濯が、できるようになった方もいます。入居すると不思議とできることが増えていき、オムツが外れた人もいると係りの方が喜んでいました。また、100BLG (東京都町田市) は、デイサービス運営しています。ここでは、「働く」と少額の謝礼を受け取れる有償ボランティアの仕組みを採用しています。デイサービスが受ける方が通ってきて、掃除やポスティングなどをして「働く」ことを行っています。通所する中野祐美子(78) は、折り紙などの娯楽だけで過ごすよりも、「働く」ことの方が楽しいと話します。「役に立っていると思えると楽しい」と話していました。ここの管理者は、介護保険ができた当初は施設利用者が報酬を得て働くことは想定されていなかったようです。この方式を採用して、国申請した時は、ようやく認められたという経緯があったようです。2011年に国が、この方式を認めました。それから風向きが変わったのは、2018年と2024年になります。この方式を後押しする通知も出るようになったそうです。
最後になりますが、シニアの満足は、上手な接待によって得られるものあります。ある意味の、「調整」と「同化」の上級編ということになります。その一部をホームなどで取り入れれば面白いことが起きるかもしれません。接待の上級者の極意の一部を、高齢者施設の方が応用してみてはどうでしょうか。接待相手(ケアを受ける人)に自分はこの程度の店(施設)での接待がふさわしいと思われていることでは失敗です。接待にギャップがなければ、メリㇵリのない接待となる。後に行けば行くほどインパクトを強くするために、初はスタンダードが良いようです。ここからが、企業の接待の極意になります。接待の相手は、日本国内の重厚長大産業の幹部の方になります。一軒目は料亭などでスタンダードな接待をして、二軒目で一軒目とギャップをつけることになります。二軒目以降は、普段その人が行く機会かないと感じているところに連れて行きます。二軒目は、おかまバーになりました。おかまバーの店員は、接客業としてのプロ意識が非常に強く持っています。彼らは、媚びることなく楽しい、話題を提供してくれました。三軒目はバーの店の常連は、外資系企業の社員ばかりでした。国内の企業とは、雰囲気が違う異国集団の人達でした。ここでは、ダンサーがショーを見せてくれたのです。四軒目は、二軒目、三軒目ではほとんど飲んでいるだけなので、かなり空腹になっていました。四軒目は、満を持しての吉野家になりました。大企業の幹部は吉野家の名前は知っていても、その昧を知らない人も多いのです。お偉いさんがプライベートでは行かない店をあえて選び、お腹を満たしてもらうという趣向でした。このような趣向(「調整」と「同化」)を老人ホームでも、取り入れたら面白い日々が送れるかもしれません。もちろん、これと同じ接待は不可能でしょう。でも、日々新しい情報を取り入れ、自分の持っている知識を更新させながら、成長し続けていけるような趣向を用意することは可能かもしれません。老人ホームを選ぶ場合、適切な人的刺激を与えてくれるものであることを願いたいものです。